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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

伊坂幸太郎「PK」PK所収

2017-12-18 08:41:33 | 参考文献
 時間も登場人物もばらばらな、以下の四つの物語が断片的につぎはぎされて書かれています。
A.ワールドカップ出場がかかった最終戦で、日本チームのエースストライカー(謎の男にPKを外すように脅されている)が試合終了直前にPKを得てそれを決めて出場を決定させる。
B.架空の友だちが不幸な目に合う話を使って、子どもたちをしつけている作家(Cの大臣の父親らしい)が、謎の男に原稿を直すように脅されている。
C.大臣(AのPKの謎を調べさせている)が、自分の党の幹事長に脅されている。
D.AのPKについて話し合っているカップルの恋愛感情は、微妙にすれ違っている。
 状況説明的に一度だけ使われているDを除くと、ABCの三つの話はラストでつながり、「臆病は伝染する。そして、勇気も伝染する」という心理学者のアドラーの言葉にインスパイアされた作品のテーマが明らかになります。
 こういった、複数の話を並行して進める書き方は伊坂の得意とするところ(村上春樹もよく使います)ですが、この作品の場合は時間がかなり前後に飛ぶのでわかりにくいかもしれません。
 このように複線的に話をすすめたり、視点が変わったり、時間が前後したりすることは、1960年に「子どもと文学」で提唱された「おもしろく、はっきりとわかりやすく」というモットーに反するので、児童文学では長らくタブーとされていました。
 80年代から90年代にかけての児童文学の出版バブルの時代にはそれを崩すような実験的な作品(例えば、岩瀬成子の「あたしをさがして」など)も出版されましたが、売れ線の本しか出ない現在では本にするのは難しいでしょう。

PK
クリエーター情報なし
講談社

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