AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

中医人体構造モデルの総括 Ver.1.2

2012-01-09 | 古典概念の現代的解釈

 

これまで長らく古代中国医師の臓腑の考え方をパーツごとに推察してきた。彼らは理系の頭脳を持ち、機械仕掛けのような人体構造モデルを作り上げた。その考え方を追求する過程で、今思い返すと考え違いした部分もあり、追言不足の点もあったと反省している。ここへきて、どうやら全体像が見渡せるようになったので、現時点での総括を行う。

 1.胴体は蒸籠(セイロ)、頭蓋は鼎(カナエ、現代でいう鍋)にたとえられる。鼎は蒸籠の上に3本の脚(左右の胸鎖乳突筋と脊中)で載っている。

2.蒸籠の下部には、蒸気をたてる元の物質である水が入っている。これは腎水とよばれ、飲食物から抽出した栄養物(=後天の精)が混じる水溶液である。腎水中には先天の精とよばれる両親から受け継いだ生命の素の物質も入っており、後天の精は先天の精を養っている。成人男性では性交の際、腎水中にある先天の精を放出する。つまり新たな生命を生む種を放出する予備能力がある。過度の性交あるいは老人では、新たな生命を生むどころか、自分自身の命の種(=先天の精)も減少している。

3.蒸籠下部から火を燃やし、腎水の蒸気を立て、身体にこの蒸気を回すことで生命活動が営まれる。この火は、腎陽とよばれる。

4.蒸籠は三段構造で、下段は水を入れる所、中段は蒸す食物を入れる所、上段は蒸気を溜めるところとして機能する。腎陽によって蒸籠下部が熱せられる。このことで、蒸籠は三焦ともよばれる。三焦の温度が下がる状態は、体温低下であり、腎陽の火の不足を意味する。三焦が冷えることは、身体が冷たくなることであり、死を意味する。

5.腎陽は腎水を熱することで、蒸気を出す。蒸気は蒸籠内に満ちるが、上にのぼった蒸気は冷やされて水滴となり、再び腎水に戻る。ただし蒸気の一部は蒸籠上部の穴から出て、次に鼎を底から熱すこと、脳髄を活性化させる。一方で、四肢末端に至るまで気を送り届ける。その道筋は經絡である。

6.蒸気の運行は、肺の呼吸運動によりリズミカルに変化する。肺の呼吸運動は、フイゴ運動に例えられる。フイゴを動かす力は横隔膜による。空気を吸い込むと、その空気の一部は蒸籠内に取り込まれ、蒸籠の温度を冷やすので、冷やされる水滴の量は増える。これを腎の納気作用とよぶ。
空気を吐き出す時、腎陽の火力を強くし、蒸籠の温度を上げ、吹き上がる蒸気量は増大することで、頭蓋や四肢に至るまで気を送る力が増す。

7.蒸気の元は腎水だが、蒸気を出し続けるうちに、次第に腎水量が減ってくる。この水を補充する役割は脾にある。脾は、胃に入った飲食物から、良質な水分を抽出し、腎水というタンクに流し入れる機能をもつ。
 何回も水蒸気→水滴→腎水という循環を繰り返した腎水は、次第に後天の精としての養分が失われる。また流入した水が大量なため腎水の量が多すぎる場合もある。これら不要となった腎水は、膀胱へと送られ、小便として排泄される。

8.口から摂取した飲食物は、まずは蒸籠内にある胃に運ばれる。この内容物は脾の作用で、成分別の仕分けがなされる。揮発成分は、そのまま蒸気となる。水溶性成分は腎水に滴り落ちて、水や後天の精を補充する。脂性分は、脾の作用で血に変化される。それら以外の残渣成分は、小腸ついで大腸と移行しつつ腐熟され続け、最終的には大便となって排泄される。胆からは必要に応じて胆汁が出て小腸に注ぎ、小腸の腐熟機能を助ける。
 長期間飮食ができない場合、腎水中に含まれる後天の精が不足する。この時は脾の仕分け基準を緩和させ、血や食物残渣などを材料として後天の精を加工し、腎水中に放出する。

9.血は血管内を走り、身体中をくまなく巡る。心包は、血を巡らせるための動力ポンプとしての機能がある。心包が機能停止することは心拍動の停止を意味する。
余剰の血は骨髄に蓄えられる。また脂肪に再変換され、脂肪組織として体内に蓄えられる。肝は、血の一時貯蔵の場所として機能する。
 それでもなお血が不足している場合、脾の仕分け基準を緩和し、たとえば本来残渣として小腸に振り分ける物質の一部を脂とみなし、これを原料として血を製造するようになる。

10.心は心包に包まれている。前述したように心包は血のポンプとして機能するが、心自体は、本能(性欲、食欲、怒り、恐れ)や情動(喜怒哀楽)など大脳辺縁系的な役割があると考える。これらの作用は、心包に作用して心拍数を増減させる。

11.脳は骨髄の海として把握している。身体の一部分が動かないのは、その部分の骨髄の働きの低下に原因がある。脳血管障害時のように、身体が広範囲に動かないのは、脳髄の機能低下による。脳は運動機能中枢と考えたらしい。目(視覚)・鼻(嗅覚)・口(味覚)・耳(聴覚)は、脳髄から栄養を受け取ることで機能する。

12.肝は、血の一時貯蔵としての役割のほかに、大脳新皮質的な役割があると考える。意欲、思考、理性を担当する。「肝は将軍の官」とされる。すなわち自軍を指揮して勝利に導くような能力である。

 肝は動きのない臓腑だが、肝の直下にある胆は時々胆汁を分泌する動きのある臓腑である。人間は、考えを巡らすときは静止状態で行うものだが、結論が出た後は実行という行動にでる。肝が計画だとすれば、胆は実行を担当する。胆の力が弱いと、いわゆる「胆っ玉が弱い」人間となる。

13.大腸は食物残渣から大便をつくる最終段階にある。その作用とは別に、肺のの空気ポンプから導かれたパイプが大腸に入り、余剰の気を肛門から体外に排出する役割がある。
さらに大腸は、腎陽の火に空気を送る空気を調整することで火力を制御する機能もある。

14.蒸籠内で製造された蒸気(すなわち気+水)と血の一部は四肢に向かう。
腠理は、地下水脈に例えられる。この層を気と水が流れ、その深部にある肌肉あたりに血脈があり、その中を血が流れる。この地下水脈には井戸のような縦坑が点在し、これを通って、気と水が体外に出る。気は衛気となって身体防衛の機能を果たす。水は時に汗となり、身体の水分を調整する。

15.肺ポンプの内壁はしなやかな物質でつくられており、シリンダーの動きに伴って内壁も伸縮する。その結果、肺の吸気時、体幹内の血は肺に集まる。呼気時、肺に集まった血は四肢へと放出される。
※この項を表現するため、冒頭の図を改訂した。すなわち肺ポンプの3方向を血液で囲んだ。詳しくは、拙著ブログ「肺の宣発粛降作用」を参照のこと。

追補:フリッツ・カーン(独の医学博士)が1926年に作成した、「Der Mensch als Industriepalast」では、人間の構造を機械工場のメカニズムに例えている。

 


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