LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

飛行機勉強ノートより:アイシングについて

2011-03-19 | 航空関連エッセイ

飛行機の免許を取ってから、試験の為の勉強ではなく、飛行機乗りとしてさらなる高嶺を目指して、コツコツと勉強を続けている。興味があってやっていることだが、結果的には自分の飛行の安全性が上がることだと考えている。計器飛行の免許を取ってから、気象についても色々と勉強するようになった。そんな中、冬場には頻繁に目を通すアイシングの事について記事を書いてみることにした。私はインストラクターでもなんでもないので、書いている内容はあくまでも自習により得た知識。最終的にこの情報を活かすかどうかは、それぞれのパイロットの方にお任せしたい。

私がアイシングについて勉強するようになったのは、正に必要に迫られてのこと。特にMooney M20Cで飛んでいた時代、冬場のカリフォルニアの曇り空で計器飛行をするには、絶対に知っていないといけない事だ。アメリカ連邦航空局/FAAが出したKnown Icing Conditionの定義が曖昧で、Freezing Level以下の気温でVisible MoistureがあればKnown Icing Conditionとされていた。つまり、零度以下でちょっとでも雲があればIcing Conditionになってしまい、Known Ice Certified/着氷防止装置がある機体じゃないと飛行そのものが違法になってしまう。この事についてはAircraft Owners and Pilot Association / AOPAなどからも、FAAに対して定義の明確化を求めた働きかけが続いた。結果的に最近のKnown Icing Conditionに対する定義は、より現実的な解釈が得られるようになった。仮に以前のような厳格なKnown Icing Conditionの定義が実践されれば、小型機が極軽度のIcingを起こして高度を変更して難を逃れても、その事をPilot Reportとして共有しにくくなってしまう。何故なら、仮にセスナ172からIcingのReportがあれば、その時点でそのパイロットは違法行為をしたことの証明になってしまうからだ。解釈が柔軟になった事で、そのような過敏な心配は必要なくなった。

自分が最初に疑問だったのが、法的解釈以前の問題で、実践的にどうやってIcingを避けるかと、どこまで航空力学的に許容され、どこが限界点なのかということ。それから、どうやってIcingを実体験として学んでいけるかということ。この事について、明確な答えを持っている飛行機乗りは意外に少ない。Known Ice Certifiedの飛行機を飛ばしている人達の意見は参考になるが、Known Ice Certifiedではない機体でIFRを飛んでいる私のような飛行機乗りとっては、当然ながら本質的な答えは得られなかった。かといって、Known Ice Certifiedではない機体でアイシングを体験した人の話しからは、武勇伝という側面以外に学ぶことがないのが現実。それらの話しから学べることは、アイシングは死亡事故に繋がるかもしれないという危険性と、飛行計画と気象条件の読みの甘さという失敗談だけ。

色々と調べていると、面白いデータを発見した。NTSBのデータをAOPAが解析して呈示してくれたものだが、気象条件が理由のGeneral Aviationに関係する飛行機事故で、アイシングが原因なものが10%、VFRでの飛行なのに雲の中などInstrument Meteorological Condition / IMCに入っていってしまったのが原因なのが17%、その他すべてを合わせたものが70%ということになる。気象条件が原因の事故の中から、死亡事故だけ取り出してみると、アイシングに関わるものが20%、VFR into IMCが50%となってしまう。これらの事象で事故を起こした時の死亡率が極めて高い。VFR into IMCなどの事故は、計器飛行の免許を取り、経験を積み、悪い気象条件では積極的に計器飛行で飛ぶ事で、それを回避できる。それでは、icingに関してはどうなのか?

Icingについても、NTSBのデータを解析したものがある。一番興味深いのが、アイシングに関連するGeneral Aviationの事故の中で、飛行時間1000時間以下のパイロットの比率が53%、飛行時間1000時間以上の確率が47%という数字だ。AOPAでは、"Experience grants no immunity!"と表現して注意するように訴えている。つまり、Known Icing Certifiedじゃない機体でアイシングの可能性のある空に入って行く時、そこには経験や技術では乗り越えられない危険があるということ。経験を積んだから大丈夫という次元のもではないという事が示唆される。このデータを見た時、どうやってアイシングの状態を回避しながら飛ぶか?という質問自体が意味をなさないことに気づかされた。冬場前線が通過する天気では、氷点下の上空で雲の中を飛び続けることはしてはいけないのだ。上手い下手は関係ない。経験のある無しが関係ない。このデータは極めて明確で、説得力がある。”おれはこうやってアイシングから逃れたんだ”とKnown Ice Certifiedじゃない機体でのアイシングの経験を基に、自分ならどうやって安全に飛行するかと語るHigh-time Pilotがいれば、その人は確実にNTSBのデータにある1000時間以上の飛行時間でアイシングの事故を起こす47%の統計に寄与することになる。

感心できることじゃないが、Known Ice Conditionというには微妙な状態で、極軽度のIcingは経験したことがある。もちろんDe-icing Deviceが付いているセネカなどで飛ぶ時の話しは別で、主にMooney M20C 208BHPでの話し。低気圧性の雲の中、冬場、地上には軽く雨が振っている状態でサンディエゴのラモナまで飛んだ。運底は4000ftくらいで、その下はScatteredの層がある。Freezing Levelは6000ftくらいだった。巡航は9000ftで、雲の上を飛ぶ感じになる。雲の中に入ると2、3度は気温が落ち、すぐにウィンドシールドに着氷する。ただ、原則はオントップなので、どんどん氷がつくことはなかった。この程度の極々軽度のウィンドシールドの氷は、Defrosterから温風を出す事で対処できるし、何よりも計器飛行なので着陸までは視界はいらない。そんな中、最終着陸態勢に入る時、VOR上でHoldingしてからのFull Approachを打つ事になった。丁度Holdingは雲の中で行う感じになり、すぐにうっすらと氷がついてきた。すぐにステップダウンで降下し、比較的高めの気温の層に振る雨の中を飛び、すぐに氷など消えてしまった。大げさなアイシングじゃないが、一瞬で氷がついたのには驚いた。着陸した後、De-icing Deviceの装備されていないMooneyを見て、管制塔から何か言われないかどうかヒヤヒヤした。今ならそんな事でヒヤヒヤしないが、当時の自分の知識はその程度だった。

実際にアイシングのコンティションに入ってしまったら、出来ることは単純に3つしかない。1)上昇して逃れる、2)降下して逃れる、3)180度旋回して逃げる。AOPAのOnline Courseの推奨では、De-icerの装備されていないような小型機で上昇して雲の上に出るという選択肢は避けたほうがいいとのこと。ノンターボの機体でノロノロと上空に上がって雲の上を目指しても、最新の気象条件でTopが分っている訳ではないし、出力は落ちていくし、パフォーマンスは落ちていくし、何よりも気温が下がっていく。そして、気付けば180度旋回という選択肢も失うほどにIcing Conditionの中に漬かっていってしまう。特にModerate Ice Conditionの場合、小型機が飛行できなくなるのには4−5分あれば十分だというデータがある。山岳部ではなく、Minimum Enroute Altitude/MEAよりも高い高度を維持できる場合、温度計を見ながら降下という選択肢はありだと思う。ただ、そんな状態に陥れば、確実はのはCourse Reversalだと思う。

実際に起こった事故の事例。飛行時間500時間、HoodとActual IMCが100時間弱というパイロット。シーラスSR22でマンモス空港からシエラネバダの山岳地帯を飛び、オークランドまで帰還する飛行計画。AIRMETでもPIREPでも飛行行程にアイシングはない。ただ、Freezing Levelは7000ftくらいで、巡航高度12000−15000ftにはBrokenのCloud Layerがあった。帰宅を急いでいたパイロットは夜になってマンモスを離陸し、すぐに計器飛行開始。酸素を装備していたので、SR22のMax Operating Altitudeの17500ftまで上昇できる。結局は12000−14000ftの雲の中ですぐに着氷が始まり、パイロットは上昇を選んだ。どんどん上昇し、管制官に上昇を要求しながら雲の上を目指したが、いくら地上で300馬力のSR22とてノンターボの機体。17000ft付近では上昇しなくなり、しかも雲の上に出られず、薄い空気の中でアイシングがたたり失速。パラシュートを開いたがダイブしていたので効果なく、墜落大破してしまった。

他の事例では、エアラインパイロットで飛行時間1万時間越えの機長が飛ばすボナンザが、アイシングに見舞われた話しも紹介されていた。雲の下に逃げたが、結局失速墜落した。詳細は記載しないが、どんな事例を見ても、自分の中で心に決めているのが、着氷があれば管制官にその事を伝え、180度旋回するか、Freezing Level以下の雲の下に抜けるということ。Freezing Rainなどはどんな機体でも論外の過酷な条件だが、通常の条件なら、小型機が安全にアイシングに対処できる時間は極めて短い。長く飛び続けて平気だった!という事を言うパイロットもいると思うが、統計をみれば、そういう行為は武勇伝以外の何ものでもない。

De-icing Deviceが着いている機体ではどうか。そんなに頻繁に飛ばすわけじゃないが、トップページの写真にもあるように、De-icing Boots付きのセネカなどでは、同一出力設定で飛びながら大凡4−5ktくらい速度が落ちて来たらDe-icerのスイッチをポチ!っと押し、これを繰り返せと習った。それから、De-icerが無ければ4、5分で凍ってしまい使えなくなる翼ゆえ、プリフライトとランナップでは確実にBootsの作動を見ておくようにとも習った。それ以来、トップページの写真にもあるように、高い巡航高度で着氷が予想される雲に入る前には、もう一度上空でもBoots作動をテストするようにしている。

話しが長くなったが、冬場のIFRをする時、De-icer無しの機体で自分が飛ぶか飛ばないか判断する基準、もしくは飛行中なら引き返すという決断を下す基準。原則的に冬の前線を横切る飛び方はしない。前線通過後の天気を飛ぶことはある。CeilingがFreezing Levelよりも高いかどうか。MEAとFreezing Levelの関係、特に山岳地帯を飛ぶ時。確実な逃げ道として残しておきたいのは、雲の下にでれば氷が溶けるというもの。PIREPでアイシングが出ていなくても、十分に小型機のアイシングがありえると自覚すること。そして、もしIcingに出会ったら、程度にもよるが、そこから5分以内にはアイシングコンディションから抜け出す努力をすること。ノンターボの機体では、上昇!して逃げるという選択肢は賢明じゃない可能性が高いこと。

繰り返すが、Experience grants no immunity to airframe icing.

上記の基準なら、冬場はマリンレイヤーなどの低層の雲くらいしか突っ切れないんじゃないの?と疑問に思われる方もいるかもしれないが、正にその通り。De-icerでもないかぎり、軽装備の機体で氷点下の中で雲の中に入り続けるのは賢明じゃない。そこには上手い下手も無い。ただ無謀なだけ。

事故を起こせば飛行機遊びはできなくなる可能性大。命の危険もさることながら、こんな楽しい趣味を失うような危険も冒せない。

 

 

 


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