ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

frozen in time

2010年09月20日 14時06分37秒 | 書籍
Frozen In Time: The Fate Of The Franklin Expedition

Greystone Books

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来年の北極探検に向けて、本格的に英語資料を読みあさり始めた。手始めに読んだのが「Frozen in Time」。19世紀中旬、ヨーロッパとアジアを結ぶ幻の北西航路発見を目指し、行方を絶ったジョン・フランクリン探検隊についての本である。フランクリン隊の行方は1859年、マクリントックの探検隊により、129人全員死亡という最悪の事実が判明した。極北カナダのビーチェイ島にはフランクリン隊の三人の墓が残されており、1980年代にある科学者がその遺体を発掘した。この本はその時のノンフィクションである。彼らはX線撮影などで遺体の死因を特定し、フランクリン隊に悲劇が襲ったのはなぜかを解き明かしている。表紙はその時に発掘された隊員の死体。本の中には他にも死体の写真がごっそり掲載されている。冷凍保存されていたため、死後約140年経っているとは思えないほど、肉体組織はピチピチしていたという。

個人的には次は北西航路をテーマに本を書きたいと思っている。北西航路とは何か? その話は長くなるのでまた次に回すとして、こうした本で役に立つのは実は巻末資料である。近年のノンフィクションや雑誌に掲載された調査結果(フランクリン隊がなぜ遭難したのかは極地探検史上、最大の謎といわれており、今でも物好きたちが熱心に調べている)だけではなく、約150年前のマクリントックの探検報告や、引き続き行われたアメリカのチャールズ・フランシス・ホールやフレデリック・シュワトゥカ(マニアック過ぎますか!?)などによる、当時のショッキングな資料名も分かる。

世の中便利になったもので、容易に手に入りそうにないこうした古い英語資料も、今の時代、アマゾンで適当に検索してみたら見つかってしまったりするから恐ろしい。アメリカのどっかの大学の出版部が復刻版を出しちゃったりしているわけだ。うわー、これも買える、あちゃーこれもある! などとつぶやきながら、必要そうなのはガンガン購入。気づいたら八冊も購入していた。12月ごろに船便でどっさり届くらしい。まったく困った時代である。

極北で (新潮クレスト・ブックス)
ジョージーナ ハーディング
新潮社

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ついでにジョージーナ・ハーディング「極北で」も読む。これは400年前の航海日誌をもとにしたという小説。魂の救済を求めたのかどうか知らないが、捕鯨船を下船し、グリーンランドの島でひとり越冬した男の物語である。文章が非常に美しいので読めるが、ちょっと美しすぎる。主人公は越冬した後、アザラシにバイオリンを弾いて涙を流すのだが、そんな不気味な奴はこの世にいない。北極の本質はやっぱり、129人が死亡する、闇夜と死に支配された恐怖の大地でしょう。

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