
著者 : ジョージ・R.R.マーティン 酒井昭伸 鳴庭真人 水越真麻 川野靖子
早川書房
“氷と炎の歌”で描かれる世界の300年前、東方のヴァリリアよりドラゴンを従えてウェスタロスの地を踏み、“炎と血”で七王国を支配したターガリエン家の治世を綴った一大年代記。日本版は原書Fire&Bloodを二分冊し、前半部の第1巻では、七王国を統一した“征服王”エイゴン一世から、“残酷王”メイゴル一世、そして、ウェスタロスに長い平和と繁栄をもたらした“調停王”ジェヘアリーズ一世の治世を描く。(作品紹介より)
2022年8月配信の『ゲーム・オブ・スローンズ』の前日譚スピンオフドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン(原題:House of the Dragon)』の原作です。アーチメイスターによるウェスタロスの歴史書を解説する形になっていて、デナーリス・ターガリエンの三代前の当主エイゴンによる大陸征服から150年間が描かれます。
歴史書ですから、登場人物の視点ではない第三者の客観的な視点で淡々と綴られていくので本編のように登場人物それぞれの物語として楽しめないのはもったいないというか残念な気もしますが、「氷と炎の歌」シリーズの前のウェスタロスの情勢と各公家の果たしてきた役割を紐解く参考書的として読む分には興味深い内容です。
目次
・エイゴンの征服
・竜王の御代 エイゴン一世の戦争
・ドラゴンの三つの頸 エイゴン一世の統治
・竜王の子ら
・新王誕生 ジェヘアリーズ一世の即位
・三人の花嫁の年 AC四九年
・支配者の乱立
・試練の時 王土再建
・ジェヘアリーズ一世の治世における誕生、死、裏切り
・ジェヘアリーズとアリサン その功績と悲劇
・長い治世 ジェヘアリーズとアリサン:政策、子供、そして苦悩
ヴァリリアからドラゴンに乗って飛来し、ドラゴンストーン城からウェスタロス統一の狼煙を挙げたエイゴンとその姉妹妃ヴィセーニアとレイニス。ターガリエン家にとって(ヴァリリアの慣習として?)高貴な血筋を保つために近親婚は当たり前だというのが大前提です。それぞれのドラゴンに騎乗し圧倒的な(炎の)力でウェスタロスを征服し、征服王と呼ばれたエイゴン。レイニスとの子、エイニスが跡を継ぎ、妹のアリッサと結婚します。
穏やかで剣より芸術を愛するエイニスはその優柔不断さで王としての技量に欠けるきらいがありました。王が亡くなると、鉄の玉座をヴィセーニアの子で、王の弟のメイゴルが奪います。彼は残酷王と呼ばれ、多くの妻を持ち(その中にはエイニスの娘レイナも含まれます)非道で知られる王となります。
メイゴルの妃たちは誰も彼の子を成せず(塔のタイアナの仕業と後に判明)彼が追い詰められて鉄の玉座でこと切れた後、王位を継いだのはエイニスの第四子ジェヘアリーズです。
エイニスの長女レイナは長男のエイゴンと結婚して双子のエイリアとレイラを産みましたが、エイゴンが亡くなるとメイゴルの妻にされます。更にメイゴル亡き後はアンドロウ・ファーマンと再再婚しますが、この夫は凡庸でした。
エイリア王女はバレリオンに騎乗して逃げ出し行方不明になるのですが、数年後に舞い戻ります。この時高熱を発していて数日後に死亡するのですが、セプトン・バースの記述には恐ろしい化け物が彼女の体を食い破って出てきたとあります。この描写、読んでいるだけでもおぞましかった。さらに、この双子は性格が全く異なっていて、ある時点で入れ替わっていたのではとも書かれていました。ちなみにレイラとされる娘はセプタとなっています。
ジェヘアリーズも妹のアリサンと結婚します。彼らの関係は母のアリッサ太后と夫となったローガー・バラシオン公の反対を跳ね返してのものでした。エイゴンとレイナの時もでしたが、初代とは受け止め方が異なり、この頃になると近親婚を忌むべきものとする七神を信仰するウェスタロスの大半の民にとって、二人の結婚は祝福されざるものでしたが、ジェヘアリーズはヴァリリアの血を継ぐターガリエン家を特例と定めることでこの問題を解決します。彼の治世は長く、調停王と呼ばれ概ね平和な時代なります。彼はキングスランディングの町とウェスタロスの道の整備に生涯をかけて取り組んでいます。人の話に耳を傾け公正な判断を下し、平和的に問題を解決する王でした。メイゴル王のような女好きでもなく、王妃だけを愛し、愛人や落とし子も皆無でした。
アリサン王妃もまた博愛王妃と慕われました。
特筆すべきは、アリサンが女性の権利を保護したことです。彼女は巡幸の先々で「女だけの王妃懇談会」を開いては(身分の別なく参加することができた)悩みを聞き取り、政治に反映させています。領主の「初夜権」の撤廃もその一つです。この世界(時代)では女性の地位は低く、子を産む道具扱いですから、彼女の功績は称えるべき価値があります。
彼らの間には13人の子が産まれましたが、生まれてすぐに亡くなった子、病死した子、父王の顔に泥を塗って国外逃亡した子もいました。医療が十分でない時代には出産は命がけであり、産まれた子が健やかに育つ確率も低かったし、産褥で亡くなることも多々ありました。
子どもの名前に父母や祖父母と同じ名を付けることも多くなり、ここまでくると誰が誰なのか混乱してきます。(^^;
しかし、こうまで子供が増えるとジェヘアリーズ亡き後の継承問題は大きな火種を抱えることになるのは必須です。
本作では、レイナの義妹のエリッサ・ファーマンがドラゴンの卵3個を盗んで逃亡するエピソードが登場しますが、この3個という数字は3世代後にデナーリスの手に渡った数と同じなんですよね~~。伏線になっていたらなかなか興味深いですね。
巻末のターガリエン家系図は登場人物の整理に役立ちますが、それでも下にいくほどこんがらかってくるぞ😅