AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

コメカミ部痛に対する内侠谿の効果 ver.1.1

2021-04-25 | 頭顔面症状

私が20代後半だった頃に病院で治療していた鍼灸治療報告ファイルが手元にある。今読み返すと中には思い出深いものがあり、結構低周波パルス治療を行っていたこと、奇経治療に凝っていたこと、頭の症状を足でとるという遠道刺にも興味があったこともわかる。とくに内侠谿(私自身が命名。足背第3中足骨と第4中足骨間の基部)刺針に抜群な効果を感じとっていた。

1.緊張性頭痛に内侠谿置針が効果あった症例

症例1 34歳・男性  指輪加工職。

40年前の症例である。1年ぶりに4日前から理由なく左側頭部~左眼の痛みが出てきた。痛みは一日中、重苦しく続く。吐気・嘔吐なし。この訴えの他に、右申脈穴あたりが痛くなってきた。

診断:陽蹻-督脈証、側頭中心の緊張性頭痛

治療:奇経治療の陽蹻督脈パターンを思いつき申脈・後谿にパルス通電10分実施。これで眼の奥の痛みは改善したが痛みは上の方に移動して今は左側頭~頭頂部が痛むという。そこで左内侠谿に置針5分すると、これらの痛みもなくなった。

 

症例2 50才・男性 会社営業職

一週間前から右こめかみから頭頂・前頭にかけて頭痛する。しめつけられるような痛み。
発症2日後、30℃の熱が出たので風邪かと思い内科受診し、セデスGを処方された。この薬を飲むと一時的に頭痛は消失するが、平熱になり服薬中止するとはやり頭痛がするとのこと。

診断:側頭中心の緊張性頭痛。

治療:内侠谿に置針10分すると症状消失。しかし翌朝には激しい頭痛となりセデス服用したという。もっと強い刺激量が必要なのかと思い、内侠谿と太衝に置針パルス10分、さらに内侠谿に3壮灸した。さらに内侠谿には自宅施灸も指示。以降、頭痛は2~3割程度と軽減している。

 

症例3 53才・男性  会社員(入院中)

自律神経失調症で当病院の内科入院している。ちょっとした拍子に体調が急変する。代田文彦医師は胆嚢ジスキネジーとも診断した。
今回が頭全体がガンガンするという。赤ら顔でのぼせ傾向が強い。眼の痛みは訴えていない。

診断:上衝体質にともなう側頭中心の緊張性頭痛

治療:左右の内侠谿に置針していると、2~3分後から額の痛みがとれてきたというが、頭髪部の痛みはあまり変化しない。やむを得ず局所である頭皮圧痛点に10カ所ほど置針してみると、頭髪部の痛みも軽くなった。しかし今度は後頸部~頭の付けねが、ひきつるように痛むというので、崑崙に置針5分でこの症状も消失した。


 症例4 42歳・男性  トラック運転手

20年間毎日、8時間以上、トラックを運転している。20年ほど前交通事故にあい以来慢性頭痛となった。種々の検査を受けたが診断がつかず、結局交通事故後遺症とされただけだった。医師からもらった内服薬はほとんど効かなかった。
頭痛は一日中存在するが、車を運転していて昼頃には我慢できなくなり、やむを得ず仕事を中断することもある。左右のこめかみから前頭部にかけての重苦しい痛み。とくに左こめかみの痛みが強い。

診断:側頭中心の緊張性頭痛+ムチウチ後遺症

治療:圧痛ある左右の内侠谿に置針。2~3分後に頭痛90%消失。他に風池手技鍼、肝兪置針。灸は内侠谿・肝兪。  翌日再来時には初回治療前と比べて痛み1/2となったとのこと。初回と同治療により痛みほぼ消失。

 

2.内侠谿の臨床応用

1)内侠谿の位置

足背部第3、第4中足骨間の底。内側足底神経枝と外側足底神経枝が合わさる部。モートン病の神経圧迫好発部位である。足背の中足骨間には行間、陥谷、侠谿とツボが並んでいるが、第3・第4指間には正穴がない。そこで私は、この部位を内侠谿と称することにした。
一度、現在来院中の患者全員に足指間の圧痛を調べたことがあったが、4つの指間穴で最も圧痛陽性の頻度が高かったのは、この内侠谿であることが判明した。

2)内侠谿の適応

①コメカミあたりの側頭筋の緊張性頭痛で、強い痛みほど効果を発揮する。内侠谿は、後頭部の緊張性頭痛には効果に乏しい。

②足指間に強い圧痛があれば、内侠谿にこだわらず行間・陥谷・陷谷・侠谿などに刺針することもあるが、最も圧痛が現れやすいのは内侠谿である。置針数分で効果が出る。

③内侠谿刺針のように、頭痛に対して足部を刺激するというのような遠道刺は、上衝傾向(湯船に長くつかりすぎ、のぼせているような状態)の者で側頭や頭頂の皮膚に赤みがある者で、針響を強く感じる者が効果ある印象を受けた。単に鍼を末梢神経に当てて響かせるというのではなく、末梢動脈壁を刺激し、グロムス機構を介して末梢血管の血流を調節しているというのが治効の考察。

※グロムス機構:
動々脈吻合または動静脈吻合のこと。末梢血管血流は、動脈→小動脈→毛細血管→小静脈→静脈というように巡行するが、手足の末梢には、毛細血管に行く手前で、小動脈→小静脈、あるいは小動脈→別の小動脈へとショートカットする仕組みがあり、これをグロムス機構とよぶ。グロムス機構が作動すると、そのグロムス機構より末梢にある血流量は減少し、寒冷時などでは末梢の冷えを感じる。一カ所のグロムス機構の開閉は、他所のグロムスにも影響を与える。たとえば寒冷時に右足を湯につけると、間もなく左足も温かくなるだけでなく、手指も温かくなる仕組みがある。

なおグロムス機構の鍼灸応用について記したのは、石川太刀雄著「内臓体壁反射」や代田文誌「鍼灸臨床録」など。