脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

愛称に近いクラブの名称と商標登録の壁

2007年11月16日 | 脚で語るJリーグ


 来季からのJリーグ参入を確定させているロッソ熊本が、チーム名をロアッソ熊本に変更する方向で固めているようだ。Jリーグクラブの名称には商標登録が必要であり、今回の熊本のケースはイタリア語で「赤」を意味する「ロッソ」が既に出版社などで登録されているものだという。
 
 これまでも現在Jリーグで戦うクラブの幾つかはJリーグ参入時などにその名称が変わっている。例えば、アルビレオ新潟がアルビレックス新潟に、大分トリニティが大分トリニータへ、鳥栖フューチャーズはサガン鳥栖になり、ブランメル仙台はベガルタ仙台、福岡ブルックスはアビスパ福岡へと名称を変えてきた。鳥栖は、完全にクラブが変わってしまったという経緯がありながらも、その他のクラブは皆この商標登録の壁にぶつかってきたわけである。まさにその登録商標の数恐るべしといえるだろう。
 
 しかし、熊本の場合は少し「ロッソ」という名称は安易過ぎたかもしれない。ブランメル(英語で伊達男という意味)でさえ登録商標で存在していたというのだから、イタリア語であっても単純に色の名前ではこの壁にぶつかるのも無理はないだろう。クラブの名称はファンへの愛着という点では非常に重要な要素であり、チームグッズなど営業面にも大きく影響してくる。これからJリーグ参入を控え、クラブの全ての面で更なるグレードアップが必要されるタイミングでまだ良かっただろう。そういう意味ではクラブ創立時から応援を続けるサポーターには少し残念なことかも知れないが、商標登録を義務付けるというのはJクラブ運営の命綱となる。

 その点、クラブ名称に基づいた「愛称」というのは非常に便利だ。プレミアリーグに見られるようにアーセナルが「ガナーズ」、リバプールが「レッズ」、トッテナムが「スパーズ」でニューキャッスルが「マグバイズ」など多くのクラブがその愛称で世界的に親しまれている。Jリーグでももっとこういった愛称が定着すればまた面白いのだが。
 先日、アジア王者の輝いた浦和は「レッズ」という愛称がすっかり日本では定着した。正式には「浦和レッドダイヤモンズ」だが、「浦和レッズ」があたかも正式名称のように独り歩きしている。まだJリーグを見渡してもここまで愛称の定着しているクラブは皆無だ。せめてそのクラブの地名で呼ばれるぐらいだろう。

 Jリーグは「チーム名=愛称」の意味合いが強い。かつて開幕時にはそれぞれ親会社など企業名が入った正式なチーム名があったが、(例:ヴェルディ川崎=読売日本サッカークラブ)企業色から脱却を図るJリーグの構想から、現在では全てのチームが正式なチーム名を一般的に認識されている名前としている。初めてイレギュラーなケースとして登場したのが、2000年にJ昇格を果たしたFC東京であった。
 FC東京はJリーグでは初めてチーム名が愛称とイコールにならない欧州スタンダードとも言うべきチーム名であった。通常ではそれぞれのチームに設定されているようなマスコットキャラクターというコンセプトもない。純粋にホームタウンのサッカークラブであることを地で唱えるシンプルな名前である。
 しかしながら、FC東京の愛称を日頃耳にするかと言われれば、そんなことは無い。近年では、横浜FCや愛媛FCなどFC東京を模した形でチーム名を発足させるところも見られてきた。これらのチームはその名前を登録商標とさせる必要もなく、シンプルながら本来のチーム名の在るべき姿を表しているのかもしれない。

 チーム名が変わってしまうのはファンや関係者にとっても心機一転リスタートを図る意味ではいいのかもしれないが、J参入を志すクラブは商標登録の問題を充分視野に入れたチーム名を最初から設定しなければならない。そしてそれ以上に日本のチーム名の極めて愛称に近いネーミングが欧州などと少し路線を分かつように感じるのである。
 今回のロッソ熊本からロアッソ熊本への名称変更はそんな日本サッカーの独自路線を垣間見た印象的なトピックスであった。

アジア王者浦和の前に立ちはだかる世界 ~ACミラン~

2007年11月15日 | 脚で語る欧州・海外


 良い試合だった。ピッチで戦う選手たち、それを支えたサポーターやクラブ関係者全員で掴んだアジア王者の座。現行のACLとなって初めて日本からチャンピオンが誕生した。浦和のアジア制覇には手放しで賛辞を送るべきだろう。
 
 しかし試合後、平日が故に足早にその場を去っていく観戦者を尻目に観戦していたサッカーバーのマスターとこんな会話があった。
「これでクラブワールドカップの本番でセパハンに負けたりして・・・」
確かにこれでクラブワールドカップでは1回戦のセパハンVSワイタケレ・ユナイテッドの勝者と浦和は対峙することになり、もう一度セパハンと対戦する可能性も無いわけではない。12/10に豊田スタジアムで行われる浦和の世界一を狙う初戦はセパハンにとっては格好のリベンジ機会となるのだ。
 アジア制覇を喜ぶのは当事者も含めて今日だけにしておかなければならないかもしれない。これはあくまで通過点であり、12月には南米王者のボカ・ジュニアーズ、欧州王者のACミランを含めた世界の強豪と未踏のレベルの戦いが待ち受けている。浦和は初戦を勝てば、12/13に横浜で欧州王者のACミランと戦うことになる。これは実に楽しみなマッチアップになろう。

 現在セリエAでは今季未だ3勝5分3敗と調子の上がっていないミランだが、UEFAチャンピンズリーグではD組でわずか1敗をキープし、グループリーグ4節終了時点で首位をひた走る。スタメン選手の高齢化や顕著な前線の駒不足など様々な問題点が浮き彫りになっている欧州王者だが、浦和を相手にするならばどう戦うのか今から非常に注目するところである。この大会が始まって3年目、過去の世界一はサンパウロFC、インテルナシオナルと南米王者がその栄誉に輝いているだけにUEFA圏内の誇りをかけて彼らは世界一を獲りに来るはずだ。そうでなければ面白くない。是非浦和とのマッチアップが実現した際には本気で戦うミランを観たいというのは言うまでもない。

 今季11試合消化した現在カルチョでわずか9失点のミラン守備陣を破るのは至難だ。浦和は得点源のワシントンが度重なる造反劇も手伝って、今季限りで放出確実という情報も聞かれる。彼の力が無ければミランから得点を奪うのは非常に厳しいだけに、これから世界戦の本番を迎える浦和にとってはしばしの間それらの件はタブーを徹底して臨むべきだろう。
 今季は4-4-2と4-5-1を併用しているミラン。その布陣はチームが今季波の目立つことだけあって非常に読みにくい。基本的には4-4-2か。
 イタリア代表から退いたとはいえ、グルジア代表のカラーゼと最高のコンビを見せるネスタを中心にミランの守りは中央から堅い。SBには世界最高の右SBと長らく評されたカフーも健在。オッドやボネーラが起用されることもあるが、マルディーニやヤンクロフスキが控える左SBと共に攻撃に比重を置く右サイドは強力だ。
 そして何よりも中盤は攻守のタクトを振るうピルロを中心に右にガットゥーゾ、左にアンブロジーニ、トップ下にセードルフとカカという世界最高の逸材が顔を揃える。バイタルエリアは決死の覚悟でボールを奪いにいかないとそう易々とポゼッションは握れない。彼らを上回れるのはただ一つスピードか。今夜の試合で鈴木啓太が時折見せた魂のプレッシングが最必須課題となってくるだろう。
 前線はしばし戦列を離れていた「フェノーメノ(怪物)」ことロナウドが帰還する。ジラルディーノとインザーギも調子は悪くないだけにロナウドの復帰はミランにとっては大きい。彼と1対1の局面を迎えることだけは浦和も絶対に避けなければならない。FWが点を取れなくてもカカが現在カルチョでチーム得点王だけにどこからでもゴールは狙われるということを頭に叩き込んでおくべきだ。これまで戦ってきたどのチームよりも強いのは確かなのだから。

 今季マンUと戦ったイメージは払拭して臨むべきだ。これは親善試合ではないし、100年以上の歳月をかけて日々戦争を繰り広げている欧州王者が来るわけである。サポーターは横浜国際を埋め尽くす覚悟で浦和を全身全霊サポートすべきだ。
 しかし、今から非常に楽しみになってきたクラブワールドカップ。一足早くミラン戦をプレビューさせて頂いたが、興行的にも一番楽しみにしているのは日本サイドか。決勝以外のチケットもこれで例年よりは売れるだろう。
 真っ赤に染まり、最高の試合がピッチで繰り広げられるのを今から楽しみしている日本のファンは数知れない。そのためにもセパハンにリベンジされることは絶対に許されないぞ、浦和レッズ。

 

必然だった浦和の強さ ~三菱重工から浦和へ~

2007年11月14日 | 脚で語るJリーグ


 日付が変わって今日、遂にACL決勝戦第2戦がさいたまスタジアム2002で行われる。浦和がアジア王者になるのか、日本中のサッカーファンが注目する瞬間が迫っている。この決勝戦に勝てばアジア王者としてクラブワールドカップへの出場権を文句無しに獲得できる。日本サッカー史上歴史的な1日になるかもしれない。

 民国96年氏のブログ記事に感化されて、自身も浦和について持論をさらに展開させて頂ければと思う。かつてここでも日本代表として浦和のアジア制覇を支持する記事を書いたわけだが、確かに民国96年氏がおっしゃるようにG大阪サポの立場から浦和を見ることで、この世界への切符を掴もうとしているアジア覇者に対抗できるのはG大阪しかないという強烈な自負が気持ちの背後にあるのは否定できない。それは皆同じことであろう。
 しかしながら、筆者にはまた別の思いも頭をよぎるわけである。この浦和のサクセスストーリーは必然だったのではないかという思いが。

 この持論を展開するには浦和レッズの前身である三菱重工業サッカー部時代まで遡ることになる。浦和が現在の浦和たる地位を築いたのは幾つかのターニングポイントに起因されていると個人的には考えている。それは名門三菱重工時代からの選手が後々もクラブの幹としてその発展に多く携わってきたことだろう。サッカー不毛の日本で酸いも甘いも味わったかつての名選手たちが今日の浦和レッズをその大きな経験値で築き上げたのである。
 1965年にJリーグの前身である日本サッカーリーグ(JSL)は開幕した。日立、古河といった丸の内御三家の一つとして三菱は日本に産声の上がったサッカーリーグの運営を中心で担うことになる。企業としても申し分ない格を誇る三菱には開幕の前年に行われた東京五輪でも活躍した片山洋や継谷昌三といった日本代表の選手がかねてから在籍していた。それを追うように後にメキシコ五輪で日本が銅メダルを獲得する原動力にもなる元祖レフティのFW杉山隆一、後に日本代表監督も務めるGK横山謙三、J開幕時に浦和の初代監督に就任する森孝慈などが三菱の門戸を叩くこととなる。
 日本に全国展開でサッカーリーグができるなど、その当時は夢物語に等しかった。スポーツとしても野球やバレーボールと比べれば非常にマイナーなこのサッカーが日本リーグとして展開できたのは、1956年に全国都市対抗サッカー選手権大会でその三菱が準優勝を遂げ、後に1959年から1961年までの3連覇を達成する古河電工と共に全国に丸の内御三家の文武両道ぶりを強烈にアピールした成果が大きい。日立も含めて丸の内御三家はJSL創設時のオリジナル8に属する。そのJSLで三菱重工サッカー部は通算最多勝利と最多勝ち点を誇る伝説を残しているのだ。JSLでは4度の優勝、そして通算出場選手の2位に落合弘、4位に斉藤和夫(後にB仙台、浦和の監督を務める)といった鉄人選手も残している。
 この三菱重工が三菱自工を経て現在の浦和レッドダイヤモンズに変貌を遂げるわけだが、筆者が思うに三菱時代の歴史を担った重鎮たちが現在までクラブに多く残っているのは今日までの浦和にとって非常に大きいはずだ。初代監督の森孝慈と2代目監督の横山謙三は前述の通りかつて三菱で活躍した名選手であり、共に日本代表の監督まで歴任している。その森孝慈の実兄である森健兒はJリーグ創設時に川淵三郎と共に多くの舵取りをこなした功労者。かつてはアマチュアリズム全盛の日本サッカーにおいて練習環境の改善を図るなど三菱躍進を影で支えた人物でもある。前社長であり、現在のJリーグ専務理事を務める犬飼基昭もキャリアこそは短かったが元三菱の選手であり、現社長の藤口光紀も日本代表まで駆け上がった三菱時代の名選手である。原博実や斉藤和夫といった浦和の指揮官を歴任してきたOBたちも数知れない。

 Jリーグ開幕時とその翌年に4ステージ連続で最下位を突っ走った浦和の姿は幻影に違いなかった。開幕の前年に先駆けて行われたナビスコ杯では準決勝でその姿を消したが、開幕前は名門三菱の名残もあり、多くのファンが強い浦和の姿を追い求めた。筆者はこの最初の2年間は浦和に世代交代のバイオリズムが欠けていたと思っている。JSL時代からのベテラン選手と南米路線から東欧路線へのシフトが完全に噛みあっていなかった。ルンメニゲの実弟が来たときには浦和のコネクションはタダ者ではないなと感じたのを鮮明に覚えている。いつかこのチームは強くなるだろうと感じていた。
 「Jのお荷物」と呼ばれながらも名門復活を遂げた95年シーズン、オジェック第一次政権となったこの年に前年から加入していた元西ドイツ代表ブッフバルトやこの年に加入したバインらの活躍もあり、三菱時代からクラブに残る福田正博は日本人初の得点王に輝いた。三菱時代の輝きを取り戻した浦和の姿がそこにはあったのだ。福田以外にも広瀬治という三菱時代からの盟友も強豪へと姿を変えるクラブを支えた。
 しかしその後去りゆくJリーグバブルと共に浦和の強さも長続きせず、陰りが見え始める。親会社の三菱自工の不振もあり、ブッフバルトの退団を機に中位を彷徨うチームに。小野伸二の加入で原監督時代にシーズン3位という結果を残すもその力はフロックであり、翌年悪夢のJ2降格すら経験してしまう。ここから浦和が真の強豪へと変貌を遂げる次のターニングポイントまで歳月は4年を費やした。

 その後のターニングポイントは03年。前年就任したOB社長の犬飼基昭とGMに就任していた森孝慈の大号令の下で地域にサッカーを育成だけでなく心の成長の側面から捉えたハートフルクラブを設立。三菱の選手としてJSL最多出場を誇った往年の名選手落合弘がその代表を務める。またこの年は様々な問題に直面した親会社三菱自工から名実共に成長したクラブが独り立ちを図りだした年でもあった。クラブもナビスコ杯優勝で初タイトルを戴冠する記念のこの年から顕著に浦和はJリーグで最も強固なクラブへと変貌を遂げていくのである。それは前述した犬飼をはじめ、三菱時代をよく知るOBたちの働きが何よりも大きかった。
 2年後の05年、1シーズン制となり最後まで優勝争いに絡んだが、リーグ初優勝はならずも三菱から脱却し、自立経営の道を歩み出したのである。そして現在の浦和レッズがここにある。

 名門三菱重工時代のOBに愛されて止まないこのクラブは決して歩みを止めることは無かった。戦いの場ががJ2であろうと。弱小と呼ばれたクラブ黎明期もそして現在も浦和のDNAは変わらない。J屈指のサポーターも同じくである。ここまでOBに愛され、その彼らの尽力によって成長を遂げてきた歴史を持つクラブが他にあるだろうか。私はここにこそ浦和の強さの要因が大きくあるのだろうと考えるのだ。このクラブで選手生命を果てようと考える選手は多い。そしてその選手たちは引退後も浦和でセカンドキャリアを捧げたいと自然に考えるように至るのだ。
 彼らは今、新たなターニングポイントを迎えようとしているのかもしれない。アジア王者になることで世界的クラブへと更なる成長を遂げる浦和。ここには脈々と三菱時代から受け継がれる確かなクラブ愛とそれがもたらすクラブとしての驚異的な成長の歴史がある。

 さて今夜は彼らの戦いぶりをじっくりと見守りたい。タイムアップの笛がなるその瞬間に名門のDNAを支えてきた全てのOBやスタッフ、選手、サポーターからこぼれるであろう涙は勝者のサクセスストーリーがひとまず結実したことを意味する。50年以上に渡る名門の歴史とDNAとクラブ愛が世界に日本のクラブを送り出す瞬間が訪れようとしているのだ。 

ロッソ熊本の昇格とカターレ富山の誕生

2007年11月12日 | 脚で語るJFL


 11日のFC琉球戦に4-0と勝利したことで、今季のJFL4位以内が決まり、来季のJ2参入がほぼ確定となったロッソ熊本。このFC琉球戦もかつてJで戦った小森田(元福岡、大分、山形、神戸)、矢野(元G大阪)、高橋(元広島、大宮、千葉)といった経験者が得点を生み出し、Jへリベンジする執念を見せてくれた形となった。
 何しろ、J経験者という意味では熊本の選手層はJFLでも抜きん出ているといっていいだろう。同じく来季のJ参入を狙うFC岐阜も経験者は多い。しかしながらクラブ組織の充実度は熊本の方が遙かに充実している。Jへ向けて準備万端といった様子だ。

 しかし、正直なところ今季のJFLのレギュレーションの甘さに助けられたことは正直なところだろう。J2のチーム数増大の方針から恩恵を受けた格好だが、首位の佐川急便の圧倒的な強さを考えると「4位以内」の確定だけで喜べるのは甚だ幸せなことである。勝ち点11差で首位を走る佐川急便は失点数28というのは熊本と同じ数字ながら得点数で17得点も熊本の上を行く。順位表だけ見れば1試合消化試合数が少ない佐川急便のこの強さはやはり目立つ。熊本のこのJ参入確定の裏で彼らは流経大に大敗を喫して、優勝を決められなかったのである。何はともあれ、J参入の基準をクリアできたことは賛辞を送るべきであり、来季の熊本のJを戦う姿に期待したいところだ。Jはそんなに甘くないということだけクラブも改めて肝に命じるべきであるが。

 そんなJFLで戦う北陸の2チーム、YKK APとアローズ北陸が合併し、来季からJを狙うクラブに変貌を遂げることは皆さんもご承知の通り。そのクラブ名が12日に「カターレ富山」となることが決まった。

 1086通の一般応募から名付けられたこのチーム名は富山の方言で「勝て」という意味の「勝たれ」をもじったもの。四国リーグを戦うカマタマーレ讃岐をニュアンスはかぶるが、シンプルで子供たちも覚えやすくでいいだろう。そのカターレ富山は来季からJ参入を目指して戦うことになる。
 今から気になるのはその陣容だ。現在はまだ何も決まっていないが、12日現在YKK APは勝ち点55でJFLの3位、アローズ北陸は同52で5位を走る強豪。熊本に続けとJ参入を狙うFC岐阜を挟んでいるほどの好成績である。特にYKK APは熊本を上回る60得点のリーグ2位の得点力、そしてアローズ北陸は佐川急便、熊本、岐阜の28失点に肉薄するリーグ2位の失点数を誇っている。プロクラブ泣かせのアマチュアチームが力を合わせるとどれだけのものになるかが今から非常に楽しみである。

 YKK APはチームの得点源でもあるMF朝日大輔、U-17、U-21代表歴も持つFW北野翔(元横浜FM、神戸)、JFL新人王とベストイレブンの経験もある主将MF長谷川満やMF牛鼻健(元福岡)、百戦錬磨のDF濱野勇気、DF小田切道治(元京都、甲府)あたりが新チームの中心となるだろう。
 アローズ北陸も少なからず存在するGK藤川康司(元鳥栖)、DF金明輝(元市原)、MF渡辺誠(元甲府)、MF上園和明(元水戸)らJ経験者が中心になっていくだろう。
 カターレ富山の中心選手の大半はJ経験者で占められると思える。また冬に行われるJリーグのトライアウトからも何人かの選手が補強されるだろう。監督は誰が務めるのか、外国人選手が獲得するのかも含めてストーブリーグの主役に躍り出そうな雰囲気である。

 今季の佐川急便大阪と東京の合併は成績を見てもお分かりの通り。アマチュアであれど強豪チームの合併は必然の結果を生み出している。ましてや、佐川急便と違い、カターレ富山は同じようなプロセスから全く別企業同士のチームが合併してJを目指すのである。強い企業チームがこういう形で互いに歩み寄るのは極めて理想的なことであるだろう。
 富山県民の想いを背負って、これから歩み出す新たなクラブ「カターレ富山」から目を離せなさそうだ。


奈良のフットボリスタ ~奈良にプロクラブを~⑧

2007年11月11日 | 脚で語る奈良のサッカー


 奈良育英、ライバル一条を下し3年ぶりに覇権奪回!
 
 何というスペクタクル溢れる試合になったのだろう。一条高校VS奈良育英高校という県内2強対決が橿原公苑陸上競技場で行われた第86回全国高校サッカー選手権奈良大会決勝戦。仕事の出張で生観戦が出来ず非常に残念だったが、Jに比べて高校サッカーの地方大会は結果を不用意に耳にすることがない。奈良テレビで録画放送されたその一戦を結果を知ることなくTV観戦した。

 3年連続で奈良県代表として全国の切符を掴み続けている一条は1回戦から安定した戦いぶりで今年も貫禄を見せる勝ち上がりぶりだった。特に準決勝の大和広陵戦は8-0とその強さをいかんなく見せつけた。今年も一条かと試合前は思ったファンも多かろう。
 対する奈良育英は3年ぶりに全国の切符を是が非でも掴みたい。準決勝は高取国際にスコアレスドローからのPK勝ちで肝を冷やしながらもファイナルへと勝ち進んだ。その奈良育英は2年生主体のチーム。GK松本、MF金城、齋藤、FW田仲の3人しかこの日のスタメンには3年生が名を連ねていない。注目のカードは一条有利かと予測できた。

 試合は立ち上がりから一条がボールを支配。前線の竹本、西田らが高い位置でボールをキープし、奈良育英を再三脅かす。前半8分には一条の竹本が決定的なヘディングシュートを放つもポストに嫌われる。序盤から果敢に前がかりに攻める一条に比べれば、奈良育英はかなりおとなしかった。184cmと規格外の高さを誇るエース田仲にもボールが集まらず、その田仲自身もミスが目立つ。一条は特に労力をかけることなく、試合の主導権を握ることができた。
 しかし、ボールを支配しながらも一条はアタッキングエリアで決定的な仕事をさせてもらえない。フィニッシュをシュートで終わる気持ちは垣間見えるものの、徐々にバイタルエリアでの奈良育英の連動的なプレスにその自由を奪われ始める。前半20分が過ぎた頃からまるで眠れる獅子が目覚めるように奈良育英はその牙を剥き始めた。28分に一条はFW竹本とMF堂坂の二人が絡んで決定的な局面を迎えるが、その直後に奈良育英は凄まじい勢いでカウンターを発動。完全に勢いを見せつける印象的なシーンだった。
 36分に攻撃面では眠っていた奈良育英が数少ないチャンスを生かす。右サイドからのクロスをMF金塚がヘッドで決め先制点を奪う。前半は守備に手数をかけ集中していた奈良育英が効率的な攻撃でまず試合を動かした。
 1点を奪われて少し焦りが出たか、その後の一条は前線にボールを蹴り込むシーンが多くなり、中盤でさらにボールをキープできない。40分には右サイドから竹本がDF3人に囲まれながらも怒涛の突破を見せるが、シュートはGK松本の正面と惜しいチャンスをモノにできない。

 後半は、奈良育英のエンジンも全開で、前半以上に攻守の切り替えが早い見応えのある内容になった。後半開始直後から一条は竹本のクロスを山口がヘディングするもわずかにゴールを捉えられず。その直後にはGKと1対1の局面を迎えた奈良育英の田仲もチャンスを逸する。前半からキーになると思われた一条のゲームメイカー奥村もきついプレスに得意のドリブル突破が見られない。後半12分にはその奥村が決定的なシュートを放つもバーの上に。追い付きたい一条と追加点の欲しい奈良育英の我慢の時間が続く。
 試合が動いたのは後半20分だった。PA手前からボールをキープした一条が遅らせる守備に枚数をかけ過ぎた一瞬の隙に中央から攻め上がった堂坂がシュート。これが同点ゴールとなり、試合は振り出しに。どっちが勝利を掴むか全く分からない展開となる。
 しかし、同点になったことで集中力を一条は切らしたか、後半22分に突破を許した中野に対してPA内で痛恨のファウル。奈良育英にPKを献上してしまう。これを主将の齋藤がきっちり決め再びリードを奪う。同点に追いついた直後の失点に一条はこれまでよりペースを上げて攻撃に従事しなければならなくなった。
 一人好プレーを見せ続けたFW竹本を中心に守りに入った奈良育英を何とか崩したい一条だったが、GK松本を中心としたDF陣を崩せない。ロスタイムには奈良育英が金城のヘディングシュートで一条の息の根を止める3点目を奪い、その瞬間に奈良の覇権は一条から奈良育英へと渡ったのであった。

 どちらが勝ってもおかしくない試合だったが、試合巧者ぶりが際立ったのは奈良育英の方であった。前半から無理することなく、高い位置での守備に専念して相手の出方を窺った。一条もそんな厳しいプレスの中で上手くボールを繋いだ。特に目立ったのは彼らのフィニッシュへの意識であった。
 しかしながら結果は勝者と敗者をはっきり分ける。今年3年ぶりに奈良育英が全国の切符を掴み、名門復活の狼煙を上げたのだった。

 控え部員や保護者、友人たちの応援もあって観客席は盛り上がっていた。共にJリーグでも聞かれるような応援歌を模したチャントでピッチの選手たちを盛り上げた。そんな素晴らしい光景はTVながらもこの奈良の地でトップカテゴリーの試合を観たい、そしてそれができるであろうエネルギーをも感じさせてくれる。刺激的な奈良大会の決勝となった。ますますこれで奈良のサッカーシーンが盛り上がることを願うばかりだ。

「勝利」を目指す戦争はフットボールにあって然るべき

2007年11月10日 | 脚で語るJリーグ


 国内でもナビスコ杯決勝が終わり、リーグは終盤戦に差し掛かるこの11月。J各クラブは優勝争いや昇格争い、もしくは降格争いと油断を許さない時期になってきた。そして、同時に冬の足音と共に訪れるのが各クラブの契約更改及び人員整理の時期である。

 日本のファンは時として自身が応援するクラブの所属選手に強烈な愛着を持つ傾向がある。しかしながらプロの世界は非情なもので、結果が全てのこの世界では、それに応えられなかった多くの選手たちが毎年その所属クラブに別れを告げ、新天地を見つけにトライアウトなどの手段で自身を新たに売り込んでいかざるを得ない。主力選手でも有力クラブからの引き抜きはあって然りだ。本来は「勝利」を目指したクラブ間の戦争がそこには存在するべきなのだが。

 欧州に比べると日本の移籍市場はまだまだおとなしいのが現状だ。基本的に大物選手の移籍は少ない。移籍金発生時にそれを無理なく支払えるクラブ自体が少ないのが大きな要因でもあるが、欧州に比べると日本は契約年数に律儀である。これが欧州各国になると契約年数はあってないようなもの。莫大な移籍金が毎年どこかのクラブ間でやりとりされ、実力選手が次々と移籍していく。8/31の移籍期限ギリギリまで何が起こるか分からないスリリングな駆け引きが行われている。
 日本のストーブリーグはどちらかというと人員整理の色が濃いと言えよう。主に結果を出せなかった若手選手やピークを過ぎたベテラン選手が所属クラブに別れを告げ、密やかに引退を決意したり、格下のカテゴリーにその新天地を求めたり十人十色である。スリリングな実力派の選手の移籍劇はわずかだ。
 しかし、本来はクラブ財政を時に圧迫してでも「勝利」のために充分戦力として計算できる選手がやり取りされるべきであると考える。それにストイックに取り組まないからシーズン途中に外国人選手が入れ替わってワケが分からない。具体的にクラブ名を挙げるなら今季の大宮や横浜FCか。さながら選手名鑑を年に3回は改訂を必要とする有様だ。

 ストイックに外から補強した主力級の選手と下部組織から育成した選手がバランス良く噛み合えばそれはクラブとして理想である。イニエスタやボージャンが出番を多く掴んでいる今季のバルセロナはその極致かもしれない。しかしその理想郷は現在のJクラブに於いて実践できているクラブはほとんど皆無だ。現在はG大阪や広島に代表されるようにクラブユースの組織がしっかりしてきた。ジュニア世代から生え抜きを育成できるのは将来的にも非常に大きい。しかしそれだけでは結果を残すのに非常に長期的なスパンが必要になり、即戦力を補強し続けなければ長いリーグ戦を戦い抜くには辛い。思えばかつて黄金時代を築いた磐田や鹿島もユースからの出身者は少なかったが、生え抜き組と的確な補強策に基づいた強烈な外国人選手が見事に融合していた。現在2強と呼ばれる浦和とG大阪は、浦和が生え抜き組と極めて優良な外国人選手たちが融合を見せるのに対し、ユースからの育成組と外部から補強した選手たちが実に魅力的な攻撃サッカーを見せてくれるG大阪とスタイルは違えど実にムダがない。これが強豪クラブたる所以であろう。

 つまりは、このムダを生まない補強とそのベースがいかに出来ているかによってクラブの強さは決まる。浦和は勝てるベースがあると確信していたからこそ、今季初めに千葉から阿部ただ一人しか補強しなかった。G大阪はゴールこそが勝利に直結するというフィロソフィがあってこそマグノアウベスと播戸のいるFW陣に甲府からバレーを補強したのだ。
 しばしばこういった他クラブの主力選手を獲得するケースは「強奪」などと揶揄されることがあるかもしれないが、その言い方は正しいのかもしれない。なぜならプロフットボールは戦争であり、見限った選手をリストラする反面、「勝利」を確約する戦力と指揮官をあの手この手を使ってでもクラブは補強する義務があるのだ。もちろんフェアな交渉に則って事は進めるべきだが、まだ日本はこの面で本気度が足りないように思えてならない。もっとプラスに移籍市場が活発化すればなお面白さが増すのだが。個人の選手にアイドル的要素を求め、愛着たっぷりの日本のファンにはまだそのフットボール戦争が浸透していないのかもしれない。

 得点ランキング上位の選手たちが来季はすっかり違う色のユニフォームを纏っている。そんな光景もあればあるほどプロのフットボールは面白くなっていくのだろうが、そう「勝利」のためのフットボールが。

「天皇杯」だから観に来ない??

2007年11月08日 | 脚で語る天皇杯


 ウィークデーの万博では肝を冷やしたJ2相手のPK勝ちに、片や遠く中東の地ではACLファイナルの初戦を浦和が価値あるアウェイゴールを挙げてのドローで、より優勝に近づいた。リバプールが爆勝を飾った欧州CLの結果も頭の隅に吹き飛んでしまうほどトピックスに事欠かない水曜日となったが、万博で行われた天皇杯4回戦のレビューはひとまず置いておいて、このゲームがいかに細々と行われたかに関して着目したい。

 2,638人。昨日のG大阪VS山形の有料入場者数である。ほんの4日前にナビスコ杯で優勝したチームの試合とは思えない。特に筆者を含めたゴール裏の住人たる人種には実に寂しい数字に見える。ちなみに興味深い数字を紹介するならば、5,148人。これは10/24の水曜日に長居で行われたJ247節C大阪VS山形の有料入場者数の数字である。どうだろう、ほぼ半分の数字ではなかろうか。
 先日足を運んだホムスタの神戸VS福岡が3,300人余りであったが、まだサッカー専用のスタジアムは全体的にまとまりがあり、ゴール裏の応援はよく反響するおかげで、観客数の少なさを補って余りある雰囲気をまだ何とか構築できる。しかし、ピッチとの距離が遠い陸上競技場タイプのスタジアムになれば、さすがに虚無感すら漂う雰囲気になってしまうのは否めない。

 今季、カップ戦も含めてウィークデイのゲームで観客数が少ないのは何も今に始まったことではないが、ナビスコ杯のグループリーグにおいて水曜の万博で行われたゲームには最低でも6,200人以上が詰め駆けている。10月の鹿島戦には8,157人の観客が集まった。ここからしても例年の如くこの天皇杯は注目度が低すぎる。前述したC大阪の観客数も考えれば、「天皇杯だから」という理由が最もこの閑古鳥が鳴くことの正当な理由として挙げられるだろう。
 まず、この注目度の低さを招く一つとして宣伝の少なさは大きい。何しろ主管が大阪府サッカー協会になるために、リーグ戦では主管として試合日のスタジアムをオーガナイズできるクラブ自体が関われない。年間パスを使用できないのはここに原因があるのだが、協会の宣伝活動自体が主催の日本協会頼みに近いこの大会は観客が集まらないのも当然かもしれない。「この日に天皇杯が開催されている」という認識に欠けた人もたくさんいるに違いない。必ずしもJ1同士の対決になるとは限らないこの大会。そうであれば、いかに純粋におらがチームを熱狂的に愛して追いかけるサポーターが少ないかを露骨にこの数字は語りかけてくれる。実に寂しいものではないか。
 そして、続いて挙げられるのが、5回戦以降は特に日頃リーグ戦やカップ戦といったJリーグとは無縁の地方スタジアムで開催することが多い点だ。今年の大会では5回戦の会場として、フクアリ、桃太郎、丸亀、広島ビ、長崎、神戸ユ、カシマ、松江とJチームが本拠地としている以外で計4ヶ所で開催される。G大阪は次戦フクアリであり、筆者が日本で最も評価できるスタジアムだけにもう一度今年足を運べるのは嬉しい限りだが、長崎で行われる浦和VS愛媛の勝者VS横浜FCや、松江で行われるHonda FCVS名古屋のサポーターのことを考えれば何ともこの大会の難しさを感じずにはいられない。こういった本来であれば全国的にトップカテゴリーの試合を観れる機会を作ることが満員の会場を作ることができないことの弊害に繋がっているのは何とも皮肉な点である。

 いかに日本のサッカー熱が如実に現われる大会であろうか。クラブの実質的な人気も問われているといっていい。また逆を言えば、日頃からどれだけそれぞれのクラブが広告宣伝を重ね、試合当日のスタジアムを盛り上げてくれているかといった面での労力もよく分かる。しかし、Jチームに関しては初戦はほぼホームスタジアムが会場としてアサインされるだけにここには足を運んでもらいたいものだ。
 1回戦を観戦した際に非常に興味深かったのは、大会の運営スタッフがほとんど奈良育英高のサッカー部員で占められていた。スタンドを所狭しと歩いては大会パンフレットを売り歩く姿には主管である県サッカー協会の苦労が窺えた。また、2回戦の滋賀守山に至っては、主管の滋賀県サッカー協会で大規模な大抽選会が開かれていた。佐川急便SCとバンディオンセ神戸双方のチームグッズを大盤振る舞いで観客に持って帰ってもらおうというもの。日曜日ということもあって地元クラブの子供たちが飛びついていたが、ここにも県サッカー協会独自の工夫が見られた。

 アマや大学生同士の対決ならともかく、Jチーム同士の対戦でここまで閑古鳥が鳴く天皇杯。様々な角度から見える課題は日本のサッカー熱の現状をダイレクトに伝える物差しだということをここでもう一度考えたいものである。

その船は沈まず

2007年11月06日 | 脚で語る欧州・海外


 先日エミレーツスタジアムで行われたプレミアリーグ首位決戦の大一番、アーセナルVSマンチェスターユナイテッドは実にスペクタクルに溢れた一戦となった。
 
 現在、プレミアを無敗にて首位独走のアーセナルと彼らのホーム、エミレーツに迎えた4試合連続4得点と爆発的な得点力が光る2位のユナイテッド。試合はアーセナルのパスワークが主導権を掌握、攻めるアーセナル、守るマン・Uという構図が序盤から窺えた。しかし、お互いに守備面で奮闘、チャンスらしいチャンスは生まれない。前半はアーセナルが36分にFKからのボールにギャラスが合わせるが惜しくも決まらず。片やユナイテッドも2トップにボールが収まらず、ほぼノーチャンスの展開が続く。C・ロナウドがなかなかボールを触らせてもらえず、スコールズ不在の中盤はハーグリーブスとアンデルソンが中央を務めるが、前半はアーセナルの5人でしっかり構成される中盤のパスワークに守備に時間を追われる状況が続いた。
 しかしながら決めるべくプレーヤーがきっちり仕事をするのがユナイテッド。前半ロスタイムに試合は動く。C・ロナウドのクロスに反応したルーニーがギャラスの甘い対応に助けられて先制点を導き出す。結果的にオウンゴールとなったが、この2人が仕事をすればユナイテッドの攻撃力はやはり驚異的だと思わせるシーンであった。
 
 この先制点を受けて、アーセナルは後半立ち上がりから前半以上に前がかりになり、そのギアを全開に挑んでくる。フレブ、セスク、ロシツキーが良いコンビネーションを見せ、48分には怒涛の攻めから司令塔セスクが同点弾を叩き込むことに成功。ユナイテッドの集中力が切れたところをしたたかに突いた展開であった。流れるような華麗なパスワークでポゼッションを握るアーセナルが終始試合を有利に進めたが、ユナイテッドは後半途中から投入されたサハが逆サイドに絶妙なパスで展開し、最後はC・ロナウドが決めて試合を決定づけた。しかしながら82分に生まれたこのユナイテッドの追加点は最後まで試合の展開をスペクタクルにさせるほんのプロローグに過ぎなかったのである。
 後半ロスタイムに再三ゴール前でチャンスを掴むアーセナルのマシンガンのような攻勢から前半自らのミスから先制点を献上してしまったギャラスが豪快なダイレクトボレーを叩き込み、土壇場で大一番は同点となる。このまま試合は2-2で終了するが、今季一番のスペクタクルに富んだゲーム展開となった。

 ちなみにこの試合は筆者行きつけのフットボールバーでもある梅田は「サポーターズフィールド」にて観戦していたのだが、この試合は日本時間で土曜日の21:45キックオフと観戦し易い時間ともあり、驚くほど多くのギャラリーが店内に溢れかえった。驚いたのはそのアーセナルファンの多さ。日頃からユナイテッドファンはよく目にするだけにこの大一番の注目度が窺えるエピソードだ。そして皆がこういう盛り上がれる雰囲気を求めていたのだろう。新規の来店客も特に多く見受けられたこの試合は、日頃からここで多くの欧州サッカーをウォッチする筆者も初めて味わうほどの熱い雰囲気に恵まれた。

 しかし、日本のファンをもそこまで狂喜乱舞させる今季のアーセナルの強さは目を見張る。この首位決戦でも負けることはなかった。ファンペルシをケガで欠きながらも特に中盤のセスク、フレブ、フラミニ、ロシツキーの連携が非常にスムーズで、フラミニが高い位置から体を張るフォアチェックがアーセナルの攻撃にさらに加速感をもたらしていると言えよう。今季はアンリが抜けて、前線の得点力が懸念されたが、アデバイヨールのそれを補って余りある活躍とクロアチア代表のエドゥアルドも十分結果を残しつつあるというのが大きなポイントでもある。
 この勢いがどこまで続くのだろうか。未だに負け知らずのガナーズが目指すのはもちろんプレミア制覇。「アーセナルは必ず4強に入ってくるだろう」と今季開幕前にアレックス・ファーガソンが語ったその言葉は下馬評を覆し、実に信憑性の高い言葉となった。

 若手中心のチームへと過渡期を実に充実した戦いぶりで過ごすガナーズの好調ぶりは、今季のプレミアの面白さをますます盛り上げてくれるに間違いない。アンリ、リュングベリ、レジェスと相次いで主力が抜けた今季のアーセナルは開幕前から度々「沈みゆく船」とも形容された。しかしながら、今季のロンドンにはこれまでと比べてもさらに輝きを増した巨艦が就航している。その船はしばらく沈むことは無さそうだ。

天皇杯レビュー 4回戦 神戸VS福岡

2007年11月05日 | 脚で語る天皇杯


 試合は前後半で大きく明暗が分かれた。監督の采配いかんによってサッカーは大きく変貌することを象徴づけ、その監督の采配をピッチで具現化する選手に大きな質の違いが生じれば必然的に結果は生まれる。ホームズスタジアムに3404人を集めた天皇杯4回戦の神戸VS福岡はそんな一戦であった。

 立ち上がりから神戸が福岡の出方を窺っていたというのであれば、それは少し違っているかもしれない。前半から福岡は縦横無尽にピッチを動き回るアレックスを中心に右サイドの田中、左サイドの久永が起点となってよく攻め立てた。奇襲ともいうべきパワープレーから再三ゴール前のチャンスを作った福岡の攻撃を北本を中心とした神戸DF陣はかろうじて凌ぐ。前半だけで福岡のCKは10本を記録した。この前半の勢いであれば福岡が先制点を奪うのは時間の問題であった。
 4-5-1のフォーメーションながら序盤から前がかりになってアタックした福岡は、終始DFの長野が前線に入り、その長けたフィジカルで林とのツインタワーから得点を奪う試みを見せる。相手の思いがけないパワープレーに対する神戸は戸惑いを感じていた。自分たちのリズムが一向に掴めない。中盤でコンビを組んだディビッドソンと田中はバランスを失い、バイタルエリアでボールを回せずにいた。
 前半、じっくり時間をかけながらも神戸は福岡のサッカーを徐々に攻略していく。フィットに欠けるディビッドソンに代わって前半のうちから朴を投入。神戸はサイドでプレーしていた栗原を中央に移し、その朴を右サイドの起点にした。一時は福岡の3バックに4-3-3とした神戸が前線の高い位置からフォアチェックを仕掛けていたのはチェッコリを中心に前線に蹴り込むサッカーに対して効果は薄かったが、結果的には朴を投入し、4-4-2に戻した神戸の戦術が功を奏することになる。

 後半、立ち上がりから神戸はエンジン全開でアタックする。47分に右サイドを突破した近藤が中央の大久保へ。落ち着いてボールを受けた大久保はDF陣を抜いてゴールを決める。その7分後にはアタックの起点となった朴が大きく空いたスペースに走り込み、冷静なループシュートを決め2-0。前半45分間落ち着いた守備から福岡のウィークポイントを窺っていた神戸が効率よくほぼ試合を決定づける2点を立て続けに奪う。
 福岡は先制点を奪われた後にチャンスに絡んでいた田中を下げ、宮崎を投入するもこの交代策はあまり良くなかった。前半の勢いあるムービングサッカーは徐々に息を潜め、特に福岡の左サイドは大きくスペースが空いたことで再三、朴と近藤の突破を許した。後半45分は前半の奇襲作戦によるズレが露骨に現われた福岡に神戸からゴールを奪う力は残っておらず。計19本のシュートを打ちながらもこの神戸で天皇杯の終焉を迎えることとなった。

 福岡にゲームメイカーともいうべき選手がいれば、また違った展開になっただろうとも思えたが、それ以上に対応力と相手のウィークポイントを突いた神戸の采配がこの結果をもたらした。90分という時間の中で「質」に注目すれば神戸の選手が格上であったということも十分に結果に反映している。
 また、神戸の右サイドは朴もそうだが、特に後半は石櫃が良かった。果敢に前へと攻め上がり、1本強烈なミドルをお見舞いする一面も。いい選手がいるのは確かで神戸のサッカーはリーグでこそ結果は芳しくないが、目の前の一戦が勝負となる天皇杯ではこれから面白い存在となってきそうだ。
 次戦は7日に行われる川崎とC大阪の勝者と戦う神戸。特に川崎と対峙することになれば意外と好ゲームになるかもしれない。

ファンであった少年がもたらしたカップ

2007年11月04日 | 脚で語るJリーグ


 「俺は(運を)持ってるなぁという感じですね。」
試合後のインタビューでこう語った19歳の安田理大には確かに強運の星が輝いているようだ。昨日行われたヤマザキナビスコ杯にて殊勲の決勝ゴールを挙げた左サイドの新星は、タイトルと共にその自身の名前を強烈に全国に知らしめることとなった。

 とにかくまずはカップを獲ったということに最大の喜びを表明したい。無縁だったナビスコ杯というタイトルを強烈に意識させた2年前の敗戦があったからこそかもしれない。1-0というスコアはある意味これ以上ない強さを示した勝ち方であった。
 川崎はファイナリストに相応しいチームであり、スコアが示すように実に緊迫した試合内容であったが、そこに差をもたらしたのはフィニッシャーの差というべきか、両チーム強力な2トップを有するチームがその前線を封じられた際にどれだけ周囲の選手が点を取れたかの一言に尽きるといっていい。この日再三訪れた川崎の右サイド森勇介との迫力あるマッチアップを制した安田が強運の下にそのチャンスを逃さなかった。バレーのクロスがプラス気味に流れ、川崎DFとGK川島の間を抜けていったことも結果的に功を奏した。一瞬のワンプレーが大きく明暗を分けた。

 しかし、このタイトルを数年前まではガンバのファンクラブにも入っていた一人のサッカー少年がもたらしたと考えれば、その功績とこの事実はJリーグの新時代を明らかに象徴していると言える。Jリーグ開幕時には6歳にも満たない少年であった安田がガンバでのプレーを夢見て、今ニューヒーロー賞とMVPを総ナメにするほどの選手になったことは15年目を迎えるJリーグの歴史を感じさせ、実に感慨深いものである。
 「調子乗り世代」とも評されるニュージェネレーションの代表格、安田がここまで注目を浴びた。調子にはどんどん乗ればいい。腐らなければこれから未来は明るい19歳の青年はガンバの未来を大きく背負う。

 ガンバのタイトル獲得だけでなく、改めてJリーグの大きさとその存在が日本にもたらした影響力をつくづく感じた安田の活躍。秋晴れの空と同じく実に爽快で非常に印象的な一戦でもあった。
 ガンバ大阪おめでとう。そしてこれからもその歩みを止めるな。