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中国映画『消失的她』(消えた彼女)予想外の大ヒット~米国映画の不調と“低予算”国産サスペンスの大ヒット

2023年07月11日 | エンタメの日記
6月22日に公開された中国映画『消失的她』(消えた彼女)が予想外のヒットを記録しています。
今年の春以降、中国の映画市場は全体的に低迷していますが、6月下旬の端午節の3連休に合わせて公開された中国サスペンス映画『消えた彼女』は初日から好調で、7月11日現在約32億元(約640億円)の興行収入を上げています。

『消失的她』(原題直訳「消えた彼女」)英語タイトル:Lost in the stars
公開日:2023年6月22日 時間:121分 興行収入:約32億元(約640億円)(7月11日時点)
主演:朱一龍、倪妮、文咏珊  監督:崔睿、劉翔 脚本・監修:陳思誠
原案:1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)


『消えた彼女』は公開から20日間で約32億元、日本円に換算すると約640億円の興行収入を上げています。統計データによると、のべ動員数は7636万人です。
中国の映画市場の規模は大ざっぱに言うと日本の5倍ですので、日本の感覚でいうと130億円くらいの規模のヒットで、年間ランキングで5位以内に入るレベルです。

主演は中国ドラマ『鎮魂』や映画『星明かりを見上げれば』(原題『人生大事』)などで人気の朱一龍(チュー・イーロン)です。
朱一龍が現代サスペンスの主役を演じるのは初めてですが、さまざまな表情を使い分ける巧みな演技を見せています。

~あらすじ~
東南アジアのとある国の警察署。中国人の男性(何非/ホー・フェイ)が現地の警官に英語で必死に訴えている。新婚旅行中の妻・李木子(リー・ムーズ)が姿を消したまま何日も帰ってこないので捜索してほしいと。
しかし警察は事件性を示す証拠がないといって取り合ってくれない。何非のビザの期限は迫っており現地に滞在できる時間はあと数日しかない。打ちのめされた何非は一人でホテルに帰り眠りにつく。翌朝ホテルのベッドで目を覚ますと、隣に赤いドレスの女性が眠っていた。
何非はぎょっとして女に「お前は誰だ」と尋ねると、女は「私は李木子。あなたの妻でしょう?」と答え、スマホを差し出し二人を映っている写真を見せる。
何非はこの女性は自分の妻ではないと訴えるが、誰も何非の言葉を信じない。何非は本物の李木子を探すため、ある女性弁護士を頼る。

主演:朱一龍(チュー・イーロン)新婚旅行中にいなくなった妻を探すため奔走する男・何非(ホー・フェイ)を演じています。何非は様々な過去を隠し持っており、いくつもの表情を朱一龍が演じ分けています。


敏腕国際弁護士・陳弁護士を演じる倪妮(ニー・ニー)。1988年生まれ。チャン・イーモウ監督の南京を舞台とした戦争映画『金陵十三釵』(2011年)の主役に抜擢されて女優としてのキャリアをスタート。身長170㎝、クールで知的なルックスで独特の地位を築いている人気女優。劇中では英語のセリフが多いですがネイティブのように流暢です。


「私があなたの妻」と言って現れる赤いドレスの女性を演じる文咏珊(ジャニス・マン)。1988年生まれ、身長168cmの香港出身の女優。


『消えた彼女』は予想外の大ヒットで、当初の予測を3倍くらい上回っています。
中国の映画市場全体が不調である中、まさかこんなにヒットするとはと驚かれていますが、映画を観た観客にとっても「どうしてこの映画がこんなにヒットしたのか?」と考えたくなるような作品です。

『消えた彼女』の制作費は1.5億元と言われています。1.5億元は現レートで計算すると30億円となります。
「制作費30億円」は現在の中国映画の相場からいうと低予算に属します。

監督としてクレジットされている崔睿、劉翔の2名は若手映像作家で、これまでに目立った作品はありません。
『消えた彼女』は脚本・監修として映画監督・陳思誠(チェン・スーチェン)が参加しており、ヒットに至ったのは陳思誠の手腕によるものと言われています。

陳思誠は中国映画界有数のヒットメーカーです。
元々は俳優で、俳優としてかなり成功していました。かつてドラマ『士兵突撃』等で共演した仲間が大スターになっており、そのことも監督転身後の強みなっているようです。1978年生まれ、身長180㎝。


『消えた彼女』には原案が二つあります。
一つは、2019年にタイで実際に起きた「中国人妊婦墜落事件」で、制作側によるとこの事件を映画のモチーフにすることについて関係者の許可を取ったとのことです。
もう一つ、1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)が原案であると記されています。
ただし、このソビエト映画の中国版を作ろうとしていたわけではなく、制作に入ってから近似性を指摘されたので後付で版権を購入したと公表しています。このソビエト映画よりも、1986年の米国映画『消えた花嫁』に似ていると言われていますが、ソビエト映画の版権許諾を得たということで近似性指摘の問題を回避しています。

『消えた彼女』は「東南アジアの一国・バディビア(巴迪維亞)」が舞台ですが、これは架空の国です。
撮影場所も東南アジアではなく、中国の最南端にあるリゾート地・海南島です。
異国情緒が極彩色のカットで埋め尽くされていますが、実在しない架空の国が舞台なので、何かを正確に再現する必要はなく「東南アジアっぽい」雰囲気であればよく、自由度の高い映像作りができます。
たとえば、花火が上がる現地のお祭りのシーンがありますが、これも実在するカーニバルなどではなく創作シーンであり、視覚的には非常にゴージャスですが、よくみると中国人のエキストラがカーニバルのダンサーや観衆を演じており、何ともいえないチープな怪しさがあります。

登場人物は赤、白、黒と象徴的な色の服装をしていますが、衣装のバリエーションは少なく、いつも同じ服で現れる登場人物もいます。
主人公が東南アジアに滞在できるビザの期限が迫る数日間という設定なので、登場人物が常に同じような服装で出てきても不自然ではありません。
また、時代的に辻褄が合わないところがありますが、いつの話であるのか明示していないことが抜け道となっており、低予算に仕上げるための仕掛けが様々なところに張り巡されています。


映画は誰にでも手が届く娯楽であり、チケットの値段は地方都市ではいまだに40元前後(約800円)です。
(都市部の設備・環境のよいスクリーンでは、120元(約2400円)を超えるところもあります)
中国の商業映画は大人が一人でじっくり観るようなものではありません。映画は日常消費の一部分であり、公開時期、テーマ、宣伝方式などが観衆のニーズに合致し、消費の循環にうまく溶け込むとヒットします。
いま現在、中国には不況感が漂っていますが、その中で映画という一つの商品をヒットさせたことは快挙です。

最近の中国映画市場は全体的に低調で、特に米国映画は軒並み苦戦しています。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 4月5日公開 1.7億元(約34億円)
実写『リトル・マーメイド』 5月26日公開 2650万元(約5.3億円)
『マイ・エレメンツ』 6月16日公開 1.1億元(約22億円)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 6月30日公開 2300万元(約4.6億円)

実写『リトル・マーメイド』に至っては、上映から僅か1週間でほとんど打ち切りのような形になりました。
それでも『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』などは9.8億元(約190億円)の興行収入を上げていますが、本シリーズの過去作と比べるとかなり勢いが落ちています。

アメリカ大作映画は中国での興行収入を見込んで、北米と中国で同時公開するなど中国市場に配慮してきましたが、こんなに中国で流行らないのであれば、そういった配慮もなくなっていくかもしれません。

なぜ中国で米国映画がこれほど流行らなくなっているのか。一つには宣伝・キャンペーン不足だと思います。米中関係悪化という政治的な影響も少なからずあります。
ただし、内容面からいうと、映像のゴージャスさという点だけでいえば、中国映画も米国映画と遜色ないレベルのものをすでに作っています。
物語としても米国大作映画は同じようなテイストの作品が多く、あまり魅力を感じなくなっているのかもしれません。米国映画がテーマに組み入れてくる「多様性」などの要素も、中国の観客にはあまり響かないのではと思います。

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