現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

椎名誠「犬の系譜」

2020-04-18 13:48:05 | 参考文献
 1987年の一年間、小説現代に連載され、翌年単行本になって、吉川英治文学新人賞を受賞した作品です。
 夥しい数が出版されている作者の本の中で、最も児童文学的な作品です。
 小学校三年から六年までの間に飼っていた三代の犬の系譜をたどる形にはなっていますが、作者と犬たちとの交流はそれほど話の中心ではなく、その時代の家族とその周辺の変遷が、非常に緻密に描かれています。
 世田谷から千葉の漁村(浦安あたりと思われます)への都落ち(本人と幼い弟は自覚していませんが、両親や年長の兄弟たちははっきりと意識しています)、父の死、長兄の結婚(父の死と結婚以来、長兄は家長としての責任を負うようになります)、家事を一手に引き受けるようになった素朴で優しい兄嫁の登場、それらに伴う母の変化(踊りを中心にして非常に社交的になっていきます)、姉の独立、無職で一家の雑用(その中には主人公たちの部屋の増築なども含まれています)を引き受ける母の弟の活躍、次兄の睡眠薬自殺未遂とその後遺症による精神病院への入院といった波乱万丈の四年間が、当時の漁村の風物や暮らしや人々を背景にして、克明に描かれています。
 他の記事で繰り返し書いてきましたが、子ども時代の鮮明な記憶は、多くの児童文学者(代表的な例をあげれば、ケストナーや神沢利子など)に共通した非常に大事な資質ですが、そういった意味では、作者は児童文学者としても優れていると言えます(もともと、青春時代の些末な出来事を面白おかしく書いたスーパーエッセイでデビューしたのですから、当然と言えば当然なのですが)。
 実際、作者には、「黄金時代」や「岳物語」などの同様の系列と考えられる作品群があります。

犬の系譜 「椎名誠 旅する文学館」シリーズ
クリエーター情報なし
クリーク・アンド・リバー社

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