ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

助産師が足りない 人材、大病院に集中

2006年08月31日 | 飯田下伊那地域の産科問題

助産師になるためには、1年間の助産師養成コースを修了し、助産師国家試験に合格する必要があるが、その1年間の助産師養成コースでは、せいぜい10例程度の分娩介助を実習するだけであるから、免許取りたての新人助産師の段階では、実際の分娩介助の経験は未だほとんどゼロに等しく、実際の臨床の現場ではまだ全く使い物にならない。

従って、免許取りたての新人助産師は、まず先輩助産師の大勢いる大病院に就職して、先輩助産師の厳しい指導の下に鍛えられて、数年かけてだんだん一人前の助産師に成長してゆく。最初の就職先がしっかりとした研修のできる病院でないと、一人前の助産師になれないで終わってしまう。

医師の場合は、最初に就職した研修病院のままずっと職場を変えない人はむしろ少なく、数年ごとに職場を移動する場合が多いが、助産師の場合は、医師と違って、最初の就職先のまま職場を変えず長年勤務し続ける場合が多いと考えられる。

当科所属の助産師たちの場合、ほとんどが地元出身者で、新卒で採用された者が多い。なお、市内の短大に助産師養成の専攻科があり、当科が実習施設となっていて、新人助産師の貴重な供給源となっている。当科で長年活躍し、退職した後にその短大の教員になって、助産学生を教育して後進の地元学生を育てることに専念している者も数名いる。ここで入門し、ここで厳しく鍛えられて成長し、ここで後進を育て上げている、先輩後輩の強い絆で結ばれた、体育会系の、とても頼りになる、最強の女性軍団である。

また、助産師たちが、それぞれのライフサイクルの中で、妊娠、出産、子育てと自分の仕事を両立させてゆくためには、しっかりと産休、育休がとれて、超過勤務のない職場を選択したいと思うのも当然の話であろう。

これらの諸々の事情から、助産師が極端に偏在する結果となっている。この現実の姿を無視した一方的な施策によって、多くの母子の生命が危険にさらされる事態だけは何としてでも回避しなければならない。現実に即した解決策を探っていただきたいと思う。

****** 東京新聞、2006年8月31日

助産師が足りない 人材、大病院に集中

(略)

 助産師は助産、妊婦や新生児などの保健指導を担う。看護師が助産師になるには、主に一年間の助産師養成所を卒業し、国家試験に合格する必要がある。厚生労働省の調査によると、二〇〇四年の看護師・准看護師の就業者数は約百二十二万人。これに対し、助産師は約二万六千人。助産師の勤務場所をみると、病院(二十床以上)が七割近くを占め、開業医も含む診療所(二十床未満)は二割以下だった。

 一方、〇三年に生まれた子どもの出生場所は病院52%、診療所47%、助産所1%。お産の半数近くが小規模施設で行われているにもかかわらず、担うはずの助産師は大病院に集中している。

 約五十人の助産師を抱える大規模病院の助産師長はこう分析する。「大病院に勤めれば、多くのお産にかかわれて勉強になる。勤務も通常の休日はもちろん、産休や育休もとることができる」

 産科医不足同様、いつ始まるか分からないお産に対応するには過酷な勤務が要求される。その割に収入も他科の看護師と大きな開きはない。

(以下略)

(以上、東京新聞、2006年8月31日)


医学部定員増員:10県、10年限定、最大10人

2006年08月31日 | 地域医療

医学部の定員は長年にわたり抑制傾向が続いてきましたが、2008年度より医学部定員増を認める厚労省の方針が発表されました。

****** 朝日新聞、2006年8月31日

地方10県、医学部定員増 10年限定、最大10人

 地域や診療科ごとの医師不足を解消するため、厚生労働、総務、文部科学の3省は31日、新たな医師確保総合対策をまとめた。医師不足が特に深刻な東北や中部地方などの10県について、08年度から最大10年間に限り、大学医学部の入学定員をそれぞれ10人まで増やすことを認めた。医学部の定員は抑制傾向が続いており、暫定的とはいえ24年ぶりの方針転換となる。へき地医療を担う医師を養成する自治医大の暫定的な定員上乗せのほか、医師の集約化推進などの対策も盛り込んだ。

 定員増が認められたのは、人口や面積当たりの医師数が極端に少ないなど一定の基準を満たした青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の10県。各県は、地元に医師を根付かせるための奨学金制度の創設を条件に、県内の大学医学部の定員を増やせる。奨学金を貸与する医師の卒業後の配置計画づくりなども義務づけられた。

 自治医大には、各都道府県から毎年2~3人ずつ入学しているが、08年度から10年間に限り、現在100人の定員を110人まで増やせる。特に医師不足が深刻な地域の学生が対象となる。

 厚労省によると、病院や診療所で働く医師数は毎年約3500~4000人ずつ増えており、2022年には全体で約30万5000人に達して「長期的には医師は足りる」と推計されている。

 医師の過剰は医療費増大につながるとの考えから、政府は82年の閣議決定で医師養成の抑制を打ち出し、97年には「医学部定員の削減」を閣議決定した。ところがこの数年、地方での医師不足や、小児科や産科など特定の診療科での不足が深刻化し、方針転換を決めた。

 ただ、厚労省は今回の定員増は「暫定的な措置」としており、期限の10年を過ぎても医師の定着が進んでいなければ、定員が現在より減らされることもありうる。

 医学部の定員増は、全国知事会など地方を中心に要望が強い半面、医師が現場で活躍するようになるまでには10年近くかかるため、即効性は薄いとの指摘もある。

 このため、3省は短期的な対策として、都道府県ごとに医師を拠点病院に集める集約化・重点化のほか、現在31都道府県で実施されている小児救急電話相談事業を全都道府県に拡大する。さらに医師の負担を軽減するため、出産時の医療事故で障害を負った患者を救済する仕組みを検討するほか、病院内の保育所の利用促進など女性医師の働きやすい環境を整備。離島対策では、ヘリコプターを使った巡回診療や、住民が遠方の産婦人科を受診する際の宿泊費支援なども総合対策に盛り込んだ。

(朝日新聞、2006年8月31日)

****** 東京新聞、2006年8月31日

医学部定員:10県、最大各10人増

 地方の医師不足対策を協議していた厚生労働、文部科学、総務、財務の四省は三十一日、特に不足が深刻な東北、甲信越、中部地方の十県の大学医学部の入学定員を、各県で最大十人まで、二〇〇八年度から最長十年にわたり増やすと認めることで正式に合意した。同日午前、先に署名を済ませた総務相を除く三大臣が確認書にサインした。地域医療を担う医師を養成する自治医大(栃木県下野市)も同期間に最大十人まで増やすことを認めた。

 国は今回の定員増を暫定的なものと位置付け、各省は一九九七年の閣議決定で示された医学部定員の削減方針も併せて確認。歯科医師については各大学に歯学部定員の削減を要請し、歯科医師国家試験の合格基準を引き上げることとした。

 このほか、厚労、文科、総務の三省は産科、小児科の医師確保などを盛り込んだ「新医師確保総合対策」もとりまとめた。

 今回、医学部の定員増が認められたのは、〇四年に人口十万人当たりの医師数が二百人未満で、百平方キロメートル当たりの医師数が六十人未満の青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の各県。

 定員増は医師の地元定着を図ることが条件で、県に対し(1)県内や医師不足の他の県で一定期間働くことを条件にした奨学金の設置(2)奨学金を受ける医師の卒業後の配置計画をつくり、国と協議(3)地域に必要な医師確保策を盛り込んだ医療計画をつくり国と事前協議-などを求める。

 一方、新医師確保総合対策では、分娩(ぶんべん)時の医療事故で訴訟などが多いことが産科医不足の一因、との指摘があるため、事故にあった患者の救済制度(無過失補償制度)を検討し、医師の負担を軽減する方針を明記。

 このほか産科、小児科医の配置を重点化・集約化▽離島の住民が産婦人科を受診する際の宿泊費支援▽女性医師の院内保育所利用基準を緩和-などを盛り込んだ。

 医学部の定員増が認められる大学名は次の通り。

 【国立】弘前大、秋田大、山形大、新潟大、山梨大、信州大、岐阜大、三重大

 【公立】福島県立医大

 【私立】岩手医大、自治医大

****** 産経新聞、2006年8月31日

医学部定員増員へ、24年ぶり方針転換

 厚生労働、文部科学、総務、財務4省は31日、医師不足が深刻な地方の10県について、平成20年度から暫定的に大学医学部の入学定員を増やすことを正式に決めた。また、自治体からの要請に基づき緊急避難的に医師を派遣するシステムの構築など総合的な医師不足対策を盛り込んだ「新医師確保総合対策」を発表した。

 これまで国は医師が増えると医療費も増加するため、医学部の定員を抑制してきたが、医師の都市部への流出・偏在が深刻なことから24年ぶりの方針転換を図った。

 定員増の対象は、青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の各県。平成16年に人口10万人あたりの医師が200人未満で、100平方キロあたりの医師数が60人未満だった。このほか自治医科大学も対象。平成20年度から最長10年にわたり、年間最大10人を限度として増員を認める。

 歯科医師については各大学に歯学部定員の削減を要請し、歯科医師国家試験の合格基準を引き上げる。

 総合対策には、大学医学部の入試について、地元出身者の入学枠の拡充などを明記。定員増は卒業後の地域定着に取り組むことが条件で、地域定着を条件にした奨学金の積極活用などを求めている。

 このほか、医師不足の深刻な小児科、産婦人科の人材や機能の集約化・重点化を進める。小児救急電話相談事業の拡充も図る。産婦人科では助産師との連携も進める。

 離島などの僻地(へきち)医療対策では、ヘリコプターを活用した離島での巡回診療、住民が遠方の産婦人科を受診する場合の宿泊支援も盛り込んだ。

 厚労省内に病院関係者による地域医療支援中央会議を設置し、都道府県からの要請に対応した医師派遣も行う。

 分娩(ぶんべん)時に脳性まひなどの障害が残った場合は医師に過失がなくても患者を救済する制度や医療事故の死因究明制度のあり方など医師の負担の軽減にも取り組むことにした。

 最大の課題となる医師の地域定着について厚労省は「地元大学と連携して県に実効性のある措置を講じてもらう必要がある」としている。

(産経新聞、2006年8月31日)