AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

肩甲骨裏面に自覚するコリの正体と刺針法 Ver 2.0

2012-10-10 | 頸腕症状

1.肩甲骨裏面のコリの疑問
頸椎椎間板ヘルニアの患者は、頸部痛や上肢痛を訴えるとともに、肩甲骨内縁や肩甲骨裏面に、コリや痛みを訴えることがある。また緊張性頭痛と緊張性の頸コリを訴える患者でも同様の現象がみられることがある。

この理由として、初めは肩甲下筋の緊張に由来するものだろうと考えていた。肩甲下筋は肩腱板の一部であるが、上記症状をもつ患者は肩関節症状とは無関係の者ばかりなので、判然としなかった。

従来から肩甲骨内縁のコリや肩甲骨裏面のコリを訴える者に対し、肩甲骨内縁から肩甲骨裏面へ水平刺する方法が広く行われていることは知っていた。しかし肩甲骨内縁のコリは脊髄神経後枝の興奮に由来すると筆者は考えていたので、大小菱形筋のコリという考えさえも疑問視していたのであった。

しかし常連患者で、肩甲骨裏面が凝って非常につらいという訴えがあったので、肩甲骨-肋骨間に入れる局所刺針を行ってみた。最初は一向に感触がなかったのだが、よく来院する人かつ針に強い人でもあったので、いろいろ試行錯誤できた。その結果、私なりに結論を得ることができたので、報告する。

なお本稿は、一年ほど前の報告を書き改めたものであるが、当時と結論が異なっている。

 


2.肩甲骨裏面への刺針

患者の中には、肩甲骨の裏が凝ると訴える者がいる。局所治療として、そのコリ部に刺入するためには、肩甲骨内縁を刺針点として、肩甲骨と肋骨間に刺針することになる。
肩甲骨と肋骨間にある筋は、肩甲下筋と前鋸筋である。肩甲下筋も前鋸筋も、腕神経叢の枝に属する。

 

 

 

 

 

 3.刺針体位の工夫

肩甲骨と肋骨のつくる間隙に十分深く刺入するためには、患側を下にした側臥位または側腹位にするとよい。この体位により、肩甲骨が背部から浮き上がるので、刺入しやすくなる。

 

4.刺入

肩甲骨内縁の膏肓あたりを刺入点として、肩甲骨裏面と肋骨間に刺入する。針は、4番~8番が必要である。2番以下ではツボに当たったという手応えを感じにくい。

また3㎝程度の刺入では響かず、5㎝以上刺入すると刺し手にしこりを感じることができるので、ここを狙って刺入する。ツボに命中すると、患者はコリを感じる肩甲骨裏面あたりにドンいう刺激が得られ、「よく効いた」といって満足する患者が多い。

 

5.肩甲下神経のモーターポイントを刺激しているのか?

刺入すると、まず前鋸筋を貫くが、この程度の刺針長では針響は得られず、手応えも得られない。さらに刺入を勧めると、肩甲下筋中に入る。響きが得られるのは一定の長さの刺入の後なので、肩甲下筋を刺激したというよりも、肩甲下筋のモーターポイントを刺激した結果だと思っている。なお肩甲下筋の支配神経は、肩甲下神経(純運動性)である。