現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大石真「風信器」大石真児童文学全集1所収

2020-04-11 16:48:13 | 参考文献
 1953年9月の童苑9号(早大童話会20周年記念号)に発表され、その年の日本児童文学者協会新人賞を受賞しています。
 ちょうどその年に、早大童話会の後輩たち(古田足日、鳥越信、神宮輝夫、山中恒など)が少年文学宣言(正確には「少年文学の旗の下に!」、詳しくはその記事を参照してください)を発表し、それまでの「近代童話」を批判して、「現代児童文学」を確立する原動力になった論争がスタートしています。
 この作品は、その中で彼らに否定されたジャンルのひとつである「生活童話」に属していると思われます。
 ここでは、近代的不幸のひとつである「貧困」(高度成長期を経ていったんは克服された「貧困」は、21世紀になって格差社会による不幸として、再び現代の子どもたちを苦しめています)が、弘という少年がお昼の弁当を持ってくることができずに、水だけでがまんしたり、他の子の弁当を盗んだりしていたことにより、描かれています。
 しかし、主人公の少年は、そのことに対してじっと見守るだけで行動を起こせません。
 やがて、北海道へ去っていく弘のことを思い起こすだけです。
 この二人の少年の暗黙の心のつながりを、「風信器(風向や風力を示す機械で昔の学校には設置されていました)」に象徴させて、いい意味でも悪い意味でも非常に文学的な作品です。
 おそらく1953年当時の児童文学界の主流で、「三種の神器」とまで言われていた小川未明、浜田広介、坪田譲治などの大家たちに、「有望な新人」として当時28歳だった大石は認められたのでしょう。
 「現代児童文学」の立場から言えば、「散文性に乏しい短編」であり、「子どもの読者が不在」で、「変革の意志に欠けている」といった、否定されるべき種類の作品なのかもしれません。
 しかし、大石はその後、より「現代児童文学」的な「教室203号」(その記事を参照してください)や、エンターテインメントの先駆けになる「チョコレート戦争」(その記事を参照してください)などを世に送り出して、「現代児童文学」と「近代童話」の狭間に揺れながら、多彩な作家生活をおくることになります。

大石真児童文学全集 1 風信器
クリエーター情報なし
ポプラ社

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