AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

手根管症候群の針灸治療 ver.2.2

2024-03-22 | 上肢症状

1.手根管症候群の概要   

手根管とは、手根骨と屈筋支帯(旧称は横手根靱帯)の間隙をいう。ここを縦走する正中神経が圧迫刺激され、圧迫部から末梢の正中神経麻痺が生じた状態。透析患者、閉経前後と妊娠・出産を機に多発する。

正中神経麻痺は、高位麻痺と低位麻痺(肘から遠位での神経絞扼障害)があり低位麻痺がほとんどである。低位麻痺の代表疾患が手根管症候群になる。円回内筋症候群も正中神経低位麻痺になるがマレな疾患。

※透析アミロイドーシス:透析中、手がしびれると訴える。ある種の線維状のタンパク質が屈筋支帯に沈着して太くなり、正中神経を圧迫。

 

2.手根管症候群の症状・理学検査

1)ファーレンテスト Phalen test     
手首を強く屈曲(掌屈)させる際の痛み。

 

2)正中神経低位麻痺症状

走行部(小指以外の指端)の痛みと異常知覚(ピリピリ、ジンジン)。母指対立筋の筋力低下、短母指外転筋の筋力低下、母指球萎縮。     

 

3.手根管症候群の治療  

1)局所治療点である労宮穴

手掌中央で、第3第4指屈筋腱の間に労宮穴をとる。労宮と手関節掌側横紋の中央 (=大陵穴)を三等分し、大陵に近い側の 1/3を「労宮移動穴」と定める。労宮移動穴から直刺すると、手掌腱膜→手根管(内部に正中神経と長・短手根屈筋腱)→虫様筋に入る。


この治療の直後は手のしびれは若干改善するのが普通だが、症状は間もなく元に戻りやすい。 局所治療に併せて腕神経叢や斜角筋を刺激することも行われるが、針灸が有効か否かは不明。手根管症候群の病理は屈筋支帯による手根管の圧迫にあり、筋々膜刺激ではどうにもならないのかもしれない。

 

2)手の腱に対するグライディングエクササイズ Gliding Exercise(滑走訓練)

手指には、長指屈筋と深指屈筋という 2つの屈筋腱がある。これらの腱は鞘内でまとめられ、その下の骨の近くに押さえつけられている。関節の動きを生み出すため  に、腱はこの鞘内だけでなく個別に滑る必要がある。この訓練は、前腕屈筋側にある浅指屈筋・深指屈筋を強圧した状態で行うと、腱がより伸張されるので治療効果が増す。この治療原理は、バネ指の運動療法、ヘバーデン結節の運動療法と治療と同種のものである。