ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

当医療圏における産科地域協力システムの運用状況

2007年01月09日 | 飯田下伊那地域の産科問題

当医療圏(飯田下伊那地域)では、帰省分娩を含めて年間1800~2000件程度の分娩があり、最近は計6施設で地域の分娩を担ってきましたが、2005年8月に、そのうちの3施設がほぼ同時に分娩の取り扱いを中止することを表明しました。その3施設の合計年間分娩受け入れ件数は800~900件程度でした。

このまま放置すれば、当医療圏の産科医療が崩壊することは明らかでしたので、何らかの対策が必要でした。そこで、地域内で協議を重ね、2006年1月より、産科地域協力システムを導入しました。

すなわち、飯田市立病院で分娩を予定している妊婦の検診の一部を地域の他の医療施設で分担すること、地域内での産科共通カルテを使用し患者情報を共有すること、飯田市立病院の婦人科外来は他の医療施設からの紹介状を持参した患者のみに限定して受け付けること、などの地域協力体制のルールを取り決めました。

今回、本システムを地域に導入する前後の産科の診療状況の変化を調査しましたので、本システムの運用状況を報告します。調査方法は、当医療圏の産科6施設における経腟分娩件数、帝王切開件数、入院延べ患者数、外来延べ患者数などを、2005年3月~8月と2006年3月~8月とで比較し、本システム導入前後における当医療圏の産科の診療状況の変化を検討しました。

飯田市立病院の2006年3月~8月の総分娩件数は513件で、2005年同時期の総分娩件数239件の2.15倍でした。飯田市立病院の分娩件数が地域の総分娩件数に占める割合は、2006年3月~8月では61.5%(2005年同時期:25.8%)でした。飯田市立病院の2006年3月~8月の帝王切開率は22.0%(2005年同時期:36.0%)でした。当科の2006年3月~8月の入院延べ患者数は6585人で前年同時期と比べて40.9%増え、外来延べ患者数は7665人で前年同時期と比べて16.9%減りました。

当医療圏で分娩取り扱い施設が6施設から3施設に半減しましたが、産科地域協力システムを導入して地域内で連携することによって、当医療圏内のすべての分娩に特に支障なく対応することができ、当地域の産科医療の崩壊を阻止することができました。

この問題は、一つの医療機関、一つの自治体だけの努力では決して解決できません。それぞれの立場の違いを乗り越えて、地域で一丸となって、将来にわたって持続可能な地域周産期医療システムをつくり上げてゆく必要があります。