ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

当医療圏の産科問題に対する取り組み 

2006年01月25日 | 飯田下伊那地域の産科問題

私の居住する医療圏では、従来、産婦人科を標榜する十数施設で分娩を担っていましたが、だんだん産科施設数が減ってきて、ここ数年は医療圏内の当院を含め計6産科施設で分娩取り扱いを分担してました。

ところが、2005年の夏頃に3施設がほぼ同時に分娩の取り扱い中止を表明しました。この3施設分を合計すると年間千件近くの分娩受け入れ先がなくなってしまうことになりました。さらに、残りのあと2つの施設も近い将来に分娩を中止したい意向があることが判明しました。

当院(産婦人科医数:常勤3人、非常勤3人)は県より地域周産期センターに指定され、地域の二次周産期施設として、ここ十数年来、異常例を中心に年間約5百件程度の分娩を取り扱ってきました。これが近い将来にいきなり年間分娩件数が約2千件近くに増えてしまうかもしれないことが判明し、非常に危機感を持ち、医療圏内の各自治体の長、医師会長、病院長、産婦人科医、助産師、保健師などが集まって、産科問題懇談会を立ち上げて、何回か集まり、この問題に対して今後いかに対応してゆくかを検討してきました。

その結果、周辺自治体からの支援(資金提供)もいただいて当院産科病棟・産婦人科外来の改修・拡張工事、医療機器の整備などを行ってハード面を強化し、常勤産婦人科医数も(大学の協力が得られて)常勤3人体制から常勤4人体制に強化されることになり、また、分娩をやめた病院の助産師の多くが当院に異動することになりました。

しかし、産婦人科医常勤4人体制の一つの病院だけでは、どう考えても地域の分娩約2千件のすべてに対応することは不可能で、少なくとも常勤産婦人科医7~8人の体制に強化しないと無理だと思われます。小児科医(常勤4人)、麻酔科医(常勤3人)への負担も非常に大きくなるので、現在の体制よりも強化される必要があります。

そこで、当面の苦肉の策として、残る2つの産科一次施設にもできる限り(低リスク妊婦管理を中心とした)産科診療を継続していただき、地域内の関係者の協力体制を強化して産科医療を支えあっていこうということになりました。

具体的には、当科で分娩を予定している妊婦さんの妊婦検診を地域の産婦人科クリニックで分担してもらうこと、地域内での産科共通カルテを使用し患者情報を共有化すること、当科の婦人科外来は他の医療施設からの紹介状を持参した患者さんのみに限定して受け付けること、などの地域協力体制のルールを取り決めました。また、産科問題懇談会は今後も継続し、定期的に集まって、いろいろな立場の人達(市民、医療関係者、自治体の関係職員など)の意見を広く吸い上げて、何か問題が発生するたびにそのつど対応策を協議し、その結果を情報公開して、広報などで市民全体に周知徹底させてゆくことが確認されました。今後、地域内の医療施設間の連携(病診連携、病病連携)をさらに強化し、当科は地域の産婦人科診療の二次医療機関の役割に専念することになりました。

今後も当科の常勤産婦人科医数を増やすように最大限の努力を続けてゆく必要がありますが、産婦人科医は全国的に不足しており、現時点ではさらなる常勤産婦人科医の増員は非常に難しい状況です。現在の地域周産期医療供給体制のきわめて困難な状況には、一つの病院や一つの自治体の努力だけではとても対応しきれません。医療圏全体あるいは県全体で長期的な視野に立って十分に協議を重ね、多くの関係者の力を結集して、この難局に対応してゆく必要があります。

******* 南信州サイバーニュース

産科問題懇談会が発足