ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科・小児科で集約化の是非など検討がスタート(医療タイムス社、長野)

2006年11月07日 | 地域周産期医療

周産期2次医療体制の整備では、産科医、小児科医の確保だけではなく、麻酔科医の確保も非常に重要です。

いくら産科医と小児科医が一つの病院に集約化されたとしても、麻酔科医がいない病院では重症の救急患者を受けることはできません。周産期2次医療施設にとって、麻酔科医の存在は非常に重要です。

産科医や小児科医の不足は、地域住民にとっての一大事として大いに世間の取り沙汰となっていますが、実は麻酔科医不足も非常に深刻な状況にあります。麻酔科医が病院からいなくなってしまえば、もはやその病院では周産期2次医療は提供できなくなってしまいます。

麻酔科医が地域にとってなくてはならない貴重な存在であることを、地域住民の方々にもっと認識していただきたいと思います。

****** 医療タイムス、長野、2006年11月6日
(発行元に当ブログへの記事転載の承諾を得ました。)

産科・小児科で集約化の是非など検討がスタート

~県産科・小児科医療対策検討委が初会合

 県が設置した「県産科・小児科医療対策検討会」は2日、初会合を開き、県内の産科・小児科医療の提供体制について3人の委員による現状報告と意見交換を行った。会長には小西郁生・信大医学部産科婦人科学教授を互選した。

 今後、12月の次回会合に向け、近く産科・小児科それぞれの分科会で対策を検討する。その後、厚生労働省が通知で示した医療資源の集約化・重点化の検討期限とされる来年3月までに、分科会と検討会を交互に開いて検討を進め、集約化の是非やその方法を含めて県に提言する。提言は県地域医療対策協議会での審議を経て、県保健医療計画に反映する。

「2次産科医療が崩壊の危機」 ~金井・信大産科婦人科講師

 産科の体制について県内の現状を報告した金井誠委員(信大医学部産科婦人科学講師)は、本県の分娩の特徴として、病院が73%を占め、このうち2次病院での出生が過半数の53%に上ると指摘。これら2次病院は2~3人体制の施設が多く、この中で平均300~500件に上る分娩のほかハイリスク妊娠への対応、外来、婦人科手術まで広範に対応しているとし、「2次医療の提供なくして1次医療はありえない。その2次病院から産婦人科医がここ3年で29人立ち去った。2次の崩壊は全ての産科医療の崩壊につながる」と警鐘を鳴らした。

 その上で、今後の課題として、医療紛争問題と過重労働問題の解決が不可欠と指摘。特に過重労働問題に対しては、施設あたり産婦人科医師数の増加に向け、勤務条件の他科との同一化、報酬面での優遇、過重労働でない産婦人科医師や助産師を活用したサポートシステムが考えられるとした。

 山崎輝行委員(飯田市立病院産婦人科科長)は、飯伊地域で昨年スタートした産科問題懇談会の取り組みを解説。分娩を飯田市立病院に集約化したことで、飯伊地域の年間分娩数1800~2000件のうち同院の分娩は従来の約2倍にあたる1200件に達しているとし、「医師数や助産師数を増やし、なんとかやっているが、さらに医師を増員しないと厳しい状況。いずれにせよ1医療機関では解決できない問題」と訴えた。

「入局者減で拠点化もやむを得なくなる」 ~小池・信大小児科教授

 馬場淳委員(信大医学部小児医学助手)は、小児科の現状について解説。信大小児科では、新医師臨床研修制度の影響で例年5~6人の入局者がここ3年間は1~2人にとどまっている一方「信大は各医療圏の小児科医数を保ちつつ、大学から医師を出してがんばっている」とした。ただ、女性医師で結婚や出産、過酷な労働条件による退職者も多く「今後小児医療を今の水準で維持するのは非常に難しい。女性医師が辞めない労働環境が必要」と主張した。

 小池健一委員(信大医学部小児医学教授)も「努力してきたが、今後は医師不足がさらに厳しい。これから数年間で、ある程度の(規模の)病院で外来型に切り替えざるを得ないところが出るのもやむを得ない状況」「県の主導で小児救急体制も整備されつつあるが、現在の方法では維持できなくなる可能性もある。今後の大きな課題」と苦しい状況を語った。

「麻酔科医も加えて」「内科医をサポート役に」

 検討会では、産科・小児科それぞれの報告を受け、各委員が意見を述べた。「小児科、産科だけでなく麻酔科医がいなければ集約化といっても意味がない。会議に麻酔科医も加えるべき」(森哲夫委員=国立病院機構長野病院小児科医長)、「(こども病院と5の地域周産期センターとして拠点化されている)新生児医療の形を小児医療一般に広げたい。こども病院を基幹病院にし、多くの病院を外来型にするなどしないと小児科医はやっていけない」(宮坂勝之委員=県立こども病院長)、「後期研修医が集まるよう、大学とこども病院、基幹病院が力を合わせて方策をとる必要がある」(長沼邦明委員=飯田市立病院副診療部長)、「内科医も小児科を見ることができる。病院のコンビニ化で急増している夜間の患者を小児科医以外の医師がサポートする方法はできないか」(塚田昌滋委員=岡谷市病院管理者・市立岡谷病院長)、「勤務医の深刻な勤務環境と女性医師のサポートの2つを解決しないと、産科・小児科の問題は解決しない」(菅生元康委員=長野赤十字病院副院長兼第一産婦人科部長)、「『集約化』というと地域に反対されてしまうが、そのままにしていたら何も変わらない。危機の中である時期に我慢する、協力し合う、ということの重要性を、各病院長や事務長、首長、地域住民に、いかに伝えられるかがカギ。それがうまくいけばなんとかなる」(金井委員)などの意見が出された。

 今後、これらの意見を踏まえ、2つの分科会で対応策を検討する。それぞれ▽集約化の是非▽医師を減らさないための方策▽医師を増やすための方策▽女性医師の就業支援策▽助産師の活用策ーなどが検討されるものとみられる。

(医療タイムス、長野、2006年11月6日)
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