AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

眼科針灸治療の法則性を探って

2013-08-15 | 眼科症状

1.代田文誌・代田文彦による眼科治療穴   

代田文誌著「針灸治療基礎学」(昭和15年、発刊)の巻末にある疾患別経穴一覧の眼科疾患の項をみると、眼科疾患別に治療穴が載っている。ご子息の代田文彦先生は、この中の法則性を見出し、内容を再整理した。 


これを要約すると、①眼前部に対しては大腸経の手の遠隔治療穴(二間、合谷、曲池)の灸治を多用すること、②眼構造前部障害に対しては、痛みや眼の充血改善目的でコメカミ~側頭部(太陽、頭維)に刺針・刺絡が行われること、③眼構造後部障害に対しては天柱から上天柱などが行われることなどが読み取れるものとなっている。
以下、代田文彦、迷いながらの鍼灸、理療、1979~1980より

 

 ①曲池
目の領域。目といても表面の結膜とか角膜の領域。目の表面と関わるように、皮膚の比較的表層とは、全身にわたって何らかの影響力をもっていると考えたい。したがって皮膚がかゆいときとか、皮膚病のときに取穴したくなるし、ごく表層の病変ということで、風邪のときにも取穴したくなる。

※曲池とよく似たイメージとして、合谷穴がある。抗生物質が発明される前の明治から昭和初期まで、面疔の灸 として桜井戸の灸が有名だった。左右合谷に50~200壮、顔面の痛みが止まるまで5週間施灸する。

 
②和髎・目窓
少し奥に入った虹彩付近と関わり合いが深い。

※和髎:頬骨弓後端の上際。浅側頭動脈拍動部。浅側頭動脈拍動上。
※目窓:瞳孔線上で前髪際付近に頭臨泣をとる。目窓はその後1寸。

③天柱・上天柱
網膜から視神経と関わり合いが深い。


④中国では、網膜疾患や眼底疾患に対しては、眼窩奥にある上眼窩裂(=睛明)や下眼窩裂
(=球後)の刺激も行われ、それぞれ30分程度の置針が試みられるものの、この部分の疾患は一般に難病である。


2.代田文誌・代田文彦による眼科治療穴の再検討 


1)現代では眼の炎症症状には抗生物質を使う


眼の痛みや充血、すなわち結膜炎、角膜炎、虹彩炎等では、現代では抗生物質やステロイドの点眼薬を使って上手に治せることが多い。これらの治療のために針灸の門を叩く者はほとんどない。眼の疼痛・充血治療であるコメカミ~側頭部筋への刺針・刺絡が効果的だというが、今日では出番はめったにないであろう。  

コメカミ~側頭部への施術は、側頭筋緊張性頭痛に付随する眼精疲労ともいえる。  

2)毛様体神経(毛様体筋)-三叉神経第1枝-大後頭神経症候群とのアセスメント


代田文誌は、視力障害には眼構造項部を刺激するとあるが、乱視や仮性近視、眼精疲労などにも項部を施術する点が、現代的感覚と異なる処であろう。項部刺激が視神経や網膜に影響を与える可能性のあることを考えたらしいが、ここは毛様体神経-三叉神経第1枝-大後頭神経の機能異常と捉えるのが妥当であろう。


①毛様体神経:球後(部位的に使いづらい)

②三叉神経第1枝:睛明、魚腰、目窓、頭臨泣、上眼窩内刺針
③大後頭神経:本神経はC2C3後枝であり、知覚枝と運動枝がある。
知覚枝→上天柱、玉枕  運動枝→項部筋を広く支配。

※眼精疲労の針灸

眼精疲労の原因については種々あるが、調節性眼精疲労(毛様体筋疲労)またはと筋性眼精疲労(輻輳不全、斜視)が2大原因であり、調節性眼精疲労の方が多い。調節性眼精疲労に対しては、その支配筋である三叉神経第1枝を刺激する目的で、魚腰、上眼窩内刺針、目窓などを刺激する。または大後頭神経が三叉神経につながる部分であるC1~C3 脊髄神経後枝を刺激する目的で、天柱や上天柱を刺激する。

3)眼の表層の治療


動物の本能として、腹が痛い時は腹をさすり、腰が痛ければ腰をさする。同様に、目が悪ければ目をさする。目をさする場合、多くは自分の二間や合谷を閉じた目の部分にあて、こすることになる。基本的には、瞼をこすることにより、血行改善させ、それによって涙腺やマイボーム腺分泌の活性を図っているのだと思う。したがって、上眼瞼を蒸しタオルで温めたり、刺激するような意味があるのだろう。

 
3.毛様体神経節刺針(≒球後)とは 

1)毛様体刺針法の意義

毛様体神経節刺針法とは1979年、中村辰三先生が発表した刺針法である。毛様体神経節は副交感神経性の神経節(眼の栄養、分泌、疲労回復などの機能)であることから、この部への刺針が眼症状に試みる価値があると予想した。実際に試みると、針治療により急速に視力が改善するという。針治療が眼底出血に有効である症例があったとの治験も得た。

※単に球後から刺入するだけでも心理的に抵抗が強いのに、毛様体神経節刺針は、下眼窩から深刺するので、多少なりとも危険が伴うであろう。経験の浅い針灸師が行うべきでない。

 

2)毛様体神経節刺針法

眼耳水平面(眼窩下縁の最低点と耳孔最上部を結ぶ面)から、上向き角度約30度、正中面に対する内向き角度約30度で、眼窩下縁と外側縁の交点から、眼球の後方に向けて約3.5㎝内側上方へ刺入。1号針を用いた10分間置針。軽く雀啄後に抜針。

※球後刺針:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さを取穴。眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経孔方向に刺入。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿