百田尚樹 著「永遠の0」を読了。
特攻隊員として戦死した祖父・宮部久蔵の存在を知った主人公姉弟が、戦争中の祖父を知る老人たちから証言を得るうちに、彼がどのように生き、特攻するに至ったかを知る。
個人的には戦争を語る上では、一兵士や市民の目線で描くミクロの戦史と、戦術・戦略で描くマクロの戦史があると思っている。
この小説は前者の形態を取る物語であるが、1人の帝国海軍戦闘機搭乗員の人生を通して日本の太平洋戦線の経緯が見て取れるあたりは、ヘタな歴史書を読んで勉強するよりもよっぽど頭に入ってくるかもしれない。
近代戦史については個人的に色々勉強してきたつもりだけど、そういう目で見てもこの小説は俺の戦史観とも近しいし、そういうところが話に入り込めた要因でもあるとは思う。
宮部久蔵のストーリーや主人公姉弟の行動はフィクションだけれど、作者が相当にリサーチをしているのは伝わってくる。
それに、登場する老人たちの語りにもおそらくモデルがあるんだろうが、戦中の空気を語る説得力が感じられる。
巻末の参考文献を見るに、ドキュメンタリーや撃墜王の書籍あたりの引用と再構成が主だろうから、そういった説得力も出るんだろうが。
ともすれば創作の部分は全体の半分くらい…?とも思うけれど、その創作部分は良く構成されていた。
宮部久蔵の人生を知り、主人公姉弟は色々なことに気づき見つめ直していく。
そうかくと安易に見えるけど、十分にドラマになる展開には驚いたし感動したのも事実。
そして先人に対する敬意が貫かれているところが、この本を読んで一番感銘を受けるところか。
まあ軍部批判的なところに多少安直な部分も感じなくはないけれど、戦場に生きた兵士たちの目線で語れば、これはリアリティの一つにもなっていると思う。
作者はこの小説がデビュー作ということだけど、構成の魅力と空戦の表現力にはグイグイ引き込まれる。
ただ、作中では証言を聞きに行って老人が語るという体裁を取っているので、大体が語り口調の表現。
これは文章表現に制約は出るものの、逆に言えば情景描写などを全部老人の語りということにして説明できるので…、ズルい手口にも思えるw
作中では複数人の老人が証言者として登場するわけだけど、その語り口調はちょっとずつ違えど、話す内容の構成はどれも似た感じだとも思った。
この辺はなるほどデビュー作か、というところか?
でも内容は丁寧だし、読ませる力はすごいのだけれど。
エピローグには涙した。
俺はあんまり映画や小説で泣くことはほとんどない。
でも、エピローグの内容はモデルになったエピソードを知っていたので、余計にグッとくるものがあったんだよね。
ネタバレになるので何の話かは書かないけれど、経緯をもって締めくくるにはふさわしいエピソードだと思った。