白夜の炎

原発の問題・世界の出来事・本・映画

ヨーロッパで何が起こっていたか―日刊べリタより

2012-01-13 09:57:51 | EU
「ブルデューの死から10年 ~欧州を改造した知的傭兵部隊~


  フランスの社会学者・思想家のピエール・ブルデュー(Pierre Bourdieu,1930-2002)は亡くなる少し前に来日講演を行っている。この時の講演録は「新しい社会運動~ネオリベラリズムと新しい社会支配~」というタイトルで藤原書店から加藤晴久訳で出た。この本が刊行されたのは2001年9月20日で、これは9・11同時多発テロのすぐ後である。そして、ブルデューは翌年、2002年1月に亡くなった。

  今年はブルデュー没後10年である。フランスではブルデューが遺した講義録から「国家について」が新たに発刊され、今月はシンポジウムも開催される。

 「「ハビトゥス」「文化資本」「界」といった概念を駆使した力動的構造主義社会・文化理論で知られるフランスの社会学者ピエール・ブルデューは、いまや世界の人文・社会科学でE・デュルケームやM・ウェーバーのそれに並ぶ大きな影響を及ぼしている」(加藤晴久氏)。ブルデューが亡くなって10年の間に世界で起こった数々の出来事を今思う。ブルデューがいたら世界が変わっていたということはできないかもしれないが、もしかすると違った世界が生まれていたと思ってみることは許されるだろう。

  「新しい社会運動~ネオリベラリズムと新しい社会支配~」はブルデューが日本の聴衆に向けたメッセージである。この中に欧州連合のあり方について危惧しているくだりが出てくる。何かの資料をブルデューは読み上げているらしいのだが、それによると、EU(欧州連合)本部のあるブリュッセルにはロビー活動を行うプロが1万人以上駐在していて、EU委員会、EU閣僚評議会、EU議会の廊下を徘徊しているという。これらロビーストの大半が広告会社や産業部門の連盟ないしは個別企業の代理人であるという。

  「・・・支配的勢力はこうして膨大な量の知的生産物を利用することができます。たとえばAMCHAM、つまりアメリカ商業会議所連合会は1998年だけで、本を10点、報告書を60点以上刊行し、EU委員会やEU議会を相手に開かれた約350の会合に参加しているのです。(しかもこうした裏の仕事は新聞には載っても、ジャーナリストには何が起こったのか、何が起こりつつあるのか、理解できないで終わるのです。)」

  欧州連合を動かしているのは欧州の民衆ではなく、企業や特定国の利益を代表する人々であるという。ブルデューは彼らを支配的勢力の知的「傭兵」部隊とぶ。さらに彼らが行使する力を「象徴権力」と呼び、新たな支配形態において象徴権力が決定的な重みを持つと警告する。これはロビー活動だけでなく、出版・新聞・テレビ・ラジオなどを含めた言論活動すべての分野を覆い尽くすとする。

  しかし、ブルデューはここで特定の人々が世界を動かしているとする「陰謀理論」を否定する。むしろ世界各国における支配層が学校システムを支配層の再生産に使い、エリート校において支配層の子弟が仲間になることが世界の新たな支配形態を生み出すとする。それらの学校は世界の大学ランキングで上位に登場するような施設である。(昨今の新書の著者紹介欄にどのくらいたくさんの学歴が記されていることか。)学友たちは国境を越えて結びつき、政治家・エコノミスト・科学者など、のちに様々な領域で連帯を築く。そして、グローバル化の中、国境を越えてある支配的思潮が作りだされていくとする。そこで用いられるのが既存の経済理論だという。

  「こうした象徴的強制、象徴的暴力の過程での経済理論の役割は非常に重大であると思います。たとえば今日ではすべてのジャーナリストが株価曲線を見ることができます。下手な外国語を話すのと同じように、学問的な言語を使います。もっともらしい語を使い分けて見せるわけです。支配層や専門家が借用する経済理論、一見理論的な議論は学問の権威からその効力の多くを引き出しています。わたしは歴史上はじめて科学的イデオロギーなるものが出現したと考えています。」

  支配層が新たな経済システムを推進するときに、露払いとなる知的傭兵部隊が活動する。ブルデューの指摘は日本においても当てはまるだろう。バブル化であれ、グローバル化であれ、過去30年間に日本で起きた変化の潮流を振り返れば常に露払いとなる人々が雑誌や新聞、出版で注目を集めてきた。こうした人々はこれから「・・・の時代」と唱えるのである。それに対してアンチの人々が注目を集める機会は少ない。


  ブルデューはこうした勢力に対抗するためには社会科学の分野から自分たちが長年蓄積した知的資本を横流ししてくれる「裏切り者」と連携しなくてはならない、としている。ブルデュー自身は税金で養われた公共機関(1964年から社会科学高等研究院教授、1981年からコレージュ・ド・フランス教授)の人間であるから当然、その成果を公衆に還元すべきであると考えると語っている。昔は日本においても国立大学を出た人間の多くは税金で自分が養われた意味を考え、それを社会に還元する責務を負うと思っていたものである。

■「ヨーロッパ株式会社」(Europe Inc.)

  ブルデューが紹介した本書はオランダの4人の社会学者がEU本部の133号室で何が行われているかを研究した成果だという。そこには誰一人として選挙を経ていない12人の高官が民主主義、自由、自由貿易の名の下に欧州諸国民の運命を決めているとされる。著者はAnne Doherty,Olivier Hoedeman, Adam Ma'Anit,Erik Wesselius.の4人。

http://www.amazon.co.jp/Europe-Inc-Regional-Restructuring-Corporate/dp/0745321631#_

http://archive.corporateeurope.org/incadd.html

  英国のインディペンデント紙だったと記憶するが、10年ほど前に欧州連合の政策が東欧の農民にどのような影響をもたらしているかをレポートした記事を読んだことがある。それがあまりにも強烈な内容だったので今日においても忘れることができない。

  ソ連崩壊後、東欧の諸国は欧州連合入りを目指したがそのためにはおびただしいルールを押し付けられていたのである。自由という言葉とは裏腹に、たとえば国内政策では農業ひとつとっても農家1戸あたりの農地の最低面積はこれ以上とか、農業生産性はフランス並みに高めろといったおびただしい条項があるという。記憶ではすべての産業やその他の法制度などを総合すると欧州連合入りするための規定が8万ページにわたるというのだ。この8万ページと言うのはちょっと信じられない数字である。記憶違いかもしれないが、あるいはもしかするとさまざまな産業ごとに累積するとそれぐらいになるのかもしれない。それにしても、いったい「自由」とは何なのだ?

   欧州連合に加盟した東欧諸国は農業の「近代化」を押し付けられた結果、多くの小農民たちは土地の集約化・大規模農業化のために土地を追われ、都市に出てルンペンと化しているというのだった。しかし、これらの国では土地を失った農民が都市に出てもさしたる産業も形成されていない。これは北米自由貿易協定(NAFTA)を締結した後のメキシコのトウモロコシ農民たちの末路に似ている。

  ポーランドでは牛や馬を使うなど14世紀の農業が未だに行われているところもあり、こうした農業は近代化=欧州化の規制の下に消失の危機にあると書かれていた。それは地方文化の消滅にもつながりかねない。皮肉なことは欧州連合が押し付けている農業政策とは逆に有機農業を核とするスローフードが世界の潮流となろうとしていることである。東欧の変化はメキシコなどラテンアメリカの変化と同時に考えるべきではないか。

■ハンガリーで極右政党が台頭  金融危機を背景に第三位の政党に

  ハンガリーは2004年に欧州連合入りを果たした。しかし、ハンガリーはアメリカ発金融恐慌が欧州に飛び火する中、欧州で最も強い打撃を受けたと言われる。社会党を中心とするリベラル路線の与党は欧州連合加盟に沿ってユーロの導入を目指した。しかし、そのために強いられた「行政改革・医療改革・教育改革」などの財政改革が国民の大きな反発を生んだ。行財政改革による失業者の増大とリーマンショックに端を発するアメリカ発金融恐慌の飛び火によって、ハンガリーは二重のダメージを受けることになった。
  2010年の総選挙では右派政党(フィデスとキリスト教民主国民党)が議員総数の3分の2以上を占める圧勝をし、与党だけで憲法改正ができる状況を招いた。昨年4月には憲法改正を国会で決議し、今年1月1日に新憲法が施行された。しかし、憲法改正を民主主義の危機と考える市民がデモを行っている。

  「ハンガリーは東欧の中でもアメリカ発の金融危機で最も打撃を受けた国に入る。誰かに責任を押し付けたい、という心理がJobbik党の躍進の背景に働いているという。ハンガリーでは第二次大戦中、ロマとユダヤ人が強制収容所に入れられた過去がある。ハンガリーには現在、ユダヤ人が約10万人暮らしている。Jobbik党は「イスラエルなどの外国人投機筋がハンガリーを乗っ取ろうとしている」と訴えている。その主な支持基盤は農村の失業者だという。」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201006040127515

→日刊べリタ http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201201091900351

原発に暴力団が不法に労働者を派遣―続報

2012-01-13 09:47:37 | EU
 暴力団関係の福島原発への労働者派遣問題の続報(→「原発作業員、暴力団関与の会社が不正派遣か?」http://blog.goo.ne.jp/baileng/e/a6db820aa54af5add7b75944927c03c3)

「<職安法違反>原発に不正派遣 工藤会系組長の妻らを逮捕

毎日新聞 1月13日(金)8時38分配信

 福岡、福井両県警は12日、福井県おおい町の関西電力大飯原発改修工事に労働者を「偽装請負」で不正派遣したとして▽福井県敦賀市、太平電業福井地区営業所長(当時大飯事業所長)、一瀬秀夫(58)▽京都府舞鶴市、高田機工社長、富田好(59)▽北九州市若松区、ドリーム(当時総進工業)役員、池上加奈枝(36)の3容疑者を職業安定法違反容疑で逮捕した。

 両県警は、労働者の派遣元となった総進工業の役員だった池上容疑者が指定暴力団工藤会(北九州市)系組長の妻と確認しており、原発への労働者派遣が工藤会の資金源になったとみている。原発関連工事への労働者派遣を巡って暴力団の関与を視野に強制捜査するのは極めて異例。全国の原発労働のあり方に影響を与える可能性もある。

 逮捕容疑は10年3月上旬~9月下旬、請負契約を装って総進工業社員の男性を大飯原発の改修工事に従事する労働者として派遣し、男性を太平電業の指揮下において改修工事に従事させたとしている。3人とも容疑を認めているという。

 福岡県警などによると、総進工業と高田機工、高田機工と太平電業の2段階で請負契約を装っていた。請負契約を結んだ業者は、発注者の太平電業から独立して業務を行わなければならないが、派遣された男性は太平電業社員の指揮下で配管の取り換え工事などに従事しており、両県警は実態は現場に送り込まれただけの派遣労働とみている。同様に不正派遣された労働者が複数いるとみられ、「偽装請負」が常態化していた可能性があるという。

 原発労働を巡っては、複数の派遣会社の介在による給料の中間搾取が問題視されており、労働者の派遣元として暴力団の関与も指摘されている。福島第1原発の事故処理についても、発注者である東京電力は警察庁から暴力団との関係遮断を指導されており、昨年7月には元請け業者22社と暴力団排除協議会を設置している。太平電業は1947年設立で資本金約40億円の東証1部上場企業。全国各地で原発の建設や補修を行い、福島第1原発の事故処理にも当たっている。11年3月期決算の売り上げは約618億円。」

福島の現実―ハンギョレサバランから

2012-01-13 09:37:51 | 放射能
「 "福島県のナンバープレートをつけて運転している間、他の車両が遠くに避ける経験を体験した住民もいます。 また、有機農法で未来を夢見た農民の中で、農地が放射能に汚染されたことを悲観して自殺した農民も少なくありません…。"

 昨年3月、日本、福島原子力発電所事故以後、現地住民たちがどれほど苦痛な生活を送っているかを日本の大学教授が国内学術大会で公開する。 日本、東京の法政大学の牧野英二教授(哲学科)は13日、嘉泉大学校アジア文化研究所主催の国際学術大会で‘アジア文化研究と福島原子力発電所事故の話’を主題に発表する。 牧野教授は法政大学持続可能性研究教育機構 哲学・倫理学専攻研究員として、昨年10月地震・原発事故支援プロジェクトに参加して、住民との対話を口述史(oral history)として記録した。

 12日にあらかじめ公開した資料によれば、牧野教授は「日本社会が近代以後の最大危機に直面している」と前提にした後、原子力発電所事故の後遺症で苦痛を味わっている福島県住民たちの胸の内を切々と紹介した。 彼は「放射能伝染の噂に福島県に住むという理由だけで偏見と差別にあい、心に傷を負った人が少なくない」として「富裕層は福島を離れているが、原子力発電所がない沖縄への移住が急増した」と明らかにした。

 牧野教授は続けて「県外へ移住した人々でさえ出身地を隠さなければならず、大多数は新しい仕事を見つけられず生活に困難をきたしている」として「臨時住宅や避難施設で亡くなった高齢者も多い」と伝えた。 また「放射能汚染にともなう奇形児出産を憂慮して若い女性が妊娠と出産を忌避し、離婚や家庭崩壊の悲劇につながっている」として「このような話をマスコミも詳しく扱わないし、多くの住民も話そうとしない」と伝えた。

 特に牧野教授は原子力中心のエネルギー政策を含めて、環境政策に画期的な変化が必要だと注文した。 彼は「福島原子力発電所事故は世代を越えて伝統文化や衣食住、生活様式とその基盤を根こそぎ破壊した」として「日本政府の原子力発電所技術輸出は遠からず東アジアの伝統文化や生活様式を大規模に破壊する可能性がある」と警告した。

 カント哲学を研究した彼は最近、安重根義士の‘東洋平和論’に関心を持ち、安重根記念事業会委員として活動中だ。

城南(ソンナム)/キム・キソン記者 player009@hani.co.kr」

(http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1584269.html#more)