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風景の音 音の風景

2023-07-18 00:21:11 | 美術
神奈川県立近代美術館鎌倉別館で「吉野弘 風景の音 音の風景」を見てきました。
1970年代初めから環境音楽の分野で活躍した吉村弘氏の個展です。環境音楽の先駆け的な存在である氏の活動は音楽のみならず、ドローイング、パフォーマンス、サウンドオブジェの制作、執筆と多岐にわたりました。私も昔、「都市の音」を読んだ記憶が…。ちなみに葉山館で流れているサウンドロゴは吉村氏の作曲だそうです。

展覧会は5章で構成されていました。「Ⅰ.音と出会う」は初期の活動の紹介です。吉村氏は高校時代のエリック・サティの音楽に出会い、独学で音楽を学びました。初期の作品の楽譜が展示されていましたが、手書きとは思えないような端正な譜面。イラストもシンプルで美しい。「Ⅱ.音と出会う」には図形楽譜が展示されていました。線はさらに緻密になり、デザイン性の高い絵楽譜も。「Ⅲ.音を演じる」はパフォーマンスの紹介。70年代後半から、吉村氏の活動はより身体性を増し、さらに音具の創作なども手がけるようなり、活動はサウンド・パフォーマンスからサウンド・インスタレーションへと展開していきます。70年代のパフォーマンス関係のチラシの中に若かりし頃の教授の姿もあって、思わずしみじみ。音具の数々はデザインも面白いです。ロビーにはサウンド・スカルプチャーの実物が展示されていて、実際に触れるようになっていました。試しに振ってみたら、本当に気持ちよかったです…。「Ⅳ.音を眺める」にはRain,Tokyo Bay,May,Clouds,Summerの5本の映像作品が展示されていました。撮影、音楽、演奏ともに吉村氏によるもので、撮影場所は有栖川宮記念公園、東京湾、白金の自然教育園、広尾の吉村氏の自宅です。いつまでも眺めていたいような、ここちよい映像とここちよい音楽。音楽が自己主張しないというか、自然物の一つとして存在している感じです。サティの家具の音楽になぞらえて、空気に近い音楽、ということを言っていたそうですが、空気のように透明な音楽…。「Ⅴ.音を仕掛ける」は環境音楽の紹介。吉村氏は音を風景として捉え、サウンドスケープと呼んでいました。環境にひそかに作用し、いつの間にか空間をここちよいものに変えていく、音楽というか音。吉村氏は「私の音楽は私の音楽ではない、私の音(楽)でないものはまた私の音楽である」という言葉を残していました。音と風景とが作り手の自我さえ超えた空間で溶け合うような、そんな不思議な感覚を味わった展覧会でした。

ところでこの展覧会、パンフレットも秀逸でした。無料でいただくのが申し訳ないくらい充実したもので、編集もきっと大変だったと思われます。空色の線で描かれた絵楽譜「Flora」が表紙のカバーになっていて、綺麗でしたね…。
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