AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

大腿外側痛の病態把握と針灸治療

2019-06-08 | 下肢症状

たまに大腿外側痛で来院する患者がいる。整形外科に行って治らなかったので針灸に来たという患者も少なくない。新米針灸師の中には、これをすべて大腿外側皮神経痛と診断する者もいる。確かに大腿外側皮神経痛のこともあるが、その頻度は少ない。多いのは小殿筋の放散痛、もしくはL5付近の後枝症候群である。それぞれ治療ポイントも異なってくる。
以下に3つの病態を示す。その鑑別は圧痛点の所在と、刺針後の治療効果(治療的診断)によるのが最も分かりやすい。

1.小殿筋放散痛の針灸治療
小殿筋の過緊張により、大腿外側痛を生ずることがある。中殿筋過緊張をもたらすのは、坐骨神経痛や股関節症であることが多い。側臥位にして小殿筋中の圧痛硬結点を見いだし、そこに2寸#4程度の置針をすれば症状緩和に効果ある。
なお小殿筋は中殿筋の下にあるが、中殿筋の放散痛であれば殿部の痛みとなり、下肢症状はあまり出現しない。

中・小殿筋は強大な筋であるから、側臥位で刺針しただけではなかなか症状は改善しづらい。横座り位にさせ、中・小殿筋を収縮状態にさせた体位にして、3寸#8の鍼で筋硬結に向けて深刺単すると、強い響きが得られて直後から改善することが多い。

 

2.L5付近後枝症候群

L5付近の椎間関節症やL5棘突起傍筋(棘筋や多裂筋)の筋筋膜症では、L5神経後枝が興奮する。側臥位にしてL5棘突起直側付近の圧痛点を見いだし、そこに2寸#4程度の置針をすれば改善できることが多い。

3.大腿外側皮神経痛
大腿外側皮神経は腰神経叢で、とくにL2L3神経から出て、鼠径靱帯外端の下を潜り、大腿外側皮膚に分布する知覚性の神経で、筋支配はない。
鼠径靱帯で神経絞扼障害を起こすことがある。上前腸骨棘内縁で、鼠径溝外端の圧痛点(維道穴あたり)に刺針すると改善できることが多い。