God is in the details ~神は細部に宿る~

一箱古本市専門店《吉田屋遠古堂》主人のぐうたらな日々。。。。

はがせ、ビリビリと

2006-01-14 22:29:55 | 歴史/民俗/伝統芸能
さて、久々に仕事の話です(笑)今回の話は「土層転写
 昨年、仕事である発掘調査をしている途中で、地層についてある疑問がわきました。なんでこの土がここに堆積しているのだろう??はい、何を言っているのかわからないですね。えー、一般には遺跡とは人々の生活の跡が長い年月をかけて土に埋まってしまったものです。ま、世の中には地表に露出しているものもありますけど。で、遺跡は自分から土にもぐっていくわけではないので、何らかの理由で遺跡のうえに土がたまっていくということです。そして、土がたまるには様々な理由があります。たとえば落ち葉がたまって出来た腐葉土がたまっていったり、洪水で一瞬にして泥に埋もれたり、火山の噴火でとんできた火山灰が4mもつもっていた例もあります。で、今回の調査で見つかった地層はこう。

だいたい2.5mくらいの厚さです。つまり縄文時代の中頃から約4000年間で2.5mの土がつもったと言うことになります。この部分はいわば谷の底なので、土がたまりやすい条件があり平地に比べて極端に土がたまる、つまり埋まっていく速度が速くなります。すこし北側の平地では、4000年でおよそ30 cmほどしか土がたまっていませんから。

 さて、中程から上のネズミ色~灰色あるいは黄土色(まさしく黄色い土!)の部分は、洪水によってたまった土というより泥や粘土です。問題はその下の土。おじさんの腰から下あたりの真っ黒な土。おびただしい縄文土器のかけらの混ざった真っ黒な土。最も厚いところで80cmもたまっている。こんな土、どうやったって自然にはたまらない。何故たまらないのかは、今回の話の本題ではないので、気になる人は個人的に私に聴いてください(笑)結論としては、あえて誤解を恐れずに非常に簡単に言うと、縄文時代に人が埋め立てをしたということになります。埋め立てをしたのか土捨て場にしていたので埋まっちゃったのかは問題ですが。

 そういう珍しい地層だということになったので(まるで他人事のよう)、その地層を転写して標本を作ると言うことになった。標本の出来上がりは天地2.5m×幅15mになるという計算。で、専門業者に簡単な見積もりを出してもらったところ、いっせんまんをこえるという結論。で、誰がそのお金を出すの(爆)さて、ここで救世主登場。近所に住んでるその方面に明るい同業者の俺、やりますか?の一言で、我々は自分たちでやるしかあるまい作戦を開始した(爆)

 当日はあいにくと最高気温4℃という悪条件。まずは指揮官を中心に簡単なブリーフィング。特に薬品の特性とその取り扱いについてのレクチャーを受ける。みんな割に神妙な感じ。


 そして、指揮官を先頭に、薬剤を刷毛で地層に塗り付ける作業が始まった。


寒さと戦い、時間と戦い、初日予定してたおよそ9mにわたって、薬剤を塗り終わったのは10時。はじめに塗った部分から反応が進んで、白く変色していく。いい感じ。


 薬剤の反応が進んで、硬化が始まったところで裏打ち用の布を貼付ける。貼付けた布の上からさらに薬剤を塗り付ける。つまり薬剤で布と地層の表面を一緒に固めてしまうのである。でも傍目から見るとなんか新手のインスタレーションか?新しい宗教か?


 初日予定していた部分のカバーが終わったのは、お昼をすこしまわった頃だった。


 全長15mの土層標本というのは、もちろん東北では最大級である。それを素人が集まって自力でやろうとは。で、これが初日の約9m分。大きい標本の場合、裏打ちした布の繊維が自重で裂ける場合があるので、斜めにたすきをかけるのがポイントらしい。


 次の段階に進むには、薬剤が固まっていないと仕方がない。ひたすらこらえて待機・待機・待機・・・最終的に次の段階に進んだのは3時をすこしまわった頃。つづいて、固まったこいつを引きはがすと、地層が剥ぎ取られるという寸法。もうおわかりでしょう。つまり湿布薬をすねにはって、剥がすとすね毛がついてくるというのと原理は一緒です(爆)
 で、9mだと1mあたり100kgとしても1t近い重量になってしまうので、分割して剥がすことにした。

はじめはおずおずと。上のほうからスコップを入れて、少しずつ剥がしていきます。


でまあ、すこしたつと力一杯になってしまうのですが。

もう少したつと、今度は重くて重くて!

一枚分およそ1m幅で剥がすのに、15分くらいかかったかしら。ほっと一息の場面。

出来上がりはこのとおりです。これは見本用に別に作成したものですが、本当の標本はこの倍くらいの幅のものが15本!


 大仕事でございました。いやぁ、満足満足。ところで、今回使用した薬剤は商品名トマックといいます。奈良国立文化財研究所(当時)が開発した、水と反応して硬化する専用の薬剤なのですが、塗り付けて取ると膜になる、とるとまくになるとるとまくトルトマクトマック おあとがよろしいようで!