ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

松本地域の産科連携システム 分娩と健診の役割分担

2008年06月28日 | 地域周産期医療

長野県の松本地域(9市町村)には、分娩医療機関が7施設(信州大学、県立こども病院、丸の内病院、相沢病院、波田総合病院、桔梗ヶ原病院、わかばレディス&マタニティクリニック)あり、健診協力医療機関が15施設あります。松本地域は、県内の他の地域と比べると、産科医療施設の数が圧倒的に多く、産婦人科医の人数も比較的多いのですが、信州大学と県立こども病院は全県からハイリスク症例が救急搬送されてくる3次医療機関であり、最近、1次~2次の分娩医療機関の多くが分娩取り扱いを次々に中止したため、分娩の取り扱いを継続している医療機関の負担が過重になってきました。そこで、分娩医療機関の負担を減らす目的で、来月から松本地域内の産科医療機関の新しい連携システムをスタートさせる予定との報道です。

飯田下伊那地域(15市町村)の場合、産科連携システムのスタート時(06年4月)には、地域内に分娩医療機関が3施設(飯田市立病院、椎名レディースクリニック、羽場医院)あり、健診協力医療機関も3施設(下伊那赤十字病院、西沢病院、平岩ウイメンズクリニック)ありました。その後、健診協力医療機関のうちの2施設の常勤産婦人科医師が離職したため、健診協力医療機関が実質的にはわずか1施設(平岩ウイメンズクリニック)のみとなってしまい、スタート時のままの形での産科連携システムの継続がだんだん困難な状況となってきました。そのため、本年度より飯田市立病院の助産師外来を大幅に拡充し、助産師外来3診および産婦人科医による健診1診で計4診体制の妊婦健診を毎日実施し、産婦人科専属の2名の超音波検査技師による妊婦の超音波検査も開始しました。

それぞれの地域の状況に応じて、皆で知恵を絞って、行政、地域内の医療機関ができる限り連携して、地域内の産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師、看護師、検査技師などが一つのチームとして一丸となって、地域の周産期医療を支えていく必要があります。

地域の周産期医療は、当面の半年とか1年とかが何とかギリギリ持ちこたえさえすればいいというものではありません。10年先も20年先も持続可能な地域周産期医療システムを構築していくことが重要です。そのためには、次世代を担う多くの若い研修医達が安心してこの世界に参入できるように、充実した研修・指導体制、余裕のある勤務体制、楽しい職場の雰囲気、待遇面での十分な配慮など、魅力のある研修環境を地域の病院の中に創り上げていくことが大切だと思います。

****** 信濃毎日新聞、2008年5月28日

妊婦健診を分担で 松本地域のお産を診療ノートで連携

 松本地域の9市町村と松本市医師会などは6月、健康な妊婦の健診について出産を扱わない病院や診療所が主に担い、出産を扱う医療機関の外来診療の負担を軽減する仕組みをスタートさせる。複数の医師が妊婦の情報を共有できる「共通診療ノート」を作製、6月中旬から妊婦に配る。

 松本や安曇野、塩尻市など9市町村の新しい仕組みを検討してきた「松本地域の産科・小児科医療検討会」を改組し、「松本地域出産・子育て安心ネットワーク協議会」を設立。26日夜の設立総会で事業内容を決めた。

 6月からは、妊娠の確認や妊娠10週までの健診については出産を扱わない15カ所の産婦人科(健診協力医療機関)が担う。妊娠が分かった時点で主に健診協力医療機関が診療ノートを妊婦に配る。

 妊婦は出産予定日が決まる11-12週に出産を希望する医療機関を初診。その後33週までの健診を出産施設と協力機関のどちらで受けるかは、妊婦の状態や希望、施設の状況などで出産施設の医師が判断する。

 松本地域では2006年以降、安曇野赤十字病院(安曇野市)、国立病院機構まつもと医療センター松本病院(松本市)などが出産の扱いを休止。出産を扱う医療機関は現在7カ所に減っている。協議会によると、妊娠初期の健診から出産まで同じ医療機関が担う現状のままでは、出産を扱う医療機関の負担が増し、緊急の際に受け入れが難しくなる可能性もあるという。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年5月28日)