AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

水の動態に関する手足の経穴と経絡の考察 ver.1.1

2023-05-12 | 古典概念の現代的解釈

経絡はしばしば川の流れに例えられるが、それは初学者に向けての大ざっぱな紹介にすぎないものたっだ。肘から先、膝から先には五兪主病といった井榮兪経合の性質をもつツボがあることも教わったが、あまりにも画一的であり単なる古典的修辞だとして真剣には学んでこなかった。

なお私は過去に五兪穴について調べたことがあって、これを本ブログに載せているのでご覧いただきたい。

五兪穴のイメージ(ニーダムの見解を中心に)
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/5566d414c785a766265f459e87fc2efd

ではどのようなアプローチをすれば経絡経穴について建設的な発見が得られるのだろうか。今回私は、354穴の正穴名の語源を調べたり想像したりもして、手足の水流に関係している経穴名をピッアップし、続いて水の流れの動態変化を調べるため、経絡ごとにこれらの経穴の関連づけを行うことにした。その結果、次のことがわかった。

①水流に関係した経穴があったのは十二正経の中の四本の経絡に限定された。
②その四つの経絡とは次の通り。(  )内は水流動態に関係した経穴数。
三焦経(4)、肺経(4)、腎経(5)、心包経(2)
※一見するとこの経穴数は少ないように感じられるかもしれないが、合谷や後渓というような、単なる地形を示すツボは含まれていない。また水路ではなく一般的な水に関係する穴(例:水分、水溝)なども省略した。体幹部にある穴も含まれない。たとえば腎経の中注穴(臍の外方5分下方1.3寸)は、一見すると水を注いているイメージだが、「中注の内側には胞宮や精巣があり、腎気が集まるところで、中注から胞中(子宮)へ腎気注がれる」といのがツボ名の解釈であって、今回のテーマ「水路」とは無関係である。


1.三焦経


水路といってまず思い浮かべるのは三焦経である。三焦は決瀆の官(運河開発管者)すなわち三焦経は水質代謝の通路。「決」は堰(せき)の扉を開いて水を開通せること、「瀆」には汚れを流すドブという意味があるも、四瀆は中国の4本の大河を意味している。四瀆の意味を総合して考察すると、汚物を流すための大河ということ。すなわち決瀆とは、体内の水の代謝(水を巡らせ汚水を流す)するという意味になるだろう。

☆「堰」といえば中国2200年前の歴史的利水工事となった中国四川省の都市、都江堰(とこうえん)が有名で世界遺産にもなっている。それまで四川盆地を流れる大河は洪水や干ばつで人々を困らせていた。そこで李冰(りひう)は8年の工期を経て、川を本流と支流にわけ、それぞれに堰築き、水量を調節するような堰を完成させた。以降、成都は肥沃な土地としてよみがえり、天府と称されるまでになった。ちなみに都江堰は道教発祥の地である。

1)三焦経の経穴
①液門:液とは少量の水。
②四瀆:a.「瀆」=汚水を流すドブや溝。
    b. 四瀆は中国の四大河(長江、黄河、淮水、済水)をさす。
③消濼:濼=水たまり。水流が消えて水溜まりになる。
④陽池:手関節背面を背屈してできる中央の陥凹を池にたとえた。
 
2)三焦経の水の動態

少しの水(液門)が池(陽池)となり、大河(四瀆)となるが、やがて流れはなくなり水溜まり(消濼)になる。
  
2.肺経

1)肺経の経穴

①尺沢:沢は水の集まる処。
②列缺:肺経の列から分かれて欠けるの意味。
③経渠:渠=人工の水路。現在では暗渠との単語が使用されている。水路に蓋をしものを暗渠という。暗渠は土地の有効活用であり都市に多くみられる。  
④太淵:淵=河川の流れが緩やかで深い場所。経暗渠から分かれ出る。

 
2)肺経の水の動態

沢の水(尺沢)から流れ出て、途中一部は支流(列缺)になって分岐。本流は人工的な水路(経渠)に入り、最終的には流れがゆるやかになり、大きく深い淵(太淵)に至る。
 
3.腎経  

1)腎経の経穴

①湧泉:泉のように水が湧き出る。
②太渓:湧泉から流れ出た水が(太渓)の処で一つに集まり、大きな渓流となる。
③水泉:水が深いところから溢れ出てくる。
④照海:「照」は<光り輝く>のほかに<広い>との意味もある。たとえば照合は、広く比較することである。海は平らで水がたまるような凹んだ処。すなわち照海は水が溜まる広い凹みをいう。足内果下は、皮下組織が薄く、やや凹んで平らな部なので、照海となづけたのだろう。あるいは浅く広い水溜まりが波風なく鏡のようは状態だったことで太陽光が反射して「照」の文字がつけられたのだろうか。
 
⑤復溜:ふたたび流れてくるの意味。水の流れは太谿→大鐘→水泉→照海と、内果の平らな処をグルリと回った後、再びこの部へと上行する。
 
2)腎経の水の動態



湧泉から湧き出た水が集まり大きな渓流(太渓)となり、水深の深い処から溢れて(水泉)、足の内果下の平たい処を一巡して広い凹み(照海)に入った後、再び上行(復溜)する。
※復溜穴の由来を調べていくうちに、足内果下あたりで腎経がグルリと回っている理由が理解できる。これは水が渦巻きのように回転していることを示すものだろう。用を足した後のトイレの水流を起想させる。

 

4.心包経

1)心包経の経穴

①天池:肋間のくぼみのような池。
②天泉:天池から、心包経の気が泉のように流れ入る処。
 
2)心包経の水の動態

肋間に溜まった池の水(天池)が、上腕二頭筋筋溝(天泉)に流入。