ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

帝王切開:周産期センター「30分で手術可能」3割

2009年03月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科診療において、帝王切開の決定から30分以内に実施しなければならない「緊急帝王切開」は日常茶飯事です。しかし、産婦人科医、小児科医、麻酔科医、手術室看護師などが院内に不在で、スタッフを自宅から呼び出さねばならないような場合だと、「帝王切開の方針決定から児娩出までに30分以内」を常に達成することは不可能です。当院でも、平日の日勤帯(昼間)ならば、「必要とあらば30分以内に帝王切開を実施する」のが努力目標となってますが、平日の時間外や休日では、「方針決定から30分以内で児娩出」を常に達成するのは不可能です。

ところが現実には、「緊急帝王切開」の中でも特に緊急性の高い「超緊急帝王切開」も時にあり得ます。「超緊急帝王切開」とは、方針決定後、他の要件を一切考慮することなく、全身麻酔下で直ちに手術を開始し、一刻も早い児の娩出をはかる帝王切開術です。

当院では、産科担当医が「超緊急帝王切開」が必要と判断した場合は、方針決定と同時に、直ちに患者さんを手術室に搬送し、全館放送の緊急呼出しで、院内にいる産婦人科医、小児科医、麻酔科医および手術室勤務の経験があるスタッフを直ちに手術室に召集し、できる限り早く手術を開始する手順が一応決まっています。

当院の場合、例年だと「超緊急帝王切開」はせいぜい年に2~3例程度ですが、今年は年初の2ヶ月間だけで、「超緊急帝王切開」扱いになった症例がすでに2例も発生しました。たまたま運よく2例とも、複数の産婦人科医、小児科医、麻酔科医が院内にいる時間帯で、大勢のスタッフが直ちに手術室に結集し、方針決定から児娩出までおおむね15分以内でした。

「超緊急帝王切開」の症例(臍帯脱出、子宮破裂など)では、帝王切開の方針決定から児娩出までに30分もかかっているようでは完全に手遅れになってしまう場合もあり得ます。「超緊急帝王切開」例で、方針決定から児娩出までに要する時間の主な決定因子は、『産科病棟から手術室へ患者さんを移送するのに要する時間』です。したがって、将来的には、「分娩室で全身麻酔下の帝王切開を実施できるようにすること」、あるいは、「産科病棟と手術室とを隣接させること」などを検討する必要があるのかもしれません。

****** 毎日新聞、2009年3月5日

帝王切開:周産期センター「30分で手術可能」3割

 全国の周産期母子医療センターの約3分の2が、国の整備指針に反して「(必要と診断されてから)30分以内の帝王切開手術」に対応できない場合があることが、厚生労働省研究班(主任研究者、池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の調査で分かった。産科医よりも麻酔科医の不足がネックになっており、厚労省が年度内に見直すセンターの指定基準に麻酔科医の定員を明記するよう求める声が出ている。

 調査は昨年3月、全国の総合周産期センターと地域周産期センターに行い、130施設の回答を調べた。

 国の指針では、地域センターは30分以内に帝王切開ができる人員配置、総合センターにはそれ以上の対応を求めている。だが「いつでも対応可能」と回答したのは総合センターの47%、地域センターの28%にとどまり、48%は「昼間なら対応可能」、17%は「ほぼ不可能」と答えた。

 対応が遅れる最大の理由は「手術室の確保」(43%)だったが、人的要因のトップは「麻酔科医不足」(25%)で、「産科医不足」(17%)、「看護師不足」(14%)より多かった。54%の施設は当直の麻酔科医がおらず、緊急の帝王切開では執刀の産科医が麻酔もかけているセンターが16%あった。

 麻酔科は産科、外科などと並び医師不足が深刻とされるが、帝王切開で通常かける麻酔の診療報酬が全身麻酔の場合より著しく低いため、特に周産期医療の現場に集まりにくいとの指摘がある。

(以下略)

(毎日新聞、2009年3月5日)