LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

Multi-engine Check Rideに挑む

2008-06-24 | Flight Log (機長)

いよいよRedlands Municipal Airportに到着、Check Rideを受けることになった。試験官のLarryからCheck Rideを受けるのは初めてではなく、2年前にPrivate Single Engineの免許も彼からもらった。

2年ぶりとなるLarryの部屋に入り、申請書類のチェックを開始した。ここでいきなり問題が発生した。なんとOn LineでインストラクターのRobertと一緒に作製した申請書類に不備が見つかったのだ。しかもそのインストラクターは休暇でフロリダにいるので、この場で申請書類を再作製するのとはできない。仕方ないので、この日に同乗してきてくれたインストラクターのDevinに私のログブックにサインし直してもらい、オンラインの申請書類も再度作製、それを試験官のLarryがサインするという2度、3度手間になった。この時点で試験官のLarryの機嫌が悪くなっているのを感じ取ることができた。Redlands Airportに到着してから1時間半、やっと書類が整い、口頭試問の開始となった。

試験官の機嫌を損ねただけあって、かなり厳しい内容の質問が飛んでくる。簡単な内容の質問から始まり、それが答えられると更に難しい質問が続き、こちらか答えられなくなるまで内容が掘り下げられていく。質問の内容はエンジンの形式やスペック等、そしてプロペラのメーカーやサイズ、可変ピッチプロペラのメカニズム。この辺りはしっかり理解できているつもりでいたが、可変ピッチプロペラのHydrolic Pressureに関する質問で、試験官の期待していた答えがでず、かなりイライラさせてしまった。試験官は”プロペラピッチを変化させる圧を発生させているのは何か?”という質問をしたが、私は”圧力自体はエンジンの油圧ポンプが作り出しているものだ”と答えると、”違う!”と試験官。何度も説明しなおしたが、なかなか会話が噛み合ず、最終的にPropeller Governorだと答えると、そうだ!と試験官。彼はその答えを待っていたようだが、油圧自体はGovernorではなくエンジン自体の油圧系で発生しているものであり、Governorはあくまでもそれを利用しながら回転を一定に保つべく圧力を調整しているだけだと思う。質問の仕方が悪いのではないか?と思ったが、変なところで試験官と議論しても仕方がない。システムに関する質問が続き、その後はVmcについての質問がとんできた。Vmc, Critical Engine, Counter-rorating Propellerの利点など、簡単な質問が続く。Torque, P-factor, Spiral Slipstream, Accelerated Slipstreamなどをスラスラ答えればよかったが、少し私のP factorの説明が長過ぎたのか、途中で試験官の解説が始まった。そこから口頭試問の内容が違う方向に進み、いつのまにか無事試問終了。無事に試問が終わったらしい。

そこから実技試験の始まりとなった。"Let's have some fun"とLarryが声をかけてくれた。自分がPrivateの免許を取った時もこの言葉を聞いた覚えがある。ヘマをしなければ必ず実技試験には受かると思った。

まずはチェックリスト通りにエンジン始動。左エンジン、そして右エンジンを始動し、Redlands Rwy26に向ってタクシー開始。ランナップも問題なく終わり、引き続きBefore Take Off Briefingの開始。ここで試験官Larryの気に入っているBriefingの内容じゃなかったようで、色々と修正をさせられた。私は"Engine Failure during take off, throttle back and maintain directional control, and breaking until we come to a complete stop, then shut down the engine"といったが、Larryは"breaking as needed"という言葉が聞きたかったようだ。即座に停止しようとするより、本当の緊急事態ではDirectional Controlを維持する努力の方が大切とのこと。Runway Endが迫ってくるようならフルブレーキングすればいいとの説明だった。

いよいよRwy26から離陸し、順調に高度を上げていく。2500ftの高度でロマリンダ病院の上空を通過、そこでSocal Approachを呼んでSan Barnerdino International AirportのILS Rwy6をリクエストすることになった。私はフードを被り、ILSのLocalizerを追いかけている時に右エンジンのスロットルを戻されてOne Engine Failureのシュミレーション開始。すぐに機体の姿勢を立て直し、右エンジンZero Thrustの設定とし、片発ILSの開始だ。これが今までで一番出来が良い!と思えるほどばっちり決まり、試験官からもGood Jobと言われた。そのまま片発でRwy24にCircle-to-landとなり、これも無事にきまった。Rwy24からの離陸時にはRollingを開始して2秒後くらいに左エンジンを止められ、すぐにスロットルを戻して離陸中止。気を取り直して再び離陸、何故かトラフィックパターンを周り、通常の着陸をやらされ、そのままストップアンドゴーで再度離陸。5500fr MSLを目指して上昇を開始した。

Banning Passの入り口あたりでレベルオフとなり、ここでマニューバー開始。最初はSteep Turnを見せてくれとのこと。Throttleを戻してMPを20inchとし、Prop2300rpmの設定、そしてMixtureをLeanとしてCowl Flapを閉じ、Cruise Check List完了。左旋回からClearing Turnを行い、遠くの山に目標を定めて左旋回からSteep Turnを開始した。過剰な程に外を見ています!という演技を行い、VSIとAltimeterは一瞬のチラ見をするだけだった。高度はほんとどずれない自分も大満足のSteep Turnsだった。試験官のLarryも、”お前はきちんと外の景色をみているから大変良い”と上機嫌。次はPower on stall。まずはClimb Speed (Vy)の85-90ktに減速、少しMixtureをRich側にし、Prop2500rpmという設定。そして速度が落ちたらProp2500rpm / MP21inchのパワー設定でゆっくりピッチアップ、そのままStallの兆候が出るまで粘り、そこで回復。この日は相当暑かったので、IASでVmcより遥か高い速度で綺麗にストールの初期兆候が出てくれた。私の考えでは、このマニューバーではストールの初期兆候が出なくてもVmcに到達したらピッチダウンでリカバーした方がいいと思っているので、今回は基本通りのマニューバーになってくれて安心した。次はPower Off Stall。アプローチ速度に減速し、Landing Gear Down、Full Flapとし、そこからThrottleを完全に戻してピッチアップ、ストールの初期兆候が出てピッチダウン/Throttle upでリカバーし、すぐにFlap Up、そしてPositive Climbを確認してコールアウト、Landing Gear Up!でマニューバー終了。これはWings Levelもラダーで保ち、問題なく決まった。次はVmc demoだ。目標となる遠くの山を決め、Vsse以下にならないように適度に減速し、ゆっくりとProp Full Forwardとして右エンジンの出力を上げつつ左エンジンの出力をゼロとし、そのまま右エンジン出力を徐々に上げ、最終的には全開とする。そして右ラダーを蹴っ飛ばしながら少しずつピッチアップしていった。Density Altitudeが高く、Vmc65ktに達した時にはDirectional Controlはまだ効いていたが、"Reaching Vmc, Recover"と行ってピッチダウン/スロットルバックでリカバーしてしまった。試験官Larryには特に何も言われなかった。

”それでは空港の方に戻っていきましょう”と試験官。HeadingをRedlans Airportに取り巡航開始すると、Mixtureを両手で隠されて一発エンジンを止められた。Mixture/Prop/Throttle Forward!、flaps up gear up Checks、左エンジン!と判断し、左のスロットルを戻し、何も変わらないことを確認してトラブルシュート。Fuel selector both on, mixutre rich, throttle quater travel, fuel pump on checks, magnito on check, all switches on、とコールアウト。ここで試験官は"engine is not restarting"と行ったので、本当に左のプロペラをFeatherさせた。ここで試験官のLarryは、”片発になった時に通常の30度バンクで綺麗に機体を旋回させるように上手くラダーを使う方法を教えてやる”と言って教習開始。BE76だけで何千時間も乗ってきたパイロットからの教習は大変興味深かった。

左のプロペラを戻してエンジンを再始動、そのままRedlands Airportに帰還となった。無事にRedlands Rwy26に着陸し、"このままTaxiwayで人を轢いたりしなければ合格だよ”と試験官のLarryが微笑んでいた。私も嬉しさで笑顔になったが、2年前に彼からPrivateのCheck Rideを受けた時も同じギャグを聞かされていたので、少しひきつった笑顔になってしまっていたかもしれない。

無事にエンジンを止めて駐機。これでMulti-enginの機体でも雲を突っ切って遊べるようになった。今まで受けてきたCheck Rideの中で、一番楽しいCheck Rideだったかもしれない。




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2 コメント

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おめでとうございます (くらげ)
2008-06-26 00:23:09
おめでとうございます。
IFもマルチにもヘリにも興味がありますので、参考になります。
私のチェックライドは前日まで対策の訓練をやっていて、疲労が残り、試験は少々辛いものでした。やはり、試験日の前は休息を取らないと、本番で意外なミスが出ますね。ヒトは休みが必要だと実感しました。
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Unknown (C2)
2008-06-26 09:35:12
理想的には自分のホーム空港の近くでチェックライドを受けたいものですね。私の場合、今まで受けてきたチェックライドは全てクロカン飛行で現地に乗り付けるというパターンで、しかも朝一番でした。相当早起きになりますので、前日はできるだけ早寝して体調を整えるように気をつけてます。

遠くの空港までチェックライドを受けにいく場合の唯一よい所は、帰りに心地よい疲れを感じつつ、PIC/機長としてその機体を飛ばして帰ってこれることです。
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