春泥

春泥を迷はず踏みし靴の跡

春のぬかるみのこと。春は凍てついていた土が緩み、雪解けが進み、また、雨量も増すなどにより土の道ではぬかるみとなる。都会では道路の舗装が行き届いているので、ぬかるみを見ることは難しいが、郊外の分け入った道や公園などでは時々見かけることがある。公園で土の所があり、春泥となっていた。その上を迷わず踏んで歩いてみると、懐かしさが甦ってきた。

　




約束のひとありて行く春の泥


　

ヴィオラ

日の中のヴィオラの前を乳母車

パンジーの中で、小輪の品種の名称。パンジーは花径が５センチ以上で豪華なもの、ヴィオラは４センチ以下で可愛らしいものという主観的な分け方で区別されているようである。花の色はパンジーと同様、紫、黄、白、斑入り、絞りなどがある。紫のヴィオラが日を浴びて咲いていたが、その前を乳母車がゆっくりと過ぎて行った。

　












サンサーンス聴いて窓辺のヴィオラかな


　

孕み雀

夕日見てゐたるは孕雀かな

体内に子を宿した雀のこと。一度に五個前後の卵を産む。遠くから見たのでは、孕み雀かどうかの判別は難しい。そのため観念的な季語と言われているが、何となく膨れているような雀を孕み雀と詠んでよいのではないかと思う。枝に止まって西に傾いた太陽の方を見ている雀がいた。孕み雀ではないかと思った。

　






地に降りて何か啄む孕鳥


　

三椏（みつまた）の花

三椏の花咲きさうな風なりし

ジンチョウゲ科落葉低木。中国原産。葉の出る前に三叉（さんさ）に分かれた枝先に黄色の筒状花を咲かせる。樹皮は上質な和紙の原料となる。三椏の花が今にも咲きそうな程になっていた。風が吹いて揺れるたびに花が開いていくような気がした。

　








三椏や大きく曲がる川堤


　

残雪

残雪に木の影著（しる）き朝（あした）かな

春になってもまだ消え残っている雪のこと。積雪の多い日本海側や北国では、山陰や木陰などには幾日も雪が消えずに残っている。雪が残っているところがあった。その上に木が影を黒々と落としていたが、朝の光に雪が眩しく感じられた。

　








地を清め吾をきよめし雪残る