脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

東欧に芽生えるビッグクラブの資本力

2008年10月03日 | 脚で語る欧州・海外
 昨季のUEFAカップを制したゼニトが何かと注目を集める今季のUEFAチャンピオンズリーグ。確かにEURO2008でロシア代表の躍進の原動力にもなり、シーズンオフにはその去就がビッグクラブの間で話題になったアルシャービンがチームの核。それもやむを得ないだろう。しかしながら、名将アドフォカートが率いる07年のロシア王者は23年ぶりのこの舞台で厳しいグループ分けによる強豪との同居に苦しむ。緒戦のユベントスに0-1、そしてR・マドリーに1-2で連敗を喫し、ノックアウトステージへの突破は非常に難しくなった。

 確かにゼニトにはスペクタクルの要素が強い。R・マドリー戦でも終盤に猛攻を披露。あわやイーブンに持ち込んでもおかしくない試合ではあった。ポゼッション重視の前のめりのサッカーは、UEFAスーパーカップでマンチェスター・Uを下したことにも起因される自信に溢れている。しかし、さすがにそれだけではチャンピオンズリーグは勝てない。

 対してグループAで静かな旋風を巻き起こしているのはCFRクルージュ。予選免除で初の本選に進出した昨季のルーマニア王者だ。本選に臨む前に彼らにはゴタゴタが起こった。アンドネ前監督が国内リーグでの不振から解任の憂き目に遭い、暗雲が垂れ込めた。しかし、グループステージが始まればそんな話題はどこ吹く風。緒戦でASローマをアウェイながら2-1で下し、先日の2節では昨季ファイナリストのチェルシーに堂々の引き分けを演じて見せたのだ。特にローマを相手にファン・クリオが奪った同点弾までの流れは素晴らしい展開で、今季最大のサプライズと言えるだろう。

 そのルーマニアからもう1チームがこのチャンピオンズリーグに臨んでいるが、オールドサッカーファンにはお馴染みの名門ステアウア・ブカレスト。ガラタサライとの死闘、予備予選3回戦をトータル3-2で勝利し、3年連続のグループステージ進出を決める。緒戦のバイエルン戦は惜しくも0-1で惜敗したが、2節のフィオレンティーナ戦では何とか0-0のスコアレスドローに持ち込んだ。ルーマニア代表DFのゴイアン、ラドイを軸とする堅守は手応えを感じる。同居するリヨン、バイエルン、フィオレンティーナも足並みを揃えてまだ結果が芳しくないため、次戦のリヨン次第では、このステアウアも何かドラマを見せてくれる可能性はある。ピツルカ(現ルーマニア代表監督)を中心に欧州を制した当時と比べるのは酷だが、目標は久々のノックアウトステージ進出と胸を張ってもおかしくはない。

 このゼニト、CFRクルージュ、ステアウア・ブカレストの3チームにはビッグクラブに脱皮すべき上でそれを満たす共通項がある。それは豊富な資金力だ。ゼニトは世界最大の天然ガス企業「ガスプロム」が多くの投資を惜しまず続けており、かつてサレンコ(94年ワールドカップ得点王)が在籍した20年前とは比べものにならないほど、遙かにチームのステータスはアップした。CLの舞台こそ23年ぶりだが、今後常連となるためにも現在の陣容のクオリティと結果を残していくのは至難ではないはず。アルシャービンだけでなく右サイドのアニュコフ、中盤のデニソフ、前線のボグレブニャクと若きロシアのスターたちが今後欧州を席巻する日も夢ではないだろう。
 
 CFRクルージュも5年前まではルーマニアでも2部リーグで戦う無名のチームにすぎなかったが、自動車販売会社経営で名高いアルパード・パスカニーが経営に乗り出すと一気にチームは変貌。ポルトガルのベンフィカとの提携もチームに恩恵をもたらし、現在ではグループステージ登録Aリスト22人中なんと17人がブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ポルトガルなどのの外国人選手たちになった。イタリア人のトロンベッタ監督の手腕次第では今大会でさらにサプライズをもたらしてくれるかもしれない。さらには長期的に見てもCLの常連も狙えるだろう。

 ステアウア・ブカレストも国内屈指の大富豪ゲオルゲ・ベカリの恩恵を受ける。欧州に響くセンセーショナルな話題こそ皆無だが、今季加入したセメド(←CFRクルージュ)の積極性などフィオレンティーナ戦では好材料も見えた。ルーマニアU-21代表のスタンク、コロンビア代表のモレノなど若手と新戦力が多いだけに、グループステージで粘ることは可能だ。かつてのクラブの栄光が大きすぎるだけに、今後もベカリの積極的な投資で補強を進められれば、クルージュと共にルーマニアのクラブサッカーを世界に轟かせることも夢ではない。

 たとえ、他のビッグクラブに知名度では負けようともこの3クラブには何か可能性を感じる今大会。「優勝」を具体的な目標には設定しがたいが、来季に繋がる戦いぶりを最後まで見せてもらいたいものだ。資本力がモノを言う欧州サッカーで、確実に東欧のチームにも欧州の頂を狙う意識が芽生えつつある。