ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

雪崩で重傷@不帰Ⅰ峰

2009年03月16日 19時55分43秒 | クライミング
 不帰Ⅰ峰尾根支稜を登攀中に雪崩を起こしてしまった。350メートル下の谷底までたたき落とされたが、パートナーだった探検部後輩Sともども、とりあえず一命はとりとめた。

 今回の山行で目指していたのは不帰Ⅰ峰尾根の主稜。八方尾根スキー場から入山した3月14日は冬型の気圧配置がばっちり決まり、ひどい吹雪に見舞われた。そのため予定していた幕営地までたどり着けず、翌朝も吹雪が続いたので、一度は撤退を決めた。しかし、幕営地を撤収しているうちに天気が回復し、みるみる青空が広がり始めたので、時間的に厳しい主稜ではなく、主稜よりも登攀距離の短い支稜にルートを変更して登ることにした。

 唐松谷を横断し、支稜に取り付いたのが15日正午前。Sと所々の灌木にランナーをとりながらコンテニュアスで登る。雪崩が起きたのは2170メートル付近の傾斜の緩いナイフリッジにおいてだ。ここだけやたら雪が深い。先頭を行くSは腰までの雪をかき分けながら進み、僕はSの後ろをついて登った。すると「ドーン」という音がして、自分が乗っかっていた雪面が一気に滑り出した。

 「やばい、雪崩だ」と瞬間的にわかるが、自分の中で現実だと受け止めることができず、何かの間違いじゃないかと思う。Sとはロープで結びあっていたが、灌木がなくてランナーをとっていなかったので、そのまま止まらず、あれよあれよという間に雪にもみくちゃにされて流された。こうなるともう、どうしようもない。途中で垂直に近い傾斜の部分を落ちたらしく、宙に浮いた感覚が分かる。その後、頭が下になったのか視界は真っ暗になり、雪のすごい圧力を感じる。「このままだと死ぬ」とあせり、なんとか手だけは雪の外に出そうともがいていると、体は止まり右手だけ飛び出していた。

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写真のバツ印は雪崩発生地点で、矢印が流されたライン。

 この瞬間の喜びって、雪崩に遭ってうまい具合に手が飛び出した人しかわからないと思う。やった助かったとわかった瞬間、言葉にはできない歓喜が押し寄せる。急いで右手で顔の周りの雪をどかし、呼吸を確保。Sも無事だったようで、叫び声が聞こえてきた。「カクハター!大丈夫かあ!」。彼も興奮しているらしく、後輩のくせになぜか僕のことを呼び捨てだ。唐松谷を滑っていた山ボーダーたちも駆けつけてくれて、みんなで僕の体を掘り返してくれた。立ち上がると右ひざがちょっと痛い。

 今日、病院に行ってみると、右ひざの内側側副靭帯損傷で全治4週間という診断だった。3月、4月はバリバリ山に行くぞと思っていたのに……。でも、死ななくて良かったと心底思う。それにしても、これで雪崩に埋まったのは3回目だ。3回も雪の下に埋まって生き残っているやつって、他にあんまりいないだろうなあ。正直、こういう臨死体験はもうこりごりっす。

 
コメント (8)
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