AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

凍結肩の運動療法の整理および外科手術の適応

2024-01-07 | 肩関節痛

拘縮期の五十肩に対しては、鍼灸治療であっても、あまり効果的な方法がない。肩関節癒着には無効なのであって、治療の中心は運動療法主体になる。なお運動療法に温熱療法を併用することの効果は広く認められているが、電気をかけたり磁石を貼ったりするのはエビデンスに乏しい。

 

1.古典的な運動療法 

 

2.関節モビリゼーション

1)モビリゼーションとは
整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテクニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。
 
2)癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技 
凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体となる。関節包下方が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、これを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じさせる。
この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力もしくは徒手的に骨頭の下方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。

 

 

 2)凍結肩に対する筆者の工夫した関節モビリゼーション
  
肩関節の関節膜癒着を少しでも剥がすことを目的すなわち上腕のADL拡大させる手技として、以前筆者は、「側方引き出し運動」を参考に、下写真の手技を考案した。十年ほどこの方法を実践していたが、術者が力を入れて上腕を引っぱっている割に、肩関節腔拡大に作用する力の効率が低かった。

現在は上腕骨を下方に強く引っぱるのではなく、結髪動作制限時には関節を外旋を加えつつ(結帯動作制限時には関節に内旋を加えつつ)上下に動かすようなった。仰臥位、患者の脇の下に術者の足先を入れ、これを支点に患肢を保持する。患者に痛みを与えない範囲で、ゆっくりと外転・外旋の他動運動を実施する。一度に3分間以上繰り返し行う。この方法により可動域が少々拡大できることが多い。

 

 

3.PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaition;固有受容性神経筋促通法)手技

上図は五十肩に対するホールドリラックスで、カリエはこれを「リズミックスタビリゼーション(律動固定)」と名付けた。
①患者はセラピストの指示に従い、上腕を上下左右に動かす。その時セラピストは患者の上腕を持って腕の動きと逆方向に力を入れる。
②患者、セラピストとも筋力を使っているのだが、その力が拮抗し打ち消しあっているので、上腕はあまり動かない(等尺性運動になる)。
③力を入れた主動作筋に対して、反対側にある拮抗筋は緩むという性質を利用する。これをⅠa抑制とよぶ。筋の緊張を緩めることで関節可動域の拡大を図る狙いがある。
④鍼治療では、肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状態で本法を行うとよいだろう。

 

 

4.凍結肩の観血的治療(医師)

凍結肩が6ヶ月以上経っても改善の方向性が見通せなかったり、痛みが続いて我慢できない場合、医師は観血的治療を選択することがある。これは少なからず手術後遺症を残すことがあるので、慎重な判断が必要である。近年、お笑い芸人かまいたちの一人である山内氏がこの治療を受けたことで一般に広く知られるようになった。

1)サイレントマニピュレーション

関節の徒手的他動伸張運動による治療行為のこと。エコーを使ってC5C6神経に局麻注射。その後、固まった肩関節を全方向に他動的に動かし、縮んだ関節包を剥がしていく。この時に関節包の剥がれるベリベリという音がするが痛みは感じない。その時の音が小さいので、サイレントという名称がつけられた。最後に三角巾で腕を吊す。日帰り治療できる。術後7~10時間で麻酔が切れ、肩や肘の動きが元に戻る。以降はリハの運動療法を行い、積極的に肩を動かすようにする。

肩ROMは大きく改善することが多いが、腱や関節包に損傷を与える危険性があり、少数ではあるが痛みが持続する例もある。この治療を受けた山内は、治療直後から腕が動くようになり非常に驚いて医師に感謝の言葉を告げた。その医師は「まあ可動域はよくなるのですが・・」と返事した。実際、術後数時間して麻酔が切れた後、強い肩痛が出現するようになった。麻酔下でマニプレーションをする際、筋腱や靱帯、関節包に損傷を与えても、その時は気づかないのである。

2)肩関節関節包切開術

凍結肩の関節包癒着に対し、全身麻酔下で医師は硬くなった関節包をメスで切開する手術がある。この手術によりADLは術後から大きく改善できる。この手術が患部を視認しながら実施するので、上記のサイレントマニプレーションに比べて医療過誤は少なくなる。1週間程度の入院が必要。先の山内は、最終的に肩関節関節包切開術を受けることで、凍結肩は完治に至った。