時代ははっきり書かれていませんが、シーボルトに直接指導を受け、シーボルトがまだ長崎にいるという設定ですので文政年間、1820年代でしょう。
NHKで放送された「」桂ちづる診察日録」の原作です。先に見たテレビドラマより奥行きが感じられます。実際にシーボルトから直接教授された女性がいたのか、女性の蘭方医がいたのかどうかわかりません。
思い出されるのは吉村昭氏の「」ふぉんしいほるとの娘」です。シーボルトと長崎丸山の遊女のあいだにできた娘、楠本イネの物語で、江戸期に女医となり、明治になってから日本人女性で初めて産科医として西洋医学を学んだことで知られています。数奇な運命に翻弄されながらも懸命に生き、また、失意の中に沈んでも再び這い上がろうとする姿に心をうたれたものです。以前の勤務場所が楠本イネが晩年を過ごした麻布の近くだったので亡くなった時住んでいた場所を訪ねて行きましたが痕跡を見つけることはできませんでした。
シーボルトは日本に多くのものをもたらし、残していきましたが、彼のおかげで死罪になった伊能忠敬の師の息子である高橋景保など不幸にした人もいました。以前、かっぱ橋道具街に買い物に行き、上野駅までブラブラと歩いていたら、偶然、源空寺というお寺の前を通り、伊能忠敬、師の高橋至時、獄死した息子の高橋景保の3人のお墓が並んでいるのを知り、お参りさせていただきました。伊能忠敬の遺言で師のとなりに葬られたと聞きました。
小説は、桂千鶴とその周りの人達が正義を貫き、弱きを助けるエピソードが展開されます。