現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

筋々膜性疼痛に対するトリガーポイント療法の整理

2011-02-15 | 総論

 「トリガーポイント」という言葉を私が知ったのは30年以上前になる。ケネディー大統領の主治医だったというトラベル女史らが研究したということと、数多くのトリガーポイントと関連痛の図が掲載されていて、興味深かったのだが、専門書も入手困難で、それ以上の知識が入手できなかった。それが針灸治療にとって、どうかかわってくるのかは、まったく不明だった。しかし明治鍼灸大学の川喜多健司先生、黒岩共一先生らのご努力により、近年になって、在野の針灸師にとってもやっと概要が把握できるようになった。また加茂整形外科医院の加茂淳先生も、トリガーポイントと筋々筋膜性疼痛症候群(MPS)に関して、新たな観点から鋭い指摘を行ってる。 

それは知れば知るほど驚くべき内容で、主張に一本スジが通っており、医師にも受け入れられる内容になっている。このことは針灸学の方向性ばかりでなく、病院医療における針灸師のポジションを確定できる可能性もあるとさえいえる。初歩的であるが、私なりに理解した内容を、かいつまんで紹介する。  

1.筋収縮の種類と遅発性筋痛
1)筋収縮の種類

   

2)エキセントリック収縮と遅発性筋痛

筋力を発達させるには、筋への多大な負荷をかけ、あえて筋に微細な損傷を与え、損傷治癒の過程で、元の筋線維が太くなる機序を利用する。それには最大筋力での筋収縮を行うのが適しており、そのためエキセントリック収縮を行うことになる。ボディビルダーのトレーニングとして高い負荷をかけてのエキセントリック収縮が積極的に利用されている。
 山を下る際の、下腿三頭筋や大腿四頭筋収縮例がある。山から帰った翌日から筋痛になることが多いのは、この下山時のエキセントリック収縮による。
 

 筋の微細損傷を治癒過程で、損傷細胞を白血球のマクロファージが取り込む。その際、発痛物質を放出する(炎症状態)。この発痛物質が筋膜を刺激すると「遅発性筋痛」delayed onset muscle soreness が起こる。 

2.トリガーポイントと遅発性筋痛の機序 
  筋肉へ伸張性筋収縮負荷の持続
          ↓  筋線維の微細損傷
  筋線維が部分的に伸びにくい状態になる=筋に硬結出現(自覚痛なし)
         ↓ その部分が酸素欠乏になる。循環不全
    潜在性トリガーポイント形成(運動時痛)
         ↓ さらなる循環不全の持続→虚血によりブラジキニンなどの疼痛物質を生成
     ↓  →それが知覚神経C線維の先端にあるポリモーダル受容器に取込まれる
     ↓  →痛みとなる 
   活動性トリガーポイントの形成=遅発性筋痛(自発痛)

※痛覚を伝える神経終末は筋膜には接合しているものの筋線維には接合していない。
ゆえに筋線維は痛むことはないが、筋膜は痛む。

※伸張性収縮などによって筋肉が過負荷を受けた瞬間(筋線維がミクロレベルで損傷した瞬間) に痛みを    感じることはない。ただし筋膜までも損傷するような疾患(肉離れ」など)の場合は即痛みを伴う。
※遅発性筋痛とは、運動終了後、しばらくしてから感じる筋痛のことで、一般的な筋肉痛は、遅発性筋痛に分類される。

※痛みの原因は、筋々膜にあると考えがちだが、トリガーポイントの活性化にある。

3.腱付着部症とトリガーポイント
腱や靱帯が骨に付着している部分を、エンテーシスenthesis とよぶ。そこが引っ張られることで生じる障害を、エンテソパチー enthesopathyとよぶ。
筋が緊張し、短縮すると腱に加わる牽引力は増し、とくに構造的に脆弱な腱付着部に大きな負 担が加わる。腱付着部に微小外傷が生じ、その発生と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる。
     

 2.筋と腱付着部のトリガーポイント構造

1)タクトバンド(硬くて痛い筋線維)の存在
これが狭義の筋筋膜性疼痛である。タクトバンド中の一点にTPsがある。

 2)CTrP(セントラルトリガーポイント)
筋腹にある。そこには運動終板(=モーターポ イント)がある。筋が緊張(=短縮)すると、腱にかかる負担(牽引力)が増える。

3)ATrP(アタッチメントトリガーポイント)
 2つの組織の間(筋と腱、腱と骨)

4.トリガーポイントへの鍼刺激の狙い
1)感作したポリモーダル受容器をより強く興奮させることで、内因性の鎮痛系をより効率的に賦活させる。
2)ポリモーダル受容器の末端から神経ペプチドを放出し、局所の血管拡張をもたらし血流を改善させる。
3)上記方法により、TPsの不活性化を目指す。治療によってTPsを消失させることは困難だが筋中の血行が良い状態に保つならば、TPsは再活性化しない。

 
 

 

 

 

 

 

 


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