6月に『探検家の日々本本』が文庫化されるので、先日、そのゲラを読んだ。こまかな修正以外、単行本と内容はかわらないが、それにしてもこの本面白いなぁ、こりゃ毎日新聞出版文化賞書評賞も受賞するわと、われながら思ってしまった。だいたい文庫のゲラを読むときは同じ感想をいだく。私は自分の文章がたぶん好きなのだ。それじゃなきゃ、作家なんかやってられない。
ただ、ひとつ反省がある。この本は4、5年前の書いた文章が主なのだが、その頃にブログに書いていた読書感想文も一緒になっていて、それを読んで、当時はこんなに本のことをブログに書いていたんだなぁ~と感心してしまったのだ。今はとてもではないが、書評的な文章をブログに書く余裕はない。本の感想は一歩間違えると感受性や頭の中身をうたがわれてしまうので、じつはおいそれとはかけないのだ。あれだけ書いていたのは、要するに時間が有り余っていたことの裏返しである。
でも、角幡は最近本読まなくなったんだな、と思われるのもしゃくだし、もしかしたらブログに積極的に本のことを書いたら書評の仕事も増えるかもしれない。ということで、メモかわりにこれからは読んだ本を短いコメント付きで定期的に紹介することにする。まあ、今、思い付きではじめた企画なので、一回で終わってしまうかもしれないが。
ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』
人間の進化の動的パースペクティブをしめした人類学の壮大な大著。人間が記憶を外化していくシステムや,都市や書字をめぐる一貫した単純化、機能化の原理などはマクルーハンの『メディア論』にもつながるところがあり、非常に示唆にとむ。結構みんな考えることは一緒なんだねと思った。あとフランス人の本ってなんでこんなに読みにくいんだろうと改めて思った。たぶん論理よりも感覚的に書いているから、邦訳したときにその感覚が伝わらないんだろうな。星三つ。
梯久美子『狂うひと』
非常に話題になっているノンフィクションで、新潮の人からも圧倒的と聞かされていたので、帰国後すぐに読んだ。書くことの原罪や業、島尾夫婦の生活が表現至上主義的な狂気をおびていたところを暴いていて面白かったが、期待したほど圧倒的な読後感はなかった。ルポが少なく、どちらかといえば文芸評論的な性格が強いからだろうか。あと、書き手の目から見ると、島尾ミホ死後にみつかった新資料に助けられているなという気がして、それはちょっと羨ましかった。星四つ。
國分功一郎『中動態の世界』
すごい面白かった。動詞の態は現在では能動と受動しかしられていないが、じつは昔、中動態という態があり、その謎を暴いていく知的ミステリーという感じ。謎が謎を呼び、次第にじつはわれわれの生活や会話や動作などすべてじつは中動態的なのだということわかっていく。『暇と退屈の倫理学』より普遍的な存在論をあつかっており、万人にとって新たな知的発見をもたらすだろう。安倍晋三にもぜひ読んでもらいたい。最後の自由へとつながる結論は、自分が登山や探検で感じる自由の概念ともつながっており、深く納得。機会があれば私が探検で発見する自由が中動態的にどのように位置づけられるのか、意見を訊いてみたい。誰か対談を企画してくれないだろうか。ちなみに中動態なんてきいたこともないと思っていたが、以前、挫折したアガンベン『身体の使用』に非常に詳しく説明されていた(國分さんが何度も参照していたので、気がついたのだった)。こっちは難解すぎて全然頭に残っていなかったらしい。いつかまた挑戦してみよう。星五つ
井筒俊彦『意識と本質』
知人に勧められて読んだが、凄まじい本だった(正確にいえば勧められたのは『意味の深みへ』という別の本だったが、高いので廉価なこっちを先に買った)。言語は外界の事物に意味をあたえて構造化するが、その言語以前の混沌とした無分節世界がどのような世界で、東洋哲学がどのように絶対無分節的境地にアプローチしてきたかが語られる。圧倒的な内容だったが、記憶力の悪い私にはその圧倒感しかのこっておらず、詳細は忘れてしまったので、興味のある方は読んでほしい。言語化以前の世界にいる赤ん坊は仏であり、言葉を覚えて外界を意味化し、そのうち意味によって構造化された外界に次第に取り込まれていき、最後はつまらない大人ができあがるという人間の成長過程がよくわかった。それに極夜もある意味、言語化以前の混沌とした世界だったことも。私はあのとき御仏だったのだろうか。
もしかしたら私が対談しなければならないのは國分さんではなく、道元あたりなのではないか。「いやー絶対無分節的混沌って解脱的で面白いですよね~」みたいな感じで話がもりあがるかもしれない。764年前に死んでしまったのが残念だ。星六つ
ボン・ペッツィンガー『最古の文字なのか?』
旧石器時代人の表象能力について最新の研究成果がわかったのは収穫だが、肝心の記号が文字なのかどうかが結局?で、ストレスがたまった。星三つ
飯島和一『雷電本紀』
飯島ファン(に最近なりかけている)、相撲ファンとしては非常に期待が高かったが、稀勢の里が照ノ富士に勝った一番のほうが興奮した。飯島和一は評伝ものより、多数の人間がそれぞれ細胞となってひとつの事件に否応なしに流されていく『出星前夜』のような絵巻物的物語のほうがスリリングで文体的に合っている気がする。次は何を読もうかな。星三つ
河合隼雄『神話と日本人の心』
極夜探検の原稿を書くのに、とりあえず基礎知識としてユングの心理学ぐらいは知っておいたほうがいいかなと思い、とりあえずとっつきやすい河合隼雄の本からはじめた。昔は河合隼雄の文章はすべすべしすぎていて苦手だったが、今回はとても面白く読めた。わかりやすい文章ってすばらしいな。この本はユングの心理学というより、日本人の意識構造の特殊性(河合がいうトライアッドの構造)がわかって、納得。星四つ
エリアーデ『世界宗教史』1
これもお勉強用。概説なので、一番知りたかった人間の原初的な太陽や天体にたいする聖性理論については、あまりよくわからなかった。2も買ったが、まだ読んでいない。2の前に、同じエリアーデの『太陽と天空神』を読もう。星三つ
今度文庫化。面白い。星五百
ここまで書いたところで、疲れたのでまた次回。
ただ、ひとつ反省がある。この本は4、5年前の書いた文章が主なのだが、その頃にブログに書いていた読書感想文も一緒になっていて、それを読んで、当時はこんなに本のことをブログに書いていたんだなぁ~と感心してしまったのだ。今はとてもではないが、書評的な文章をブログに書く余裕はない。本の感想は一歩間違えると感受性や頭の中身をうたがわれてしまうので、じつはおいそれとはかけないのだ。あれだけ書いていたのは、要するに時間が有り余っていたことの裏返しである。
でも、角幡は最近本読まなくなったんだな、と思われるのもしゃくだし、もしかしたらブログに積極的に本のことを書いたら書評の仕事も増えるかもしれない。ということで、メモかわりにこれからは読んだ本を短いコメント付きで定期的に紹介することにする。まあ、今、思い付きではじめた企画なので、一回で終わってしまうかもしれないが。
身ぶりと言葉 (ちくま学芸文庫) | |
Andr´e Leroi‐Gourhan,荒木 亨 | |
筑摩書房 |
ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』
人間の進化の動的パースペクティブをしめした人類学の壮大な大著。人間が記憶を外化していくシステムや,都市や書字をめぐる一貫した単純化、機能化の原理などはマクルーハンの『メディア論』にもつながるところがあり、非常に示唆にとむ。結構みんな考えることは一緒なんだねと思った。あとフランス人の本ってなんでこんなに読みにくいんだろうと改めて思った。たぶん論理よりも感覚的に書いているから、邦訳したときにその感覚が伝わらないんだろうな。星三つ。
狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ | |
梯 久美子 | |
新潮社 |
梯久美子『狂うひと』
非常に話題になっているノンフィクションで、新潮の人からも圧倒的と聞かされていたので、帰国後すぐに読んだ。書くことの原罪や業、島尾夫婦の生活が表現至上主義的な狂気をおびていたところを暴いていて面白かったが、期待したほど圧倒的な読後感はなかった。ルポが少なく、どちらかといえば文芸評論的な性格が強いからだろうか。あと、書き手の目から見ると、島尾ミホ死後にみつかった新資料に助けられているなという気がして、それはちょっと羨ましかった。星四つ。
中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) | |
國分功一郎 | |
医学書院 |
國分功一郎『中動態の世界』
すごい面白かった。動詞の態は現在では能動と受動しかしられていないが、じつは昔、中動態という態があり、その謎を暴いていく知的ミステリーという感じ。謎が謎を呼び、次第にじつはわれわれの生活や会話や動作などすべてじつは中動態的なのだということわかっていく。『暇と退屈の倫理学』より普遍的な存在論をあつかっており、万人にとって新たな知的発見をもたらすだろう。安倍晋三にもぜひ読んでもらいたい。最後の自由へとつながる結論は、自分が登山や探検で感じる自由の概念ともつながっており、深く納得。機会があれば私が探検で発見する自由が中動態的にどのように位置づけられるのか、意見を訊いてみたい。誰か対談を企画してくれないだろうか。ちなみに中動態なんてきいたこともないと思っていたが、以前、挫折したアガンベン『身体の使用』に非常に詳しく説明されていた(國分さんが何度も参照していたので、気がついたのだった)。こっちは難解すぎて全然頭に残っていなかったらしい。いつかまた挑戦してみよう。星五つ
意識と本質―精神的東洋を索めて (岩波文庫) | |
井筒 俊彦 | |
岩波書店 |
井筒俊彦『意識と本質』
知人に勧められて読んだが、凄まじい本だった(正確にいえば勧められたのは『意味の深みへ』という別の本だったが、高いので廉価なこっちを先に買った)。言語は外界の事物に意味をあたえて構造化するが、その言語以前の混沌とした無分節世界がどのような世界で、東洋哲学がどのように絶対無分節的境地にアプローチしてきたかが語られる。圧倒的な内容だったが、記憶力の悪い私にはその圧倒感しかのこっておらず、詳細は忘れてしまったので、興味のある方は読んでほしい。言語化以前の世界にいる赤ん坊は仏であり、言葉を覚えて外界を意味化し、そのうち意味によって構造化された外界に次第に取り込まれていき、最後はつまらない大人ができあがるという人間の成長過程がよくわかった。それに極夜もある意味、言語化以前の混沌とした世界だったことも。私はあのとき御仏だったのだろうか。
もしかしたら私が対談しなければならないのは國分さんではなく、道元あたりなのではないか。「いやー絶対無分節的混沌って解脱的で面白いですよね~」みたいな感じで話がもりあがるかもしれない。764年前に死んでしまったのが残念だ。星六つ
最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く | |
櫻井 祐子 | |
文藝春秋 |
ボン・ペッツィンガー『最古の文字なのか?』
旧石器時代人の表象能力について最新の研究成果がわかったのは収穫だが、肝心の記号が文字なのかどうかが結局?で、ストレスがたまった。星三つ
雷電本紀 (小学館文庫) | |
飯嶋 和一 | |
小学館 |
飯島和一『雷電本紀』
飯島ファン(に最近なりかけている)、相撲ファンとしては非常に期待が高かったが、稀勢の里が照ノ富士に勝った一番のほうが興奮した。飯島和一は評伝ものより、多数の人間がそれぞれ細胞となってひとつの事件に否応なしに流されていく『出星前夜』のような絵巻物的物語のほうがスリリングで文体的に合っている気がする。次は何を読もうかな。星三つ
神話と日本人の心〈〈物語と日本人の心〉コレクションIII〉 (岩波現代文庫) | |
河合 俊雄 | |
岩波書店 |
河合隼雄『神話と日本人の心』
極夜探検の原稿を書くのに、とりあえず基礎知識としてユングの心理学ぐらいは知っておいたほうがいいかなと思い、とりあえずとっつきやすい河合隼雄の本からはじめた。昔は河合隼雄の文章はすべすべしすぎていて苦手だったが、今回はとても面白く読めた。わかりやすい文章ってすばらしいな。この本はユングの心理学というより、日本人の意識構造の特殊性(河合がいうトライアッドの構造)がわかって、納得。星四つ
世界宗教史〈1〉石器時代からエレウシスの密儀まで(上) (ちくま学芸文庫) | |
Mircea Eliade,中村 恭子 | |
筑摩書房 |
エリアーデ『世界宗教史』1
これもお勉強用。概説なので、一番知りたかった人間の原初的な太陽や天体にたいする聖性理論については、あまりよくわからなかった。2も買ったが、まだ読んでいない。2の前に、同じエリアーデの『太陽と天空神』を読もう。星三つ
探検家の日々本本 | |
角幡 唯介 | |
幻冬舎 |
今度文庫化。面白い。星五百
ここまで書いたところで、疲れたのでまた次回。