現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

色川武大「したいことができなくて」怪しい来客簿所収

2017-03-10 16:04:00 | 参考文献
 戦後の出版界の底辺をさまよっていた老編集者について、実名で書いています。
 作中、彼の欠点をこれでもかと繰り返して書いて、一言もほめていないのですが、その裏に作者の彼に対する愛情が感じられるところが書き手の腕前です。
 こうした市井の名もない人を描いたノンフィクションは、沢木耕太郎の初期にも優れた作品がたくさんありました。

怪しい来客簿 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柏原兵三「蜂の挿話」柏原兵三作品集2所収

2017-03-10 11:41:52 | 参考文献
 バスに乗り合わせた人びとと、そこに紛れ込んだ蜂との関わりを描いた作品です。
 ほとんどストーリーらしいものはなく、徹頭徹尾細かな描写だけで形作られた短編です。
 かつて物語から出発した文学は、近代に入って描写(自然、場景、心理など)を獲得して、小説という形態が生み出されました。
 この短編は、そういった意味では小説の典型なのかもしれません。
 児童文学の世界でも、1970年代ごろから1990年代ごろまでは、描写を主体にした小説的な作品がたくさん出版されていました。
 しかし、現在ではそういった作品を読みこなせる子ども読者は激減し、そのためにほとんど出版されなくなりました。
 その頃活躍した作家の多くは、一般文学の方へ越境していったり、エンターテインメント的な作品へ傾斜していったり、幼年童話や絵本に活路を見出したりしています。
 高学年や中学生向けの小説的作品を書き続けている生き残り的な書き手たちは、少女小説(男の子たちよりはまだ読者が生き残っています)的性格を強めるか、自費出版の途を取るかしかないようです。

柏原兵三作品集〈第2巻〉 (1973年)
クリエーター情報なし
潮出版社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小川洋子「帯同馬」いつも彼らはどこかに所収

2017-03-10 10:18:12 | 参考文献
 スーパーで試食品のデモンストレーションをすることを仕事にしている主人公の女性と、スーパーをぐるぐる回って何度も試食を食べにくる小母さんとの、奇妙な友情を描いています。
 表題は、凱旋門賞への遠征でディープインパクトに帯同したピカレストコートにちなんでいます。
 主人公はモノレール(車内から飛行機と競馬場が見えるので羽田と浜松町を結ぶ東京モノレールだと思われます)の軌道の外には出られない(他の乗り物に乗ると不安から体調を崩してしまいます)のですが、世界中を旅したという虚言癖のある小母さんの帯同馬としてならば、どこかに飛びたてるのではないかと夢見ます。
 もちろん、現実には、モノレールから見える競馬場は地方競馬の大井競馬場なのでディープインパクトやピカレストコートとは関係ありませんし、ディープたちが出発したのも羽田ではなく成田です。
 でも、そんなことはどうでもいいのです。
 飛行機と競馬場とフランス遠征の帯同馬が、モノレールに乗った主人公の中で、一つに結びついたのです。
 主人公、小母さん、ピカレストコート。
 小川は、彼ら誰の目にも止まらない人びと(馬もいますが)に優しいまなざしを向けています。
 児童文学で弱者への視線というと、他の記事でもたびたび書きましたが森忠明の作品群が思い起こされます。
 現在の児童文学では、こういった滋味に富んだ作品は出版されなくなって久しいです。
 いっそ小川洋子に、現代を生きる子どもたちに向けたこのような作品を書いてもらえないかとも思いますが、おそらくあまり売れないでしょうから実現は難しいでしょう。

いつも彼らはどこかに
クリエーター情報なし
新潮社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

川上未映子「アイスクリーム熱」愛の夢とか所収

2017-03-10 10:16:19 | 参考文献
 谷崎潤一郎賞を受賞した短編集の巻頭の短編です。
 アイスクリーム屋の店員が、そこに訪れる男性客に恋をして、おそらく失恋したと思われる感じで終わります。
 全体に水彩画のような淡いタッチで、恋心が描かれます。
 恋愛を仕事もうまくいかずいつのまにか大人になってしまったことを自覚する苦みが、アイスクリームのフレーバーのように作品を引き締めています。
 文章も作品世界も端正で純文学的ですが、描かれている世界が若い女性向きなので、一定の読者を獲得できるでしょう。
 これは現在の児童文学の世界でも同様なのですが、こういう作品は圧倒的に女性読者が多いので女性作家の方がビジネス的には有利なようです。

愛の夢とか
クリエーター情報なし
講談社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

津村記久子「婚礼、葬礼、その他」婚礼、葬礼、その他所収

2017-03-10 10:15:14 | 参考文献
 作品論ではないのですが、簡単にあらすじを述べます。
 ヨシノは友人の結婚式の披露宴の途中で、会社の部長(直接の上司ではないようです)の父親の通夜に強引に呼び出されます。
 小さな会社なので昼間は業務に支障をきたすとのことで、全員が強制的に通夜に出席するのです。
 ヨシノは、大学のハイキング同好会の仲間だった新郎新婦を残して、一度も会ったことのない老人の通夜にすきっ腹を抱えて参加しなければなりません。
 披露宴の二次会の幹事だったヨシノは、携帯で披露宴会場と連絡を取りながら、なんとか最低限の幹事の務めを果たします。
 校長だったという故人の通夜には、愛人たちや全然かわいがってもらったことがなくて故人を憎んでいる孫娘などがいて、ヨシノはいろいろと理不尽な目にあいます。
 やがて、見ず知らずの故人の通夜に参列しながら、亡くなった祖父母のことや自分自身のこれからの人生に思いをはせます。
 作者ののちの作品に比べると完成度はもうひとつなのですが、いろいろ理不尽な目にあいながらもユーモアを持って生き延びていく主人公に託した作者の人生に対する肯定的なメッセージは、この作品からも読み取れます。
 児童文学においても、身近な人たちの結婚や葬式を通して自分を見つめなおす作品は、もっと書かかれてもいいのではないかと思いました。

婚礼、葬礼、その他
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米澤穂信「万灯」満願所収

2017-03-10 08:46:02 | 参考文献
 評判の短編集の四編目ですが、これも期待はずれでした。
 時代設定がはっきりしないのですが、高度成長期かバブルのころの海外に派遣されていた商社マンが犯す殺人事件の話です。
 作者が、商社や外資系の会社の海外事業にどういった経験や知識があるのか知りませんが、めちゃくちゃ荒っぽい書き方なので仰天しました。
 いくらそのころの商社マンがエコノミックアニマル(懐かしい言葉です)だったとしても、仕事のためにこんなに簡単に殺人(しかも二度も)は犯しません。
 どうもこの作者の書き方には、根本的に違和感があります。
 私は、児童文学はアクションとダイアローグ(会話)で書く物語だということを、創作を始めたころに徹底的に叩き込まれました。
 その後、一般文学と同じように情景や心理といった描写を前面に出した小説的な書き方も学びました。
 ところが、この作者は、アクションやダイアローグや描写はどれもすごくおざなりで、ほとんどがモノローグ(独白)と説明文だけで、物語がすすめられています。
 こういった作品が現在の読者に受け入れられていて評価されているとしたら、例えエンターテインメント作品としても、文学の本質が大きく変化してしまっているのかもしれません。

満願
クリエーター情報なし
新潮社
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

入学式は大騒ぎ!

2017-03-10 08:44:42 | キンドル本
 小学校の入学式の話です。
 主人公のクラスには、なかなか個性的な面々がそろっています。
 入学式が始まると、このクラスだけに次々と予期しないことが起こります。
 みんなが勝手なことばかりするからです。
 主人公も、他の子たちといざこざを起こしています。
 付き添いの大人たちも巻き込まれて、入学式は大騒動になります。
 はたして、その結末は?

 (下のバナーをクリックすると、3月10日まで無料で、スマホやタブレット端末やパソコンやキンドルで読めます。Kindle Unlimitedでは、いつでも無料で読めます)。

入学式は大騒ぎ!
クリエーター情報なし
メーカー情報なし



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする