AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

後頸痛に対する針灸治療の総括 ver.1.4

2024-05-06 | 頸腕症状

シンプルに私の行っている後頸痛の針灸治療を整理してみた。

2018.9.7で「本稿での後頸部の経穴位置と刺激目標」ブログ(以下)を発表した。今回はそれから6年経た現在の進捗状況である。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/813c479992742718841d4e2777582ff0

 

1.胸椎・腰椎部筋の構造と針灸治療方法のおさらい
     まずは背腰部固有背筋を整理し、頸部の固有背筋と比較する。

起始・停止とも背部にある筋を固有背筋とよび、脊髄神経後枝支配である。胸椎と腰椎における固有背筋の構造は、浅層には起立筋があり、棘筋・最長筋、腸肋筋に細分化される。深層には横突棘筋があり、半棘筋・多裂筋・回旋筋(長短)に細分化される。
   

頸椎では頭・頸半棘筋が、胸椎は長・短回旋筋が、腰仙椎では多裂筋が発達している。横突棘筋の機能は、上下椎体間の静的安定を保つ役割と、脊柱運動(前後屈や左右回旋)の際、生理的範囲を越えた動きをないよう捻挫しないよう制限をかける役割がある。脊柱を動かす筋は、棘筋・最長筋、腸肋筋といった浅層筋であるが、これらは背腰痛を起こすような障害はあまり起こさないので、針灸治療上は考慮する意義は薄い。つまり腰痛の治療穴として代表的とされる腎兪や大腸兪は、実際には治療穴として使う機会はあまりない。
   

背腰痛の針灸臨床の場合、症状部の撮痛の発見→脊髄神経後枝興奮エリアの把握→後枝が脊椎傍から出る部への刺針→症状改善という一本道の考え方で成功することが多いので、これは針灸治療定理の一つとなる。背部部一行からの深刺が効く訳は、背腰痛の大部分は、横突棘筋の過緊張が真因だからだろう。

2.頸椎の筋の構造

※上図は以前に筆者が創案したものだが、長らく「脳戸」を「脳空」と誤って記載していた。ここにお詫びとともに訂正させていただきます。
脳戸の外方1.3寸に玉枕、脳戸の外方2寸に脳空がある。
脳戸(督)-玉枕(膀)-脳空(胆)と横並びになる。語呂は、脳(脳戸)のマクラ(玉枕)はからっぽ(脳空)。

頸椎では起立筋に代わり後頭下筋と板状筋が存在している。横突棘筋は胸椎~腰椎と同じように頸椎でも存在している。

1)後頭下筋の機能と刺激点

①後頭下筋は、後頭骨-C2間にある。その主作用は頭の前後屈運動の際、頸椎アラインメントからの逸脱防止がその役割になるが、うがいをする際は、後頭下筋の最大屈曲(25°)、顎をひく際は最大伸展(10°)が必要となり、これは後頭下筋の仕事になる。

②下頭斜筋を除く後頭下筋3種は、後頭骨下項線に停止がある。その代表刺激点は上天柱穴である。天柱刺針では大後頭直筋の下方に入ってしまうので、後頭下筋群に対する治療穴としては 適切な治療穴とはいえない。
C1C2棘突起間の外方1.3寸に天柱穴をとり、その上1寸で後頭骨-C1間に上天柱をとる。上天柱から直刺すると、僧帽筋→頭半棘筋→大後頭直筋と入る。なお僧帽筋は肩甲上部を挙上(肩をすくめる動作)する機能なので、頸部筋としての作用はない。

2)頭半棘筋と刺激点

①頭の前後屈運動の主体となるのは後頭下筋の浅層にある頭半棘筋で、頭半棘筋は頭の重量支持の大黒柱なので太く発達している。

②頭半棘筋の停止は、後頭骨上項線にあるので、治療点としては上天柱のさらに上方の下玉枕になる。ちなみに上項線中央にある外後頭隆起の直上に脳戸穴があり、脳戸の外方1.3寸に玉枕穴がある。脳戸の外方2寸には脳空穴がある。

③後頭下筋は、C1後枝(=後頭下神経)により運動支配を受ける、後頭下神経は知覚成分をもたないので、筋痛を生ずることはない。しかし後頭下筋と頭半棘筋の間をC2後枝(=大後頭神経)が通過して後頭に向かう部なので、後頭下筋の筋コリは大後頭神経痛のワレーの圧痛点になる。

大後頭神経痛の原因の大部分は、頭半棘筋の神経絞扼が原因となる。治療穴は下玉枕または上天柱になる。

 


3)頭半棘筋への効果的な刺針体位


腹臥位で大後頭直筋に刺入するよりも、この筋を伸張させた肢位で刺針すると奏功しやすい。

通常は下図の方法で行うが、この時患者の頭は術者の心窩部に当てる。

下玉枕ともなると、頭半棘筋の直下に頭蓋骨があるだけなので、直刺ではなく斜刺がよい。たとえば左下玉枕を刺入点とすれば、右下玉枕方向に斜刺する。

術者が女性で患者の頭が胸に当たることが気になる場合、下図の方法を使うこともできる。ただし下図では運動針を併用できなくなる。

 

4)頭の左右回旋運動と筋

①頭蓋骨を左右に回旋する主動作筋は、頭板状筋である。頭板状筋は、中部頸椎棘突起と乳様突起を結ぶ筋で、後頸部において頭部回旋の主役である。k頸椎全体での回旋ROMは左右それぞれ60°であるが、うち45°はC1-C2間で行われる。この左右回旋の主動作筋は、おそらく頭板状筋ではないだろうか?

②頭板状筋を刺激するベストポイントは下風池穴になる。風池穴でもよいが、頭板状筋筋腹を刺激するには下風池の方が適している。
ちなみに風池から深刺しても上頭斜筋に刺入できない。なぜなら上頭斜筋はあまりに深い位置にあるため。

 

※下風池はあまり聞きなれない穴名かもしれないが、芹沢勝助は耳鳴時に圧痛がみられるポイントとして本穴を紹介していた。ただし芹沢は、天柱と風池を一辺とした正三角形の頂点と記していた。一側の頭板状筋の緊張も後頭下筋と同じように一側の内耳機能を亢進させる。この左右差のコリの程度の違いが内耳症状を生ずるらしい。


5)頭半棘筋への効果的な刺針体位

頭半棘筋は頭部回旋の主役なので、過緊張している頭半棘筋を伸張させるような動きで痛みを生ずる。治療は、本筋を伸張肢位にして下風池に実施するとよい。


3.頚部横突棘筋の機能と頸椎一行刺針

深層にある固有背筋の役割は、頸椎重量の静的状態を維持する。また頸椎回旋運動での頸椎に加わる衝撃を緩和させることにある。この役割は、胸椎・腰椎にある横突棘筋と同じものである。もしも横突棘筋がないとすれば、脊椎捻挫が多発することになるだろう。

 

1)頭半棘筋への刺針

頸椎一行線の圧痛の好発部位は、頭蓋骨-C1間では下玉枕で、C7-Th1間では大椎一行(別称は定喘・治喘)が代表である。これらの穴は、頭蓋骨-頸椎、そして頸椎-胸椎といった異なった構造物のつなぎ目になるので構造的に脆弱である。
棘突起傍にあるにある横突棘筋のコリ→脊髄神経後枝興奮→腰殿痛症状という病理変化となる。

①下玉枕:上天柱と玉枕の中点。直下に頭半棘筋がある。
②定喘(教科書):C7棘突起下に大椎をとり、その外方5分
③治喘:大椎の外方1寸

頭半棘筋の下方には頸半棘筋と胸半棘筋があり、これら3筋が協力して頭蓋骨の引き上げ、顔を正面に向かせている。いわゆる寝違え時、後頸部だけでなく、Th3~Th7の高さの頸・胸半棘筋に刺入して、頸を動かす運動針を行うことが効果的なのは、この理由によるものだろう。

 


2)C3~Th7一行刺針

この高さにある横突棘筋に刺針する。これは脊髄神経後枝刺激になる。C1後枝とC2後枝は上行性に分布するが、C3以下の脊髄神経後枝は、すべて神経根から外下方45°方向に伸びる。なおこの反応は撮痛点としても把握できる。症状部から内上方45°方向の棘突起との交点にある背部一行線が取穴部位となり、そこから横突棘筋まで深刺する。

 

C3以下の後枝は、神経根から下外方に走行している。とくに後枝皮膚知覚枝は、症状部から脊髄神経後枝走行を斜め上方45°を下行しているので、後頸部~肩背部に、圧痛硬結もしくは撮痛部を発見できたら、その部位から逆に斜上方45°方向と背部一行(棘突起外方5分)上の交点が治療点となる。頸椎一行の圧痛点に深刺すると症状を緩和できることが多い。

施術の際は、側臥位で顔を下に向かせるように指示すると、頸椎の前弯が減少して頸椎一行の圧痛を触知しやすくなる。

     

3)頸板状筋

頸椎回旋は、その3/4が頭板状筋の収縮により左右回旋45°がC1-C2間で行われる。C2-C7間で、それぞれ上下の頸椎間で少しずつ回旋し、それが積み重ねた結果、15°の回旋運動になり、頸椎全体のしての左右回旋はそれぞれ60°が正常ROMである。C2-C7の回旋主動作筋は、頸板状筋になる。
ただし頸板状筋の障害で頸痛を起こすのではなく、回旋し過ぎぬようブレーキをかけているのが横突棘筋で、本筋が過伸張されて頸痛を起こしている。症状部は頸半棘筋にあったとしても、それは頸神経後枝の神経痛によるものであって、神経痛をもたらしているのは頸部一行深部筋であり、頸部一行への深刺が効果的になる。

 

 


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