現代医学的鍼灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

腕骨・陽谷・養老の位置と局所的意義 ver.1.1

2014-05-05 | 経穴の臨床的な意味

1.教科書上の腕骨・陽谷・養老の位置

針灸学校教育で使用する東洋療法学校協会編「経絡経穴学概論」(旧版)で、小腸経上の腕骨・陽谷・養老の位置は次のようになっている。分かりにくいので図示してみた。

腕骨:手背尺側にあり、第5中手骨底と三角骨の間の陥凹部。
陽谷:手関節後面にあり、尺骨茎状突起の下際陥凹部。
養老:陽谷の上(肘側)1寸で、尺骨茎状突起と尺骨頭の陥凹部。

上記の穴は、経絡治療家は要穴治療として用いるだろうが、症状がこれら局所にない限りは、現代針灸派では、使う機会はめったにない。では、局所になる場合とは、どういうことだろうか。調べてみると、陽谷と養老穴は局所になり得ることが分かった。(針灸で治るという訳ではない)


2.陽谷=TFCC損傷

TFCCとは、三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex)の略である。
尺骨と三角骨の間にある軟部組織で、手関節の尺側の支持性、手首の各方向の運動性、手根骨-尺骨間の荷重伝達・分散・吸収に寄与している。ちょうど膝における半月板と同様にいわゆるクッション役割を果たしている。

TFCC損傷とは、この部の外傷および加齢変性をいう。タオル絞り、ドアノブの開け閉めなどの手関節のひねり操作の際に手関節尺側部の疼痛を訴えることが多い。
現代医学的治療は、安静、消炎鎮痛剤投与、サポーター固定、ギプス固定などの保存療法が中心で、3ヶ月経ても治癒しない場合、手術療法を行う場合もある。

 


 

3.養老=尺側手根伸筋筋筋膜症・同腱の腱鞘炎・同腱の脱臼



尺側手根伸筋の起始は上腕骨外側上顆、停止は第5中手骨底であり、手関節の伸展と内転(尺屈)作用を行う。その腱は、手関節付近で腱鞘構造をとり、尺骨茎状突起と尺骨頭の間にある陥凹部を走行し、さらに伸筋支帯にもカバーされている。尺側手根伸筋腱鞘上で、尺骨茎状突起と尺骨頭の間に養老をとる。

尺側手根伸筋腱を触知するには、手掌を下にして手を机の上に置いたまま、小指を背屈させる。すると養老に相当する腱部の動きを感じることができる。


1)支正をトリガーとして、手関節尺側に放散痛


 

 



2)尺側手根伸筋腱の腱鞘炎および脱臼

手の回内・回外の際には、尺側手根伸筋腱には、摩擦が加わり、腱鞘炎が生ずることがある。また容易に脱臼し、尺骨茎状突起を乗り越える。脱臼症状とは、尺側手根伸筋腱鞘の腫脹、腱溝に沿う圧痛で、回外時に脱臼した同腱を皮下直下に触れることができる。強い回内外に伴う疼痛を認める場合がある。

保存療法では消炎鎮痛剤、ギプス固定、サポーター固定、腱鞘内ステロイド注射が主となる。

 

3)尺側手根伸筋腱炎の症例(追加分)

筆者は最近、右養老穴部の痛みを訴える患者(78歳女性)を診る機会を得たので、どういうきっかけで養老部が痛むようになったかの一例を知ることができた。この患者は山登りを趣味としているが、その際、両手にストックを持つことを最近覚えた。今回の下山時、高低差のある処に下りたのだが、目測を誤ってドスンといった感じで飛び降りるようになった。その時、ストックを握った手が強制的に外旋・背屈してしまったとのことだった。

 

本患者の疼痛痛部局所である養老穴に刺針や運動針しても無効、同部に刺絡すると、やや有効という程度。本筋の上流である筋へ運動針しても、効果なし。現在まで2ヶ月間に4回程度治療したが、痛みは初回治療前の半分程度存在しているという。治療は予想以上に難しいらしい。

 

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梁丘、足三里、闌尾刺針で、腹方向に針響をもっていく方法

2014-01-05 | 経穴の臨床的な意味

1.梁丘刺針の針響方向

梁丘に刺針すると、刺針局所に響くか、末梢側に響くかのいずれかであって、普通は腹方向に響くことはない。しかし柳谷素霊の本を読むと、次に示すような独特の技法を併用することで、腹方向に響かせることができるように書いてある。


2.柳谷素霊の、胃カタルの治療としての梁丘刺針技法


膝上外側の大腿直筋の外縁で、下肢を伸ばしてウンと力を入れると凹むところを取穴。下方から上方に向けて、大腿直筋外縁下に鍼尖が入るような気持ちで斜刺する。この時、患者は息を吸わせ、なるべく手足をキバルように力を入れさせて刺入、鍼を進ませるのは吸気時に行い、呼気時には鍼を留め、または力を抜く。このようにして徐々に進め、針響きが腹中に入ると患者が訴えれば、病の痛みがだんだんうすらいでくる。その時に腹中に響かないとしらた弾振(ピンピンと鍼柄をゆっくりと弱く弾ずる)すれば、やがて疼痛は軽減する。(「胃カタルの鍼灸法」柳谷素霊選集下より)

 

3.筆者の工夫 


私は健常者に対して、柳谷素霊の梁丘刺針手技の追試してみたのであるが、腹側に響かせるのは困難だった。下腹痛が症状にないと難しいのかと思った。ただし昔から知っている、針響誘導手技を併用してみると、針響は下腹にまで至らないものの、大腿を上行させることは可能だった。その方法を紹介する。


①梁丘へ、やや硬い筋肉部に針先が当たるまで刺入する。通常は深度1~2㎝。

②雀啄などの手技針を行い、末梢方向に針響が得られることを患者とともに確認する。 
③柳谷素霊の指定するように、下肢全体力を入れ、息を吸わせる。

④さらに、梁丘の下方(膝蓋骨方向)1~2㎝の部を、指頭で強圧し、下方への針響が遮断されたことを確認する。なお強圧には強い力が必要である。助手等に、両手母指  腹を重ねて強く押圧させること。(助手がいないければ、患者自身に押圧させる) 術者自身が運針しつつ押圧するのでは圧力が足りない。 
⑤さらに梁丘の手技針を継続しているうちに、次第に上行性の響きが得られる。


4.足三里や闌尾刺針は上行性の針響を得られるか?


梁丘穴に行った刺針手技を足三里に行うと、上行性の針響が得られるのだろうか。実際に健常者を実験台として行ってみると、どうもうまくいかないようだ。というのは、足三里の深部には深腓骨神経が走行している。私の足三里刺針のやり方は、深腓骨神経を刺激するよう刺針している。刺針部の下方(足関節方向)1~2㎝を押圧すると、足関節方向への電撃様針響は遮断されるのであるが、それが上行性針響になることはないようだ。つまり、足三里刺針して上行性に響かせるには、神経線維をはずして刺針する必要があるということらしい。


足三里穴の下方2寸に闌尾穴がある。この闌尾穴刺針について、森秀太郎著「はり入門」は、次のように説明している。「闌尾は上巨虚(足三里の下3寸)の高さで、脛骨骨際に取穴。10~15㎜刺入。刺針で針響を下腹にもっていくと効果的になる。足三里と闌尾は、ともに深腓骨神経上にあり、前脛骨筋部にあるので、解剖学的特徴はよく似ていると思うのであるが、森秀太郎は、闌尾刺針について、あえて深腓骨神経に当てないような操作をしていると思った。

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沢田健による寒熱の針灸治療

2013-08-24 | 経穴の臨床的な意味

1.背部基準線と督脈・膀胱經走行の関係 
背部の基準線は、後正中、背部一行(後正中の外方0.5寸)、背部二行(後正中の外方1.5寸)、背部三行(後正中の外方3寸)と定められている。
ただし、この基準線に背部膀胱經の走行を当てはめた場合、筆者の鍼灸学校時代、「背部二行を背部膀胱經一行に、背部三行を背部膀胱經二行とする」と教わった。
しかし以前から気になっていたが、鍼灸治療基礎学(代田文誌著)を読むと、「沢田健は背部膀胱經二行線を後正中の外方1.5寸、背部膀胱經三行線を後正中の外方3寸とした。そして背部膀胱一行を督脈の外方0.5寸と定めた」と記載されている。なお従来の考え方では、背部膀胱一行を督脈と定めていたという。


2.沢田健の背部一行の運用

沢田健による分類の優れていたのは、背部一行の用途を熱症治療と定め、さらに同じ高さの背部兪穴の所属する臓腑に関係する熱に関係すると体系化した点にある。なお背部一行の位置を石坂宗哲「鍼灸説約」によれば、石坂は華陀夾脊として好んで用いていたようだが、五臓六腑との関連を認識していなかったので、運用に難があった。

たとえば「心」の病証の一つである舌症状では心兪を施術するが、心の熱による病証では舌の激痛と発赤が顕著になるので、心兪一行を刺激する、といった使い方をする。
同様に次のような使い方もできる。(一行に現れる反応点は、およそ2行の穴より5分ほど上にある)
 脾兪一行の圧痛:脾に熱がある時
 腎兪一行の圧痛:腎に熱がある時
  胃痙攣→胃兪または脾兪一行刺針
 胆石症→胆兪一行刺針
 腎盂炎→腎兪一行刺針
 眼痛→肝兪一行
 舌痛→心兪一行刺針 

 

3.熱府と寒府

私の手元には、<「澤田先生講演」(速記)昭和11年8月6日京都祇園中村楼に於いて(東邦医学社)>という資料のコピーがある。澤田健60才の時のもの。8000文字ほどの長編であった。鍼灸古典を基礎としつ、とくに五運六気学説を中心に語っているが、私はその方面に不案内で、理解するに困難を感じる。ただただ沢田健の博学ぶりには仰天されられた。

私の理解の外にある内容が多い中に、背部一行と熱府・寒府の使い分けについて述べた部分があった。

1)内臓の熱を去るには背部一行を使用

内臓の熱を去るには、岐伯のいうように「臓腑の熱をとるに五あり。五の兪の内の五の十を刺す」とあって、これは脊の五臓の兪穴の第一行のことをいっている。これによって内臓の熱を診し、またそれを去ることができる。

2)外感の寒熱を去るには熱府・寒府を使用

熱府=風門、寒府=陽関(足)、この運用で外から侵入してきた寒気を去ることができる。

①熱府

第2胸椎棘突起下外方1.5寸に風門をとる。甲乙經に風門熱府とある。熱府とは熱の集まる処という意味である。門は出入り口で、入口をふさぐことが風邪の予防になり、出口を開けることが風邪の治療になる。いかに高熱があるものでも、風門に鍼するのは差し支えない(灸は控える)。
 風邪の抜けぬ者では20~30壮すえると早く治る。
司天(≒臍より上)の寒気は風門でとれる。つまり熱府は、寒邪にも熱邪の治療にも用いる。

※背中がゾクゾクした、というような瞬間、古人は風邪(ふうじゃ)が身体内に入ったと認識し、風邪の侵入する部分が風門と考えた。ぞくぞくする状態を悪寒とよぶ。悪寒は本来は視床下部の温度設定を、これから上昇させるサインであり、これから熱が上がる予兆である。代田文彦先生は、銭湯などで熱い湯船に入る準備として、背中に何杯も熱い湯をかけている人を見て、中枢の温度の感受性を一時的に狂わせることで熱い湯船に入れるようになるのだと考えたという。 


②寒府

陽陵泉の上3寸。膝外側、陽陵泉上3寸、大腿骨外側上顆上方凹陥処に足の陽関をとる。
素問では足の陽関を寒府といっており、「寒府は膝の下の解営にあり」とある。下から上がってくるような寒さは、まず膝に寒邪が集まる。そこで膝や膝蓋骨が非常に寒くなる。在泉(≒膝より下)の寒邪を去るには寒府を用いる。

※足陽関は腸脛靱帯あたりにある。一般に靱帯部は筋肉部に比べて血流が乏しい。皮膚温が低いも当然である。 

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八髎穴の選択と刺激方法の選択

2012-11-22 | 経穴の臨床的な意味

1.序

最近行われた「現代鍼灸科学研究会」の席上、中髎穴への刺針が話題になった。ある先生は、1㎝刺せば十分だと話し、別の先生は、深刺して響かせなと効果がないと発言した。どちらが正しいといえるのだろうか。この辺りの知識を調べてみることにした。


2.仙骨神経の走行


仙骨神経は左右5対(S1~S5)ある。脊髄を出た後、仙骨神経は後枝と前枝に分かれる。仙骨背面には、左右4つずつの後仙骨孔(第1~第4後仙骨孔)があり、この後仙骨孔ら、S1~S4神経経後枝が出てくる。この中で、とくに S1-S3後枝外側枝は中殿皮神経と称され、仙骨部を中心とした皮膚知覚を支配する。

一方S1~S3の前枝は、前仙骨孔から出てきて、L4・L5神経枝とともに仙骨神経叢をつくる。


3.後仙骨孔からの刺針

仙骨の後仙骨孔(第1~第4後仙骨孔)対応して八髎穴がある。すなわち上から順に、上髎・次髎・中髎・下髎である。第1後仙骨孔(上髎)への刺針が最も深く、足方向に向て斜刺60度程度となる。第4仙骨孔(下髎)への刺針は比較的浅くほぼ直刺になる。

針灸治療において、これら4穴の中では、次髎と中髎が使用頻度が高いので、ここでは中髎を例にとって刺針を検討する。

1)中髎直刺深刺

中髎穴を刺入点として、第3後仙骨孔孔中に刺入すると、まず第3仙骨神経後枝を激できる。第3後仙骨孔を貫通した後、針は仙骨管(仙骨管中には硬膜があり、硬膜にまれた馬尾神経がある)に入り、ときに仙骨神経前枝も刺激し、第3前仙骨孔中に入っ本孔を貫通し、骨盤内に入る。

その後、仙骨神経叢中に入り、仙骨神経叢から発する神枝である坐骨神経や陰部神経を刺激し、それら支配領域に針響を与えたり、筋収縮反応生ぜしめたりする。すなわち坐骨神経を刺激すれば下腿までの針響が生じ、陰部神経を激した場合、肛門や生殖器に針響が至ることになる。


これらの仙骨神経叢を刺激するためには、針は6㎝程度の深度が必要なので、2寸以上長さの針を使用することになる(ただし第3前仙骨孔入口から第3後仙骨孔出口までの骨の厚みは約3㎝)。

 

 2)中髎斜刺深刺

第3後仙骨孔上の皮膚を刺入点として、頭頸部方向に斜刺して仙骨後面に鍼を沿わせる方法。第3前仙骨孔中はもちろん、第3後仙骨孔中には刺入しない。本法は、北小路博司先生が泌尿器疾患の治療で行う方法である。これには2寸8番針を使用し、50㎜皮下に刺入する。仙骨孔中に深刺しなくてもこのような方法で骨盤神経(S2~S3)に影響を与えていることが知れる。

 

 

 

4.八髎穴の中で、どの穴を使うか? 刺激深度・方向はどうするか?

1)坐骨神経症状、陰部神経症状をつかさどる仙骨神経叢は、L4~S4前枝で構成されいる。

この仙骨孔から出る部を1カ所刺激するとすれば、ほぼ中央になるS2仙骨孔、すなわ次髎が妥当であろう。しかしながら、坐骨神経を刺激するのであれば、殿部ほぼ中央にる坐骨神経ブロック点から刺針する方が容易である。陰部神経を刺激するのであれば、部神経刺をする方が容易である。すなわち坐骨神経痛や陰部神経症状に対し、あえて次から深刺(6㎝程度)する意義は乏しいであろう。 

2)泌尿生殖器臓器の副交感神経機能をつかさどる骨盤神経は、S2~S4なので、S3骨孔である中髎刺激が妥当である。中髎からの刺激は、骨盤神経を刺激するのに適切だが、後第3仙骨孔に入れるほど深刺をしなくても、泌尿生殖器疾患の治療に効果のある場合が多い。表面刺激である施灸刺激でも差し支えないのかもしれない。

3)上記見解により、仙骨を貫通するほどの次髎や中髎からの深刺は不必要であると考えた。この目的では坐骨神経ブロック点刺針や陰部神経刺針の方が容易である。ただし太い針で仙骨骨面に沿わせるなどの針や、大きな艾炷で壮数を増やすなどの強刺激は必要かと考えた。


 

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和田清吉氏の頭髪際針法-山元式新頭針との比較

2012-05-25 | 経穴の臨床的な意味

山元敏勝氏の新頭針(YNSA)の関連資料を調べていると和田清吉著「新しい針灸臨床入門 」S52.3.1(自費出版)の中に、「頭髪際針法」を発見した。この本は私が30年以上前に購入した本であった。山元式も創生期の基本点誕生期の頃は、頭髪際針と呼ばれたこともあるくらいで、両者間に共通点が見いだされる。
両氏の共通点は、始めに焦氏「頭針法」を追試することがらスタートしたが、満足すべき効果が出ないことが、独自の頭皮チャートを生み出す原点となったことである。焦氏の頭針法は、ブロードマンの脳地図を頭皮に投影させたものを理論的根拠としているが、鍼灸治療としては、この刺激ポイントでは不完全であることを示唆している。

1.「頭髪際鍼法」の概要
和田清吉氏が「頭皮鍼法」(=焦氏頭鍼法)を追試する中で、頭髪際縁に沿う、一定部位を触診し、一定の方向に横刺し刺激を与えてやると、それぞれの刺針部位が身体の一定の疾患(とくに痛み、しびれ、麻痺、関節障害、分泌異常、血管痙攣など、急性・慢性の疾患)に効果が多く、また中枢性、末梢性ともに効果があることを認めた。

1)主に前髪際から額角および側頭髪際に刺針する

2)上前部から型・背・上肢区・腰腿区・下肢区と区分ブロードマンの脳地図ではなく、經筋的考え方をする。
3)和針3~5番。上行性に刺針(斜刺15°)雀啄。捻鍼しながら機能訓練を加える。

 

 

2.和田と山元式の共通点と相違点

類似点:和田と山元の頭針のチャートを比較すると、細かい部分での違いは多いが、前正中線の前髪際から左右に離れるにつれ、対応する脊椎の高さも低位になり、前髪際中央部は頸項に対応し、耳介前髪は腰腿に対応している。

相違点:山元式の基本点は、前髪際~側頭髪際~耳介前髪際と並んでいて、例外的に眉の内端から上方中央にかて胸椎を対応させている。これに対し、和田は、髪際を内臓反応点とし、額中央の高さの横並び線~前頭髪際に体壁組織(骨、筋など)を対応させている。

和田と山元が個別に調べた結果であるとすれば、類似性は高いというべきだろう。

 

 

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山元式新頭針セミナーに参加して ver.2.0

2012-05-18 | 経穴の臨床的な意味

YNSAとは、Yamamoto New Scalp Acupunctureの略で、山元新頭針法のことをいう。山元敏勝医師が創案した。

山元は1966年頃から針治療に興味を持ち、針の痛覚抑制効果を追究し、針麻酔下で手術も行った。次第に運動障害にも興味を持ち、頭部に置針することで疼痛あるいは運動障害に回復できることに気づいた。

その頃は、中国式の頭針法も我が国に紹介されていたので、その追試を3年間ほど行ったが、思わしい効果が得られず、中国式とは別の山元式の頭針チャートをコツコツと作り上げ、現在に至っている。このYNSAは、日本の医師には余り受け入れられなかったが、先入観の少ない海外の医師にむしろ受け入れられた。その治療効果の高さが評判をよび、逆輸入の形で、わが国でも受講生を増やしているという。

私は、平成24年2月11日、東京で行われるという山元式新頭針講習会に参加することにした。以下は、その概要だが、山元式のマップは多数あることと、図版の版権の問題もあるので、最小限の提示とした。マップ自体はネット検索で入手は容易である。下の写真で、山元俊勝先生(右)、奥様(左)のドイツ人のヘレン先生) 


YNSAにはそれは、Basic Points(基礎点) 、Sensory Points (感覚点) 、Brain Point(脳点)、Ypsilon Points(イプシロンポイント)という4グループがある。  ※インプシロンとは、ギリシャ語の5番目の文字「ε」で、”5つ目の”といった意味がある。側頭部に集中した、「内臓点」である。この稿では、基本点と感覚点を中心に紹介する。

 

1.基本点 Basic Points 
前頭部の基本点を説明する。側頭部、後頭部に基本点は存在するが、前頭部と比べて使用頻度 は低い。基本点とは最初に発見した新頭針のソマトトープ(SOMATOTOPE =体性局在)である。現在、A点からK点まである。常用するのA点からE点まである。

基本点は、痲痺、片痲痺、対痲痺などの運動神経障害に主に用いるが、外傷、手術、炎症による運動器の障害および疼痛に適応がある。
例:五十肩の反応点。従来C点を刺激していたが、現在では、これにA点を加える。

 

 

 

 

 2.感覚点:Sensory Points          
感覚点は、感覚器官の機能障害、疼痛、外傷、術後疼痛、アレルギーの施術に用いる。

          

 

 

3.脳点:Brain Points (図なし)
大脳点と小脳点は、基本A点から頭頂部へと続く線上で、正中線から約1㎝の位置に両側に 存在する。脳幹点か左右の大脳点、小脳点の間の正中線上にある。

大脳点、小脳点、脳幹点

脳点の適応
  3種類の脳点は、多くの神経学的な疾患や障害に用いられる。
  すべての運動神経の障害、片痲痺および対痲痺
  偏頭痛および三叉神経痛、パーキンソン症候群、多発性硬化症
  めまい、視力障害、耳鳴り、失語症
  痴呆症およびアルツハイマー病、てんかん
  不眠症、鬱病および精神障害

4.内臓点(図なし)
内臓点は側頭部に密集している。
内臓点は主として内臓の機能不全や疾患あるいはアンバランスなどに対して用いる。しかし、運動性、運動神経性障害の施術にも用いる。 基本点の施術で好成績が得られなかった場合は、機能不全やアンバランスの原因は根深いものと考えられる。そのような場合に、内臓点を使用する。 例えば、片麻痺患者の患肢の運動機能を改善するためには、基本C点(上肢)および基本D点(下肢)を施術するだけで十分満足できる良い成果が得られる。しかし、効果が満足できるものでなかったり、期待どうりでなかったりすることもある。このような場合に、内臓点を施術する。この受け手に内臓疾患があるのではなく、内蔵にアンバランスをきたしているためであり、内臓点を施術することにより全身のエネルギーバランスを再構築することができ施術効果をもたらすのである。
  心包とは心臓を包んで保護している袋 三焦とは六腑「大腸 小腸 胆 胃 膀胱 三焦」の一つで。 上焦(横隔膜より上部)、中焦(上腹部)、下焦(へそより下部)に分かれ、呼吸・消化・排泄をつかさどるという。 

内臓点の適応
あらゆる内臓器官の機能不全に適応となる。 基本点、感覚点、脳点が用いられるすべての適応症にも有効である。 また、あらゆる運動性、機能性障害、さらに心理的障害も治癒できる。
● 下痢、便秘、消化性潰瘍などの消化管の不調
● 胸痛、呼吸困難、過換気症候群、気管支喘息、気管支炎、狭心症、不整脈、頻脈
● 腎の障害、腎結石、多尿症、前立腺肥大症
● 肝炎、膵炎、糖尿病、胆嚢炎、胆石症
● 頭痛、片頭痛、三叉神経痛、顔面神経麻痺
● 片麻痺、全身麻痺、脳性麻痺、多発性硬化症
● 種々の運動障害、頸部痛、胸部痛、腰部痛、尾骨痛
※内臓点を、Y点(イプシロンポイント)ともよぶ。イプシロンとは、ギリシャ語で「5番目」  のこと。側頭部にある。種々の内科的組織的な機能障害の治療に用いるという。

5.診療の方法
どこが悪いのかを診断する。そのために、以前は腹診をしていた。(腹診の図も従来のものとは異なる)しかし腹診には時間がかかるので、首診を発明し、現在では愁訴の聴取→頸診→頭部反応点の触診→刺針という流れになっている。
YNSA独自の腹診、頸診とも、そのように定めた根拠がはっきりしていない。

実際には、頸診察の前に肘部周囲の筋緊張を調べる(これも一つの診察法らしい)ことも多い。

刺針ポイントを決定するには、上述した種々のチャートを組み合わせ、試行錯誤する。刺針して効果不足の場合、そのすぐ横に刺針するか、もしくは別のチャートにのっとって該当部位を探る。
反応点は、指先もしくは爪先で押圧して痛がるところで、骨の凹みがあるという。
施術は必ず両側性に行うが、基本点および感覚点は通常は、患側を最初に施術する。片痲痺の場合は健側を最初に施術する。

 針は、セイリン製、ステンレスディスポ針、寸3#5を使用。頭皮や筋内に刺入するが、頭蓋骨までは刺激しない。
置針の皮内鍼の要領で、フランス製のASP(auricular semi-parmanent Needle=耳介半永久針)という鍼を使用することがある。ASPは本来、耳鍼用に開発されたもので2日~4週間程度置針しておく。特殊な挿入器具を用い、押し込むようにして刺針する。非常に小さな置き罵詈で、鍼の尖端は皮下に入るが、鍼の頭は皮膚から出る。数日後に自然に排出されるという。患者はほとんど痛がらない。


6.模擬患者の治療
セミナー当日は、午後から実際に症状のある受講者が患者役となり、模擬治療を行った。模擬患者は、ちょうど20名だった。主だった実際の治療を報告する。ただし聞き漏らした部分が非常に多く、不正確である。
1)N.M女 主訴:腰痛
  ①左右の合谷の圧痛を比較、②頸診→左斜角筋圧痛より「腎」の問題、③基本穴の左D点刺
  ④左斜角筋基部刺、⑤症状軽快
2)S.T男 主訴:右背痛、右肩関節後部痛
  ①基本穴右A点刺、②斜角筋の圧痛チェック、③基本穴D点刺、④基本穴右E点刺 
  ⑤症状軽快
3)Y.N女 主訴:首・肩の痛み、目のかすみ
  ①基本穴右頸椎刺 ②基本穴右C点刺 
4)S.N男 主訴:右突発性難聴に伴う聴力低下
  ①前額部耳鳴点、②右額角髪際部の耳鳴点、③効果なし
5)M.H男 主訴:手足の冷え 
  ①頸診、②基本穴A点刺、③基本穴C点刺、④効果良好
  ※本症例は難しい症例だが、治療効果が出たのには驚いた、
6)A.T男 主訴:首の左側屈で出現する左耳鳴
  ①頸診 ②耳垂部からの頸椎刺 ③基礎点D刺 ③左胸鎖乳突筋起始部手技針
7)A.S男 主訴:ムチウチ(首から背部にかけての痛み)
  ①肘部の手三里付近の圧痛点刺針、②頸診、③左基礎点A点、右A点刺、④症状軽減
8)S.T男 主訴:右股関節開脚痛
  ①頸診にて左腰椎に反応、②脳神経の膀胱点刺、③左基礎点E点刺、④症状軽減
9)Y.I男 主訴:胸椎の上部と周囲の痛み 
  ①頸診 ②基礎A点刺 ③肘部診察 ④角孫付近2本 ⑤頸診 ⑥上星付近刺 ⑦症状軽減 10)M.T女 主訴:頸椎捻挫、腰痛(交通事故後遺症)
  ①頸診→左胸鎖乳突筋起圧痛足、②右側頭刺 ③症状軽減
11)S.K男 主訴:アレルギー?に伴う咳、鼻水、痰
  ①鼻症状に→額中央刺、 ②咽・咳に→前頸部診察 ③肺点針(コメカミあたり)  
12)Y.A女 主訴:右膝痛(40年前、右半月板損傷)
  ①右肘チェックで腕橈骨筋圧痛+ ②左基礎C点刺針 ③前頂刺 ④症状軽減
 
7.講習会に参加しての率直な印象

平成24年2月11日、午前10時~12時30分を解説、午後1時30分~4時30分を実際の治療ということで実施した。受講者は計55名で、満席となったので数名は受講を断ったという。受講生の内訳は、7割が鍼灸師、3割は医師という印象。ANSAは日本の医師にはほとんど評価されず、一方山元先生は英語、ドイツ語とも堪能なので、海外からの受講生の方が多いといわれている。今回は、東京で開催されることと、鍼灸師でも受講可ということで、講習費4万円(早期割引で3万5千円)と高額にもかかわらず、多数の先生方が集まったという。(ドクターのみ受講とすれば、これほど集まらないだろうと某医師は話していた。
 
私は、3年ほど前、通販で山元先生の著書を取り寄せ、一読した。その華麗な経歴とは裏腹に、論理性の乏しさに驚いたことがあった。今回初めてセミナーに参加するにあたって、本では書けなかった論理を期待したのだが、これは期待外れに終わった。結局、山元先生が発見したという頸部を中心とした圧痛点の所在を診ることで、該当の頭皮ポイントを刺激せよということにつきる。最初から最後まで仮説で診断し、仮説で治療することになる。
 
山元式頭針法は、国内のドクターからの熱心なファンは少ないというが、人気の乏しさは、論理的でないことにあると考える。海外のドクターが多い理由は、外国語で講義が受けられることと、その治効性が評判になっていることの2点であろう。十二經絡を使った治療ではなく、現代鍼灸の理論も皆無であることから、針灸師にとっても、とっつきにくいという印象を受けた。
 
一方、20名の実際の治療を見学し、おおむね治療効果は良好だったが、難聴や耳鳴は、やはり治療困難なことが多いことが分かった。一方、手足の冷えに対しても速効があったことは驚きであった。
有効率は、7~8割程度であろう。この数字は、鍼というものを知らない者からみれば、素晴らしい数字かもしれないが、これまで十年、二十年と針治療を行ってきた者からすれば、現在自分が行っている針と比べ、特段に効果的というわけではないだろう。もっとも、当日セミナーでの治療は模擬的であり、セミナー受講者を患者に見立てたものなので、難治性疾患の治療に関しては、YNSAの方が効果的である可能性もある。

 

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焦氏頭針法と朱氏頭皮針法

2012-03-10 | 経穴の臨床的な意味

私の手元には、焦氏頭鍼法、朱氏頭皮針法、山元式新頭針法といった3種の参考文献がある。歴史的には、焦氏頭鍼法は焦順発医師が1960年代に、朱氏頭皮針法は朱明清医師らにより1980年代に、ともに中国で開発された。山元式新頭針は、YNSA(Yamamoto New ScalpAcupuncture)とも略される。1980年代頃から日本の山元敏勝医師により開発された。この3つの方法は、治療点が異なり、治療点を示す頭のマップも当然ながら異なっている。山元式新頭針法は別稿にゆずり、ここでは焦氏頭鍼法、朱氏頭皮針法の概要を説明する。

1.焦氏頭鍼法(杉充胤訳「頭針と耳針」、自然社、昭和50年より)
1)焦氏の頭針チャートと理論的根拠
焦氏頭鍼法は、大脳皮質の機能局在を、素朴な形で頭皮に投影させている。この象徴的な例としては、大脳中心溝の前方部分の中止前回に相当する部が運動区となり、中心後回に相当する頭皮が感覚区となっていることがみてとれる。
運動麻痺時は、運動区を刺激するが、ペンフィールドの小人に準じた大脳機能局在があって、頭頂付近は下肢、側頭部付近は顔面部が、両者の中間領域は上肢に振り分けられている。

 

 

 

2)用針:焦氏頭鍼の方法では、2.5~3寸の26~28号中国針(日本針では15~12番相当)を使用する。
3)刺針手技:斜めに捻針しながら刺入、頭の皮下、あるいは筋肉層にまで刺針する。その深さに達したら、針を固定し上下してはならない。その後、毎分200回前後捻針し、各回、針体が前後に2回転するくらいに捻針し、1~2分間捻転し、5~10分間置針しておいたら、また前回と同じように捻針することが必要である。これをもう一度繰り返してから抜針すればよい。
4)私の印象:今となっては大脳機能局在の、原始的な局在をマップの根拠としている点で治効理論的に非常に弱い。しかし従来の体針法では知覚異常性疾患に
鍼灸で治効を引き出せても、運動性麻痺性疾患が鍼灸では弱いことを自覚し、それに対処するための着眼点としては妥当であり、実際に運動麻痺性疾患に効果があり、鍼灸の適応を拡大したことを評価すべきであろう。頭針法の原点といえる。 

2.朱氏頭皮針
 (朱明清、彭芝芸著、「朱氏頭皮針」東洋学術出版社、1989.9.20刊より)
1)朱氏頭皮針の頭針チャート 
朱氏頭皮針のチャートは、焦氏頭針のチャートと似ている部分が少なくない。たとえば、前頭部髪際にみる治療帯、頂顳帯が中心溝に一致している点などである。総合的に焦氏頭針法の流れを受け継ぎ、改良したものだと推測できる。


2)用針:朱氏頭鍼の方法では、1~1.5寸の30~32号中国針(日本針では10~8番相当)を使用する。従って、焦氏と比べて、短く細い針を使用する。座位で施術することが多い。僧帽筋膜下層(やわらかい疎生結合組織)に刺入する。そのためには、頭皮と15~30度の角度として、1寸くらい刺入する。

3)刺針手技:朱氏頭鍼が焦氏頭針法と比べての最大の違いは、単なる刺針手技をするのではなく、補瀉手技を行う。

①抽気法:頭皮に対して、15度の角度で、指の力を用いて鍼尖を皮膚にすばやく刺入し、さらに腱膜下層まで刺入したら、鍼体を寝かせ、1寸ぐらいゆっくり刺入した後、瞬発的な力で表層に向けてすばやく引き出す。引き出す幅は、多くても1分くらい。得気があり効果が収められるまで以上のことを何度か繰り返す。補法の手技。
②進気法:刺入方法は抽気法と同じ。鍼体を寝かせ、1寸ぐらいゆっくり刺入した後、瞬発的な力で内にすばやく押し入れる。押し入れる幅は、多くても1分くらい。得気があり効果が収められるまで以上のことを何度か繰り返す。瀉法の手技。
 
4)促通手技の併用

刺針手技中は、患者に疎通効果が得られるよう協力して運動方を併用させる。中国医学の言葉でいえば、気功治療の併用ということであろう。疎通効果を得るための運動は、疾患によって異なるが、私が見学した講習会で学んだ方法を紹介する。、
①片麻痺に伴う歩行困難(車椅子患者)
座位にさせ、頭皮針実施。刺針手技に応じて、患側下肢を太ももから浮かせ、足裏を床面に音をたて叩きつける動作を繰り返す。大きな動作ほど有効。
②耳鳴、難聴
患側外耳口から術者の指先を入れ、刺針手技に応じて、指を抜き差しする。
③腰痛
座位で頭皮針を実施。その際、助手の先生に腰背部疼痛部を叩かせる。
 
5)置針:一般的に頭皮鍼の留鍼時間は、長いほど優れた効果が得られる。通常は、2~4時間にも及ぶ。留鍼中に間歇的に手技を施し、一定の刺激量を持続できれば、治療効果は一段と高められる。
 
6)私は朱氏頭皮針の実演を見学したことがある。患者は一般病院入院中の歩行困難な患者であった。施術時間10分間ほどで歩行可能となったのを目のあたりにした。

しかしながら追試しても、同じような効果を出すことは難しいのであった。この理由として、刺針部位の選出の誤りもあろうが、重要なのは針の手技の違いなのだろうと思った。実際、朱氏頭皮針法を追試しても、同じような効果が出ないということは、よく耳にするのである。追試があまり困難であれば、医療技術の普及という点では欠点があるといわざるをえない。  

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代田文彦先生のツボのイメージ改訂版

2012-01-15 | 経穴の臨床的な意味

代田文彦先生は、多忙な臨床の傍ら、精力的に原稿執筆された。それは本や雑誌となり、印刷された形として発行され、一部は著者ということで手元にも郵送されてくる。
玉川病院鍼灸スタッフは、こうした印刷物を見て、初めて代田先生の考え方を知ることも多かった。
 1979年11月~1980年8月に、3回シリーズで季刊誌「理療」という雑誌に、「迷いながらの鍼灸」というタイトルで書かれた記事がある。2011年1月11日付の本ブログで一度その内容を紹介したこが、手持ちの資料不足で紹介できない部分が相当あった。しかし2012年1月、玉川同期の百合草正博先生が、「その資料なら持っている」というので郵送してくれた。その結果を受け、今回は、代田文彦先生のツボのイメージの全部を掲載することができた。


1)三陰交‥‥婦人科一切
・下腹部とりわけ子宮との関係を強く感ずる。
・子宮頸部に特に関係があり、三陰交の刺激は子宮頸部を緩ませる。
・従って妊娠初期しは刺激しない方がよい。
・子宮頸部の収縮が強いために径血の排出がスムースにいかないことにより月経痛の人は、これをゆるませるために三陰交を使う。
・肝の亢ぶりによる自律神経の調整作用。

2)陰陵泉‥‥婦人科一切
・下腹部領域のイメージ。それも何となく後腹膜という感じ。

3)足三里‥‥上部消化器の病、健脚
・臍からみぞおちにかけての領域で、とりわけ胃の働きを活発化する。
・鼻から咽にかけての作用もある。
・胃の噴門から上部の中空の管と関係するようで、これはゲップ感覚に似ている。
・古来は長旅をする際には、必ずここに灸したものである。

4)照海‥‥足冷・咽痛
・咽喉部と足首以下の血流障害との関連。
・咽との関連から、腎機能低下しているために派生してきていると思われる浮腫・頭痛等々に何となく取りたくなる穴

5)委中‥‥項頸部次いで腰部 
・腰が痛い人が来ると、委中に血絡があるかどうかが気になる。
・項頸部の血絡あるいは紅斑を目にする時、項の局所から瀉血がしたくなると同時に、委中に血絡をみつけて瀉血してみたいと思うほどに、この二点間の対応関係は密である。

6)承山‥‥肛門付近、痔
7)懸鍾‥‥項頸部
寝違いの治療は、局所をさけてここだけで奏功することが多い。

8)陽陵泉‥‥身体の側面
・側頭部痛にはじまり、肩関節痛、片痲痺に結びついている。
・胃酸過多では、足三里の代行
・膝の要
・胆嚢穴との関連から胆・肝との関連も除外できない。

9)中封‥‥脳とりわけ視床下部付近

10)内関‥‥上咽頭から胃の噴門の下付近
・上咽頭から胃の噴門の下付近まで
・それに左胸痛の心臓の領域に属するあたりが含まれる
・横隔膜
・食道とか胃の上部も漿膜の水っぽいというか、浮腫のきた状態
・針を用いて灸は用いたくない

11)尺沢、少商‥‥咽
・尺沢は咽の領域。高さは口蓋垂の基底部から喉頭軟骨くらい
・どちらかというと正中に近い範囲が有効
・深さ的には、口腔、咽頭、喉頭の粘膜表面から頸筋、頸椎の領域まで及ぶ
・尺沢が咽の正中に近い領域なのに対し、少商は外側。
・咽は咽でも扁桃領域。アデノイドの付近まで及ぶ。

12)少海‥‥頸の側面~耳
・頸の側面、それも中心よりやや後の領域から耳にかけての領域、顔面外側の副鼻腔付近
・後頭部から後頸部にかけての、コリ、痛み、つれ、あるいは耳閉塞感、耳鳴などに使って効果の現れることが多い。

13)合谷‥‥針麻酔
合谷は、針麻酔の時に使う。抜歯、副鼻腔炎の手術の時に多用した。
合谷は重要穴とされるが、小生は針麻酔の時以外は、あまり使う機会がない。
その理由は、灸の痕を虎口に残すことに抵抗があるからである。
顔面に効かせるというニュアンスは、合谷よりも手三里に印象が強い。
顔面で顎とか歯とのかかわりが強いのは、手では温溜、列缺付近である。
上顎よりも下顎に強く作用する。
列缺は、顎よりも、もっと奥の咽から期間の領域とも関連が深い。


14)曲池、和髎、天柱‥‥目 
曲池は目の領域である。目といても表面の結膜とか角膜の領域。目の表面と関わるように、
皮膚の比較的表層とは、全身にわたって何らかの影響力をもっていると考えたい。従って皮膚がかゆいときとか、皮膚病のときに取穴したくなるし、ごく表層の病変ということで、風邪のときにも取穴したくなる。
和髎・目窓は、少し奥に入った虹彩付近と関わり合いが深い。
天柱・上天柱あたりは、網膜から視神経と関わり合いが深い。

 

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百会の治効と導出静脈

2011-12-03 | 経穴の臨床的な意味

百会穴は代表的な経穴の一つで、針灸師の間でもその重要性が指摘されている。ところが重要視すべき根拠は、経絡学説以外には、あまり明確に認識されていないようである。
この原稿では、代田文誌先生の考え方を紹介するとともに、その背後にある現代の理論を説明する。

1.導出静脈の機能に関する代田文誌先生の見解
百会ならびに通天は、頭頂孔付近(百会付近で、正中から両側外方約1㎝)に位置する。頭頂孔は頭蓋の外側にある浅側頭静脈と頭蓋の内側にある上矢状洞を連絡する導血管の通路に相当する。したがって頭蓋内の鬱血、静脈血の環流の妨げがあると、頭蓋の外側に静脈血が流れ、環流をはかるようになる。
代田文誌氏は、このような見解に立って、百会・通天に刺針施灸または瀉血すると、この部分の血行を促進し、したがって頭蓋内の鬱血を除くと考えた。なかんずく、この部位の瀉血が頭痛、片頭痛、脳充血の症状を即座に好転せしむる。
以上の記述は、石川太刀雄「内臓体壁反射」より抜粋したものであるが、本書が出版されたのは1962年なので、再検討すべき課題である。

 

 

 2.導出静脈付近の解剖
脳硬膜下で、かつ左右の脳硬膜が合わさる部分の大きな間隙を硬膜静脈洞とよび、脳を通ってきた静脈血を集めて内頸静脈に送る役割がある。
硬膜静脈洞で、大脳鎌上縁のものを、上矢状静脈洞とよぶ。頭蓋骨の円錐部にはいくつかの小孔が開口している。その代表が頭頂孔である。頭頂導出静脈は頭頂孔を通って、上矢状静脈洞と浅側頭静脈などの頭皮の静脈と交通している。すなわち導出静脈を仲介として、頭蓋内と頭蓋外の静脈血が貫通している。頭頂孔は、百会~通天付近に複数ある。頭頂導出静脈が出る部はほぼ百会の位置に相当するといえるが。同様の構造をもつものに、乳突導出静脈部の風池、後頭導出静脈部の強間などがある。さらに眼角静脈~眼静脈部の睛明もこの類になる。

 

 

 

 .導出静脈の血流方向の変化
頭部の静脈には弁がないこともあり、上述した静脈の血流方向は変化することが分かってきた。この現象を「選択的脳冷却」とよび、現代医学の一研究分野となっている。

1)ヒトが高体温になると、顔面・頭皮の静脈血が、眼角・眼静脈、導出静脈経由で頭蓋内に流れ、脳の冷却に寄与している(反対に低体温時になると、脳から皮膚へと流れを変える)。頭蓋内が高温になると、頭や額から発汗する。これが蒸発する際に、気化熱を奪う。高体温時に、額を濡れタオルで冷やすというのは合理性がある。

2)眼窩の奥に位置する海綿静脈洞が、脳核心温度を下げるため、ラジエータとしての役割を果たしている(正確には、下鼻甲介部に分布している海綿静脈洞が、呼吸気流で冷却され、冷却された静脈血が海綿静脈洞に集まる)
とする見解がある。

3)他にとして、換気量の増加は脳核心温度を下げる作用がある。これは上気道粘膜での水の蒸発による冷却効果である。イヌなどは暑い時、口をあけて大きく呼吸するのも、この機序を利用して脳内温度を低下させている。


4.脳の過熱防止機構と百会等への刺激
ヒトは、日中は脳の活動も盛んであり、徐々に脳の深部温度が高くなる。起床後、16時間ほど経過すると、脳の深部温が過熱した状態になり、過熱から脳を守る意味で眠気を感じる。入眠開始当初のノンレム睡眠に、脳の核心温と体温を強く下げる役割があることが知られている。
脳核心温度の上昇は、酷暑時や発熱時だけでなく、脳の活動過剰(知的活動、精神的ストレス)などでも生じやすいであろう。臨床的には、頭痛や不眠等の愁訴に対して、脳の核心温を下げることは治療になり得る。

冒頭に紹介した代田文誌先生の考察は、頭蓋内の静脈血の充満状態を、頭蓋外に放出することで減圧を図るとする考えのようだが、現代医学的研究は、脳の冷却におかれているようだ。

 

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小野寺殿点について

2011-11-22 | 経穴の臨床的な意味

 小野寺直助の小野寺殿点は、針灸学校教育では簡単に触れるに過ぎない。中川嘉志馬著『触診と圧診』金原出版(絶版)をみると、次のような記載がある。側臥位で診ることと、相当強い力で押圧することを知っておくべきだろう。

1.小野寺寺殿点の基礎知識  
1)小野寺殿点の位置と押圧方法
側臥位で股関節と膝関節を軽く曲げさせておき、腸骨陵に沿って3~4㎝下のところを指頭で腸骨面に向け、垂直に力強く、指を捻じ込むような気持ちで圧迫する。
2)判定と解釈
①弱陽性(+):圧痛が局所のみにあるもの
②中度陽性(++):顔をしかめ、または逃避する程度の痛みがあるもの。または痛みが 膝関節まで放散するもの。
③強陽性(+++):痛みが踵骨から足尖に及ぶもの。

消化器(食道、胃、十二指腸、小腸、上行結腸)の粘膜および筋層に病変があると陽性になる。病変が粘膜にのみある時は、局所の痛みはあっても放散しない。しかし深く筋層が侵されると(++)や(+++)のように放散するという。

2.小野寺殿点とは何を診ているのか?
1)小野寺殿点と上殿神経との関係
『触診と圧診』には下記のような図も載っており、 「臀部圧診点は、仙骨神経叢(L4~S3)が異常感受性を得たときに生ずる」とある。
※この図は「松永による」としている。「エアポケット現象」で有名な松永藤雄のことだろうか?

 

小野寺殿点として押圧している筋は、中殿筋であることは間違いなく、中殿筋は上殿神経支配である。上殿神経は仙骨神経叢から出る枝で運動を支配している。そして上殿筋の過敏性が一定以上になれば、その興奮は坐骨神経にも伝わり、坐骨神経痛様の痛みを生ずるのだろう。

そこまではいいとしても、上部消化器病変の反応が、なぜ上殿神経興奮という形になるのかは示されていない。
小野寺殿点のある上殿部の皮膚は、上殿皮神経が知覚支配している。上殿皮神経は腰神経叢から起こるが、胃十二指腸疾患で、腰神経叢が興奮するとも考えにくいのである。

3.小野寺殿点の圧痛の所在の違いによる推定罹患臓器
小野寺殿点の反応点と病巣部位の関係は興味深い。前部は食道、噴門部の病変に、中部は胃全体、後部は幽門部および十二指腸の病変で現れるとして、次のような図も載せられている。紺色(筆者が彩色)で描かれた線は。上方から斜め外方へと伸びているが何を意味するのだろうか。一見すると、上殿皮神経の走行に似ているが、上殿皮神経はL1~L3後枝の別名であり、この紺色線は上殿皮神経よりもさらに上方から下っているので上殿皮神経の走行とは異なる。また明らかにデルマトームとも異なる。 

4.小野寺殿点と撮診との関係(独善的解釈) 
実は、この紺色の線に興味を持ったのは、筆者が撮痛を調べるラインと酷似しているからであった。上図では、紺色線は椎体の途中から描かれているにすぎないが、線の起点は椎体直側になっていると考えている。要するに、小野寺殿点の圧痛部位を認識したら、紺色線に沿うように、撮診でその内上方を調べ、最終的にはその延長上にある椎体棘突起の直側に刺針するという技法を30年前に筆者は考案し、無数の症例に対して実効性のある治療成績をあげることができたと自負している。
 撮痛帯は、当初は脊髄神経の皮神経走行と一致すると考えていたが、体幹部の皮神経は、デルマトームと同じで、輪切りのような模様になるが、とそれとは異なる。椎体棘突起を起点として「斜め45度外下方(殿部は斜め60度外下方)を診る」という治療原則にのっとり、棘突起直側に刺針する。なぜ斜め45度となるのかを理論的に説明するのは困難であるが、実際に撮診すると、撮痛がそうした方向に延びていることを指先で感じとれる(患者は痛がる)からであり、延長上の棘突起直側に刺針するというのも、実際に治療効果があることから、この考え方の妥当性を否定できないのである。

上図の紺色線を斜め60度の外外方に下った線だと仮定すれば、次のような作図ができ、胃(全体)の撮痛帯はTh9棘突起あたりまで延びるので、内臓体壁反射的に胃の反応として妥当なものとなる。つまり、小野寺殿点で圧痛反応がみられた場合、それが胃十二指腸疾患に由来するものであれば、同部の撮診も陽性となる公算が強いといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ボアス圧診点について

2011-11-18 | 経穴の臨床的な意味

1.ボアス圧診点は胃・十二指腸潰瘍の反応点として広く知られている。ボアス圧診点の位置は、原著によればTh10~Th12椎体の左側になっている。
上部消化器の所属デルマトームはTh5~Th9だが、圧痛点は押圧して求めるものなので、ミオトームの問題と解釈すれば、ほぼ合致していると考えるべきだろうか。
それにしてもボアス圧痛点は「椎体の左側」という漠とした説明であって、これを起立筋上すなわち背部兪穴ラインで、棘突起の外方1.5寸の処だと解釈する者は多いと思う。

2.一方、意舎は胃倉は、ボアス圧診点の外下方にある。沢田流では胃痙攣(今日でいう胆石痛)の治療点として有名な穴であり、本穴の刺針で強力な鎮痛作用をもたらすことが多い。
ボアス圧診点と意舎・胃倉に共通するのが腰方形筋である。腰方形筋は第12肋骨を起始としているので、上記部位の圧痛反応は、腰方形筋の緊張を診ているのだろうか。
すなわち、胆石痛→交感神経興奮→脊髄→交通枝→体性神経興奮→腰方形筋緊張という内臓体壁反射である。とするなら、棘突起の外方3寸が正確なのかもしれない。

 ※代田文雑誌は、胃倉(Th12棘突起下外方3寸)を日常繁用だとし、胃痙攣、胆石疝痛に著効があると記している。また意舎(胃倉の上方1寸)の効能も、胃倉と殆ど同様だとしている。胃痙攣の場合の圧痛点は、この意舎よりも五分ほど内下方に寄った筋間に現れることが多いという。(鍼灸治療基礎学)

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築賓穴あれこれ

2011-10-03 | 経穴の臨床的な意味

1.築賓の語源 
築賓穴の「賓」には、主人と並ぶ重要な客人という意味がある。主人と客人という関係で考えられるのは、相並ぶ2筋であるヒラメ筋と内側腓腹筋、もしくは内側腓腹筋と同筋のアキレス腱である。築賓の位置は、これらスジの間といった意味となると思われる。
地機穴が、地面(骨)を支えとした縦に引っ張った糸(ヒラメ筋)と考えうることを、本ブログで発表済だが、これに対して築賓は筋と筋、あるいは筋と腱の間といった捉え方である。

2.築賓の位置
教科書でいう築賓の位置は、足内果の高さと膝窩横紋端を13寸とした場合、足内果側から上5寸である。下腿内側を三等分した時、だいたい足内果側から上1/3の高さで、腓腹筋内側頭がアキレス腱に移行する部に相当し、かつ内側腓腹筋の内縁といった場所になるだろう。

  

 3.築賓の効能
沢田流には、下毒穴(解毒穴ではない)という概念があり、築賓もその一つである。築賓がなぜ下毒穴かとの説明はない。築賓は腎経に所属することから、腎において有害物を尿にとして排泄する作用を強化すると考えたのだろうか。下毒穴として有名なものは、他に肩髃がある。肩髃は大腸経に属するので、有害物を大便または汗(肺や大腸は皮膚を主るので)によって排泄する力の強化を考えたのかも知れない。

適応症としては、蕁麻疹があげられている。ただし私の臨床経験からは、築賓にせよ肩髃にせよ、下毒作用が確かにみられたとする例はお目にかかっていない。成書には、築賓が蕁麻疹の特効穴だとする記載がある。これが事実であれば、「下毒」する訳だから、対症療法に過ぎない抗ヒスタミン剤にとって代わるものとなる。これが本当の話ならば、その治療だけで食っていける針灸院になるだろう。針灸にはこの手の話が多くて困る。

築賓が内側腓腹筋とアキレス腱の境にあるとするが、地機がヒラメ筋の緊張の治療に用いるのに対し、築賓は内側腓腹筋の緊張の治療に用いる。築賓が内側-副筋とアキレス腱の筋腱接合部ということであれば、トリガーポイントが好発しやすい構造といえる。同様の意義をもつものに承山や飛陽がある。代表疾患には腓腹筋痙攣や腓腹筋の肉離れがある。

4.築賓施術の肢位
ヒラメ筋と腓腹筋を比較すると、ヒラメ筋の断面の方が太く発達しており、腓腹筋はヒラメ筋の上に載っている薄い筋にすぎない。日常的に働いているのはヒラメ筋で、腓腹筋は瞬発力を必要とする際、一時的に強い力を発揮するが、すぐに疲労してしまう。一般的に筋緊張を緩めるには、該当筋を緊張させた状態で刺針するか、刺針した後に筋を緊張させる必要がある。
具体的には膝伸展位にしての仰臥位で築賓に刺針した状態で、足関節の伸展運動の自動運動を行わせることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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地機の取穴はヒラメ筋起始部の硬結にとる Ver.1.2

2011-08-14 | 経穴の臨床的な意味

1.教科書記載の地機穴の位置
 
地機穴は脾経げき穴でもあるので古典的鍼灸で多用される経穴の一つである。東洋療法学校協会編教科書「経絡経穴概論」の地機の取穴は、「内果上8寸で脛骨後縁の骨際」とある。下腿内側長を1尺3寸と定めるので、下腿内側を3等分し、ほぼ上から1/3の処になる。ただし教科書には築賓の反応の取り方についての記載はない。

2.地機の取穴と意味
 
股関節外転かつ膝関節45度屈曲位、すなわち一方の足底を他方のフクラハギ内側に付けた姿勢(パトリック試験をするその手前の姿勢)をさせ、曲げた下腿内側の反応を調べていくことにする。指頭は脛骨際を容易に触知できるが、地機の高さに相当する部だけは、筋肉が邪魔して骨がうまく触知できないことに気がつく。その筋肉は誰でもシコっていて、軽く押圧しただけでも非常に痛がる。

私は、長い間このシコリの意味が分からなかったのだが、最近になって尾崎昭弘著「図解鍼灸臨床手技の実際」を何気なく読み返してみると、「地機はヒラメ筋の起始部である」と明記されていた。つまりシコリの正体はヒラメ筋の起始部だったわけだ。

補足:ヒラメ筋と腓腹筋(内側筋と外側筋がある)は併せて下腿三頭筋とよばれる。腓腹筋の起始は大腿骨で停止は踵骨の二関節筋であり、足関節伸展と膝屈曲作用があるのに対し、ヒラメ筋の起始は腓骨頭と脛骨、停止は踵骨の単関節筋であり、足関節伸展作用のみがある。仰臥位で膝屈曲肢位では、膝に負荷がかかっているわけではなく、足関節底屈の弱い負荷がかかっている。したがって両筋とも弱い負荷がかかっている訳だが、一般に二関節筋は関節の伸展状態で優位に働き、単関節筋は関節の屈曲状態で優位に働く特性があるので、膝屈曲位ではヒラメ筋の方が緊張している状態にある。ヒラメ筋緊張を増強させるにはさらに足関節伸展位にするとよい。(介護予防主任運動指導員、古賀真人先生の御指導による)

3.地機の語源
ネットで「地機」を検索すると、ツボの地機以上に、織機の地機の記事が上位に並ぶことに気づく。機織り機の種類にはいくつかあるが、次第に改良されつにつれ、その構造も複雑になっていった。現在の機織り機は、<高機(たかばた)>とよばれ、歴史ドラマなどでたまに目にすることがある。それに対して<地機>(じばた)は、原始的な織機で、地面に直接杭を打って、タテ糸のテンションを保つ方式になっている。つまり地機の語源は、地面に設置された織機という意味であろうか。高機は、よこ糸が表にくるが、地機はタテ糸が表にくる。
地機におけるタテ糸の緊張とは、ヒラメ筋の緊張を意味するのだろうか。下の写真は、中近東のある部落にみる地機であり、ネットで発見したものである。地面に、じかにタテ糸を引っ張っている。人体の場合、地面に相当するのは、脛骨であろう。




 




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中髎穴刺針の適応症(北小路博司氏の研究)

2011-06-01 | 経穴の臨床的な意味

1.八髎穴の適応
針灸治療において、八髎穴では、次髎穴と中髎穴の使用頻度が高い。一般的に仙骨神経叢の構成はL4~S4脊髄神経前枝からなるので、この代表刺激点としてはS2後仙骨孔部に位置する次髎を使うことが多い。また骨盤神経(副交感神経)と陰部神経(体性神経)は、ともにS2~S4を起始としているので、代表刺激点としてS3後仙骨孔部にある中髎を使うことが多い。
ざっくりいうならば、整形外科疾患である坐骨神経痛には次髎を用い、泌尿生殖器科や婦人科疾患には中髎を使うことが多いといえる。
※ただし木下晴都著「坐骨神経痛と針灸」には、次髎穴に深刺置針をすると、かえって坐骨神経痛が悪化することがあるという記載がみられる。  

ところで中髎に刺針して、骨盤神経や陰部神経を刺激するとしても、実際にはどのような疾患に対し、どの程度の効果が期待できるのか、という疑問は以前からあったのだが、多くは推測で語られてきたに過ぎなかった。

この問に対して、北小路博司先生(明治鍼灸大学)は、一連の精力的な研究を継続して行い、かなりの回答を与えてくれた。この内容を総括的にみるには、「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版刊の、<泌尿・生殖器系障害に対する鍼灸治療>が適していると思う。その結果をかいつまんで紹介し、若干の解説を加える。

2.中髎の解剖学的特徴
仙髄排尿中枢(S2~S4)に位置する。これらは骨盤神経(副交感神経)、陰部神経(体性神経、自律神経系)の起始する部位で、膀胱、尿道(外尿道括約筋)、および性機能に深く関係している。

 

3.中髎の刺針と刺激方法

※上記の刺針を北小路博司先生の提示されたヘリカルCTで見ると、確かに仙骨前面に沿うように刺入されている。内臓にまで刺入されていないことも確認できるが、この刺針方向にすることは難しいと考える。日常的な針灸治療でも、この状態になるのかは疑念が残る。

4.中髎刺針の臨床成績  
1)切迫性尿失禁
 神経因性の過活動性膀胱患者
最大尿期時膀胱容量が増加傾向。切迫性尿失禁患者の60%が、尿失禁の消失ないし改善した。中髎刺針は膀胱容量を増加させる傾向がある。 無抑制収縮を抑制させる傾向がある。

2)前立腺肥大症(第Ⅰ期)
前立腺肥大症第Ⅰ期に対して、週1回の中髎刺針を行い、平均6回あまり施術した。夜間の排尿回数減少、および昼間排尿間隔の延長がみられた。ただし治療終了後は元に戻る傾向があった。

3)排尿筋、外尿道括約筋協調不全 
神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能正常、尿道機能は過活動)で、主訴は排尿困難。6例中、4例で排尿困難が消失、1例は改善した。初発尿意、最大尿意および膀胱コンプライアンスは不変。残尿量の減少も5例でみられた。

4)低緊張性膀胱による排尿困難
神経因性膀胱の一タイプ(膀胱機能が低活動、尿道機能正常)で、主訴は排尿困難。
の者。7例中、1例に排尿困難の軽減がみられた。中髎の鍼治療によって、排尿筋の収縮力を高めることはできなかった。

5)勃起障害
心因性9例、内分泌性8例、静脈性3例、糖尿病性2例、神経因性1例、前立腺症1例の計26例。早朝勃起は全症例に対して改善。性交時の状態は65%が改善(心因性33%、内分泌性88%、静脈性100%、糖尿病性50%、それぞれ改善したが、神経因性その他は不変)。心因性インポテンツが、他の原因によるインポテンツと比べ、予想外に有効率が低い。
註:これはバイアグラと同様の傾向である。

6)Ⅰ型夜尿症(膀胱内圧上昇時にも、浅い睡眠に移行するも覚醒に至らないタイプ)
※Ⅱa型は脳波上、覚醒反応が生ぜず、深い睡眠のまま夜尿する。Ⅱb型は膀胱に生じる無抑制収縮を原因とした膀胱機能障害であり、深い睡眠のまま夜尿する。
薬物療法無効の8例。週1回施術で平均5回強治療。夜尿出現率が10%以上改善した者は4例、10%以下の無効例は4例だった。有効例はすべて初発尿意(膀胱にどの程度の尿が溜まったら尿意として自覚するか)が改善した。機能性膀胱容量の増大と初発尿意の延長が、夜尿症の改善に関係あるらしい。

※最新の知見では、夜尿と睡眠の浅深は無関係であることが分かった。つまり上記成績は、Ⅰ型夜尿症に限定する必要はないであろう。 

5.中髎刺針の総括
中髎穴刺針には、つぎのような作用がある。

1)膀胱括約筋緊張を緩める →膀胱容量を増加するので、尿意を減らし、や排尿回数を減らす。
2)膀胱容量が拡大するので、夜尿が発生する時刻を遅らせる。
)尿道外括約筋の緊張を緩める →外尿道括約筋の過緊張を緩めることで排尿困難を改善。
4)勃起障害を改善。だたし心因性の勃起には有効率が低い。

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特効穴の効き具合の印象(2)-下上半身

2011-05-09 | 経穴の臨床的な意味

01 △梁丘:胃痙攣、腹痛→動物実験で、大腿神経を刺激すると、胃腸の蠕動運動に影響を与えることができた。なお胃は痙攣痛を起こすことはなく、現代では胆石痛のことだとされる。 
02 △足三里:自然治癒力を高める、食欲不振→動物実験で、深腓骨神経を刺激すると、胃腸の蠕動運動に影響を与えることができた。自然治癒力を高めるとの印象はない。 
03 △裏内庭の施灸:食あたり→私は牡蠣による食中毒となったことがある。裏内庭に灸するも、二壮目から熱く感じた。三壮やったが腹痛変わらず。しかし雑誌(鍼灸OSAKA)の自験例では、確かに効果あったことが報告されている。 


04 ◯三陰交:生殖器疾患→①三陰交がS2デルマトーム上にあることで八髎穴と同様の用途があるが、患者自身で灸できる部位である。
②子宮頸部平滑筋の緊張を緩める。ただし最近の研究では、針による月経痛鎮静 作用は、子宮収縮程度を弱めるのではなく、関連痛の鎮痛によるものだとしている。すなわち脊髄神経の興奮緩和が針の治効理由である。
③三陰交の皮神経支配は伏在神経(知覚性)である。伏在神経は大腿神経の枝で、大腿神経は腰神経叢(L1~L3)からの枝である。腰神経叢からは腸骨下腹神 経や腸骨鼡径神経が出て、鼡径部や下腹部を知覚支配しているので、これらの痛みにも有効なことが予想できる。
④妊娠初期に三陰交刺激は禁忌となっている。これは、子宮頸部を緩めることで、堕胎につながるのではないだろうか。 
05 △至陰:逆子→施灸すると数時間、子宮体部の緊張が緩む。この間に自然に逆子矯正できる余地が生まれる。このチャンスを生かせないと効かない。 

 

06 △裏内庭:食あたり→直腸~下部大腸あたりの平滑筋の緊張を緩める効果。八髎穴と同様の効果だが、患者自身でできる部位である。
07 ×照海・復溜:足冷→足冷者の、冷えている足部へ刺針施灸しても効果がない。健常 者であれば軸索反射が起こり血流改善にもなるが、その機構が働かないのが、そもそも の足冷の原因である。 
08 ×築賓:下毒→下毒穴として、沢田流では肩髃や築賓が知られているも実効は乏しい。
09 ×地機:糖尿病→地機に針灸するだけで糖尿病が改善できれば、誰も苦労しない。 
10 △血海:不妊症、生理痛、子宮内膜炎→大腿神経刺激なので、結局は腰神経叢刺激になる。治療効果としては仙骨神経叢刺激である三陰交の方が勝る。


11 ◯委中刺絡:腰痛→膝窩静脈の血流改善により、二次的に腰椎周囲の血流を改善する。
12 ×光明:眼精疲労→下肢にある光明穴が、なぜ目に効くのかは、名前からの連想であろう。
13 ◯足臨泣・太衝:頭痛→上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の非拍動性の強い頭痛には、太衝や足臨泣などの足指間穴への置針(実際には足指間の最大圧痛部を刺激)は効果がある。弱い頭痛では効果がない。 
14 △条口:五十肩→条口から承山方向への深刺。肩甲骨内旋筋の筋緊張を緩めることで、肩甲骨上方回旋の可動性を改善するのであって、肩甲上腕関節の可動域制限には、あまり効果ない。 
 


   


   

 

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