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ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

妊婦・授乳婦への予防接種は可能か?

2011年10月17日 | 周産期医学

産婦人科ガイドライン・産科編2011

CQ101 妊婦・授乳婦への予防接種は可能か?

Answer

1. 妊婦への生ワクチン接種は原則として禁忌である。(A) 

2. 妊婦への不活化ワクチン接種は可能である(有益性投与)。(B)

3. 授乳婦への生ワクチン接種、不活化ワクチン接種はいずれも可能である(有益性投与)。(B)

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生ワクチン:
 BCG(結核ワクチン)
 ポリオ
 麻疹(はしか)
 風疹
 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
 水痘
 黄熱

不活化ワクチン:
 日本脳炎
 インフルエンザ
 B型肝炎
 破傷風トキソイド
 ジフテリアトキソイド
 A型肝炎
 狂犬病
 コレラ
 肺炎球菌
 ワイル病秋やみ
 b 型インフルエンザ菌(Hib)
 HPV(ヒトパピローマウイルス)

通常、妊婦への生ワクチンの接種はワクチンウイルスが胎児へ移行する理論上の危険性があるために禁忌である。もし、妊婦に対して不注意に生ワクチンが摂取された場合、または生ワクチン接種後4週間以内(風疹ワクチンおよび水痘ワクチンの場合は接種後2ヵ月以内)に妊娠した場合、胎児への影響について説明を求められるが、多くの場合、妊娠中断の適応にはならない。

黄熱病ワクチン(生ワクチン)については妊婦への安全性は確立していないが、黄熱病流行地域への旅行が避けられず、感染の危険性がある場合には接種すべきであるとしている。

ポリオワクチンの接種者から(ポリオワクチンの接種を受けていない者等の)ポリオの抗体を保有してない者に、きわめてまれに二次感染を起こすことがある。

授乳婦に生ワクチンまたは不活化ワクチンを与えても、母乳の安全性に影響を与えない。母乳はワクチン接種に悪影響を与えず、禁忌にはならない。ただし、風疹ワクチンは母乳に分泌されることが確認されており、児に対して無症候性感染を起こす。しかし、臨床的に問題となることはなく、むしろ風疹抗体価(HI)≦16x 以下妊婦では産褥期のワクチン接種が勧められる。


妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与について

2011年10月17日 | 周産期医学

インフルエンザ(流行性感冒)とは?

インフルエンザウイルスによる急性感染症で、発病すると、高熱、筋肉痛などを伴う風邪のような症状があらわれ、急性脳症や二次感染により死亡することもある。

インフルエンザウイルスとは?

インフルエンザの病原体(RNAウイルス)。本来はカモなどの水鳥を自然宿主として、その腸内に感染する弱毒性のウイルスであったものが、突然変異によってヒトの呼吸器への感染性を獲得したと考えられている。

インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスは、患者の気道分泌物から飛沫感染により伝搬する。B型は宿主域が狭いために世界的大流行(パンデミック)が発生しないが、A型はヒト、鳥類、ウマ、ブタなどに感染し、時に種を超えて感染し、パンデミックをきたすことが懸念されている。

インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)の歴史:

・1918~19年: スペインかぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、感染者6億人、死者4000~5000万人。

・1957年: アジアかぜ、H2N2亜型のA型インフルエンザ、死者100万人以上。

・1968~69年: 香港かぜ、H3N2亜型のA型インフルエンザ、死者50万人以上。

・1977~78年: ソ連かぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、パンデミックと言われることもあるが、主に青年のみに感染したため厳密にはパンデミックではなく、エピデミック(局地流行)である。

・2009~10年: 2009年新型インフルエンザ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、死者約10万人程度。本インフルエンザに対するワクチンはすでに完成しており、2010年後半から接種可能なインフルエンザワクチンは、通常の季節性インフルエンザワクチン2種に加えて新型インフルエンザワクチンにも対応した3価ワクチンとなっているものがほとんどである。

・今後も新型インフルエンザウイルスが出現することが予測されており、世界的規模で警戒し続けられている。

症状:
・ 気道感染症状、発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など。

・ 健康人に感染して合併症がない場合は、対症的対応で感染により1週間以内で軽快することが多い。

・ 65歳以上の高齢者、妊娠28週以降の妊婦、慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)、心疾患(僧帽弁膜症・鬱血性心不全など)、腎疾患(慢性賢不全・血液透析患者・腎移植患者など)、代謝異常(糖尿病・アジソン病など)、免疫不全状態の患者などの場合には、ハイリスクとしての対応が必要である。

診断:
・ 迅速診断キット: 鼻の奥の咽頭に近い部分を採取すると検出率が高い。15~20分で結果が分かる。A型とB型の鑑別も可能である。

オセルタミビル(タミフル®)は発症後48時間以内でないと効果が期待できないため、迅速診断キットは非常に重要な検査方法となっているが、発症直後ではウイルス量が少ないため陽性と判定されないことがある。検査で陰性と判定されても症状などから医師の判断で抗ウイルス薬を処方する場合もある。

インフルエンザウイルスの胎児への直接的影響:

妊婦が妊娠初期にインフルエンザに罹患した場合、直接的な胎児への催奇形性はないと考えられる。

妊婦に対する治療:

妊婦は心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザに罹患すると重篤な合併症を起こしやすい。

米国疾病予防管理センター(CDC)ガイドラインでは、インフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨している。妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦には接種可能としている。これまでのところ、妊婦にインフルエンザワクチンを接種した場合に生じる特別な副反応の報告はなく、胎児に異常の出る確率が高くなったとするデータもない。

妊婦がインフルエンザに罹患した場合、一般的な対症療法のほか、抗インフルエンザ薬(リレンザ®、タミフル®)が有効であり、児への有害事象もないとされる。

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産科診療ガイドライン・産科編2011

CQ102 妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与は?

Answer

1. インフルエンザワクチンの母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと説明し、ワクチン接種を希望する妊婦には接種する。(B)

2. 感染妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザウイルス薬(リレンザ®とタミフル®)投与は利益が不利益を上回ると認識する。(C)

3. インフルエンザ患者と濃厚接触後妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザ薬(リレンザ®とタミフル®)予防投与は利益が不利益を上回る可能性があると認識する。(C)

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解説

インフルエンザは主に冬期に流行するインフルエンザウイルスによる感染症で、急激な38度以上の発熱・頭痛・関節痛・筋肉痛などの症状を認める。その症状には特徴的な臨床症状や所見はなく、確定診断にはウイルス学的検査が必要である。最近では迅速診断キットによるウイルス抗原の検出が普及している。

インフルエンザに罹患した大多数は特に治療を行わなくても1~2週間で自然治癒するが、乳幼児・高齢者・基礎疾患のある人の場合には、気管支炎・肺炎などを併発し、死に至ることもある。

妊婦も心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザに罹患すると重篤な合併症を起こしやすい。妊婦がインフルエンザ流行中に心肺機能が悪化し入院する相対リスクは産後と比較して妊娠14~20週で1.4倍、妊娠27~31週で2.6倍、妊娠37~42週で4.7倍であり、妊娠週数とともに増加するとの報告もある。

現在使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、理論的に妊婦、胎児に対して問題はなく、約2000例のインフルエンザワクチン接種後妊婦において児に異常を認めていない。そのため、米国におけるCDCガイドラインではインフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨している。ACOGもCDCの勧告を支持している。本邦の国立感染症研究所は妊婦にワクチンを接種した場合に生ずる特別な副反応はなく、また妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータもないと報告している。妊娠初期の接種は避けた方がいいという慎重な意見もあるが、流産・奇形児の危険が高くなるという研究報告はないため、妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦には摂取可能とした。

不活化インフルエンザワクチンを妊娠第3三半期に接種した妊婦からの児は、非接種妊婦からの児に比して、生後6ヵ月までのインフルエンザ罹患率は63%に減少する。通常、6ヵ月未満の乳児に対するインフルエンザワクチン接種は認められていないため、妊婦へのインフルエンザワクチン接種は妊婦と乳児の双方に利益をもたらす可能性がある。

インフルエンザワクチン接種後、効果出現には約2~3週間を要し、その後約3~4ヵ月の防御免疫能を有するため、ワクチン接種時期は流行シーズンが始まる10~11月を理想とする。また授乳婦にインフルエンザワクチンを投与しても乳児への悪影響はないため、希望する褥婦にはインフルエンザワクチンを接種する。

本邦では抗インフルエンザ薬としてザナミビル(リレンザ®:吸入薬)とオセルタミビル(タミフル®:内服薬)などが使用できる。これらの薬剤は、感染した細胞からウイルス粒子を遊離させるために働くノイラミニダーゼの活性を阻害し、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。このため、抗インフルエンザウイルス薬を適切な時期(発症から48時間以内)から服用開始することにより、発熱期間は1~2日間短縮され、ウイルス排出量も減少する。

Pandemic(H1N1)2009(本邦では2009年5月~2010年4月)時、本邦では妊婦死亡例は報告されなかった。この理由の1つとして、本邦妊婦は患者との濃厚接触後、高率に抗インフルエンザウイルス薬の予防的投与を受けたこと、また感染後は速やかに抗インフルエンザウイルス薬の治療的投与を受けたことが挙げられている。

****** 日本産科婦人科学会、お知らせ

妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A

平成22年12月22日
社団法人 日本産科婦人科学会

分娩前後に母親が感染した場合の対応については昨シーズンと大きく異なっていますのでご注意下さい

Q1: 妊婦は非妊婦に比して、インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?

A1: 妊婦は重症化しやすいことが知られています。幸い、昨シーズンの新型インフルエンザでは本邦妊婦死亡者はありませんでしたが、諸外国では妊婦死亡が多数例報告されています。昨シーズン、新型インフルエンザのため入院を要した妊婦では早産率が高かったことが報告されています。また、タミフル等の抗インフルエンザ薬服用が遅れた妊婦(発症後48時間以降の服用開始)では重症化率が高かったことも報告されています。

Q2: 妊婦へのインフルエンザワクチン投与の際、どのような点に注意したらいいでしょうか?

A2: 妊婦へのインフルエンザワクチンに関しては安全性と有効性が証明されています。昨シーズンの新型インフルエンザワクチンに関しても、妊婦における重篤な副作用報告はありませんでした。チメロサール等の保存剤が含まれていても安全性に問題はないことが証明されています。
 インフルエンザワクチンでは重篤なアナフィラキシーショックが100万人当たり2~3人に起こることが報告されており、卵アレルギーのある方(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)ではその危険が高い可能性があります。したがって、卵アレルギーのある妊婦(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)にはワクチン接種を勧めず、以下が推奨されます。
1) 発症(発熱)したら、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル)を服用(1日2錠を5日間)するよう指導します。
2) 罹患者と濃厚接触した場合には、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)を予防的服用(10日間)するよう指導します。

Q3: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応については?

A3: 発熱があり、周囲の状況からインフルエンザが疑われる場合には、「できるだけ早い(可能であれば、症状出現後48時間以内)タミフル服用開始が重症化防止に有効である」ことを伝えます。妊婦から妊婦への感染防止という観点から「接触が避けられる環境」下での診療をお勧めします。妊婦には事前の電話やマスク着用での受診を勧めます。一般病院への受診でもかまいませんが、原則としてかかりつけ産婦人科医が対応します。
 インフルエンザ感染が確認されたら、ただちにタミフル投与を考慮します。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)が重症化防止に重要」と伝えます。

Q4: 妊婦がインフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?

A4:抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与(10日間)を行います。予防投与は感染危険を減少させますが、完全に予防するとはかぎりません。また、予防される期間は服用している期間に限られます。予防的服用をしている妊婦であっても発熱があった場合には受診するよう勧めます。

Q5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?

A5:?昨シーズン、多数の妊婦(推定で4万人程度)が抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)を服用しましたが、胎児に問題があったとの報告はあがってきていません。

Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?

A6:以下の投与方法が推奨されます。
1) タミフルの場合?
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)10日間、 
治療のための投与:75mg錠 1日2回(計150mg)5日間。
2) リレンザの場合 ?
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)10日間、
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)5日間。

Q7: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?

A7: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。

Q8:分娩前後に発症した場合は?

A8:タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。新生児への対応は以下のように行ないます。
1) 母親が妊娠~分娩 8 日以前までにインフルエンザを発症し治癒後に出生した場合
・通常の新生児管理を行います。
2) 母親が分娩前 7 日から分娩までの間にインフルエンザを発症した場合
・分娩後より、母子で個室隔離。分娩後より、飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室とします。
・個室がない場合は母子を他の母子と離して管理します。その際、飛沫・接触感染予防策を十分講じます。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを行います。
3)母親が分娩後~産院退院までにインフルエンザを発症した場合(カンガルーケアや直接授乳などすでに濃厚接触している場合)
・個室にて、直ちに飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室を継続します。その際、児を保育器に収容等の予防策を講じ、母子間の飛沫・接触感染の可能性につき十分注意を払います。
・母親の発症状況や児への曝露の程度を総合的に判断して、必要な場合、厳重な症状の観察とバイタルサインのモニタリングをできる環境に児を移送し、発症の有無を確認します。移送後の児は、保育器管理を行います。保育器がない場合は他児と十分な距離をとります(1.5m 以上,可能ならば,他児との間をカーテン等で分離する)。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与は原則、行なわないことにします。
4)新生児に発熱、咳嗽・鼻汁・鼻閉などの上気道症状、活気不良、哺乳不良、多呼吸・酸素飽和度の低下などの呼吸障害、無呼吸発作,易刺激性 などが認められた場合
・直ちにインフルエンザの検査診断(簡易迅速診断キットによる抗原検査と可能ならば RT-PCR 検査の施行が望ましい)を行います。治療を行う事も考慮します。また,新生児の場合、インフルエンザ以外の疾患で上記の症状を認める場合があるので、鑑別診断に努め適切な治療を行う必要があります。
・早産児へのインフルエンザの影響は不明なことが多いので、疑い例であってもウイルス検査を行うように努めます。

Q9: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?

A9: 原則,母乳栄養を行います. 以下が勧められます。
・母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第 3 者に与えてもらう。
・母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。
・母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する。
・母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに預かり室への入室が望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5m 以上)。
・哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄でよい。
・原則、飛沫・接触感染予防策の解除は、母親のインフルエンザ発症後 7 日以降に行う。

本件Q&A改定経緯:
初版 平成21年5月19日
2版 平成21年6月19日
3版 平成21年8月4日
4版 平成21年8月25日
5版 平成21年9月7日
6版 平成21年9月28日
7版 平成21年10月22日
8版 平成21年11月9日
9版 平成22年12月22日


肺出血

2011年10月17日 | 周産期医学

pulmonary hemorrhage

【概念】 肺毛細血管から肺胞内に血液成分が漏出した状態である。

肺胞上皮の血液透過性が亢進する原因: 肺うっ血、低酸素虚血による肺胞上皮障害

肺胞内に漏出した血液成分は肺サーファクタントを不活化させるので、二次的な肺サーファクタント欠乏状態を起こして重度の呼吸障害を呈する。

【症状】 
・ 初期には気管吸引液は血性とはならず、気管吸引液の増加として認識されるが、この時期から呼吸窮迫症状を認める。気管吸引液の潜血反応は陽性となる。

・ 進行すると血性の気管吸引液となる。

【診断】 血性の気管吸引液を認め、肺野全体の透過性の低下があれば診断される。

【治療】 
・ 陽圧換気が絶対適応である。

・ 肺サーファクタント補充療法を実施する。

・ 肺出血の原因治療として、左心不全の改善、動脈管開存症の治療が必要となる。


新生児一過性多呼吸(TTN)

2011年10月16日 | 周産期医学

transient tachypnea of the newborn

【概念】 出生後の肺胞内の肺水の排出・吸収遅延によって発症する、比較的予後良好な新生児呼吸器疾患である。新生児にみられる呼吸障害の中では最も頻度が高い。

【症状】 出生直後から認める多呼吸をを主とした呼吸器症状で発症する。重症になると陥没呼吸、呻吟、チアノーゼが出現する。通常は生後1~3日で臨床症状、X線所見ともに改善する。ただし、気胸、新生児遷延性肺高血圧症といった合併症の発症には注意をしておく必要がある。

【診断】
・ 出生直後の多呼吸を主とした症状と胸部X線とで診断されるが、他の呼吸器疾患の可能性を否定した後の除外診断となる。
・ 胸部X線所見: 肺野全体の透亮像の低下に膨張部分を伴うことが特徴的である。

Ttn_2

【治療】 
・ 特別な治療を要さない児も多いが、呼吸障害が強い、あるいは酸素化が維持できない場合は、SpO2モニター下に酸素投与(通常はFIO2 40%以下で十分)を行う。

・ 重症例では、人工換気やサーファクテン投与を行う。。


空気漏出症候群

2011年10月16日 | 周産期医学

air leak syndrome

【概念】 肺胞および気管外への空気漏出によって起こる。

気体の漏出した部位により、
① 気胸(pneumothorax)、
② 気縦隔(pneumomediastrium)、
③ 心嚢気腫(pneumopericardium)、
④ 間質性肺気腫(pulmonary interstitional emphysema)
と区別して呼ばれる。

【症状】 蘇生後あるいは人工換気中の児の呼吸状態が突然悪くなった場合には、まず気胸をはじめとした空気漏出症候群を疑う。無治療の場合には、通常、呼吸障害が進行し、短期間で循環不全が加わりショック状態となる。

気胸: 約1%の頻度で自然に気胸が発生し、不穏状態、多呼吸、チアノーゼなどの症状を呈することがある。胎便吸引症候群、呼吸窮迫症候群、新生児一過性多呼吸などの呼吸器疾患を有する児ではより高率に気胸を合併することがある。人工呼吸管理や蘇生操作も気胸の原因となりうる。

緊張性気胸(tension pneumothorax): 緊張性気胸では肺がしぼみ、縦隔が反対側へおされ、反対の正常の肺も圧迫される。呼吸障害、循環障害によりチアノーゼ、頻脈、血圧低下などの症状を呈し、放置すれば生命の危険な状態となる。

気縦隔: 気縦隔では一般にほとんど呼吸器症状を示さない。

心嚢気腫: 心嚢気腫では心臓の圧迫が起こるため急激に循環不全が進行する。

間質性肺気腫; 間質性肺気腫では肺胞換気が障害されて重篤な呼吸器障害を呈する。

【診断】 胸部X線像で確定診断される。

Tensionpneumothorax_2

緊張性気胸(右)

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Pneumopericardium

心嚢気腫

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Pie

間質性肺気腫

【治療】 
・ 呼吸障害が重度でない場合には、高濃度の酸素投与を実施する。

・ 緊張性気胸では胸腔穿刺と持続ドレナージを実施する。

・ 心嚢気腫では救命のため緊急に心嚢穿刺を実施する。

・ 間質性肺気腫では人工換気圧を下げるかHFOを使用する。


周産期専門医試験について

2011年10月13日 | 日記・エッセイ・コラム

10月22~23日に東京大学で周産期専門医試験があります。

試験本番まであと9日となりました。試験に不合格でも日常診療上で特に困ることはありませんが、不合格の場合はだらだらと受験生活が続いて、他の事が何もできなくて困ります。

考えてみれば、昨年は毎週末のように登山・ハイキングを楽しんだんですが、今年はほとんどどこにも出歩いてません。日曜日の午後、急に思いついて、久し振りに風越山登山をしましたが、運動不足で、途中で何度も足がつりそうになってしまいました。こんな不健康な生活を続けていては駄目だと痛感しました。


総動脈幹症

2011年10月12日 | 周産期医学

truncus arteriosus

【概念】 左右両心室から、単一大血管である総動脈幹に血液が流入し、それから大動脈と肺動脈に別れる心奇形である。通常は大きなVSDがある。発生初期に総動脈管から肺動脈が分割されず総動脈管が残遺することで生じる。頻度は全先天性心疾患の約0.7~0.8%である。

Truncus_arteriosus

【臨床症状】 新生児期あるいは乳児期早期より心不全症状を示す。肺血流量増加を伴う先天性心疾患に特有な多呼吸、哺乳力低下、体重増加不良、呼吸器感染の易罹患性などの症状がみられる。チアノーゼの程度は軽い。四肢末梢でbounding pulseを触知し、聴診では心基部に単一Ⅱ音の亢進を認める。

【検査所見】
・ 胸部X線: 左右心室の拡大と肺血管陰影の増強を示す。
・ 心電図: 両室肥大を示す。
・ 心エコー: 上行大動脈より肺動脈が出ていることを確認する。半月弁が1つ。総動脈幹が心室中隔に騎乗する。
・ 心カテーテル・心血管造影: 総動脈幹基部で造影すると、上行大動脈、肺動脈、冠動脈が同時に造影される。

【治療】 診断即外科治療が基本である。根治手術としては(graft導管により右室と肺動脈をつなぐ)Rastelli手術を行う。総じて早期の一期的根治手術が推奨されているが、新生児期の左右肺動脈絞扼術により2~3ヵ月まで根治手術を待機させることが可能であり、手術に伴う危険性を減少させるとの報告もある。

Rastelli

 

【予後】 肺動脈血管病変の進行が速いため、外科的手術が行われなければ予後不良。


三尖弁閉鎖症(TA)

2011年10月10日 | 周産期医学

tricuspid atresia

【概念】 三尖弁閉鎖症とは、三尖弁が全く存在しないか、あるいは開口していない先天性心疾患である。全先天性心疾患の1~3%を占め、比較的頻度の少ない疾患である。必ずASDを伴い、多くの例ではVSD、右室低形成、PS/PAを伴う。PDA、TGA、大動脈弓の異常などを伴うこともある。

Ta

【血行動態】 右房から右室への血行が遮断されているため、体静脈血はASDを通して左房に入り、左房で肺静脈血と混合する。この混合した血液が左室から大動脈へと流れる。肺動脈へはVSDまたはPDAを介して血流が保たれる。

【臨床所見】 チアノーゼは生後1日目に気付かれることが多い。肺血流量減少群では新生児期より著明なチアノーゼを呈する。一方、肺血流量が増加している型では、チアノーゼは軽度であるが、心不全や肺高血圧を呈し、加齢とともに肺血管閉塞性病変が進行する。

チアノーゼが長く続くと、多血症、鉄欠乏性貧血、バチ指などが出現し、脳血栓、脳塞栓を生じることもある。さらに、感染症やう歯が原因となり、脳膿瘍や感染性心内膜炎などの重篤な合併症を引き起こすことがある。

聴診では、胸骨左縁にVSDやPSによる収縮期雑音を聴取する。

【検査所見】
・ 心電図: 左軸偏位、左室肥大、右房負荷が特徴的である。

・ 胸部X線: 肺血流量減少群では心陰影は小さいか軽度の拡大にとどまる。肺血流量増加群では肺うっ血と心拡大を認める。

・ 心エコー:  三尖弁の欠損、右室の低形成、ASDの存在、大きな左室を認める。

・ 心臓カテーテル: 造影にて右房→左房→左室の血行を証明する。正面像では右室影が欠損し本症に特徴的である。

【診断】 臨床症状、特徴的な心電図所見、心エコー所見から診断可能。

【治療】
・ 新生児期より強い低酸素状態にある場合、プロスタグランジンE1により動脈管からの血流を増加させ、全身状態の改善を図る。

・ 肺動脈狭窄を伴う病型で、適切な肺動脈圧が維持されていれば、時に準備手術を経ることなくFontan手術適応となる時期まで待機することが可能である。しかしながらほとんどの病型で最終手術到達までに準備手術を必要とする場合が多い。

・ 新生児期(生後1か月以内): 肺血流減少群ではBlalock-Taussig 短絡術(B-Tシャント術)を、肺血流増多群では肺動脈絞扼術を行う。

Shunt

・ 乳児期(生後3~6か月前後): Glenn手術(上大静脈-右肺動脈吻合術)を行う。

Glenn_2

・ 幼児期(生後1~3年前後): Fontan手術(機能的修復術)を行う。現在は人工導管を用いて下大静脈と右肺動脈を吻合する方法が主流である。

Fontan


分娩時大出血への対応

2011年10月10日 | 周産期医学

・ 妊産婦死亡は減少してきているが、約250人に1人の妊婦が大量出血等により生命の危機にさらされている。

・ 平成元年から平成16年の間に本邦で冒険されたすべての妊産婦死亡193例の解析:
羊水塞栓症47例(24%)、妊娠高血圧関連DIC 41例(21%)、肺血栓塞栓症25例(13%)、産道裂傷22例(11%)

・ 出血のリスク因子:帝王切開分娩、多胎分娩、前置・低置胎盤など

・ 分娩前後に輸血を必要とする妊婦は約200名に1名と推定されている。

******* 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ316 分娩時大出血への対応は?

Answer

1. SI値と計測出血量で循環血液量不足(出血量)を評価する。(B)
  SI値; shock index = 1分間の脈拍数 ÷ 収縮期血圧 mmHg

2. SI値≧1.0 あるいは経腟分娩時出血量≧1.0L(帝王切開時出血量≧2.0L)の場合には、出血原因の検索・除去に努めながら以下を行う。
 1)太めの針での血管確保と十分な輸液(A)
 2)輸血開始の考慮と高次施設への搬送考慮(B)
 3)血圧・脈拍数・出血量・尿量の持続的観察(A)
 4)SpO2モニタリング(C)

3. 上記状態からさらに出血が持続する、SI値≧1.5が頻回に認められる、産科DICスコア≧8、あるいは乏尿・末梢冷感・SpO2低下等出現の場合には出血原因の検索・除去に努めながら以下を行う。
 1)「産科危機的出血」の診断(A)
 2)輸血用血液到着後ただちに輸血(赤血球製剤と新鮮凍結血漿)開始(B)
 3)高次施設への搬送(C)
 4)産科DICスコア≧8では抗DIC製剤投与と血小板濃厚液投与も行う。(C)

4. 産科危機的出血時、あるいは出血による心停止が切迫していると判断された場合であって交差済同型血が入手困難な場合には未交差同型血、異型適合血、異型適合新鮮凍結血漿・血小板濃厚液の輸血も行える。(B)

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産科DICスコア

8点~12点:DICに進展する可能性が高い
13点以上:DIC

1. 基礎疾患

1)常位胎盤早期剥離
(1) 子宮硬直、児死亡: 5点
(2) 子宮硬直、児生存: 4点
(3) 超音波断層所見およびCTG所見における早剥の診断: 4点

2)羊水塞栓症
(1) 急性肺性心: 4点
(2) 人工換気: 3点
(3) 補助呼吸: 2点
(4) 酸素放流のみ: 1点

3)DIC型後産期出血
(1) 子宮から出血した血液または採血血液が低凝固性の場合: 4点
(2) 2000mL以上の出血(出血開始から24時間以内): 3点
(3) 1000mL以上2000mL未満の出血(出血開始から24時間以内): 1点

4)子癇:子癇発作: 4点

5)その他の基礎疾患: 1点

2. 臨床症状

1) 急性腎不全
(1) 無尿(≦5mL/時): 4点
(2) 乏尿(5<~≦20mL/時): 3点

2) 急性呼吸不全(羊水塞栓症を除く)
(1) 人工換気または時々の補助呼吸: 4点
(2) 酸素放流のみ: 1点

3) 心、肝、脳、消化管などに重篤な障害があるときはそれぞれ4点を加える。
(1) 心(ラ音または泡沫性の喀痰など): 4点
(2) 肝(可視黄疸など): 4点
(3) 脳(意識障害および痙攣など): 4点
(4) 消化管(壊死性腸炎など): 4点

4) 出血傾向
肉眼的血尿およびメレナ、紫斑、皮膚粘膜、歯肉、注射部位からの出血: 4点

5) ショック症状
(1) 脈拍≧100/分: 1点
(2) 血圧≦90mmHg(収縮期)または40%以上の低下: 1点
(3) 冷汗: 1点
(4) 蒼白: 1点

3. 検査項目

1) 血清FDP≧10μg/mL:1点

2) 血小板数≦10x104/mm3:1点

3) フィブリノゲン≦150mg/dL:1点

4) プロトロンビン時間(PT)≧15秒(≦50%)
 またはヘパプラスチンテスト≦50%: 1点

5) 赤沈≦4mm/15分 または ≦15mm/時: 1点

6) 出血時間≧5分: 1点

7) その他の凝固:線溶・キニン系因子
(例:アンチトロンビン活性≦18mg/dLまたは≦60%、プレカリクレイン、α2-PI、プラスミノゲン、その他の凝固因子≦50%): 1点

注: 合算して8点以上となったら、DICとして治療を開始する。基礎疾患については該当するものを1つだけ選び、臨床症状および検査項目については該当するものすべてを選び、スコアを計算する。

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産科危機的出血への対応ガイドライン

http://www.jspnm.com/topics/data/topics100414.pdf

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本周産期・新生児医学会、日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会 (五十音順) 

2010年4月

はじめに
 周産期管理の進歩により母体死亡率は著明に低下したものの、出血は依然、母体死亡の主要な原因である。生命を脅かすような分娩時あるいは分娩後の出血は妊産婦の300 人に約1 人に起こる合併症で、リスク因子には帝王切開分娩、多胎分娩、前置・低置胎盤などが挙げられる。しかし、予期せぬ大量出血もあり、また比較的少量の出血でも産科DIC を併発しやすいという特徴がある。
 現在産科危機的出血に対する輸血療法の明確な指針はない。そこで、より安全な周産期管理の実現を目的に、関連5 学会として対応ガイドラインを以下に提言する。
 産科危機的出血の発生を回避するとともに、発生した場合に適切に対応するためには、各施設が置かれている状況を反映させた院内マニュアルを整備し、シミュレーションをしておくことが望まれる。

産科出血の特徴
 基礎疾患(常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群、子癇、羊水塞栓、癒着胎盤など)を持つ産科出血では中等量の出血でも容易にDIC を併発する。この点を考慮した産科DIC スコアは有用といえる。輸液と赤血球輸血のみの対応では希釈性の凝固因子低下となりDIC に伴う出血傾向を助長する。また、分娩では外出血量が少量でも生命の危機となる腹腔内出血・後腹膜腔出血を来たす疾患(頚管裂傷、子宮破裂など)も存在するので、計測された出血量のみにとらわれることなく、バイタルサインの異常(頻脈、低血圧、乏尿)、特にショックインデックス(SI : shock index)に留意し管理する。

分娩時出血量
 分娩時出血量の90 パーセンタイルを胎児数、分娩様式別に示した。
Photo
(日本産科婦人科学会周産期委員会、253,607 分娩例、2008 年)
※帝王切開時は羊水込み。

Si
妊婦のSI:1は約1.5 L、SI:1.5 は約2.5 L の出血量であることが推測される。

産科出血への対応
 妊娠初期検査で血液型判定、不規則抗体スクリーニングを行う。
 通常の分娩でも大量出血は起こり得るが、大出血が予想される前置・低置胎盤、巨大筋腫合併、多胎、癒着胎盤の可能性がある症例では高次施設での分娩、自己血貯血を考慮する。分娩時には必ず血管確保、バイタルチェックを行う。血液センターからの供給と院内の輸血体制を確認しておく。
 経過中にSI が1 となった時点で一次施設では高次施設への搬送も考慮し、出血量が経腟分娩では1L、帝王切開では2 L を目安として輸血の準備を行う。同時に、弛緩出血では子宮収縮、頸管裂傷・子宮破裂では修復、前置胎盤では剥離面の止血など行う。
 各種対応にも拘わらず、SI が1.5 以上、産科DIC スコアが8 点以上となれば「産科危機的出血」として直ちに輸血を開始する。一次施設であれば、高次施設への搬送が望ましい。産科危機的出血の特徴を考慮し、赤血球製剤だけではなく新鮮凍結血漿を投与し、血小板濃厚液、アルブミン、抗DIC 製剤などの投与も躊躇しない。
 これらの治療によっても出血が持続し、バイタルサインの異常が持続するなら、日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会の「危機的出血への対応ガイドライン」を参照して対応する。産科的には、子宮動脈の結紮・塞栓、内腸骨動脈の結紮・塞栓、総腸骨動脈のバルーン、子宮腟上部摘出術あるいは子宮全摘術などを試みる。
 但し、大量輸血時の高K 血症、肺水腫は生命の危険を伴うので留意する。

産科危機的出血への対応フローチャート

1_3

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危機的出血への対応ガイドライン
(日本麻酔学会、日本輸血・細胞治療学会、2007)

http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/kikitekiGL2.pdf

Photo

Photo_2

● 輸血の実際

1)輸血の基本方針

産科出血はDICに移行しやすいので赤血球製剤だけでなく新鮮凍結血漿を投与する。妊婦は過凝固となりやすく、凝固因子の過消費が起こりやすい。したがって、過消費された凝固因子を補充する。

2)赤血球濃厚液(RCC-LR)
極端なヘモグロビン低値では組織の低酸素状態が起こる。赤血球製剤はヘモグロビン値上昇に効果がある。

たとえば体重50kgの成人(循環血液量35dL)に赤血球濃厚液1袋(400mLの血液由来)輸血すると、ヘモグロビン値は約1.6~1.7g/dL上昇する。

3)新鮮凍結血漿(FFP-LR)
新鮮凍結血漿には止血凝固因子が多量に含まれる。新鮮凍結血漿投与によりフィブリノゲン値≧100mg/dLを目指す。

血中フィブリノゲン量が70mg/dL時に、≧100mg/dLを達成するために必要な新鮮凍結血漿量は1000mL以上となる。

4)血小板濃厚液
血小板数が 2万/μL 以下の場合、肺出血等の出血が発生しやすくなるので、産科危機的出血では血小板輸血が必要となることが多い。

200mL(10単位)血小板濃厚液投与で2.5万~3万/μL 程度上昇する。

5)抗DIC薬
抗DIC薬としてはアンチトロンビン製剤を第一選択として使用することが望ましい。1500~3000単位を静脈投与する。

ウリナスタチン、FOY等の抗DIC製剤を適宜使用する。

上記治療を行っても止血ができないDICでは保険適応外ではあるが国内外で実績のあるノボセブン®の使用を考慮してもよい。初回投与量は90μg/kgを2~5分かけてゆっくり静注する。なお、産科でのノボセブン®の使用は日本産科婦人科新生児血液学会での全例登録制であることにも留意する。

DICであっても、産科危機的出血中のヘパリン使用に関して使用は勧められない。

****** 問題

産科出血について正しいのはどれか。2つ選べ。

a 出血量はヘマトクリット値の低下から正確に推定できる。
b 子宮切開既往のない前置胎盤で癒着胎盤の合併は1%以下である。
c 常位胎盤早期剥離でプロトロンビン時間、フィブリノゲン値を測定する。
d ショックインデックス(SI)1.5は出血量約2500mLに相当する。
e 大量出血時は、新鮮凍結血漿よりもアルブミン製剤を投与する。

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正解:c、d

b 前置胎盤の約5~10%が癒着胎盤を合併する。

c プロトロンビン時間≧15秒、フィブリノゲン≦150mg/dL

d 妊婦のSI:1は約1.5L、SI:1.5は約2.5Lの出血であることが推測される。

****** 問題

危機的出血における緊急輸血で正しいのはどれか。1つ選べ。

a A型では、クロスマッチを省略した赤血球輸血はA型よりもO型を用いる。
b AB型では、新鮮凍結血漿輸血は全型が適合である。
c AB型では、赤血球輸血としてA型やB型も使用できる。 
d 血液型が不明の場合、新鮮凍結血しょう輸血はO型を用いる。
e 血小板濃厚液10単位投与で血小板10万/μLの上昇が期待できる。

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正解:c

b AB型では、O型の新鮮凍結血漿は投与できない。

d 血液型が不明の場合、新鮮凍結血しょう輸血はAB型を用いる。 

e 200mL(10単位)血小板濃厚液投与で2.5万~3万/μL程度上昇する。


肺動脈狭窄症(PS)

2011年10月10日 | 周産期医学

pulmonary stenosis

【概念】 左右心室間の交通のない、肺動脈弁、弁下、および弁上(肺動脈幹および末梢肺動脈)の狭窄をいう。弁狭窄が代表的で、先天性心疾患の5~10%とされる。

Ps

肺動脈弁狭窄

【血行動態】 右室から肺へとつながるルートの狭窄であるため、肺動脈狭窄の程度に比例して、右室収縮期圧が上昇する。右室拡張末期圧が上昇し、右房圧も上昇する。また、右室壁は求心性に肥厚するため内腔は狭小化する。思春期までは心拍出量は正常である。肺動脈狭窄の程度が高度であれば、心拍出量の低下へとつながる。肺動脈・右室間圧較差40mmHg以下は軽症で予後良好、圧較差50mmHg以上は経皮的バルーン拡張術もしくは弁切開術の適応となる。右室圧>左室圧の場合は卵円孔で右左シャントとなり、チアノーゼを生じる。

【症状】 軽症例では生涯無症状である。中等症例では幼少時は無症状で健診などで発見され、年長になると運動時息切れなどの症状が出現してくる。重症例では乳児期に心不全症状で発症する。

【検査】
①胸部X線: 
通常、心拡大はないか、あっても軽度である。肺動脈弁性狭窄の場合は、狭窄後拡張(post stenotic dilatation)のために主肺動脈が拡張し左第2弓の突出を認める。右心系の拡大も全例に見られるわけではない。

②心電図:
軽症の肺動脈狭窄ではほぼ変化は認められない。中等症以上の場合は、右軸偏位、右房負荷と右室肥大の所見がみとめられる。

③心エコー:
弁性狭窄ではBモードで肺動脈弁の開放が不充分なドーム状domingを呈する。肺動脈弁自体が分厚く可動性が不良であったり、癒合して1弁もしくは2弁となっていたり異形成弁であることがある。

弁下狭窄では、右室流出路の狭窄もしくは右室内での異常筋束部分での加速を生じる。

圧較差は簡易Bernoulliの式〔(圧較差mmHg)=4×(加速m/s)2〕から計算できる。

④心臓カテーテル検査:
圧測定で、肺動脈と右室の圧を測定することにより両者の圧較差が測定できる。狭窄部位より遠位部の肺動脈平均圧はほぼ正常範囲となる。肺動脈造影では狭窄後拡張をみとめたり、弁性狭窄の右室造影では厚手のドーム状に変形した肺動脈弁を描出することができる。

【治療】 
軽症例は生涯にわたって、無治療で過ごす。運動制限は全く不要である。

中等症以上の弁狭窄の症例では、適当な時期に弁性狭窄の解除を行う。最近は、第一選択はカテーテル治療、第二選択は外科治療となってきている。

Ps_balloon

バルーン肺動脈弁形成術

【予後】 軽症例は予後良好である。中等症は年余にわたる圧負荷のために心筋肥厚や線維化による心筋障害、肺動脈弁尖の線維化などが生じ、狭窄解除を途中で施行した方が望ましいが、生命予後自体は良好である。重症例は放置すれば心不全が進行する可能性が高く、また動脈管依存性の高い場合は、動脈管の狭小化・閉鎖で急変する場合もある。


総肺静脈還流異常症(TAPVC)

2011年10月09日 | 周産期医学

total anomalous pulmonary venous connection

【概念】 すべての肺静脈と左房との交通がなく、肺静脈が右房または体静脈のどこかと交通しているものをいう。肺静脈は1つ(共通肺静脈)にまとまり、または分かれたまま体静脈系と交通するが、その部位によって、上心臓型(Ⅰ型)、傍心臓型(Ⅱ型)、下心臓型(Ⅲ型)、これらの混合型に分ける。

Tapvc1

上心臓型(Ⅰ型)
①上大静脈
②心房中隔欠損
③左無名静脈
④肺静脈

【血行動態】 体静脈、肺静脈すべての血液が右房に戻ってくるため、右心系の量負荷、さらには圧負荷まで加わる。卵円孔開存または心房中隔欠損がなければ生命の維持は不可能である。

【臨床所見】 新生児期、乳児期早期の多呼吸、哺乳困難。

肺静脈狭窄のないタイプでは新生児期にはチアノーゼは出現しにくいが、早晩、心不全症状とともにチアノーゼが出現する。

肺静脈狭窄を伴う場合、チアノーゼ、心不全ともに新生児期早期から出現する。

【検査所見】
心電図 右軸偏位、左室肥大、右房肥大。
胸部X線 Ⅰ型では雪だるま陰影(snowman sign)という特徴的な所見を呈する。心拡大、肺静脈うっ血像。

Supracardiactapvc
雪だるま陰影(snowman sign)

心エコー 右心系の拡大、左房の後ろの共通肺静脈、共通肺静脈の体静脈との交通部位の確認などによって確定診断、分類まで可能。 

【治療】 緊急な外科的手術以外に治療はない。手術までの全身状態の管理が重要である。生後すぐに緊急手術が必要になることもある。外科治療は異常な肺静脈還流を左房に導く手術が行われる。

【予後】 手術が行われなければ、きわめて不良(80~90%が乳児期に死亡する)。手術をのりきって退院すれば、予後は比較的良好。ただし、約10%に肺静脈の狭窄をきたし、カテーテル治療や再手術が必要になることがあり、定期的な観察が必要である。


反復・習慣流産患者の診断と取り扱い

2011年10月09日 | 周産期医学

習慣流産(habitual abortion):連続3回以上の自然流産を繰り返した状態をいう。

臨床的に確認された妊娠の10~15%が流産となり、妊娠女性の25~50%が流産を経験している。流産の原因は多岐にわたり、染色体異常、胎児構造異常、感染症、内分泌異常、免疫異常、凝固系異常、子宮奇形などさまざまである。また、環境や薬剤、年齢、喫煙、アルコールなどによる影響も存在する。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ204 反復・習慣流産患者の診断と取り扱いは?

Answer

1. 3回以上連続する自然流産の場合、習慣流産と診断する。(A)

2. カウンセリング等の精神的・心理的支援を行いカップルの不安をできるだけ取り除く。(B)

3. カウンセリングの際、以下の説明を加える。(C)
 「原因不明習慣流産患者において、女性の加齢や過去の流産回数によって次回妊娠が無治療で継続できる率は低下するが、平均すると60~70%といわれている。また、以下の精査を行っても約50%の症例で原因特定が困難である。」

4. 習慣流産原因検索を行う場合、以下の検査を行う。
 1)抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンβ2GP1 抗体)(A)
 2)凝固系検査(C)
 3)カップルの染色体検査(患者およびパートナーの意志および希望の確認が必要)(B)
 4)子宮形態異常検査(経腟超音波検査、子宮卵管造影、子宮鏡など)(A)
 5)内分泌学的検査など(C)

5. 習慣流産患者が抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、あるいは抗カルジオリピンβ2GP1 抗体のいずれか)陽性を複数回示した場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する。

6. 夫リンパ球免疫療法はごく限られた婦人に対して有効性が示唆されている。適応(解説参照)については十分吟味し放射線照射後に実施する。(A)

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? 6.の解説

・ 免疫療法: 習慣流産に対する夫リンパ球免疫療法ないし免疫グロブリン療法の有用性は、無作為試験においては概ね否定的であるが、夫リンパ球免疫療法に関してはごく限られた症例に対してその有用性が示唆されている。したがって、夫リンパ球免疫療法を実施する場合には、その適応について、文献を参照し、十分に検討する。また、輸血療法であることを認識し、移植片対宿主病(GVHD)予防のために夫リンパ球に必ず放射線照射を行う(日本産科婦人科学会、会員へのお知らせ、2010年2月16日)。

※(文献)
Pandey MK, et al, Int Immunopharmacol 2004 289-298
Nonaka T, et al, Am J Reprod Immunol 2007 530-536

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(表1) 抗リン脂質抗体症候群の診断基準

臨床基準:
1. 血栓症
 1回以上の動脈もしくは静脈血栓症の臨床的エピソード。血栓症は画像診断、ドプラ検査、または病理学的に確認されたもの。

2. 妊娠合併症
 a)妊娠10週以降で、ほかに原因のない正常形態胎児の死亡、または、
 b)重症妊娠高血圧症候群、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の形態学異常のない胎児の1回以上の早産、または、
 c)妊娠10週以前の3回以上続けての他に原因のない流産

検査基準:
1. ループスアンチコアグラントが12週以上の間隔をあけて2回以上陽性(国際血栓止血学会のガイドラインに沿った測定法による)

2. 抗カルジオリピン抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上中等度以上の力価(>40GPL[MPL]、または>99パーセンタイル)で検出される(標準化されたELISA法による)

3. 抗カルジオリピンβ2GP1 抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上検出される(力価>99パーセンタイル、標準化されたELISA法による)

※ 臨床基準を1つ以上、かつ検査基準を1つ以上満たした場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する。したがって、検査基準を満たしても臨床基準に該当する既往がなければ抗リン脂質抗体症候群とは診断されない。

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1.の解説

・ 原因の有無にかかわらず3回以上流産を繰り返す場合、習慣流産と呼び、1%程度の頻度である。

・ 流産を反復した場合の次回流産率は上昇し、3回連続流産した場合の次回流産率は29%であるが、6回連続流産後の次回流産率は53%である。

・年齢因子も加味した場合、流産再発率は30歳以下で25%であるが40歳以上では52%と有意に上昇する。

4.の解説

1)抗リン脂質抗体

・ 健康保険が適用され得る抗リン脂質抗体検査は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体および抗カルジオリピンβ2GP1 抗体である。

・ 習慣流産患者がこれらのいずれかについて複数回陽性を示せば抗リン脂質抗体症候群(APS:antiphospholipid antibody syndrome)と診断される。習慣流産患者の3~15%に抗リン脂質抗体が陽性となる。この定義によるAPS患者での流産率は90%であるとする報告もある。

・ 上記リン脂質抗体のいずれかが陽性、かつ以下の既往のいずれかを認めれば、習慣流産の既往がなくてもAPSと診断される。
 a)臨床的血栓症既往(動脈血栓、静脈血栓いずれでも可)
 b)妊娠10週以降の1回以上の胎児死亡
 c)妊娠高血圧腎症重症、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の1回以上の早産
したがって、習慣流産既往歴がなくてもa)~c)のいずれかの既往歴がある場合には抗リン脂質抗体の検査が考慮される。

・ APSにおいてアスピリン、ヘパリン、プレドニゾロンなどさまざまな治療が妊娠予後改善に試みられてきた。前方視的無作為試験において低用量アスピリン+ヘパリン併用療法はAPS合併習慣流産患者の初期流産率を減少させるが、別の無作為試験においては低用量アスピリンのみで十分妊娠予後を改善でき、低用量アスピリン+低分子ヘパリンと予後に差を認めない。抗リン脂質抗体陽性の習慣流産患者に対しては、低用量アスピリン(75~100 mg/日)投与もしくは、低用量アスピリン+ヘパリン(5,000~10,000単位/日)併用療法で予後改善が期待できる。メタ分析の結果では低用量アスピリン+ヘパリンの組み合わせにおいてのみ有意に妊娠予後を改善できた。

2)カップルの染色体検査

・ 習慣流産患者の2~4%は、カップルのどちらか一方に染色体の均衡型転座を認める。均衡型転座保因者である場合は、通常のトリソミーや倍数体による流産に加えて、不均衡型転座(部分モノソミー、部分トリソミー)による流産等のリスクが増加する。

※ 均衡型転座では染色体が量的に正常と変わらない。不均衡型転座ではある遺伝子群が余分にあるか不足しているため、何らかの症状がみられる。均衡型は無症状のことが多いが、切断点が重要な遺伝子の上にあった時などはそれに応じた症状がみられる。

・ カップルの染色体核型分析を行うことによりリスク評価が可能であるが、転座保因者に対する治療が存在しないため、十分な遺伝学的カウンセリング体制のもとに検査を行うことが肝要である。カップルのどちらかに転座があることを明らかにしたくない場合は、その意志は尊重されなければならない。

・ 均衡型転座保因者においても次回妊娠における生児獲得率は50%前後で、染色体異常のない習慣流産患者と比較して差を認めないとする報告や、2回以上流産歴のある転座保因者においても、流産率は高いものの累積成功率は83%で、染色体異常のない流産患者と比較して差がないとの報告がある。

・ 均衡型転座保因者に対する着床前診断を行うことにより流産率を低下させるとの報告もあるが、自然妊娠では累積生児獲得率は68~83%と報告されており、自然妊娠と着床前診断後妊娠の生児獲得率を直接比較した報告はない。

・ 染色体異常のタイプにより次回の流産率が異なることを説明する必要があるが、核型から次回の流産率を予測することは困難であり、患者への説明は臨床遺伝専門医などにゆだねることが望ましい。

3)子宮奇形

・ 子宮奇形は妊娠中期以降の流産の原因となることが多い。しかし、子宮奇形の頻度は、一般の婦人科受診患者の3%に対して習慣流産患者では3~15%であるため、子宮奇形が習慣流産患者に多い可能性があるが、習慣流産のリスク因子かどうかについてははっきりした証拠はない。

4)その他の検査

抗核抗体: 習慣流産の15%程度に抗核抗体が陽性となるが、無治療でも陽性患者と陰性患者において流産率は変わらない。また、プレドニゾロンおよびアスピリンを投与した無作為試験でも妊娠帰結に差を認めていないため、抗核抗体検査をルーチンに行う必要性は確定していない。

黄体ホルモン: 黄体機能不全は古くから初期流産との関連が指摘されてきたが、現在は懐疑的な意見も多い。習慣流産に対する通常の黄体ホルモン補充療法やhCG投与が妊娠率を改善する証拠は乏しい。

5)その他の治療

・ 抗凝固療法: APSにおいては抗凝固療法にて妊娠予後改善が期待できるが、APS以外の原因不明流産に対しては、低用量アスピリンもしくは低用量アスピリン+低分子ヘパリン併用療法などの抗凝固療法を行っても生児獲得率は上昇させなかったとの報告が複数存在する。

・ 約50%の習慣流産患者の原因は不明である。しかし、原因不明習慣流産患者においても無治療で60~70%が次回妊娠継続可能である。また、習慣流産は患者に対してさまざまな精神的反応を引き起こし、抑鬱そのものも習慣流産の原因となりうる。精神支援を行うことにより流産率を下げるとの報告もあり、習慣流産患者にたいしては通常の検査治療に加えて、カウンセリングなどのサポート体制も必要であろう。


放射能汚染に関する基礎知識

2011年10月05日 | 周産期医学

● 放射線

高いエネルギーを持った電磁波や粒子線を放射線といい、以下の2 種類に分類される。

電離放射線(波長の短い電磁波): X線、γ線
粒子放射線(高速で動く粒子):α線、β線、中性子線、宇宙線

これらの各種放射線の共通した特徴の一つは物を通り抜ける能力(透過力)を持っていることで、その能力は放射線の種類により異なる。

放射能: 物質が放射線を放出する能力
※ 放射能の強さは1秒当りの原子核の崩壊数で表し、単位としてベクレル(Bq)を用いる。

放射性物質: 放射線を放出する物質(ウラン、プルトニウム、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウムなど)

Fig1_2

α線
 ラジウム、プルトニウム、ウラニウム、ラドンなどの放射性原子の自然崩壊によって発生するヘリウム原子核から成る粒子線。健康に対する影響が現れるのは、α線を放出する物質が体内に摂取された時(体内被ばく)のみ。

β線
 トリチウム、炭素14、リン32、ストロンチウム90などの放射性物質の自然崩壊によって発生する高速度の電子からなる粒子線。健康に対する影響が現れるのは体内被ばくのみ。

γ線
 波長の短い電磁波。コバルト60やセシウム137などの放射性物質の自然崩壊により発生する。

X線
 電磁波のうち、波長が1pm~10nm程度の範囲のもので、軌道電子の遷移に起源をもつ。波長のとりうる領域がγ線と一部重なる。これは、X線とγ線との区別が波長ではなく発生機構によるためで、軌道電子の遷移を起源とするものをX線、原子核内のエネルギー準位の遷移を起源とするものをγ線と呼ぶ。

中性子線
 ウランやプルトニウムなどの核分裂により発生し、原子核崩壊の連鎖反応を引き起こす。

● 主な放射性物質

ウラン、プルトニウムは原子力発電に用いられる主な燃料であり、これらの燃料が核分裂反応を起こした際に生成される放射性物質が、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウムなどである。

放射性ヨウ素131 I):原子番号53
・半減期 8.04日、実効半減期 8日

・性質: 天然にはほとんど存在しないが、人工的な核分裂で大量に生成される。β線を放出して、キセノン131(131Xe)となる。γ線も放出されるがその線量は小さい。

・生体に対する影響: 体内に取り込まれると、ほとんどすべてが甲状腺に集まる。β線による甲状腺被ばくが大きな問題となる。10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.22ミリシーベルトになる。

・原子炉事故の際の放出: 原子炉事故が起これば、大量の放射性ヨウ素が放出されると予想される。チェルノブイリ原発事故では、30京ベクレルが放出され、その影響で甲状腺がんが多発したと考えられている。

・放射能の測定: 体内にあるものは、全身カウンターで測定できる。

放射性セシウム137Cs):原子番号55
・半減期 30.1年、実効半減期 約100日

・性質: 天然に生成されるものは少なく、人工的な核分裂により大量生成される。揮発性で大気中に分散しやすい。γ線を放出する。β線も少量放出する。

・体内に入ると全身に分布し、約10%はすみやかに排泄され、残りは100日以上滞留する。体内に蓄積された場合は、代謝による排泄などで70~80日で半減すると考えられている。

・原発事故後25年以上経たチェルノブイリでは、放射性セシウムはいまなお原発周辺地域の土壌などに残っており、地域住民は現在でも放射性セシウムに汚染されたキノコや野菜を摂取している。

・生体に対する影響: 10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.13ミリシーベルトになる。チェルノブイリ事故では、広い地域が1m2あたり50万ベクレル以上のセシウム137で汚染され、放射性セシウムのみで1年間に1ミリシーベルト以上の外部被ばくを受けたことになる。事故直後は年間10ミリシーベルト以上の被ばくを受けていた。

・放射能の測定: 体内にあるものは、全身カウンターで測定できる。

放射性ストロンチウム90Sr):原子番号38
・半減期 29.1年、実効半減期 15年

・性質: 天然ではウランの自発核分裂などによって生じるが、生成量は少ない。人工的な核分裂により大量生成される。β線を放出する。

・体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ長く残留する。

・生体に対する影響: β線を放出する放射能としては高エネルギーであるため、健康への影響や外部被ばくが大きくなる恐れがあるともいわれている。

・原子炉事故の際の放出: 放射性ストロンチウムは放射性セシウムより放出されにくい。

・放射能の測定: γ線を出さずβ線のみを放出するため、検出や定量が困難。体内にある量を知るには、排泄物中の放射能を測るバイオアッセイを用いる。

● 放射線量の単位

・ ベクレル(Bq):
放射性物質が放射線を出す量を表す単位
(Bq = 1秒当りの原子核の崩壊数)

・ グレイ(Gy):
ある物質が放射線に照射されたとき、その物質の吸収線量を示す単位。1Gyとは、物質1kgあたり1ジュールのエネルギー吸収 があることを示している。(Gy=J/kg)

1Gy = 100 rad (rad:古い吸収線量の単位)

・ シーベルト(Sv):
人体が放射線を受けた時その影響の度合いを測る尺度として使われる単位。

Sv = Gy x 放射線荷重係数 x 組織荷重係数

放射線荷重係数(WR)は、放射線種によって値が異なり、X線・γ線・β線ではWR = 1、陽子線ではWR = 5、α線ではWR = 20、中性子線ではWR = 5~20の値をとる。

組織荷重係数:臓器などの組織別の影響の受けやすさを表す。
・ 肺、胃、骨髄などが0.12
・ 食道、甲状腺、肝臓、乳房などが0.05
・ 皮膚、骨の表面が0.01

● 外部被曝、内部被曝

人体が放射線を受けることを「被曝」という。被曝には、体の外側から放射線を受ける「外部被曝」と、呼吸や飲食などを通して放射性物質を体内に取り込み、体の内側から放射線を受ける「内部被曝」がある。

外部被曝の場合は、空気中の到達距離が短いα線やβ線はそれほど影響がなく、主にγ線が問題となる。内部被曝の場合は、至近距離から体内の組織に影響を与えるので、透過力が弱いα線やβ線が大きな問題となる。

放射性物質の出す放射線の種類
 
放射性ヨウ素(ヨウ素131): β線とγ線
 放射性セシウム(セシウム137): β線とγ線
 放射性ストロンチウム(ストロンチウム90): β線
 プルトニウム(プルトニウム239): α線

******

確率的影響(stochastic effect)

発癌と遺伝的障害には、しきい線量がなく、発症の確率と被曝線量が比例し、被曝線量が非常に小さくても影響が発生する。(仮定)

Stochastic
(直線しきい値無し仮説)

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確定的影響(deterministic effect)

しきい線量を超えて初めて症状が起こり、線量が高いほど症状が重くなるような影響。確定的影響には、確率的影響(発癌と遺伝的障害)を除いたすべての影響が分類される。

Fig4

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確率的影響と確定的影響

Fig5

・ 小児癌、遺伝的影響が、胎児被曝の確率的影響として生じることが知られている。

・ 奇形発生、精神発達遅延などが胎児被曝の確定的影響として生じることが知られている。

・ しきい値は専門家の間でもあるのかないのか、あるとすればどこなのかについて長年論争の的になっており、現在も確定してない。

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放射線被曝の胎芽・胎児への影響

・ 流産(胎芽・胎児死亡)は着床前期に最も多く、器官形成期の被曝でも起こり得る。そのしきい値は100mGy以上である。

・ 外表・内臓奇形は器官形成期にのみ起こり、各器官でその細胞増殖が最も盛んな時期の照射に特徴的に発生する。100~200mGyがそのしきい値である。

・ 発育遅延は2週~出生までの時期で認められ、そのしきい値は動物実験より100mGy以上と推測される。

・ 精神遅滞は8~15週に最も発生し、16~25週にも起こる。しきい値は120mGyと考えられている。100mGy以下ではIQの低下は臨床的に認められていない。ICRP(国際放射線防護委員会、1991)では、8~15週に1000mGyを照射するとIQは30ポイント下がり、重篤な精神遅滞は40%発生するとしている。

・ 悪性新生物(癌)は15週~出生までに起こり、しきい値はICRPでは50mGy以上としている。白血病、甲状線癌、乳癌、肺癌、骨腫瘍、皮膚癌が主なものである。・遺伝的影響は高線量照射による動物実験では認められるが、ヒトの疫学調査では統計的有意差が見られていない。しきい値はUNSCEAR(原子力放射線影響に関する国際科学委員会、2000)では1000~1500mGyと推測している。

Fig6

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ103 妊娠中の放射線被曝の胎児への影響についての説明は?

1. 被曝時期と胎児被曝線量の確認が重要であり、被曝時期は、最終月経のみでなく、超音波計測値や妊娠反応陽性時期などから慎重に決定し、説明する。(A)

2. 受精後10日までの被曝では奇形発生率の上昇はないと説明する。(B)

3. 受精後11日~妊娠10週での胎児被曝は奇形を発生する可能性があるが、50mGy未満では奇形発生率を増加させないと説明する。(B)

4. 妊娠10~27週では中枢神経障害を起こす可能性があるが、100mGy未満では影響しないと説明する。(B)

5. 10mGyの放射線被曝は、小児癌の発生頻度をわずかに上昇させるが、個人レベルでの発がんリスクは低いと説明する。(B)

Fig7

? 解説

・ 通常の放射線診断で起こる被曝線量は50mGy以下である。

・ ACOGのガイドライン(2004): 50mGy以下の被曝は胎児奇形や胎児死亡などの有害事象を引き起こさない。

・ Osei EK et al. (1999): 妊娠2~24週に10~117mGyの被曝を受けた妊婦の前方視野的検討で、奇形や子宮内胎児死亡の発症頻度は、一般妊婦の発症頻度と同等であった。

・ 米国放射線防御委員会のレポート(1977): 50mGy以下の被曝による胎児奇形のリスクは無視できる範囲であるが、150mGy以上の被曝では胎児奇形のリスクが実際に増加する。

・ 受精後10日目までの胎児被曝の影響: 流産を起こす可能性があるが、流産せず生き残った胎芽は完全に修復されて奇形を残すことはない。(all or none)

・ 受精後11日~妊娠10週の胎児被曝の影響: 奇形発生の可能性がある。(50mGy未満の被曝では奇形発生率の上昇はない)

・ 妊娠10~27週の胎児被曝の影響: 中枢神経障害(IQ低下)を起こす可能性がある。(100mGy未満の被曝では確認されてない)

● 胎児被曝と小児癌発症のリスク

・ 被曝なしの胎児が20歳までに癌にならない確率は99.7%であるが、10mGy、100mGyの胎内被曝により、それぞれ99.6%、99.1%となり、その個人が癌になる確率はごくわずかな上昇にとどまる。確率的影響(stochastic effect)

・ 社会全体では胎児被曝により小児癌の発症率が上昇するのは事実であり、不要な妊婦被曝を抑制する努力は必要である。

● 胎児被曝の遺伝的な影響

・ 放射線が生殖細胞のDNAを損傷し、生殖細胞に遺伝子異変が起こり、その影響が次世代に及ぶ可能性がある。

・ DNA損傷リスクは、線量が増えると高まるが、損傷が起こる線量のしきい値は確認されていない。

・ 放射線被曝によるヒト遺伝子異変が不都合を起こした事例は確認されていない。

● 授乳中女性の被ばくによる児への影響

・ 母乳中に分泌される放射性ヨウ素は母体が摂取した量の4分の1程度と推測されるが、確定的なことは不明である。

・ 母体血中の放射性ヨウ素の濃度に比べ、授乳中では低いといわれている。

・ 放射性物質を含む水道水(軽度汚染水道水と表現)を長期にわたって飲んだ場合の健康への影響:

http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110324.pdf

おおよその母体被ばく量は以下のように算出される。
総被ばく量(マイクロシーベルト)=(摂取ベクレル総量)×2.2÷100 

500Bq/kg の水を1 日1 リットルずつ365 日飲むと500×365×2.2÷100=4,015マイクロシーベルト(約4.0ミリシーベルト)となる。

胎児に悪影響が出るのは、児の被ばく量が50,000マイクロシーベルト(50ミリシーベルト)以上の場合であり、乳幼児において悪影響が出るのは同等以上の被ばくが起こった場合と推定される。

以上より、授乳中女性が軽度の汚染水道水を連日飲んで授乳を持続しても乳幼児に健康被害は起こらないと推定される。また、妊娠中女性が連日飲んでも母体ならびに胎児に健康被害は起こらないと推定される。

しかし、被ばくは少ないほど安心であり、軽度汚染水道水以外の飲み水を利用できる場合には、それらを飲用することを勧める。

今後も水道水の放射性物質汚染(ベクレル値)には注意が必要である。上記の式を使用して、野菜などからの被ばく量も計算できる(発表や報道が、野菜何グラム当たりのBq値に注意が必要)。

【注意】 妊娠中の女性は脱水に注意する必要がある。したがって、喉がかわいた場合は決してがまんせず水分を取る必要がある。スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ジュース、牛乳などを摂取する。

・ 授乳中の女性が安定ヨウ素剤を予防服用した場合:

http://jspe.umin.jp/pdf/youso.kanrishishin_20110331.pdf

授乳中女性の被ばく線量が計50,000μSv以上の場合に、安定ヨウ素剤の服用が考慮される。

安定ヨウ素剤の服用が必要な状況では、放射性ヨウ素の母乳を介した児への移行を防ぐため、原則的に直ちに母乳哺育を休止とする。

やむを得ぬ理由で母乳哺育がなされた新生児~乳児に対しては、安定ヨウ素剤投与の時期・回数を確認し、投与後2~4週で児の甲状腺機能(TSH、FT4)を評価する。甲状腺機能低下を認めた際には、直ちに甲状腺ホルモンの補充療法を開始する。

TSH が基準値内でFT4 が1.2ng/dl 以上(生後1~6 か月)、1.0ng/dl 以上(生後6か月以降)であれば甲状腺機能に異常なしと判断する。これ以外の場合、2~4 週間隔で検査を継続する。

TSH が10μU/ml 以上かつFT4 が年齢の基準値未満の際には、直ちに甲状腺ホルモンの補充療法を開始する。

母乳哺育の休止が必要とされる期間については、個々の状況により異なると考えられるので一般的な期間を示すことができない。

****** 問題

胎児の放射線被曝で確率的影響(stochastic effect)はどれか。1つ選べ。

a 小児癌
b 精神遅滞
c 自然流産
d 胎児発育遅延

------

正解:a

・ 確率的影響: 発癌と遺伝的障害には、しきい線量がなく、発症の確率と被曝線量が比例し、被曝線量が非常に小さくても影響が発生する。
・ 被曝なしの胎児が20歳までに癌にならない確率は99.7%であるが、10mGy、100mGyの胎内被曝により、それぞれ99.6%、99.1%となり、その個人が癌になる確率はごくわずかな上昇にとどまり、個人レベルでの発癌リスクは低い。

****** 問題

電離放射線に含まれるのは次のうちどれか。1つ選べ。

a ジアテルミー(高周波電気治療)
b マイクロ波
c ラジオ波
d ガンマ線

------

正解:d

電離則による電離放射線の定義:
電離放射線とは次の粒子線又は電磁波をいう。
1. アルファ線、重陽子線及び陽子線
2. ベータ線及び電子線
3. 中性子線
4. ガンマ線及びエックス線

****** 問題

妊娠と気がついてなかった妊娠7週の患者が、排泄性尿路造影(3方向)を受けた。子宮の電離放射線の被曝線量はどれか。

a 1-2 mGy
b 0.8-1.6 mGy
c <0.001 mGy
d 上記のいずれでもない

------

正解:d

排泄性尿路造影における胎児の平均被曝線量は1.7mGy、最大被曝線量は10mGyである。従って、3方向で検査した場合、平均被曝線量は5.1mGy、最大被曝線量は30mGyとなる。

****** 問題

胎児の放射線被曝で精神遅滞のリスクが最も増す妊娠週数の範囲はどれか。1つ選べ。

a 4~6週
b 8~15週
c 18~24週
d 28~36週

------

正解:b

精神遅滞は8~15週に最も発生し、16~25週にも起こる。しきい値は120mGyと考えられている。100mGy以下ではIQの低下は臨床的に認められていない。ICRP(国際放射線防護委員会、1991)では、8~15週に1000mGyを照射するとIQは30ポイント下がり、重篤な精神遅滞は40%発生するとしている。

****** 問題

500mGy(50rad)の放射線被曝について、正しい記述はどれか。1つ選べ。

a 通常の放射線診断で到達する被曝量である。
b 神経管閉鎖不全のリスク増大と関連する。
c 第1トリメスターのどの妊娠期間においても精神遅滞の原因となる。
d 胎児被曝の時期が妊娠25週以降であれば、精神遅滞と関連しない。

------

正解:d

・ 通常の放射線診断で起こる被曝線量は50mGy以下である。

・ 近年葉酸の摂取が神経管閉鎖不全のリスクを低下させることが知られている。

・ 精神遅滞は8~15週に最も発生し、16~25週にも起こる。しきい値は120mGyと考えられている。100mGy以下ではIQの低下は臨床的に認められていない。

****** 問題

放射線の線量はグレイ(Gy)で表わされる。1Gyに相当するのはどれか。

a 1 rad
b 10 rad
c 100 rad
d 1000 rad

------

正解:c

グレイ(Gy):吸収線量 の単位。 放射線の作用により物質がどれくらいのエネルギーを吸収したかを表すもので、 1Gyとは、物質1kgあたり1ジュールのエネルギー吸収 があることを示している。

ラド(rad) :古い吸収線量の単位。

1 rad=0.01 Gy  または 1 Gy=100 rad

****** 問題

評価の過程で実施されるCT検査の胎児被曝量が最も大きい疾患はどれか。1つ選べ。

a 子癇
b 尿路結石症
c 虫垂炎
d 肺塞栓症

------

正解:c

Fig7

****** 問題

胎児への放射線の影響で正しいのはどれか。1つ選べ。

a しきい線量未満であっても奇形発生のリスクはある。
b 胎児の発癌に関する放射線の感受性は成人と同じである。
c 妊娠10週以降のしきい線量以上の被曝では精神発達遅滞のリスクがある。
d しきい線量以上の被曝では妊娠4週未満よりも妊娠4~10週の方が胎児死亡のリスクが高い。

------

正解:c.

・ 50mGy以下の被曝は胎児奇形や胎児死亡などの有害事象を引き起こさない。ACOGのガイドライン(2004)

・ 10mGyの放射線被曝は、小児癌の発生頻度をわずかに上昇させるが、個人レベルでの発がんリスクは低いと説明する。胎児の発がんの放射線閾線量は50mGy以上で、成人よりも感受性が高い。

・  妊娠10~27週では中枢神経障害を起こす可能性があるが、100mGy未満では影響しないと説明する。精神遅滞は8~15週に最も発生し、16~25週にも起こる。しきい値は120mGyと考えられている。100mGy以下ではIQの低下は臨床的に認められていない。ICRP(国際放射線防護委員会、1991)では、8~15週に1000mGyを照射するとIQは30ポイント下がり、重篤な精神遅滞は40%発生するとしている。

・ 受精後10日目までの胎児被曝の影響: 流産を起こす可能性があるが、流産せず生き残った胎芽は完全に修復されて奇形を残すことはない。 閾線量以上の被ばくでは、妊娠4週未満の方が胎児死亡のリスクが高い。