クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

原始の根を保つユニークさ:神話と日本人の心(3)

2013年11月03日 | 現代に生きる縄文
◆『神話と日本人の心

この本を読んで興味深かったことは、日本神話の特徴が、その後に展開する日本文化の特徴にも深く関係するということであった。それは、ざっと挙げると以下のようなものである。

①男性原理とのバランスを取りながらの女性原理
②自国内よりも外国に基準を求める態度
③文明の原始的な根から切り離されず、連続性を保っている
④人間がその「本性」としての自然に還ってゆく、自然との一体感という考え方
⑤日本人の美的感覚である「もののあわれ」の原型が認められる
⑥何らかの原理によって統一するよりも原理的対立が生じる前にバランスを保とうとする調和の感覚
⑦明確なリーダー的存在なしでことが運ばれていく。中心に強力な存在があってその力で全体が統一されるのではなく、中心が空でも全体のバランスでことが運ばれるといいう「中空構造」
⑧恥の感覚の重視

これまでに2回にわたって①について見てきた。③についてもかんたんに触れたが、少し付け加えたい。前回指摘したのは、男性原理が女性原理に取って代わるのではなく、両原理がバランスをとりながらも女性原理優位の状態を保っていくという連続性であった。河合隼雄自身は、もっと具体的な別の面から③の特徴を指摘している。それは、神々の連鎖という特徴である。

記紀においてイザナキ、イザナミは国造りの主神だが、それ以前に「神世七代」と称される神々の名が連鎖的に告げられる。なぜ国造りの前に多くの神々の名が告げられるのか。その意味は、フォン・フランツの『世界創造の神話』が見事に解き明かしているという。

彼女によれば、ポリネシアやニュージーランドなどで重要な位置を占める神・タンガロアの創造神話は、まさに神々の連鎖だという。この地域の神話の特徴は、神々の連鎖のなかでだんだんと神々の姿が明確になっていき、それが人間へつながっていくことだ。日本の神話も、人間に至るには長い間があるが、やがて人間の世界へとつながる。つまり日本神話は、ポリネシアなどと同様に「原始的な根」をもち、その根との連続性を保っているというのだ。日本は、現代において「先進国」と呼ばれる国々の一つだが、その中で唯一、古代から現代に至る不思議な連続性を保っている国なのである。他の先進国はすべてキリスト教文化圏に属し、強烈な唯一神を中心とする父性原理的な宗教の力によって、「原始的な根」からほとんど切り離されてしまったのである。

このブログで探求している日本文化のユニークさ8項目のうち、一番目と二番目は次のようなものであった。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。

(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。

これまで見てきたところからも明らかなように、これらの特徴は、日本の神話、とくに古事記の中にはっきりと読み取れるのである。そして(1)と(2)は、相互に深く結びついている。

先進国の中で日本が唯一、文明の「原始的な根」から切り離されていないということについて、現代の日本人はほとんど自覚すらもっていないかもしれない。いや、近年日本人は日本の伝統の大切さに少しずつ気づき始めたかに見える。しかし、日本人が「原始の根」から切り離されていないことの意味は、私たちが考えるよるもはるかに重要なのかもしれない。

日本文化に出会うことで、忘れられていたヨーロッパ文化の古層を思い出していった人物の一例をあげておこう。トマス・インモースは、スイス出身だが日本に在住するカトリック司祭であり、日本ユングクラブ名誉会長でもある。彼はその著『深い泉の国「日本」―異文化との出会い (中公文庫)』で、「神道とヨーロッパの先史時代とは共通のものを分かち合っている」という。スイスは、ケルト文明のひとつの中心地であった。それで、縄文的な心性が現代に残る日本という土地で、少しずつスイスの過去に出会うようになった。日本という「深い泉」に触れることで、自分自身のルーツのより深い意味を見出していったというのだ。「日本という土地の上で、私は少しずつ、スイスの過去に出会うようになった。バラバラだったものがひとつにまとまり、私は自分自身の過去も知るようになった。自分を理解するようになった。」

私たちは、日本文化の最も重要なこのような特徴を失ってはならない。そのためにはまず、この特徴をしっかりと自覚することが大切なのである。

《関連記事》
日本文化のユニークさ27:なぜ縄文文化は消えなかった?

日本文化のユニークさ28:縄文人は稲作を選んだ

日本文化のユニークさ29:母性原理の意味

日本文化のユニークさ30:縄文人と森の恵み

日本文化のユニークさ31:平等社会の基盤

日本文化のユニークさ32:縄文の蛇信仰(1)

日本文化のユニークさ33:縄文の蛇信仰(2)

日本文化のユニークさ34:縄文の蛇信仰(3)

日本文化のユニークさ35:寄生文明と共生文明(1)

日本文化のユニークさ36:母性原理と父性原理


《関連図書》
文明の環境史観 (中公叢書)
対論 文明の原理を問う
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
環境と文明の世界史―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ (新書y)
環境考古学事始―日本列島2万年の自然環境史 (洋泉社MC新書)
蛇と十字架

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アマテラスとスサノオ:神話... | トップ | リーダーの不在:日本人と神... »
最新の画像もっと見る

現代に生きる縄文」カテゴリの最新記事