AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

副鼻腔炎に歯周病が合併した患者に対する鍼灸治療 (73歳、男性)

2022-02-01 | 耳鼻咽喉科症状

1.副鼻腔炎症例の鍼灸治療

3年前副鼻腔炎となった。耳鼻科で治療を受けると改善するが止めると元に戻ることを繰り返していた。左挟鼻穴を中心とした数カ所に置鍼5分間+糸状灸3壮、自宅でせんねん灸実施。この治療を開始すること数回で鼻の通りは改善し、治療5回目頃から左四白周囲の隆起も減少した。
なお副鼻腔炎でよく用いられる攅竹や上星・顖会穴に圧痛反応はなく、治療点に選穴しなかった。挟鼻部分は、三叉神経第1枝が走行しているが、挟鼻にきちんと刺激すると即効的に鼻が開通する。このことは三叉神経第1枝を介して充血状態にある鼻甲介を交感神経刺激し、充血を萎縮された結果だろう。鍼灸は慢性鼻炎だけでなく慢性副鼻腔炎にも効果が期待できる。副鼻腔炎時の膿性鼻汁であっても上星や挟鼻を刺激しているうちに粘性がとれ、鼻汁量が一時的に増加した後、鼻汁量自体が少なくなってくる。
※挟鼻穴の位置:鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央を中心とした圧痛点。三叉神経第1枝の分枝の鼻毛様体神経が走行。ワサビを食べすぎて目から涙が出るのは本神経の刺激による。

 

2.副鼻腔炎の病態生理

慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し充血。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、貯留物が排泄できない。
本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、繊毛運動により外に排出されるが、粘性の高い分泌物は排出されにくい。
    ↓
この状態が続くと感染が起きる。
 
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

 


3.副鼻腔炎と歯周病との関連

 
この患者は2ヶ月に1回、歯科でプラークコントロール治療を受けていているが、歯科医に自分が副鼻腔炎持ちであることを告げると、X線撮影により左上歯の歯槽骨が不鮮明になっていることを観察、これにより副鼻腔炎は左上歯の歯周病から来ているのではないかといわれた。
本患者は現在歯症状はなかったが、この患者申告により、頬部を押圧して左上顎の奥歯あたりの圧痛腫脹を調べてみた。すると銀冠処置してあった左上顎第一小臼歯の歯根に相当する歯肉に圧痛を発見できた。ただし鍼管で歯を叩打しても痛みは出現せず、歯肉の腫脹もほとんどなかった。要するに歯周囲病の程度は軽かった。

私はこれまで副鼻腔炎と歯周囲炎は別個の疾患だとの認識でいたが、上歯臼歯の歯根末端は、上顎洞に非常に接近している(上顎洞に歯根が入り込んでいる場合もある)。上顎骨は比較的、海綿骨という骨質が「疎」であるため、細菌が広がりやすい傾向にある。この解剖学的特徴により次の2つのケースが起こりえる。
 歯性上顎洞炎:大臼歯部の虫歯を放置して溜まってしまった炎症が上顎洞内に入り込む
 鼻性上顎洞炎:上顎洞内にできた炎症が原因で、奥歯が痛くなる          

 

4.歯周病の鍼灸治療の併用

歯周病の標準治療は、歯肉のブラッシングおよび歯科での歯石除去とされる。歯周病にならないよう努力している人も少なくないが、大人の約8割、小児でも5割が歯周病だとされる。根本原因は免疫力の低下にあるといわれるが、そうなると却ってどうしたらよいか、わからなくなる。

歯肉病の治療には、歯肉のマッサージが効果あるので、これと同じように考え、圧痛ある歯肉に対して数カ所に5分間置鍼した。なおこれまで実施していた挟鼻中心の圧痛点への5分置鍼と糸状灸治療は継続して実施。
3日後再来。左第一小臼歯の歯根にあたる歯肉の圧痛はかなり減少した。鍼灸1回治療でで歯肉の圧痛が減ったので、歯科での歯周病治療は当面延期することとなった。

 

5.女膝灸の適応症 『名家灸選』

歯槽膿漏といえば『名家灸選』には女膝の多壮灸が効くと記されている。本書には女膝は、歯肉が腫れて出血しているものに適応があり、その作用は排膿を促すことにあると書かれている。本症例の適応外と思えるので使用していない。
※女膝穴位置:足の後かかとの赤白肉の際

現代では感染症に対して化膿させないことを重視している。しかし抗生物質のなかった昔は、化膿→排膿→治癒という流れが自然治癒への道筋として当たり前だった。排膿には、膿の出口をつくってやらねばならいので、その出口づくりが打膿灸の効能とみなされていた。桜井戸の灸として知られる面疔に対する合谷多壮灸も同じで、顔面の皮下組織にある膿を、合谷に膿の出口をわざとつくってやり、合谷から膿を出してやろうとする発想だと思えた。

 


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