ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

緊急課題としての産科医確保対策

2008年01月31日 | 飯田下伊那地域の産科問題

産科では全国的に医師不足問題が深刻化し、全国各地で産科施設が相次いで休廃止に追い込まれています。残った医療機関も限界ぎりぎりの状況にあり、このまま放置すれば、早晩、都会でも田舎でも大量のお産難民が発生するのは確実な情勢です。

この事態は国の存亡に関わる国難であることは間違いないですから、国策として、長期的な医師不足対策とともに、緊急避難的(超短期的)な危機回避策を迅速かつ強力に実施する必要があると考えます。

例えば、医療機関の集約化、病院・診療所の連携、勤務医師の負担軽減・待遇改善、訴訟リスクの軽減、助産師の活用など、完全に手遅れになってしまう前に有効な手を次々に打っていく必要があります。

****** Japan Medicine、2008年1月28日

産科医不足を“実体験”した時

長野県内で進む産科医不足

 産科医不足の問題を抱えている長野県の飯田市立病院を舛添要一厚生労働相が視察する2週間前、筆者も同じ病院を訪れていた。長野県出身の妻の里帰り出産を申し込むためだった。しかし病院職員から、来年度から里帰り出産を原則中止にすると告げられ、医師不足を実体験する羽目になった。県内の別の医療圏では、国立病院機構の1病院が今年8月以降、分娩を休止する可能性も出てきている。

 里帰り出産の中止にとどまらず、さらに悪化して地域住民が地元で出産できない事態を避けるためにも、産科医不足への早急な対策が求められている。

 妻の実家がある長野県南部の「飯伊医療圏」(15市町村・人口17万人)は、香川県とほぼ同じ面積に集落が点在している山間地だ。この広大な医療圏で分娩を扱っている医療機関は市立病院と2つの診療所だけ。一番遠い村からだと病院まで車で1時間以上かかり、現在でも地元住民は出産に不安を抱えている。

 ちょうど正月休みで埼玉県から妻の実家に帰省していた時のことだった。妻は5月に出産を控えている。市立病院に話を聞きに行くと、経営企画課の職員は申し訳なさそうに、里帰り出産中止に至る医療圏の医師不足事情を話してくれた。

 飯伊医療圏では2006年度、約1600件の出産を扱った。市立病院には常勤の産婦人科医が5人いるが、うち1人の後期研修医が4月から外科に移ることになった。4月以降は市立病院の産婦人科医4人と診療所の医師2人の計6人で医療圏の分娩を担っていく。

里帰り出産を原則断念

 このため飯田市は来年度から、医療圏の出産件数を年間計1300件程度に抑え、年間300件程度あった里帰り出産とほかの医療圏に住む住民の出産を、原則断らざるをえなくなった。市は産婦人科医師が増員できるまでの間の措置としているが、増員のめどは立っていない。

 市立病院は救命救急センターの指定も受けており、ほかの医療機関で扱えない切迫早産などリスクの高い分娩を24時間体制で対応する。4月から産婦人科医4人が毎月計80人の分娩を扱っていく。このうち、60人が正常分娩、残りの20人はリスクの高い分娩を想定している。限られた医師数で夜勤もあり、訴訟に発展しやすい分娩も扱う厳しい環境だ。

 産科医不足の背景は複合的な問題が重なりあっていると市立病院の職員は説明する。大学医学部の医師派遣機能の低下や、夜勤など病院勤務医の過重労働、医療紛争の増加。さらにこの地域は過疎山村のため診療所で後継ぎがいない。このため高齢化した産婦人科医は分娩を取りやめ妊婦検診のみを扱っている。そのしわ寄せが市立病院にくる。

 また自治体病院のため医師も公務員で給与が定められており、お金をはずむから病院に来てくれということは言えないという。

(中略)

負の連鎖防ぐ対策を

 市立病院の視察の後、舛添厚労相は医師不足対策をめぐり地元首長や医療関係者などと対話集会を開いた。産科医など深刻な医師不足の窮状を訴える声を受け、22日には産婦人科医の実態調査を行うと表明した。来年度予算案で国も本腰を入れて対策に乗り出すが、市立病院のように医療崩壊に一歩足を踏み入れている病院が全国各地に存在する。里帰り出産の中止ばかりか、地域住民でさえもが地元で出産できない最悪の事態へと、負の連鎖が広がるのを防ぐ対策が急がれる。【海老沢岳】

(Japan Medicine、2008年1月28日)