杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

余命10年

2022年08月10日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2022年3月4日公開 125分 G

数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉(小松菜奈)。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。 そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人(坂口健太郎)。 別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに——。 もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。 ——「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。 思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは……?(公式HPより)

 

小坂流加(茉莉と同じ病を抱えていて、本作の文庫版発行直前に病状が悪化して原発性肺高血圧症で逝去しています。)の同名恋愛小説を藤井道人監督で映画化。「RADWIMPS」が主題歌「うるうびと」を含む劇伴音楽を担当しています。春夏秋冬折々の季節に重ねるように、かけがえのない一瞬一瞬を鮮明に映し出した映像は、「大切な人たちとの日々」がいかにかけがえのない素晴らしいものかを伝えてくれます。

茉莉(まつり)は、数万人に一人という難病の肺動脈性肺高血圧症を20歳の時に発症しました。当時、この病気には有効な治療法があまりなく、余命は長くて10年と言われていたようですが、現在はプロスタサイクリンの持続静注療法や他の薬剤の開発が進んでいて、治療成績が大幅に向上しているそうです。動いたときに息切れがする、疲れやすい、胸痛や動悸がするといった症状があり、支持療法(在宅酸素療法、抗凝固療法、利尿剤、強心薬など)と肺血管拡張薬での治療が行われています。

2011年。闘病仲間の礼子はビデオカメラを託し「最後まで生きてね」と言って亡くなります。葬儀に参列した茉莉は、肩を震わせて泣く礼子の夫を見ます。葬儀の帰り道、桜の木をビデオで撮影しながら、茉莉は愛する人を悲しませたくないと自分は恋をしないと思ったのかな。

2年後。茉莉は主治医の平田先生(田中哲司)から余命と共に励ましの言葉をかけられて退院します。 退院祝いに集まった学生時代の友人たちと盛り上がりながらも、病気が全快したと思っている友人たちとの距離を感じ複雑な気持ちになる茉莉は、帰り道で友人の沙苗(奈緒)から「小説書かないの?」と聞かれます。

当時住んでいた静岡県三島市の中学校の同窓会の案内が届き、父(松重豊)に送ってもらって参加した茉莉は、「普通の生活」を送る同級生たちの話に複雑な思いを抱きます。返却された卒業時に書いたタイムカプセルには「元気ですか? 恋人はいますか? 小説は書いていますか? 元気に生きていくてださい。」と書かれていました。

東京組はタケル(山田裕貴)と茉莉と和人の3人だけでした。 東京に戻った茉莉は、スーツを着て面接に臨みますが、病気が原因で就職は難航します。タケルから和人が自室の窓から飛び降りて自殺を図ったと聞き、タケルと病院に行った茉莉は、理由を聞いて「真部くんのことよく知らないけど、それってずるい」と言って背を向けます。(父の会社を継がないと決め、両親とも仲違いして東京に出てきた彼にとって、自分のタイムカプセルの「「父さんの会社でバリバリ働いていますか? 元気で生きていてください。」の内容は心に刺さったのでしょうね。)

退院祝いでタケルの行きつけの焼き鳥屋「げん」に集まった3人。病院で茉莉と彼女の母(原日出子)を見かけた和人は、茉莉が怒ったわけを誤解して謝罪します。その帰り道、桜並木の下でビデオを回しながら「これからどうするんですか?」と聞く茉莉に、和人は「とりあえずバイトして家賃を払います」と答え、「私もがんばるので、もう死にたいなんて思わないで下さい」の会話が。この時突風が吹いて桜の花びらが舞い上がります。このシーンはラストでも形を変えて登場しました。

和人は「げん」でアルバイトを、茉莉は沙苗の紹介でコラムの仕事を始めます。沙苗とタケルが付き合いだして、4人で遊ぶようになります。花見や海、クリスマスなど季節のイベントを楽しむなかで、和人は茉莉と距離を縮めようとしますが、微妙な空気のまま時間が過ぎていきます。

2016年、姉の桔梗(黒木華)が結婚します。披露宴の最中に体調が悪くなってトイレに駆け込んだ茉莉は、親戚のおばさんたちの会話に傷つきます。肺移植手術を提案した桔梗に、思わず「生きることを諦めたんじゃない。治療法が無いってわかっていてもう戦えない!放っておいて」と言ってしまいます。「(自分と家族と)どっちが可哀そうなんだろうね」と言う彼女の言葉が突き刺さります。

友人の美弥から、夫の心臓に傷害のある友人を気持ちがわかり合えるだろうから紹介したいと言われてその場は笑顔で応じながら、帰りにやけ食いしてトイレで吐きながら泣く茉莉。何というか・・・善意からのお節介は時として残酷に相手を傷つけるものですね。

「げん」の主人(リリー・フランキー)に背中を押され、茉莉の最寄り駅で彼女を探していた和人は、「茉莉ちゃんが好きだ。俺が茉莉ちゃんの事守るから一緒にいて下さい」と告白して、付き合い始めた二人。2017年は普通のカップルと同じように幸せな時間が過ぎていきます。  そして茉莉は自分の経験を基にした小説を書き始めます。

1泊でスノーボードに行き、和人からプロポーズされた茉莉は冗談めかして断ります。 その夜結ばれますが、翌朝一人で宿を出た彼女を追いかけてきた和人に、茉莉は自分の病気を告白し別れを告げます。 帰宅した茉莉は母に「もっと生きたい。死にたくない」と涙を流します。

2019年。小説を書き上げ沙苗に託した茉莉。痩せて酸素マスクや心電図を着けながらも、沙苗と校閲を続ける茉莉は、姉に「最後まで私の命を諦めないでくれてありがとう。お姉ちゃんがお姉ちゃんで良かった」と感謝を伝えます。泣けるシーンです。

友人たちや和人との思い出が詰まったビデオカメラのシーンを見ながら次々そのデータを消去していく茉莉でしたが、最初に夜桜の下で和人にカメラを向けたときの映像は消せませんでした。彼女は、和人との幸せな未来の夢を見ます。

和人は独立して自分の店を持ちました。開店祝いにタケルと駆けつけた沙苗から渡された袋の中には茉莉が書き上げた小説『余命10年』の原稿が入っていました。自転車を飛ばして病院に到着すると、意識のない茉莉に、自分の店をオープンしたこと、店の名前が「まつり」であることを伝えます。原作では二人は別れた後生きて会うことはなかったようですが、映画では意識は無いとはいえ、和人が自分の人生を歩みだしたことを報告しています。

茉莉の葬儀の日、彼女のビデオカメラで、あの日一緒に歩いた桜並木を撮ろうとした和人の前で、あの時と同じように突風が吹きます。その先に和人は何を見たのでしょうか。

二人は結ばれ、子供を遺して逝くという選択肢もあり得るんじゃないかと思いますが、原作は違いましたね。それだけの強い覚悟が主人公にあったということでしょうか。でもやっぱり愛を自ら遠ざけるのは辛過ぎるかなあ。


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ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~

2022年08月07日 | 

三上延(著)メディアワークス文庫

物語は母から娘へー。ビブリア古書堂の事件手帖、新シリーズ第3弾!
春の霧雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリアに、新たな依頼人の姿があった。
ある古書店の跡取り息子の死により遺された約千冊の蔵書。高校生になる少年が相続するはずだった形見の本を、古書店の主でもある彼の祖父は、あろうことか全て売り払おうとしているという。なぜ――不可解さを抱えながら、ビブリアも出店する即売会場で説得を試みる店主たち。そして、偶然依頼を耳にした店主の娘も、静かに謎へと近づいていく――。(あらすじ紹介より)
 
 
・プロローグ・五日前

栞子に、樋口佳穂という女性から、息子の恭一郎に相続権のある古書千冊が売られるのを止めて欲しいという依頼が入ります。前夫・杉尾康明が癌で亡くなったが、康明の父である虚貝堂という古書店主・正臣が藤沢で開催される古書即売会で売りに出す予定だというのです。

・初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』 

祖父に半ば強制的にバイトに誘われた恭一郎は、手伝いにきていた扉子と仲良くなり一緒に仕事をしますが、トラブルに巻き込まれてしまいます。巧妙に仕組まれた値札張り替えの犯人は恭一郎に「ゴジラの息子」のことを教えてくれた好人物(に見えた)でした。もちろん、からくりを見破ったのは扉子ですが、恭一郎が扉子たちに報告するよう誘導したのは智恵子(明示されてはいませんが特徴的な外見描写からすぐにわかりますね)ネットのフリマを利用する犯罪はまさに現代に即した題材だなぁ。 本の知識のない恭一郎への説明という形で、読者にも蔵書票の意味などを解説してくれているのも嬉しいです。また、恭一郎が興味を示した山田風太郎の『人間臨終図鑑』は自分でも読んでみたくなりました

・間章一・五日前

仕事で海外に行かなければならない栞子は、夫と、話しを立ち聞きしていた扉子に協力を求めます。プロローグの続きですね。

 ・二日目・樋口一葉『通俗書簡文』 

恭一郎の父母の離婚の理由が明かされます。読書旅行に出かけたまま音信不通になった父は、旅先で事故に遭い記憶を失っていました。5年後に見つかって帰った後も死ぬまで記憶は戻らなかった・・母も樋口一葉の研究をするほどの本好きでしたが、以来本から遠ざかっています。恭一郎は両親のどちらからも読書を薦められたことなく育っているのです。大輔は本を読めない体質ですが、恭一郎も本が嫌いなわけではないけれど接点がなかったという点で何か似ているところがあるようです。

康明の樋口一葉関係の蔵書の中に挟み込まれていたレアで高値の付く5000円札(樋口一葉が印刷されたもの)の謎がメインになっていますが、5枚あるはずの最後の一枚が挟まれた本を買ったのは恭一郎の母でした。それは彼女が康明に贈ったものだったのです。レア札を挟んだのは康明の謝罪の気持ちなのか、それを拒んだ佳穂の心情は・・・読み終わってみれば後の伏線になっていましたね。

 ・間章二・半年前

智恵子と康明の一種師弟のような関係が浮かび上がる前日譚になっていました。

・最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』 

三大奇書の一つとして知られ、読めば頭がおかしくなるという伝説があるという『ドグラ・マグラ』に関する謎解きです。これには智恵子も深く関わっていました。即売会の3日間で恭一郎は本への興味を呼び覚まされています。しかし母の佳穂は息子が父親のように本で人生を狂わせてほしくないと思い詰めるあまり、常識を超えた暴挙に出ます。恭一郎の異父妹が本好きと知った扉子の推理と、帰国した栞子の洞察力で、恭一郎の祖父と母の思惑が明かされる章です。考えてみれば、本に興味がない息子に1000冊の蔵書を相続させたいという事自体が謎ではあったのよね。記憶の戻らない苦しみと、自分たちを思い出すことができない元夫に対する感情と、どちらが辛いかと比べることはできないけれど、双方に智恵子が深く関わっていた事実は何だか恐くなります。

・エピローグ・一ヶ月後

片瀬山に居を構えた智恵子を栞子夫婦が訪ねます。智恵子が何を考えていようと自分は(母を含めて)家族を守りますと、栞子は決意表明にやってきたようです。栞子たちと入れ替わりに訪ねてきた恭一郎に、智恵子は康明の蔵書と同じものを揃えた特別な書庫を見せて、いつでも来て読んで良いと言います。彼女の中で、栞子夫婦の代わりに扉子と恭一郎をターゲットにしたことが示されるエピローグでした。

そしてシリーズはまだ続くのね

 

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朽ちないサクラ

2022年08月06日 | 

柚月裕子(著) 徳間書房

米崎県警平井中央署生活安全課が被害届の受理を引き延ばし、慰安旅行に出かけた末に、ストーカー殺人を未然に防げなかったと、新聞にスクープされた。県警広報広聴課で働いて4年、森口泉は、嫌な予感が頭から離れない。親友の新聞記者、千佳が漏らしたのか?「お願い、信じて」そして、千佳は殺された。大藪春彦賞作家、異色の警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

「月下のサクラ」を先に読んでしまったので、親友の死に公安が絡んでいるという筋書きが最初から頭にあって、推理を楽しむという点では残念。 サクラは公安を指す隠語なんですね。

泉が親友の千佳や同期の磯川、上司の富樫と、また富樫と捜査一課の梶山が食事するそれぞれの場面での美味しそうなメニューとお酒の数々の描写はちょっとしたグルメ小説みたいで楽しめました。

ストーカー殺人が起こり、犯人の安西が逮捕されますが、被害届の受理が遅れた理由がすっぱ抜かれて大ブーイングの最中、泉は自分が千佳に漏らした『同期の磯村から「慰安旅行のお土産」を貰った』との何気ない一言がネタ元ではないかと疑って千佳を詰問します。(受理していれば事件を未然に防げたとも言い切れない気がしますが)千佳は約束を破っていないときっぱりと否定し、何か裏があるから調べてみると言った一週間後、遺体で発見されます。泉は親友を信じ切れなかった後悔に苛まれ、千佳を殺した犯人とその動機を知りたい焦燥にかられます。自分が情報元になって泉を巻き込んでしまったかもと責任を感じた磯村も泉に協力して真相を追っていくのです。

事件について情報を共有した二人は、改めて米崎新聞の情報元について独自に調査を始め、ネタ元が磯村が所属する生活安全課の臨時職員だった百瀬だと突き止めます。百瀬は上司の杉林課長と不倫していましたが、彼女が鬱陶しくなった杉林が職権乱用して解雇されていて、その復讐のため、千佳の新聞社の報道部デスクの兵藤に情報を売ったのです。ちなみに千佳と兵藤も不倫関係にありました ネタ元を追う千佳が百瀬と接触したと考えた二人が百瀬の家を訪ねると、彼女は千佳の死の数日後に「自殺」していたと判明します。そのタイミングの良さに関連性を疑う泉は富樫と彼の同期の梶山に調査内容を報告します。

安西がカルト教団の信者だということが判明すると、事件は別の顔を持ち始めます。梶山たちは、安西が信者だということが世間に公表されることを嫌った教団が手を回して被害届の受理に圧力をかけ、真相を追う千佳とネタ元の百瀬を殺したと考えて教団の信者リストを入手し、容疑者の浅羽を特定しますが、その矢先に彼も「事故」で亡くなり、被疑者死亡で不起訴となる結末を迎えます。

しかし、泉は浅羽のPCから復元されたという千佳の行動記録を見て疑問を持ちます。まだ彼女が千佳に何も話していない時点からその記録はつけられていたからです。彼女は一連の事件の黒幕が別にいると考え、その筋書きを作ったのが元公安刑事の富樫だと推測し彼に疑問をぶつけます。

富樫が元公安刑事だということは早くから示されていて、梶山が手を尽くしても入手できなかったカルト集団の信者リストを富樫が入手して渡したことも伏線になっていたことがわかります。泉は事件で得をしたのは世間にカルト教団の危険を認知させることに成功した公安だと推察したのです。その裏には安西と浅羽が共に公安のスパイ「S」であり、その事実を揉み消すために公安が動いていたのだと。そのために罪のない者の命を殺め、遺族に苦しみを与え、被害届の受理を遅らせるよう圧力をかけられた担当の辺見が事件に責任を感じ鬱状態になって退職を余儀なくされるなど多数の人の人生を狂わせたことを泉は責めますが、富樫は「綺麗ごとでは国は守れん」「警察を辞めてもいいぞ、この仕事は理不尽なことが多すぎる」と言って背中を向けます。結局富樫は公安として動いていたということ?それなら安西が信者だと公表するだけでも効果はあった気がするし、敢えて公安が手を下す意味がわからないんですが

泉は今の仕事を辞め、改めて警官になることを決意します。・・いやいや敢えて理不尽な世界に飛び込む意味って何だよ??

国家の安全のためには多少の犠牲は止む無しとする公安と、国民一人一人を守る警察の間には深い溝があるように見えます。公安は必要悪として描かれることが多いけれど、やはり罪のない一般人を犠牲にして良いとは思えません。公安に対する疑問や怒りは続編の「月下のサクラ」での泉の行動にも繋がっていますが、上意下達の警察の中で彼女が出来ることはあるのかしら?


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ボス・ベイビー ファミリー・ミッション

2022年08月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年12月17日公開 アメリカ 107分 G

ボス・ベイビーが、兄ティムとともに繰り広げた<赤ちゃんvs子犬>の死闘から25年―。 大人になったボス・ベイビーは、世界中を飛び回るエリートビジネスマンとして大成功。一方ティムは、タビサとティナという娘を持つ幸せな専業主夫に。成長した兄弟2人はすっかり疎遠になっていた。そんなある日、ベイビー社にある情報が入る。長女タビサが通う学校の校長アームストロング博士が、世界征服を企んでいるというのだ。世界を救うためには〈ボス・ベイビー〉の協力が不可欠と、彼らの元に〈ボス・レディ〉が派遣されるが、なんとそれはティムの次女ティナだった!? 「わたし、ボス・レディ。新たな任務を伝えに来たわ」 ボス・ベイビーとティムはスーパーミルクで赤ちゃん返りし、ふたたびチームを組むことに。学校への潜入捜査に向かうが―。 2人は、史上最大のミッションをクリアし、世界と家族を救うことができるのか!?(公式HPより)

 

見た目は赤ちゃんだが知能は大人のボス・ベイビーの活躍を描いた映画「ボス・ベイビー」の続編です。

監督は前作に続きトム・マクグラス。英語版ではアレック・ボールドウィン、吹き替え版ではムロツヨシがボス・ベイビーの声を続投しています。

ティムは掃除、洗濯、炊事全般を一手に引き受ける専業主夫。(こういう設定も今風だね)長女のタビサは進学校に通っていますが、思春期を迎えつつある娘の扱いに悩むティムですが、子供扱いされることに抵抗を覚える年頃なんだよね~~。

弟のテッドは投資会社のCEOとして成功を収め忙しい日々を送っています。ティムとも疎遠になっていて誕生日やクリスマスのイベントにもプレゼントを贈ってくるだけです。タビサは仕事で成功している叔父を尊敬していて、彼から贈られたポニーの「プレシャス」もタビサには懐いていますがティムのことはバカにしている様子なのも憂鬱の種でした。

タビサに発表会の練習の手伝いを断られ、お休みのキスも拒まれて寂しく屋根裏に行ったティムは、ウィジーの目覚まし時計を見て子供の頃の思い出に耽りますが、次女のティナの部屋の物音を聞きつけて見に行くと、そこには「ボス・ベイビー」の姿をしたティナが!彼女のニセ電話で呼び出されたテッドと共にベイビー・コープ社の危機管理センターに行くと、タビサが通っている学校の校長のアームストロング博士が大人不要の子供だけの社会を作ろうとしていることを知らされます。

タビサの変化も学校が原因と納得したティムは、テッドと「48時間だけ赤ん坊に戻って学校に潜入し博士の企みを阻止」するミッションを受けます。妻のキャロルやタビサに「兄弟の絆を深める旅に出る」と誤魔化した二人は、翌朝、(スクールバスに乗り遅れてプレシャスにスケボーを曳かせ町を暴走し、三つ子の警官に追われ、市長を吹き飛ばし、ツリーを燃やす)騒ぎを起こしながらも学校へ到着。警官も市長も前作の仲間たちですね。

制服に着替えた二人は校長室潜入の待ち合わせ時間を決めて別行動をします。タビサと同じクラスに入ったティムはマルコス・ライトスピードと名乗って授業を受けますが、教室から抜け出すことに失敗します。赤ん坊の教室に入ったテッドは、彼らをうまく使って抜け出し校長室へ行きますが、校長はテッドの能力を評価して秘密を打ち明けます。実は彼の正体は赤ん坊で、両親より賢いことに気付いて家出していたのです。プログラミングを勉強した彼は人気のスマホアプリを作ってお金を稼いでいて、保護者を排除して子どもだけの世界を作ろうとしていました。

発表会でソロパートを歌うことになっているタビサですが、緊張してうまく歌えません。下校時「家」に招待され悩みを聞き出したたティムは「歌の世界にいる気持ちをイメージして」と助言します。

発表会当日。アームストロング博士の計画を阻止しようとした二人ですが、忍者ベイビーに捕まり「タイムアウトの箱」に入れられピンチ!成功した弟への嫉妬やひがみを感じていた兄、一方弟の方は愛する家族を作った兄を羨む気持ちがありました。お互いの本音をぶつけあった二人はこれまでのことを振り返って仲直りします。テッドが口笛で呼んだプレシャスが助けてくれます。

博士はスマホカメラに仕込んだ催眠アプリを使って大人ゾンビ計画を実行します。マルコスの助言でソロパートを歌い終えたタビサにティナはボス・ベイビーであることを明かして協力を仰ぎ、ティムとテッドと一緒にアームストロング博士と戦います。

サーバーを破壊するのに使ったのは、ソーダにメントスを入れた泡噴出作戦です。特典映像では一粒のメントスがコーラのボトルに入れられた途端に勢いよく泡が噴出する実験を紹介していてそのパワーに納得でした。特典映像には他にもじゃがいも発電やプラ板工作の紹介がありましたが、そういえば、昔プラ板キーホルダーを作ったなぁ~~懐かしくなっちゃった

任務終了後、ティナは本当の狙いが「疎遠になったティムとテッドを仲直りさせること」だったと明かし、アームストロング博士の件はついでだったと言います

さて、クリスマス当日。チャイムが鳴りティムが出ると豪華なプレゼントの山が!その中に隠れていたテッドと一緒に遊んでクリスマスを祝う家族です。その頃、ティムたち家族の様子を見ていて自分も恋しくなったアームストロング博士が両親の家のドアを叩くと・・・彼らは喜んで博士を迎え入れましたとさ。

疎遠になったとしても、やり直せるのが家族というところでしょうか


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TOVE トーベ

2022年08月03日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2021年10月1日公開 フィンランド=スウェーデン 103分 G

第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソン(アルマ・ボウスティ)は自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父(ロベルト・エンケル)との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラー(クリスタ・コソネン)と出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

 

「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの、ムーミンたちがどのように生み出され成長していったか、トーベその人の人生や創作への情熱が描かれたドラマです。

1944年のヘルシンキ。冒頭で防空壕の中で怯える子どもたちにムーミンのお話を語るトーベが映し出されます。身近な人々をモデルに不思議な生き物を創造して描くのが好きなトーベの原点ですね。母は画家のシグネ・ハンマルステン=ヤンソン、父は彫刻家のヴィクトル・ヤンソンという芸術一家で育ったトーベは、アトリエを借りて厳格な父とは相反する型破りな生活を始めます。パーティーで知り合った議員のアトス(シャンティ・ローニー)は既婚者ですが、トーベの方から誘っています。アトスという人物は、妻もトーベに劣らず奔放な女性だったようで、何も同じタイプに惹かれなくてもと思ってしまいますが・・

絵画の個展を開いたトーベは、煙草を吸う自画像を父に外すように言われますが聞き入れません。舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーがトーベのイラストに興味を持って話しかけてきたのが二人の出会いのきっかけでした。

芸術家の授賞式で、友人や父の名前は呼ばれたのに自分の名前は呼ばれなかったトーベは、自分の表現と芸術界の潮流とのズレを自覚し、焦燥感を持ちます。アトスの助言で絵画と並行してムーミントロールの物語を書き始めたトーベ。絵が売れず家賃にも事欠くトーベは、ヴィヴィカに連絡を取り仕事をもらいます。

仕事の依頼者のエーリク・ヴォン・フレンクルの誕生パーティーでヴィヴィカと意気投合し、彼女にキスされたトーベは、同性愛と知りながら惹かれていき、誘われるまま身体を重ねます。当時同性愛は認められていなかったのでこの交際をトーベは隠しますが、彼女との会話に触発されてトフスランとビフルランの物語を創り出します。

ヴィヴィカとの交際を告白したトーベに、アトスは驚きながらも「興味深い経験をしたね」と怒ることをせず見守ります。彼は自分が編集長を務める新聞に子ども用のお話の連載を持ち掛けます。ヴィヴィカもトーベの油絵を評価しながらも「でもそっちの方が素敵」と絵本『ムーミン谷の彗星』のイラストを指さします。

ヴィヴィカにパリ行きを誘われたトーベは絵本出版に集中していたので、そのうち行くと断ります。食堂の壁画の仕事をしますが、父は「絵はキャンバスの上に描くもの」と言い、認められないことに寂しさを感じるトーベ。更に、パリから戻ったヴィヴィカが踊り子のイルヤという若い女性を伴っていることに動揺し、彼女が他にも色々な女性と関係していたと知ってショックを受けます。そんなトーベにヴィヴィカは拗ねないでといって「ムーミンの芝居かミュージカル」をしないかと提案をします。

アトスは離婚したことを告げてトーベとの再婚をほのめかしますが、その時はスルーされます。ヴィヴィカの提案を受け入れ、スウェーデン劇場で舞台劇『ムーミントロールと彗星』を一緒にすることになったトーベですが、ヴィヴィカの心を独占できない寂しさから、アトスに求婚してと頼みます。結婚してもヴィヴィカが心を占めているトーベに傷ついたアトスは「僕は鈍感になりきれない」と去っていきます。

トーベの両親も見に来ていた劇は成功し、トーベとヴィヴィカは拍手を浴びます。

イギリスの新聞『イブニング・ニュース』にムーミンの漫画が連載され、サイン会には行列ができる人気となった頃、トーベはトゥーリッキ(ヨアンナ・ハールッティ)と出会います。ヴィヴィカとの別れもありました。

父が亡くなり、遺品の中に娘の作品を集めたスクラップを見たトーベは、辛辣な批評家だった父が本当は娘の作品に理解を示し、誇りに思ってくれていたと知り慰められます。その後も作家活動を続け、私生活ではトゥーリッキと暮らし、アトスやヴィヴィカとも親交を続けたトーベ。ヴィヴィカは後に「トーベの愛が自分には眩し過ぎた」と語ったそうです。

どうやってムーミンの物語が生まれ、紡がれていったのかがわかるかと思って観たけれど、当てが外れたかな。トーベという当時の芸術家の枠からはみ出した自由奔放な女性の生き方に焦点が当てられていました。彼女の生き方には賛同しかねますが、これが芸術家だと言われても何となく納得してしまいそうです。恋愛に関しては一途なところがあり、それ故に苦しんだこともあったのでしょうけれど、それがムーミンという作品の光にも影にもなっているような気がしました。


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月下のサクラ

2022年08月01日 | 

柚木裕子(著) 徳間書店(出版)

事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングをし、解決へと導く機動分析係。
森口泉は機動分析係を志望していたものの、実技試験に失敗。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、無事配属されることになった。鍛えて取得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう。
自分の能力を最大限に発揮し、事件を解決に導く――。
泉は早速当て逃げ事件の捜査を始める。そんな折、会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚した。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者である線が濃厚で、やがて殺人事件へと発展してしまう……。(あらすじ紹介より)

 

この作品の前に「朽ちないサクラ」というのがあって、そちらで起きた友人の死に隠された真実を知って捜査の第一戦に立ちたいと刑事になった女性が主人公だということを検索して初めて知りました。そもそもこれを読もうと思ったきっかけすら忘れていたという・・ 「ミカエルの鼓動」繋がりだったっけ

広報課勤務だった森口泉は猛勉強の努力の末、県警捜査二課の刑事となりましたが、更に、捜査の最前線で活躍できる捜査支援分析センターの人員募集に応募します。冒頭の尾行の描写はその最終テストでしたが、相手役の黒瀬に見破られて失敗します。落胆する泉でしたが、何故かその黒瀬の強い推薦により合格し、分析係に異動を命じられます。尾行時にやたら時間の数字や看板ポスターの描写が多いなと思っていましたが、これは泉の記憶能力を強調するための伏線だったのね

分析係のメンバーたちから「コネ」扱いされる泉ですが、へこたれません。しかし、着任早々会計課の金庫から一億近い現金の紛失が発覚し、内部犯行が疑われる事案が発生します。

泉の所属する機動捜査係は、事件現場で収集した情報(Nシステムや防犯カメラの映像データ)を解析しプロファイリングする業務で、チームで行います。小説の中の話とはいえ、これだけの情報網が街中に張り巡らされているという現実は何だか背中が寒くなる思いです。

冷徹な黒瀬仁を中心に、黒瀬との付き合いの長い哲(市場哲也)、真(日下部真一)、毒舌家の春(春日敏成)、泉に敵愾心を燃やす大(里美大)といった個性的なメンバーの中で、徐々に泉の存在が認められていく展開でした。

頭の中で記憶した映像がビデオテープのように再生されるという泉の能力は、単に努力で培われたというには疑問が残りますが、元々彼女に備わっていた特殊能力が、鍛錬によって強化されたと考えるのが妥当かも。

早期退職した元会計課長が捜査線上に浮上しますが、彼が謎の死を遂げます。自殺で処理される中、足に残された注射痕からソトニと称される外国人組織犯罪を捜査する公安警察の関与が疑われるんですね。黒瀬は、早くから内部の犯行と考え、中国犯罪組織による詐欺事件の受け子と絡めて犯人の目星をつけていますが、メンバーには明かしません。それは、彼の過去(誤認逮捕した相手や部下を死に追い込んでしまったこと)からくる罪悪感と悔恨によるものでした。しかし泉がその記憶能力を発揮して事件の中核に迫る働きをする中で、黒瀬との信頼関係が深まっていきます。

突然謹慎処分が言い渡された黒瀬の手足となって動くメンバーたちは、本部長の大須賀の息子と詐欺事件の黒幕との関連を掴みます。そのことと、署内の金の紛失、そして元会計課長の死が繋がってくる後半と、単身、本部長に直談判に出かけた泉の危機のくだりは一気に読ませてしまう緊張感がありました。でも、いくら盗聴器やら追跡装置を持たせていたとしても、尾行くらいしそうなものだし、そもそもそんな危ない橋を渡る許可が良く出たな~とは思ってしまったけれど・・。

とりあえずは、黒瀬班のメンバーとして正式に認められた泉ですが、事件が解決しても犠牲者は出ているわけだし、公安に対する不信感は膨らむばかりです。泉が刑事になろうと思ったきっかけの事件はまだ尾を引きそうだし、シリーズとして続いていくのかな?今作では「森口さん」と呼ばれていた泉ですが、次は名前で呼ばれるようになるのかもね。

その前に「朽ちないサクラ」読まないとですね。


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