上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

映画「スラムダンク」中国で応援上映続々開催~有志企画型の応援上映

2023年07月19日 | エンタメの日記
映画は静かに観賞するものとされていますが、一方で「応援上演」という楽しみ方が広まっています。応援上映では発声、手拍子、掛け声、サイリウム使用がOKで、オタクの絶妙な掛け声に感動するライブエンタメです。私が初めて日本で応援上演を観たのは2017年「HiGH&LOW」劇場版2でしたが、その頃には「応援上演」はかなり定着していたように思います。

中国でも「応援上映」が流行り始めており、そのきっかけを作ったのが映画版スラムダンク『THE FIRST SLAM DUNK』です。
映画「スラムダンク」は2023年4月20日に中国で劇場公開され、それ以来、中国全体でカウントすると100回近く「応援上映」が行われているのではと思います。

上海大光明電影院で行われた「湘北VS山王工業の千人対抗応援上映」。


左側の客席は「湘北応援席」右側の客席は「山王工業応援席」とされており、ひいきのチームを応援しながら映画を鑑賞します。
鳴り物を鳴らしながら試合の展開に合わせて「ディーフェンス!!ディーフェンス!!」「いいぞいいぞ河田、いいぞいいぞ河田!」など観客が賑やかに発声するので、試合シーンのセリフはほとんど聞こえません。セリフが聞こえなくても中国語字幕があるので話の展開は分かります。


配布された応援グッズ。ファンアートです。実際に手にしてみると明らかにファンアートであることが分かるものです。


中国の「応援上映」は配給元や劇場が主催するのではなく、有志の企画により開催されます
なぜ有志が「応援上映」開催することができるかというと、中国では個人が比較的簡単にスクリーンを貸し切ることができるからです。チケット購入アプリに「スクリーン貸切」を申し込む機能がついているくらいです。
中国では2013年以降シネコンが急増し、2018年に国の政策として「映画スクリーンの建設加速」が実施されたこともあり、10年間でスクリーンの数が10倍に増加し、中国全土には8万以上のスクリーンがあり、いまも増え続けています。
しかし、劇場に観客をどんどん呼べるようなヒット作が常時あるわけではなく、映画スクリーン自体は全体的に供給過剰の状態にあります。このことが、個人がスクリーンを貸し切るハードルを大きく引き下げています。
日本の場合、全国のスクリーン数は2022年時点で3,634と発表されており、人口に対してスクリーン数は少なく、スクリーンがフル稼働している状態なのではと思います。
また、中国の映画チケット料金は日本のように一律ではなく、劇場、作品、時間帯によってチケットの値段はバラバラです。
貸切りのための値段も統一料金があるわけではなく、劇場側が採算が取れると判断するラインの金額で貸し切りが可能となります。
劇場側は、はっきりいってスクリーンが余っているので、貸し切りに協力的で色々な便宜をはかってくれます。

上海影城で開催された「宮城リョータ千人応援上映」。1000席規模のスクリーンを貸切り、ホールの天井モニターに応援上映の映像が映し出されました。


「宮城リョータ応援上映」なので、客席は、沖縄、神奈川、広島、カリフォルニアにエリア分けされています。


これらのイラストは公式の素材ではなく、有志提供のファンアートです。


これまでも、中国ではファンがスクリーンを貸し切って上映会を企画することはちょくちょくありました。
例えば、2022年に映画『花束みたいな恋をした』が中国公開されたときは、菅田将暉のファングループがスクリーンを貸し切ってファン交流上演会を企画していました。
映画スラムダンクの「応援上映」は文字通り応援上演で、映画の中の試合展開に合わせてチームや選手を応援します。
例えば「宮城リョータ千人応援上映」では、湘北高校の宮城リョータを応援するものです。5月22日は人気キャラクター三井寿の誕生日だったので、各地で「三井寿誕生祝い応援上映」が開催されました。

「応援上映」は個人・有志が企画するもので、中国ローカルのSNSアプリ(Weibo、小紅書、抖音)などで情報を告知し、参加希望者はWeChatグループに招待され、WeChat内のミニプログラムでチケット購入し、WeChatペイ(スマホ決済)で支払うという流れが一般的です。

大規模な応援上映では、1000席規模のスクリーンを使用するので、劇場をほぼ丸ごと貸し切るような形になります。
劇場の空きスペースではグッズの交換会が行われています。






これは有志が同人グッズ(ファンアート)を作って劇場に持ち込んでいるのですが、販売しているわけではありません。無料で配布するか、交換しています。何と交換するかというと、ファンアート同士の交換です。
「グッズとグッズとの交換」という非常に原始的な物々交換によってファン同士の交流が行われているのです。(自作のグッズでなくても、他人が作ったグッズでも交換に出していいです)
中国の有志による「応援上映」は、手探りながら秩序と法律を守ろうとしています。
日本では、「公式」と「同人」をはっきりと線引するのがマナーであり、ルールとされているので、映画の応援上映に同人の要素を持ち込むことに違和感を持つ人もいるかもしれません。ですが、これを禁止するとなると、同人活動そのものを禁止するのと同じになってしまいます。

中国の「応援上映」は劇場側の同意を得て正規のルートで映画を上映しています。つまり、劇場側から正規チケットが発券され、興行収入は公式に計上されます。
関連グッズはすべてファンアートで自費制作、ファンアートの売買は行わず無償か物々交換のみ、となると禁止する理由はないように思います。
実際には、正規のチケット料金に数十元(約400円程度)の経費が上乗せされた値段で販売されていますが、ファンアート宣伝物の制作費などで相殺されるレベルの金額だと思います。

公式かと見まごう山王工業のポスター。このイラストは有志(同人作家)が描いたもので、左端に日本語と英語で「このイラストはファンアートです。」と注意書きがあります。


・中国では映画館のスクリーンを貸し切ることが比較的容易。
・SNSとスマホ決済が普及しており、無料または手数料は僅かのアプリが多く、個人間での金銭決済が簡単。
・中国国内には各種工場が豊富に存在するので、ファンアートのグッズを比較的安く制作できる。
上記の背景があるため、中国型の「応援上映」が可能となっています。

「応援上映」に参加しているのは8割以上が女性です。学生と20代が主流で、平均としては25~26歳、基本的に35歳以下のように見えます。
こんなに若い人たちがスラムダンクを応援しているということに驚きです
彼ら(彼女たち)は自分が生まれて間もない若しくは生まれる前に制作されたTV版アニメ「スタムダンク」も視聴しており、当時流行った同人カップリングにも詳しいです。
世代・国を超えて愛される「スラムダンク」という作品のすごさを見せつけられました。

中国での映画『THE FIRST SLAM DUNK』(灌篮高手)の興行収入は7月18日時点で6.5億(約130億円)です。中国メディアの予想ではもっと伸びると思われていました。
一方、同時期に公開された新海誠監督の『すずめの戸締り』(铃芽之旅)は8億元(約160億円)で、『すずめの戸締り』の方が数字的に上となりました。
両作ともに日本国内での興行収入に匹敵あるいは上回る成績を上げており、数字的にいうと、中国は最大の海外市場です。
累計動員数についていうと、中国での映画「スラムダンク」動員数は上映90日で1800万人を超えており、日本を大きく上回っています。
なお、中国で歴代興行収入TOPの映画は朝鮮戦争を描いた『長津湖/1950 鋼の第7中隊』(2021年公開)という作品で、累計動員数は約1億2500万人で日本の総人口よりも多いです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国映画『消失的她』(消えた彼女)予想外の大ヒット~米国映画の不調と“低予算”国産サスペンスの大ヒット

2023年07月11日 | エンタメの日記
6月22日に公開された中国映画『消失的她』(消えた彼女)が予想外のヒットを記録しています。
今年の春以降、中国の映画市場は全体的に低迷していますが、6月下旬の端午節の3連休に合わせて公開された中国サスペンス映画『消えた彼女』は初日から好調で、7月11日現在約32億元(約640億円)の興行収入を上げています。

『消失的她』(原題直訳「消えた彼女」)英語タイトル:Lost in the stars
公開日:2023年6月22日 時間:121分 興行収入:約32億元(約640億円)(7月11日時点)
主演:朱一龍、倪妮、文咏珊  監督:崔睿、劉翔 脚本・監修:陳思誠
原案:1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)


『消えた彼女』は公開から20日間で約32億元、日本円に換算すると約640億円の興行収入を上げています。統計データによると、のべ動員数は7636万人です。
中国の映画市場の規模は大ざっぱに言うと日本の5倍ですので、日本の感覚でいうと130億円くらいの規模のヒットで、年間ランキングで5位以内に入るレベルです。

主演は中国ドラマ『鎮魂』や映画『星明かりを見上げれば』(原題『人生大事』)などで人気の朱一龍(チュー・イーロン)です。
朱一龍が現代サスペンスの主役を演じるのは初めてですが、さまざまな表情を使い分ける巧みな演技を見せています。

~あらすじ~
東南アジアのとある国の警察署。中国人の男性(何非/ホー・フェイ)が現地の警官に英語で必死に訴えている。新婚旅行中の妻・李木子(リー・ムーズ)が姿を消したまま何日も帰ってこないので捜索してほしいと。
しかし警察は事件性を示す証拠がないといって取り合ってくれない。何非のビザの期限は迫っており現地に滞在できる時間はあと数日しかない。打ちのめされた何非は一人でホテルに帰り眠りにつく。翌朝ホテルのベッドで目を覚ますと、隣に赤いドレスの女性が眠っていた。
何非はぎょっとして女に「お前は誰だ」と尋ねると、女は「私は李木子。あなたの妻でしょう?」と答え、スマホを差し出し二人を映っている写真を見せる。
何非はこの女性は自分の妻ではないと訴えるが、誰も何非の言葉を信じない。何非は本物の李木子を探すため、ある女性弁護士を頼る。

主演:朱一龍(チュー・イーロン)新婚旅行中にいなくなった妻を探すため奔走する男・何非(ホー・フェイ)を演じています。何非は様々な過去を隠し持っており、いくつもの表情を朱一龍が演じ分けています。


敏腕国際弁護士・陳弁護士を演じる倪妮(ニー・ニー)。1988年生まれ。チャン・イーモウ監督の南京を舞台とした戦争映画『金陵十三釵』(2011年)の主役に抜擢されて女優としてのキャリアをスタート。身長170㎝、クールで知的なルックスで独特の地位を築いている人気女優。劇中では英語のセリフが多いですがネイティブのように流暢です。


「私があなたの妻」と言って現れる赤いドレスの女性を演じる文咏珊(ジャニス・マン)。1988年生まれ、身長168cmの香港出身の女優。


『消えた彼女』は予想外の大ヒットで、当初の予測を3倍くらい上回っています。
中国の映画市場全体が不調である中、まさかこんなにヒットするとはと驚かれていますが、映画を観た観客にとっても「どうしてこの映画がこんなにヒットしたのか?」と考えたくなるような作品です。

『消えた彼女』の制作費は1.5億元と言われています。1.5億元は現レートで計算すると30億円となります。
「制作費30億円」は現在の中国映画の相場からいうと低予算に属します。

監督としてクレジットされている崔睿、劉翔の2名は若手映像作家で、これまでに目立った作品はありません。
『消えた彼女』は脚本・監修として映画監督・陳思誠(チェン・スーチェン)が参加しており、ヒットに至ったのは陳思誠の手腕によるものと言われています。

陳思誠は中国映画界有数のヒットメーカーです。
元々は俳優で、俳優としてかなり成功していました。かつてドラマ『士兵突撃』等で共演した仲間が大スターになっており、そのことも監督転身後の強みなっているようです。1978年生まれ、身長180㎝。


『消えた彼女』には原案が二つあります。
一つは、2019年にタイで実際に起きた「中国人妊婦墜落事件」で、制作側によるとこの事件を映画のモチーフにすることについて関係者の許可を取ったとのことです。
もう一つ、1990年のソビエト映画「Lovushka dlya odinokogo muzhchiny」(独身男に仕掛けられた罠)が原案であると記されています。
ただし、このソビエト映画の中国版を作ろうとしていたわけではなく、制作に入ってから近似性を指摘されたので後付で版権を購入したと公表しています。このソビエト映画よりも、1986年の米国映画『消えた花嫁』に似ていると言われていますが、ソビエト映画の版権許諾を得たということで近似性指摘の問題を回避しています。

『消えた彼女』は「東南アジアの一国・バディビア(巴迪維亞)」が舞台ですが、これは架空の国です。
撮影場所も東南アジアではなく、中国の最南端にあるリゾート地・海南島です。
異国情緒が極彩色のカットで埋め尽くされていますが、実在しない架空の国が舞台なので、何かを正確に再現する必要はなく「東南アジアっぽい」雰囲気であればよく、自由度の高い映像作りができます。
たとえば、花火が上がる現地のお祭りのシーンがありますが、これも実在するカーニバルなどではなく創作シーンであり、視覚的には非常にゴージャスですが、よくみると中国人のエキストラがカーニバルのダンサーや観衆を演じており、何ともいえないチープな怪しさがあります。

登場人物は赤、白、黒と象徴的な色の服装をしていますが、衣装のバリエーションは少なく、いつも同じ服で現れる登場人物もいます。
主人公が東南アジアに滞在できるビザの期限が迫る数日間という設定なので、登場人物が常に同じような服装で出てきても不自然ではありません。
また、時代的に辻褄が合わないところがありますが、いつの話であるのか明示していないことが抜け道となっており、低予算に仕上げるための仕掛けが様々なところに張り巡されています。


映画は誰にでも手が届く娯楽であり、チケットの値段は地方都市ではいまだに40元前後(約800円)です。
(都市部の設備・環境のよいスクリーンでは、120元(約2400円)を超えるところもあります)
中国の商業映画は大人が一人でじっくり観るようなものではありません。映画は日常消費の一部分であり、公開時期、テーマ、宣伝方式などが観衆のニーズに合致し、消費の循環にうまく溶け込むとヒットします。
いま現在、中国には不況感が漂っていますが、その中で映画という一つの商品をヒットさせたことは快挙です。

最近の中国映画市場は全体的に低調で、特に米国映画は軒並み苦戦しています。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 4月5日公開 1.7億元(約34億円)
実写『リトル・マーメイド』 5月26日公開 2650万元(約5.3億円)
『マイ・エレメンツ』 6月16日公開 1.1億元(約22億円)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 6月30日公開 2300万元(約4.6億円)

実写『リトル・マーメイド』に至っては、上映から僅か1週間でほとんど打ち切りのような形になりました。
それでも『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』などは9.8億元(約190億円)の興行収入を上げていますが、本シリーズの過去作と比べるとかなり勢いが落ちています。

アメリカ大作映画は中国での興行収入を見込んで、北米と中国で同時公開するなど中国市場に配慮してきましたが、こんなに中国で流行らないのであれば、そういった配慮もなくなっていくかもしれません。

なぜ中国で米国映画がこれほど流行らなくなっているのか。一つには宣伝・キャンペーン不足だと思います。米中関係悪化という政治的な影響も少なからずあります。
ただし、内容面からいうと、映像のゴージャスさという点だけでいえば、中国映画も米国映画と遜色ないレベルのものをすでに作っています。
物語としても米国大作映画は同じようなテイストの作品が多く、あまり魅力を感じなくなっているのかもしれません。米国映画がテーマに組み入れてくる「多様性」などの要素も、中国の観客にはあまり響かないのではと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国ミュージカル『女神様が見ている』の中国語版『女神在看』上海で上演~匿名化された反戦のミュージカル

2023年07月03日 | エンタメの日記
韓国ミュージカル『女神様が見ている』の中国語版『女神在看』が上海人民大舞台で上演されました。
『女神様が見ている』は韓国で2013年に初演を迎えて以来何度も再演されている人気作で、最近ソウルで10周年記念公演も行われました。
この作品は2014年に韓国人キャストによる来日公演が行われたことがあります(世田谷パブリックシアター公演)。日本にもファンが多いKPOPグループ「SuperJunior」のリョウクがキャストとして来日したことは、当時かなり話題になりました。また、現在ドラマや映画で活躍している俳優チョン・ソンウが本作の初演キャストとして重要な役を演じています。

韓国ミュージカル『女神様が見ている/여신님이 보고 계셔』 中国版タイトル『女神在看』 
会場:上海人民大舞台 上演期間:2023年6月9日~7月2日(全30公演) 上演時間:約120分 中国制作会社:睿魚文化
キャスト:宗俊涛、鍾舜傲、施哲明、趙偉剛、高楊、夏陽など。主に中劇場クラスの作品で活躍している俳優がキャスティングされています。






中国語版『女神様が見ている』は韓国初演からちょうど10周年にあたる2023年に上演されましたが、中国では特にそのことには触れられていません。そもそも、オリジナルが韓国ミュージカルであるということもあまり表には出していません。
作品クレジットにはもちろん韓国オリジナル版の制作陣(脚本:ハン・ジョンソク、演出:パク・ソヨン、作曲:イ・ソンヨン)の記載があるほか、上海公演に携わる韓国側のスタッフと中国側のスタッフの名前が列記されています。オタクはこの作品の原版が韓国ミュージカルであることを知っています。ですが、ポスターなど目立つところに韓国ミュージカルがオリジナルであることが表記されているわけではないので、誰かに誘われて観に来ているような観客は、韓国ミュージカルの中国語版であることを知らずに観ているのではと思います。

『女神様が見ている』は6人の兵士と1人の”女神様”から構成されるミュージカルです。歌よりも芝居に重点が置かれていますが、楽曲も素晴らしい作品です。

~韓国原版のあらすじ~
1952年、朝鮮戦争中の釜山港。南側(韓国)の兵士2名が北側(北朝鮮)の捕虜4名を輸送するよう命じられる。ところが彼らが乗った船が難破し、6人は無人島に流れ着く。気付いたときには両者の立場が逆転し、北側の兵士が南側の兵士を拘束する立場になる。船を修理できるのは北側の若い兵士1人だけ。しかしその兵士は精神が不安定になっておりまともに仕事ができる状態ではない。ところが南側の兵士が「この無人島には女神さまがいて俺たちを見ている」と話したことをきっかけに、女神さまの教えに従い船の修理作業に励むようになる。南北の兵士たちは一丸となって無人島に「女神さま」が存在するかのように振る舞うことになり、奇妙な協力生活が始まる・・・。

原版は1952年の釜山港、陸軍本部から物語が始まり、セリフの中にも朝鮮戦争中であることが明確に表されています。
しかし、中国版では朝鮮戦争が舞台であることにはまったく触れられておらず、架空の国同士の架空の戦争の物語に書き換えられています
中国版の設定では、朝鮮戦争に参戦する南北の兵士たちではなく、「藍海帝国」とその敵国「藍天連邦国」との間の戦争という設定になっています。
「藍海帝国」という国名は「ブルーオーシャン帝国」、「藍天連邦国」は「ブルースカイ連邦国」といったところで、リリカルで匿名性の高い名称となっており、世界のどのあたりの国をモデルとしているかも特定できません。
また、具体的な時代や時期を示す情報もありません。
登場人物は稲妻、サソリ、石ころといったあだ名或いはコードネームで呼ばれており、役名から背景を特定することもできません。

~中国版の役名~
韓国軍:
ヨンボム→稲妻(闪电)
ソック→砲弾(炮弹)

北朝鮮人民軍:
チャンソプ→サソリ(蝎子)
スンホ→石ころ(石头)
ドンヒョン→狼(野狼)
ジュファ→スプーン(勺子)

女神様→女神

中国版では朝鮮戦争が舞台であることはきれいにぼかされていますが、そのかわり、楽曲、物語の展開、衣装、セット等はほぼ原版どおりです。
ただ、書き換えが行われたことで、物語の意図が伝わりにくくなっている部分もあります。
たとえば、北朝鮮の兵士の一人ドンヒョン(中国版ではオオカミ)のエピソードです。
ドンヒョンはある程度の地位まで昇進している兵士です。
韓国原版でのドンヒョンは、自身が北朝鮮の兵士として従軍しているのに、父親たちが南側に逃げてしまったという苦しみを抱えています。
中国版では「朝鮮戦争」という背景が取り除かれているので、父親はもうすぐそこが戦場になるので家族を連れて”国外”に逃げてしまった、ということにされています。
韓国原版の場合は、北側に住んでいたドンヒョンの家族が南側つまり韓国を目指して逃げた、と明確に表現されています。それは、「敵側」に「逃げる」ことになるのです。朝鮮戦争特有の近しい者同士の分裂がリアルに描かれています。

ドンヒョンは最後には自分の意思で南側の兵士についていくことを選びます。
中国版では「戦争中に家族が国外に逃げる」となっていますが、観客からすると、戦火を逃れるために国外に行くこと自体がそれほど特殊で悪いことのようには思えません。また、オオカミ(ドンヒョン)が最後に家族のために敵側の兵士についていくという展開もやや違和感があります。敵側の国に行くことは、家族が逃げた「国外」には繋がらないからです。

とはいえ、舞台が朝鮮戦争のままでは中国で上演することは非常に難しいです。
韓国人以外が朝鮮戦争の兵士を演じることには違和感があるし、それでなくても中国は共産主義国として北側(北朝鮮)を支援する形で南側(韓国・アメリカ)と戦い、膨大な戦死者を出したという北側の当事者です。戦争の表現は政治に繋がるのでリスクがあります。中国で商業ミュージカルとして上演するためには、「朝鮮戦争」という要素を消すのは致し方ないことだと思います。
なお、中国版では北側の兵士の愛国心がやや強調されており、観る側にとっては、どちらかというと北側に自らを重ねやすい脚色になっていると思います。

『女神様が見ている』はもともとコミカルな場面も多い作品です。
中国版は背景がぼかされたため、戦争の恐ろしさや緊張感がやや弱まっています。その反動でコミカルな部分がより目立つようになり、全体的に反戦をテーマとしたハートフルなミュージカルとなっています。

上海では1ヶ月に渡って全30公演ありましたが、1000席の劇場はオーバーキャパシティでした。
平日でも劇場に来る個別の俳優ファンのリピーター客は、コミカルなシーンでの俳優同士のアドリブを期待するので、余計にコメディの比重が高まったように思います。



戦争に関する部分が匿名化され架空の設定が加えられたことで、韓国原版が持つ戦争に対する姿勢や人の生き方に込められたメッセージはダイレクトには読み取れなくなっています。
ですが、『女神様が見ている』という作品を韓国以外の国でも上演可能な形に変えることには成功しています。中国版のシナリオをもとにすれば、日本人キャストで上演してもおかしくないと思います。
上海ミュージカル界は中劇場に立てる俳優陣が豊富で、全役トリプルキャスト、ダブルキャストで配役されましたが、どの俳優も歌、芝居、ビジュアルともに高いパフォーマンスを見せています。
とにかく楽曲と歌詞が素晴らしく、原版のしっかりとした話の枠組みと巧みな場面転換、そこに中国人俳優の安定した歌唱力とビジュアルが掛け合わされ、すべてのキャストで観てみたいと思わせる作品に仕上がっています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本人アーティストの中国ライブ再開~藤井風ピアノアジアツアー上海公演7月に開催

2023年06月27日 | エンタメの日記
コロナウィルス感染対策規制が解除されたことで、中国では5月頃からスタジアムクラスのコンサートが一気に再開しました。
コロナ規制が行われた3年間、中国では大規模なコンサートはほとんど開催されていません。2023年の1月に「ゼロコロナ政策」が完全に終了したことで、五月天(メイデイ)、梁静茹など中華圏のメジャーなアーティストが次々と中国各都市でコンサートを開いています。
海外アーティストの訪中公演も再開し、日本人アーティストの中国公演も増えています。
7月13日、14日には藤井風が上海で初の中国ライブを開きます。

藤井風 2023年ピアノアジアツアー 上海公演(ピアノアジアツアーはソウル、バンコク、ジャカルタ、KL、上海、台北、香港で開催)
日時:2023年7月13日(木)、14日(金)2Days 会場:上海センターシアター(上海商城劇院) 南京西路1376号上海商城
チケット価格:580元(約1160円)、380元(約7600円)


会場となる「上海センターシアター」は座席数約900の2階建ホールです。ここは元々上海雑技団が外国人観光客向けに雑技の公演を行っていた場所です。2000年代に観光で上海に来たことがある人なら、かなりの確率でここで雑技を観ているはずです。
今回の上海公演は「ピアノコンサート」でありバンドの帯同はなくライブの時間も短めとは言われているものの、チケット価格は他のアーティストよりもかなり安く設定されています。
900席 ✕ 2日間のチケットは即刻完売し高額取引されています。
「藤井風はいったいなぜこんなに小さい会場でやるのだ」と不思議に思われています。10倍のキャパの1万席クラスの会場でも余裕で埋まったのではと言われています。
藤井風は2021年、2022年と2年連続で「紅白歌合戦」に出場しました。中国で紅白が放送されているわけではありませんが、「紅白に出た」ということは中国でも一定のアピール力があります。ですが、ここまで知られるようになったのはやはり「死ぬのがいいわ」が音楽配信アプリで大ブレイクしたからだと思います。
中国ではSpotify、AppleMusicなどいわゆる欧米系の音楽配信アプリを使っている人は相対的にいうと少ないです(iPhoneユーザーに限られ、iPhoneのシェアは中国では25%程度)。一般的には中国国内の音楽配信アプリ「QQ音楽」や「網易雲音楽」(NetEaseクラウドミュージック)を使っています。これらの中国音楽アプリでも藤井風の曲は配信されており大量再生されています。

「死ぬのがいいわ」 中国語タイトル「不如死去」 NetEaseクラウドミュージックでは無料配信。


中国の音楽配信アプリではユーザー有志が歌詞の中国語訳を作ってアップロードすることができます。訳が間違っていると思うユーザーがいれば、修正を申請して翻訳をブラッシュアップすることもできます。かなり練り込んだ翻訳歌詞を投稿するユーザーが多く、歌詞に対する翻訳者の解釈が盛り込まれていることもありますが、翻訳のレベルは高いと思います。

藤井風はいまのところアニメとのタイアップをしていませんが、中国でライブをする日本人アーティストの多くはアニメ主題歌がきっかけで中国人リスナーを獲得しています。もっとも、いま売れているJPOPアーティストのほとんどがアニメとのタイアップ曲を持っています。アニメ主題歌のタイアップは海外リスナーを獲得するうえで絶大な効果を果たしています。

6月には向井太一が深セン、南京、杭州、上海の4都市でライブを開催しました。全公演完売しています。
向井太一 2023年中国ツアー


向井太一はコロナの前、2019にも中国ライブを行っており、規制が解除されたらすぐに中国ツアーを再開させています。
向井太一が中国で人気があるのは、2018年に放送されたアニメ「風が強く吹いている」のエンディング曲を提供したことが大きいと思います。
「風が強く吹いている」は三浦しおんの同名小説のアニメ化で、箱根駅伝を舞台にした作品です。
このアニメが中国ではものすごく高く評価されていて、特に20代、30代のスポーツ愛好家の間で絶大な支持を得ています。
配信サイト「bilibili動画」では異例の9.9という超高評価。向井太一はエンディング曲の「リセット」「道」を歌っています。特に「道」はアニメ最終回のシーンと相まって強い印象を残しています。


小林未郁が2020年に行わるはずだった中国ツアー「轉」(転)を2023年6月に開催しました。
小林未郁は多くのアニメ主題歌を歌っており、澤野弘之の歌姫としても有名で海外にも多くのファンがいます。中国ではアニメ「ギルティクラウン」の「βίος」、「アルドノア・ゼロ」の「aLIEz」などが非常に有名です。
2023年6月に北京、南京、上海、成都、広州の5都市でライブハウスツアーで開催。全日程完売。


小林未郁は以前よりアジアをはじめ海外ツアーを積極的に行っており、中国では2017年からシリーズライブ「Mika Type "起"/"承"/"轉"」(次は"合"?)を展開しています。

8月にはTK from 凛として時雨が再び上海にやってきます。
「The Second Chapter in Asia」ツアー 北京、上海、広州、深センの4都市でライブを開催。
チケット価格:VIP880元(約17600円) 普通680元(約13600円) 


TKもたくさんのアニソンを手掛けており、音楽配信アプリで多くの海外ユーザーに視聴されています。
「東京喰種トーキョーグール」アニメ第1期のオープニング曲「unravel」は恐らく外国人に最もよく歌われている日本語曲のひとつです。

秋以降はMIYAVIが中国ツアーを開催すると発表しています。その他、米津玄師、ONE OK ROCK、RADWINPSなどが来るのでは?と言われていますが彼らの「アジアツアー」の中に中国大陸の都市が組み込まれるかはまだはっきりしていません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2年ぶりの上海映画祭~2023年第25回上海国際映画祭開催

2023年06月14日 | エンタメの日記
6月9日から第25回上海国際映画祭(SIFF)が始まりました。開催期間は2023年6月9日~6月18日までです。


昨年の上海映画祭はロックダウンの影響で「来年に延期」されたので、2年ぶりの開催となります。
上海映画祭は市内の映画館で各国の作品が上映されると同時にコンペティション(「金爵賞」)が行われます。2022年のコンペティションにエントリー済みだった作品は2023年度に審査が持ち越されるという意味で、「来年に延期」という表現が用いられました。
上海映画祭はアジア地区の映画祭としては、釜山、香港・東京に次ぐ影響力を持っていると言われていますが、アジア内で4番目という位置付けからしてコンペティション部門への注目度はそれほど高くはありません。ただし、中国では日頃海外映画が劇場公開される機会が少ないので、普段は観ることのできない海外作品や旧作・名作を観るために上海映画祭には大勢の観客が詰め寄せます。

今年は上海市内41の映画館、50スクリーンで約450部の作品が上映されました。そのうち世界初公開作品は53作です。
チケット販売プラットフォームによるとチケット発売開始から1時間で30万枚を売り上げたそうです。
映画祭では大人数を収容できるスクリーンが求められますが、1000席規模の大型映画館は限られているので、普段は演劇用に使われている劇場も映画館として臨時使用されます。
昭和の時代には日本に1000席規模の大型映画館はいくつもありましたが、新宿ミラノ座が閉館(リニューアル)されたことで1000席以上の映画館は姿を消しました。上海でも1000席規模の大型映画館は持て余す傾向にあり、徐々に減っています。純粋な映画館として残っているのはSFC上海影城と1928年開業のクラシック映画館「大光明電影院」くらいです。普段は滅多に満席になることのない1000席規模のスクリーンも、上海映画祭ではほぼ満席の状態となります。

上海映画祭のチケット価格は徐々に上がっており、2023年は60元~180元の間で細分化されています。
普通の旧作70元(約1400円)、新作90元(約1800円)、4k版120元(約2400円)、140元(約2800円)といった設定で、90元か120元の作品が多いです。2017年頃までは一律60元だったので、この数年で急激に値上がりしたと感じます。

今年の上映作品は例年と比べると話題作に欠ける感じがするのは否めません。
それはコロナの影響もあり世界的に映画の制作ペースが落ちているためかもしれないし、映画の内容・スタイルが多様化しているため「話題作」が何か分かりにくくなっているのかもしれません。

2023年上海映画祭の話題作
・「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021年)
・「ラストエンペラー」(4k修復版)ベルナルド・ベルトルッチ監督 
・「悲情城市」(1989年)侯孝賢監督台湾映画
・「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022年公開)ミッシェル・ヨー主演。米国華人を主人公としたSFコメディ。アカデミー賞で多数受賞した米国映画。

現在、niko and...上海南京西路店で「EVA×niko and...」コラボを開催中です(開催期間:2023年5月27日から7月9日)。
コラボ初日の週末にはファンが殺到し、店頭コラボ商品の品切れ、カフェのコラボメニューの販売一時中止などが生じました。そのため2週目以降の人出はやや落ち着いています。




上海影城がリニューアル
第25回上海映画祭に合わせてメイン会場であるSFC上海影城がリニューアルされました。
上海影城は1000人以上収容可能な扇状に広がる一層式の巨大スクリーンを持つ劇場です。1991年開業で老朽化はしていませんでしたが2023年に改装されました。改装後は、エントランスエリアが展示、出店、カフェなど映画以外の商業・交流スペースとして利用できるようになります。


白く流れるような立体的な外観で写真映えします。上海影城は映画祭に間に合わせるべく改装工事をかなり急いだようで、外部のカフェや上層階はまだ工事中で、上映中にもドリルの音が鳴り響いていました。



毎年驚くことなのですが、上海映画祭では沢山の中国の若い人たちが古い日本映画を観に来ます。アニメを含め、上海映画祭では相変わらず日本映画の人気は高いです。
映画祭初日の6月9日(金)夜は「犬神家の一族」(1976年公開)が上映されました。1008席の“アジア最大のドルビースクリーン”で上映され満席になりました。


2年ぶりの開催のせいか、今年は観客のマナーに関する衝突が特に多いように感じます。
まず、遅刻してくる人が多いです。
単純に遅刻してくる人もいれば、映画祭のスケジュール上、1日に複数の劇場をハシゴしているため移動が間に合わず遅刻してくる人もいます。
スケジュールの問題とはいえ、移動時間をよく計算せずにチケットを買ったり、若干遅刻することが分かっていながら購入する人もいます。

そのほか、上映中のおしゃべりや飲食、そしてスマホに関する問題が多いです。
上映中にスマホをいじる人のディスプレイの明かりが邪魔、スマホでタイトル映像などを撮影する人といったマナー違反行為に対し、
他の観客から叱責の怒号が飛び、劇場が緊張に包まれることもあります。
映画観賞マナーに対する考え方の違いは大きく、「たかが映画のことで、そんなに厳しいことを言う必要はない」と思っている人も多く、実際、普段の映画館ではスマホの扱いに対する意識は緩いです。
また、映画のタイトル映像や特定のシーンを撮影したがる人はすごく多いです。
スラムダンク映画版「THE FIRST SLAM DUNK」が4月に中国公開されたときも、隠し撮りというより上映中の記念撮影行為が大きな問題になりました。
作品のために観に来ているファンと、作品は作品で好きだけれど自分が楽しむためのアトラクションと考えている人ではスタンスが異なり、一つの狭い空間に2時間も一緒にいるのはお互いに苦痛なことかもしれません。
映画祭でマナーを注意する人を「映画警察」として煙たがっている人もおり、さらに摩擦が生じるのではと心配になりますが、こんな喧嘩まがいのことが起きるのは客層が若く活気がある証拠だとも思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

肖戦(シャオジャン)主演ドラマ『夢中的那片海』(夢の中のあの海)放送開始~『陳情令』放送から4年

2023年06月10日 | エンタメの日記
肖戦(シャオジャン)主演のドラマ『夢中的那片海』(梦中的那片海/直訳:夢の中のあの海)が6月1日から放送スタートしました。このドラマは1970年代後半の北京を舞台とするドラマです。
「梦中的那片海」(原題直訳:夢の中のあの海) 英語タイトル「The sea in the dream」 全38話 放送開始日:2023年6月1日
主演:肖戦(シャオジャン)、李沁(リーチン)、劉芮麟、曹斐然、趙昕  放送媒体:テンセントビデオ、中央電視台(CCTV-8)、東方衛視  撮影期間:2022年2月から6月


中国ドラマは撮影が完了してから放送されるまでの間にタイムラグがあります。
スムーズであれば撮影完了から1年以内に放送されますが、事情によっては放送までに2年、3年とかかってしまうことも珍しくありません。
肖戦(シャオジャン)は2019年の夏に放送されたブロマンスドラマ『陳情令』で一躍有名になり、その後出演作が何本か放送されていますが、それらはいずれも『陳情令』が放送される前にキャスティング・撮影された作品です。

~2022年までに放送された肖戦の主な出演ドラマ~
『狼殿下-Fate of Love-』:王大陸(ワン・ダールー)×李沁(リーチン)のドラマ。2017年に撮影されたドラマで肖戦のキャリアの中ではかなり初期に出演した作品。撮影時期は『陳情令』よりも前。
『慶余年~麒麟児、現る~』:端役(スパイ言氷雲役)として出演していますが『陳情令』がヒットする前にキャスティング・撮影されたものです。『慶余年』は続編(第2部)の撮影が最近始まりましたが、肖戦は続編には出演しません。
『斗羅大陸 ~7つの光と武魂の謎~』:肖戦主演のファンタジードラマ。2019年に撮影されたドラマで『陳情令』放送前に作られた作品。
『これから先の恋』:現代もの恋愛ドラマ。楊紫(ヤン・ズー)と共演。肖戦は若きイケメン医師役。撮影期間は2019年8月~11月で『陳情令』放送前にキャスティングされた作品。

「夢の中のあの海」は「陳情令」が放送されて肖戦が大人気となった後に撮影されたドラマです。
このドラマで肖戦は1970年代後半の北京に住む青年・肖春生役(主役)を演じており、この役柄のために北京訛りの台詞回しをマスターしています。
肖戦が演じる肖春生は軍幹部の父を持つ青年で、軍関係者とその家族たちのための独立したコミュニティ・”北京(部隊)大院”の中で暮らしています。そこは特殊な階級に属する人々の世界であり、そこでの暮らしは物質的・文化的に普通よりも明らかに恵まれています。
ドラマの舞台となっている「北京(部隊)大院」は実際に存在したもので、ここで暮らす人々は軍や政治機関の関係者で政治・権力に近い位置におり、最新の情報に触れるチャンスも多かったため、現実の話として1970年代の「北京大院」で育った若者たち(北京大院子弟)の中から多くの社会的成功者が生まれました。
成功者たちが「北京大院子弟」の文化・暮らしを自伝や小説としてロマン主義的に述懐したことから、一種の文学ジャンルにもなっています。
日本でも1960年代、70年代の米軍基地の町が文学の題材になったことがありますが、特殊な空間の中で形成される独特の文化や人間関係、歴史的な意義はドラマの素材としても魅力を放っています。

「夢の中のあの海」の第1話から第3話あたりまでは当時の時代背景を描くために敢えて組み込まれているシーンや台詞が多く、関連知識を補わないと分かりにくいかもしれません。
第1話では肖戦ら軍人家庭の子弟たちで構成されたグループが冬のスケート場で他の青年たちと衝突しますが、なぜ彼らが初対面なのに衝突するのか、その対立感情が何なのかピンとこないかもしれません。
什刹海、鼓楼といった地名とその位置付け、「四九城」などの概念、「司令」など人民解放軍の役職や階級、「燕京大学」など歴史の荒波を受けて消えていった物事に対する知識を補足しないと、脚本の意図を把握しにくいのではと思います。
ただし、第5話くらいまで進むと主人公たちの恋愛、友情、家族愛や、時代の変化に振り回されつつ夢や理想に向かって勇敢に進んでいく若者たちの青春が主軸となり、話が分かりやすくなってきます

肖戦(シャオジャン)は主人公・肖春生を好演しています。肖春生はまっすぐで闊達な性格で仲間たちのリーダー的存在。義理堅く仲間思い。皆から慕われているが、父親の問題で入隊できる年齢をとうに達しているのに軍に入隊できずにいる。


ヒロイン・佟暁梅を演じるのは李沁(リーチン)。高級軍人の父を持つが本人は医学の道を志す。内省的で物静かだが芯の強い女性。


もう一人のヒロイン・賀紅玲を演じるのは曹斐然。度胸がある気の強い美人。バイオリン奏者になることを夢見ている。音楽一家の出身だがそれゆえに一家が迫害された過去を持つ。


冬になると北京市内にある「什刹海」という人口湖はスケートリンクになり、当時の人々の青春を象徴しています。
「夢の中のあの海」はテーマとしてはNHKの朝ドラに通じるような立志伝中的な物語で、肖戦が演じる主人公・肖春生は最終的には実業家として医療機器の分野で社会に貢献します。
中国の1950年代から2000年代あたりまでを描く「年代ドラマ」は近年かなり流行していますが、「夢の中のあの海」は当時の良い部分をロマン主義的に美しい映像で表現しています。現実には理不尽に虐げられたり犠牲になった人も多いはずですが、社会や政策を直接批判したり、権力者を非難するような表現はありません。


肖戦(シャオジャン)はブロマンスドラマ「陳情令」をきっかけに他に例を見ない速さでスターの座に上り詰めました。
「陳情令」放送から4年が経っていますが、「夢の中のあの海」が放送されたことで肖戦はやっと新しいステージに進むことができたのではと思います。「陳情令」の大ヒットに伴い発生したファン同士のネット暴力事件(肖戦227事件)の影響で、肖戦はリスクを抱えたスターとして扱われてきました。
「夢の中のあの海」ではこれまでとは全く違う役どころですが、特有の華やかさと美しい切れ長の目は変わりなく、実年齢はもう32歳ですが相変わらずのイケメンぶりを発揮しています。
ブロマンスドラマの美形俳優というフィルターがなくなると、演技力に対してより厳しい目が向けられるかもしれませんが、「夢の中のあの海」が俳優として大きなキャリアになることは間違いないと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国語版ミュージカル「オペラ座の怪人」2023年5月上海大劇院で開演

2023年05月31日 | エンタメの日記
いま上海で中国語版ミュージカル「オペラ座の怪人」が上演されています。2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で40回上演された後、中国全土の都市を巡演し、年内に約200回上演される予定です。
ミュージカル「オペラ座の怪人」(アンドリュー・ロイド・ウェバー作)の中国人キャストによる中国語版。中国語タイトル「劇院魅影」(剧院魅影) 2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で上演。
 

中国語版「オペラ座の怪人」は2018年にプロジェクトが発足し、英国の制作スタッフの指導のもと、楽曲、歌詞、演出、セット、衣装など原版に忠実に作られたとされています。
「オペラ座の怪人」は巨大なシャンデリア、大きな階段など豪華な舞台セットが有名で、一定の規模と設備を備えた劇場でなければ上演できないと言われています。上海大劇院は3階建て、1631席の劇場です。上海公演終了後、深セン、佛山、広州、アモイ、南京、杭州、北京、長沙、成都、重慶を巡演しますが、巡演先でも3階建ての大きな劇場が選ばれており、いつの間にか中国各地に大劇場が建設されていることに驚きます。

~メインの3役はトリプルキャスト~
「オペラ座の怪人」(上海公演)はファントム、クリスティーヌ、ラウル子爵の3役がトリプルキャストで上演されました。
ファントム:阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰
クリスティーヌ: 楊陳秀一、潘杭苇、林韶
ラウル子爵:趙超凡、馬添龍、李宸希

固定の組合せが3パターンあるわけではなく、3役×トリプルキャストのシャッフルです。
私が観た組み合せは、ファントム:劉令飛、クリスティーヌ:潘杭苇、ラウル子爵:李宸希でした。


~中国のファントム・「魅影」~
「ファントム」は中国語では「魅影」と訳されています。上海公演で「魅影」を演じたのは阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰です。

阿云嘎(アユンガ):1989年生まれ、内モンゴル省オルドス出身。北京舞踏学院ミュージカル学科卒業。名前と容貌から少数民族(モンゴル族)であることが容易に分かります。2018年に大ヒットした声楽バラエティ「声入人心1」に参加し大人気に。番組成功の功労者の1人であると同時に中国ミュージカルのメジャー化に大きく貢献しました。現在中国で最も有名で最も集客力のあるミュージカル俳優です。


劉令飛(リウ・リンフェイ) 1985年生まれ、上海出身。上海音楽学院ミュージカル学科卒業。上海ミュージカル界を代表するベテランスター俳優。「声入人心1」「声入人心2」「愛楽之都」などの声楽バラエティ番組に出たことはありません。いわゆるテレビメディアにはあまり出ない舞台人です。

何亮辰 1992年生まれ、四川出身、声楽バラエティ番組「声入人心2」に参加。四川音楽学院、ジェノヴァ音楽院ニコロ・パガニーニで学ぶ。イタリアでオペラの舞台に立った経験がある。身長は186cmと言われています。配役選考段階ではファントム役とラウル子爵の二役の選考に参加していたけれど、最終的にファントムに選ばれたそうです。

ヒロイン・クリスティーヌを演じる3名(楊陳秀一、潘杭苇、林韶)は声楽・オペラ畑の歌手で、まったく知らない人たちでした。普段の商業ミュージカルで名前を見たことがない人たちばかりです。

~チケットと客層~

「オペラ座の怪人」中国語版のチケットは、他のミュージカルや演劇と比べてかなり高額に設定されています。
1階席:1280元(約25600円)、1080元(約21600円)、880元(約17600円) 2階席:680元(約13600円) 3階席:480元(約9600円)、280元(約5600円)
(5月2日〜5月4日の4公演はプレビュー公演で、880元、680元、580元、480元、380元、280元)
席種は細かく分かれていますが、席数が多く比較的取りやすいのが1080元(約21600円)のチケットです。

8月に帝国劇場で上演されるミュージカル「ムーラン・ルージュ」のチケットが高いと言われていますが、現在の為替レートで計算すると、東京「ムーラン・ルージュ」よりも上海「オペラ座の怪人」の方がチケット価格が2~3割高い計算になります。
「オペラ座の怪人」は超メジャータイトルだけあり客層の幅が広かったです。
小学生くらいの子どを連れて来ている人や、カップル、若い男性同士のグループ、中高年の夫婦などさまざまで劇場は賑やかでした。
チケットは安くありませんが、1年に1回くらいしかミュージカルを観ない、もしくはこれまで1度もミュージカルを観たことがないのであれば、「オペラ座の怪人」を観るために2万円くらい払うだろうなと思います。
「トレンド体験」として観劇する人が多いためか、盗撮や観劇中の私語が多く、マナーが良いとはいえませんでした。


~キャストスケジュール未発表でチケットを発売~

「オペラ座の怪人」中国語版の上演日程が発表されたのは2022年12月26日のことでした。
その頃中国はコロナ大流行中で、まだ多くの人がコロナから回復しておらず、先のことなどあまり考える余裕がありませんでした。
そんなとき、主催者は「2023年5月2日から6月4日まで上海大劇院で中国語版「オペラ座の怪人」を上演します。チケットは12月30日から発売します。」と宣言しました。
その時点でキャストは明かされていませんでした。

主役のファントムに関しては、前からキャスト予想が出回っており、チケット発売日である12月30日に正式にキャストが発表されました。
しかし、どの日程を誰が演じるかのスケジュールは発表されず、ファントム以外のキャストは名前も明かされませんでした。
キャストも分からないのにこんな高額のチケットを誰が買うんだ?と戸惑いの声が上がりましたが、「オペラ座の怪人」のネームバリューは絶大で、意外にもチケットは勢い良く売れていきました。

クリスティーヌ役はキャストが誰かまったく分からないままチケットが発売になりました。
これは、中国の商業ミュージカルが男性俳優ファンに依存していることの表れとも言えます。中国ミュージカル界には「スター俳優」はいますが、「スター女優」はいまのところいないと思います。ただし、女優は総じて実力派です。男性俳優よりも生存競争が厳しく、スポットが当たるチャンスも少ないです。

結局、キャストスケジュールはいつまでたっても発表されず、発表されたのは開演の1週間前・4月28日(金)でした。
しかも、翌週分のキャストスケジュールしか発表されず、毎週金曜日に翌週のスケジュールを発表するという前代未聞の方式がとられました。
このやり方にファンは当然文句を言いますが、文句を言ってもチケットはどんどん売れていきます。
メインキャストを発表せずにチケットを発売するのはクラウドファンディングと同じじゃないかと相当非難されていましたが、結果的にいうと、このやり方はダフ屋の排除に一役買ったともいえます。また、単価の高いチケットをまんべんなく売りさばくことにも成功し、上海公演は全公演ほぼ完売でした。

ファントムは阿云嘎(アユンガ)、劉令飛、何亮辰のトリプルキャストですが、圧倒的に集客力があるのが阿云嘎(アユンガ)です。
一般知名度が突出しているので、単純に「アユンガが見たい」と思う人が多いのです。
事前にキャストスケジュールを発表するという普通のやり方だと、人気キャストの公演が激戦となり、ダフ屋に頼ることになります。
しかし、ギリギリまでキャストが明かされないので、客は諦めて当てずっぽうで買うしかなく、トリプルキャストなので当てずっぽうでも3公演買えば見たいキャストに当たるかもという気持ちになります。
結果的に、これまでダフ屋に流れていたお金が人気がやや落ちるキャストの公演に流れ込み、主催者にとっては良い循環が生まれたともいえます。
もちろん「オペラ座の怪人」という超メジャー作品であるからこそできたことです。
また、幕が上がってからの評判も良く、チケットはどんどん入手難になるので、観客も「とにかくチケットを確保しておいてよかった」という気持ちに落ち着きます。

劇場内に設置された阿云嘎(アユンガ)とのフォトスポット


カーテンコール。俳優が出てくるだけです。舞台セットも撤去されており、普段の中国ミュージカルによくある長くて豪華なカーテンコールはありません。


衣装や舞台セットは本当に美しく豪華でした。
主役から脇役に至るまで、歌唱力は申し分ないです。全体的に役者さんの背が高いので、豪華な衣装もよく映えます。
原版の演出に沿っているのか、中国ミュージカルには珍しいロングキスシーンもありました。
ただ、演技の面では役者同士の感情的なぶつかり合いが不足していると感じます。極端な言い方をすると、舞台の上にすごく歌が上手い他人同士が並んでいると感じるときがあります。

ゼロコロナ政策が終了し、上海では海外招聘ミュージカルの公演が復活しています。現在上海文化広場ではフランス版「ロミオとジュリエット」が上演中で、この後、仏版「レミゼラブル」、仏版「ノートルダム・ド・パリ」、英ミュージカル「マチルダ」などが2023年中に上演される予定です。
コロナの前は蜷川幸雄「ムサシ」が上海で上演されたこともありました(2018年3月)。また、ネルケプランニングの2.5次元ミュージカルは頻繁に上海公演を組み込んでいました。
もっと過去に遡れば、宝塚が上海や北京に来たこともあります。もし「スパイ・ファミリー」や「王家の紋章」などが上海で上演されればさぞかし盛り上がるだろうと思います。

なお、中国では日本の小説を原作とする作品が多数舞台化されています。
中国で人気の東野圭吾作品は「白夜行」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「放課後」「祈りの幕が下りる時」「回廊亭殺人事件」など数えきれないほど沢山舞台化されています。今年は「容疑者Xの献身」もミュージカル化される予定です。このほか、「嫌われ松子の一生」(原作:山田宗樹)や「マジック・アワー」(三谷幸喜)も中国で舞台化されます。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国映画『宇宙探索編集部』~『流転の地球2』の裏で作られた秀逸なローカルSFファンタジー

2023年05月16日 | エンタメの日記
4月1日に中国劇場公開された映画『宇宙探索編集部』が非常に面白かったです。劇場公開前に国内外の映画祭で上映されており、多数の賞を受賞しています。1990年生まれの若手監督・脚本家により作られたセンスの良い中国映画です。
『宇宙探索編集部』(Journey to the West) 公開日:2023年4月1日 118分
監督:孔大山 監修:郭帆  主演:楊皓宇、艾麗婭、王一通、蒋奇明、盛晨晨


~あらすじ~
唐志軍は1980年代に創刊された科学雑誌『宇宙探索』の編集長。何十年も変わらないスタイルの雑誌は完全に時代遅れであるが、唐志軍は「地球以外にも文明世界は必ず存在する」と固く信じ、異星人からのメッセージを待ち続けている。雑誌社は経営に行き詰まり、精神病院の慰問の仕事なども受けているが大した収入にはならない。そんな中、唐志軍は旧型テレビのノイズ、四川の山間部の町で目撃された火の玉から異星人の接触を直感する。唐志軍は同僚、“読者”とともに北京の編集部を離れ、異星人の痕跡を追うため四川に向かう。

雑誌「宇宙探索」の編集長・唐志軍。「宇宙の専門家」として生きているが、まともな資金や設備はなく権威もない。ひたすら宇宙の力を信じ続けている。


唐志軍を演じた楊皓宇は舞台出身の俳優。1974年生まれで中年役を演じる年齢になってからドラマ・映画への出演が増えた実力派。

物語の鍵を握る謎めいた少年・孫一通。頭に持病があり前触れなく倒れるためか、調理用の鍋をかぶっている。唐志軍はその鍋が異星人からのメッセージを受取る役割を果たしていると思っている。山奥の村役場でラジオ放送を担当し、四川訛りで自作の詩を詠む。


孫一通役に扮した王一通(ワン・イートン)は映像作家(監督)で本作の脚本も担っています。
王一通:四川出身。西南大学新聞伝媒学院卒業。監督としてショートフィルムを多数制作。「宇宙探索編集部」では主要キャストで出演するとともに脚本も担う。郭帆監督の「流転の地球2」に出演している。本業は監督ですが、俳優として十分通用する眼力の持ち主。

映画の英語タイトルは「Journey to the West」(西方への旅)です。「宇宙探索」の編集部がある北京からみると四川は西側に位置し、四川は中国の西部に属します。撮影地は四川省の宜宾(イービン)、楽山、雅安、涼山地区などで、中国少数民族の一つ彝族(イ族)の文字が書かれた看板や民族衣装を着た地元民が出てくるシーンがあり、涼山のどこかであることが明確に分かります。
中国の場合、ドラマよりもこの種の実写映画の方が現実に近い風景が登場します。
ただし、実際には田舎だからといって素朴とは限らず、荒涼とした山奥でもスマホやWiFiの電波は届き、住民たちは現実的でドライです。


監督・孔大山(コン・ダーシャン)
四川伝媒学院卒業後、北京電影学院大学院に進む。在学中からショートフィルムを制作。
過去に公表されたプロフィールによると1990年生まれで今年33歳です。長編映画では「宇宙探索編集部」が初監督作品。
在学中に制作したショートフィルムをきっかけに映画監督郭帆と知り合い、郭帆監督作品「流転の地球2」(2023年1月公開)に補助監督・出演者として参加。

監修・郭帆(グオファン)
郭帆(グオファン)自身も1980年生まれの若い映画監督ですが、中国映画界で商業的に大成功を収めたヒットメーカーです。
代表作は中国SF大作映画「流転の地球」(2019年公開)、「流転の地球2」(2023年公開)。「流転の地球」は日本字幕付でNetflix配信中。
「宇宙探索編集部」では郭帆が監修を担い、本人役で出演もしています。
主要登場人物がわずか5名の映画ですが、カメラワーク、編集、特殊効果などは非常に洗練されており、監修者である郭帆がバックアップしているとみられます。
郭帆は本人役で出演。映画の小道具に使うために編集部に長年保管されていた年代物の宇宙服を安値で買取っていく。現実とフィクションがクロスオーバーするカメオ出演。


~興行収入~
「宇宙探索編集部」の興行収入は5月16日の時点で6667万元(日本円約12億円)です。
4月1日に公開されたばかりですが、5月9日から動画サイトでの配信が始まりました。劇場公開から1ヵ月余りで配信に踏み切るのはタイミングとしては早い方です。中国では「ロングラン」で収益を伸ばすというモデルは成立しにくく、早い段階で配信が始まります。

興行収入6667万元というのは、中国映画の興行収入としては微妙な数字です。
公開日が近接する他の作品と興行収入を比較すると、次のようになります(5月16日時点の累計)。
「忠犬ハチ公」(中国実写版)3月31日公開 2.87億元(約54億円)
「宇宙探索編集部」4月1日公開 6667万元(約12億円)
「名探偵コナン劇場版 ベイカー街の亡霊」4月4日公開 5643億元(約10億円)
「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」4月5日公開 1.64億元(約31億円)

興行収入を比較すると、同時期に公開された「名探偵コナン劇場版 ベイカー街の亡霊」とほぼ同じレベルです。
しかし、「ベイカー街の亡霊」は20年前に作られたアニメ映画の復刻上映で、それと同じレベルというのは喜ばしい成績とは思えません。
(コナンがすごすぎるとも言えますが・・・)
ですが、別の見方をすると、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の約半分の数字に達しています。
観衆の心理としては、評価が定まっているものには気前良くお金を払っても、未知のものには慎重になるので、新人監督のオリジナル実写映画が興行的に難しいのはどの国でも同じだと思います。

「宇宙探索編集部」はロッテルダム映画祭、香港映画祭、北京映画祭などで評価されており、もし日本で開催される映画祭に「アジア映画」として招待上映されれば歓迎されると思います。いわゆる映画祭向きの映画です。
中国映画には珍しく「生活保護」というキーワードが出てきたり、向精神薬の服用に関するシーンが出てきますが、いずれも洗練されたカメラワークの中でさらっと描かれています。
俳優陣の演技の上手さと哲学的で文芸性のある脚本によって、秀逸なファンタジー映画に仕上げられています。
北京から成都、四川省の山間部に入ってまた北京に戻るというリアルな世界軸で物語が進みますが、現実社会に対する風刺や批判的なメッセージはありません。同時に、国の主流価値観を提唱するような表現もありません。
「宇宙探索編集部」は「監督が撮りたい映画を撮っている」と感じられる数少ない中国映画で、全編を通じて宇宙と人類に対する夢とロマンに満ちた作品です。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「すずめの戸締まり」「SLAM DUNK」日本アニメ映画の快挙と中国映画の不調

2023年05月07日 | エンタメの日記
2023年春、新海誠監督の「すずめの戸締まり」、スラムダンク映画版「THE FIRST SLAM DUNK」が中国でも公開され大ヒットしています。
「すずめの戸締まり」は5月7日現在興行収入約8億元(日本円約160億円)で、中国で劇場公開された日本映画の中で歴代最高額を記録しています。
これまでの歴代トップは2016年に公開された「君の名は。」の5.76億元でした。

4月20日に中国劇場公開された「スラムダンク」の興行収入は現在6.16億元(日本円約120億円)で健闘しています。
公開初日である4月20日(木)0時から始まる「初日最速上映」には沢山の観客が訪れ、世間を賑わせました。
中国では映画公開日の0時ちょうどに「初日最速上映」をスケジューリングする習慣があります。上海、北京、広州など都市部の映画館で多く行われます。
スラムダンクの場合、この「初日最速上映」があったのは、平日水曜日の夜12時でした。観客のほとんどが30代、40代前半の社会人で、まだ水曜日で明日は会社があるのに彼らの“青春”の象徴であるスラムダンクのため、真夜中の映画館に集結し各スクリーンを満席にしたことは社会ニュースにもなりました。
ただ、公開前の中国メディアの予測では、「スラムダンク」は「6億元は当然、10億元を狙える」と言われていました。
「初日最速上演」が盛り上がりすぎたこと、鑑賞マナーが良くないという問題もあり、リピート客は多くないという印象です。

「THE FIRST SLAM DUNK」(中国タイトル『灌籃高手』)2023年4月20日中国劇場公開。上海ではシネコンが入っているショッピングモールなどで派手な宣伝が行われました。






「すずめの戸締まり」は当初の予測を上回る成績を上げており、中国での新海誠映画の認知度と人気の高さが表れています。
「すずめの戸締まり」(中国タイトル『鈴芽之旅』)2023年3月24日中国劇場公開。中国公開に合わせて新海誠監督が訪中し、北京や上海での先行上映会に参加しています。


「すずめの戸締まり」も「スラムダンク」も日本映画としては記録を塗り替える大ヒットでです。
しかし、中国映画市場の規模は大雑把にいうと日本の約5倍です。
日本でいう記録的大ヒット「200億円超え」のポジションに立つには、中国では1000億円(約50億元)を超えなければなりません。
実際、2023年春節に公開された張芸謀監督作品「満江紅」は45.44億元、SF大作映画「流転の地球2」は40.28億元を記録しています。
「すずめの戸締まり」「スラムダンク」は日本アニメ映画としては快挙ですが、8億元、6億元という数字は、中国の映画市場規模の基準からすると、それほどの数字でもないといえます。
にもかかわらず、「日本アニメ映画が大健闘」という印象を持たれています。それは、中国映画が不調だからだと思います。
3月頃からの傾向として、中国映画の興行成績が全体的に伸びなくなっています。
いままでなら、話題性があってある程度面白い映画であれば、自然にお客さんが来て10億元(約200億円)くらい超えるのは珍しくありませんでした。
ところが、春節休みが終わり、仕事や学校が通常のペースで回りだす3月頃になると、街に人出は完全に戻っているものの、映画興行成績は振るわなくなってきました。
もうひとついうと、中国映画だけではなく、米国映画も不調です。
いま日本でヒットしている「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2023年4月5日中国公開)は中国ではまったく振るいませんでした。
他にも、中国人が大好きなはずのMARVEL映画「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol. 3」(2023年5月5日中国公開)も客足があまり伸びません。
ただし、興行成績が振るわないからといって、作品が悪いとは限りません。実際、作品に対する悪評が聞こえてくるわけではないです。
ただ、「いままでなら簡単に売れていたものがあまり売れなくなった。」という現象が中国の映画市場でも起きています。しかも、コロナ規制から完全に自由になったいま。これは、消費嗜好自体が変化しているのかもしれないし、全体的な景気低迷の影響を受けているのかもしれません。
この1、2年、中国の映画のチケット料金が微妙に値上がりし、割高感が出てきました(中国の映画チケット料金は日本のような統一料金制ではありません)。
また、少し待てば映画はネット配信されるので、家で見る方が安いし気楽、2時間以上一つのことに集中するのはハードルが高いので、よほど好きな要素がなければ映画館に足が向かないのかもしれません。
中国映画の映像は非常にゴージャスですが、ストーリーや価値観の表現においてはパターンが決まっているので、映画を見るという意欲をかき立てられなくなっている可能性もあります。

日本アニメは中華圏で高い人気を誇るとはいえど、相対的にいえば「ニッチな市場」です。
「ニッチな市場」はコアなファンが多い上に、日本アニメ映画はコロナ規制に苦しんだ3年間でもクオリティを維持し、作品を作り続けてきました。
そのことが、中国を含む海外市場での健闘につながっているのではと思います。

GW(労働節連休)に合わせて公開された空軍ハイテク映画『長空之王』。王一博(ワンイーボー)が最新型戦闘機のテストに挑む若き空軍パイロットに扮します。GWの本命映画でしたが興行収入は6.21億元(約120億円)にとどまっています。


中国映画の興行収入をリアルタイムでチェックできるアプリ「灯塔」の2023年の中国映画興行ランキング。「灯塔」はアリババ系のビッグデータをもとに統計しています。1位から5位はすべて春節に公開された中国映画です。3月以降に公開された映画で10億元を超える作品が出てきていません。6位は「すずめの戸締まり」(鈴芽之旅、3月公開)。7位『保你平安』は3月公開の中国コメディ映画。8位『人生路不熟』はGW公開の中国コメディ映画。予想よりも健闘しています。9位が「スラムダンク」(灌籃高手)。2023年5月7日時点の統計なので順位は変動します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

羅雲熙(レオ・ロー)と白鹿(バイルー)コンビのファンタジードラマ「長月燼明」大ヒット配信中

2023年04月20日 | エンタメの日記
4月6日から中国ファンタジードラマ「長月燼明」の配信がスタートし、圧倒的な大ヒットを記録しています。
「長月燼明」はいま人気俳優・羅雲熙(レオ・ロー/罗云熙)と白鹿(バイルー)がコンビを組んだ古装ファンタジードラマです。

中国ドラマ「長月燼明」(长月烬明)英語名:Till The End of The Moon ジャンル:仙侠ドラマ 全40話 2023年4月6日よりYoukuで配信スタート。
主演:羅雲熙(レオ・ロー/罗云熙)、白鹿(バイルー)、陳都霊、鄧為、孫珍妮(SNH48) 撮影期間:2021年11月5日~2022年3月31日
中国動画サイトYouku(优酷)の独占配信。形態としてはウェブドラマ(配信ドラマ)になります。


「長月燼明」はいまから1年前の2022年3月には撮影完了しており、その当時から「大ヒット間違いなし」と言われていました。巨額の制作費を投じて作られた華麗な映像のドラマです。

あらすじ:
ヒロイン・黎蘇蘇の生きる世界は魔神・澹台燼の暴虐により混沌と不安に満ちている。黎蘇蘇は武道の宗家の娘。ヒロインの父や叔父たちは、魔神・澹台燼に対抗して全員虐殺されてしまう。ヒロインはこの運命を変えるには、500年前に戻って澹台燼を魔神たらしめないようにするほかないと知る。500年前の世界に時空を超えたヒロインは、叶夕霧という名の盛国の将軍家の次女に転生していた。澹台燼はまだ一介の人間に過ぎず、景国の王子として生まれながら、人質として叶家で虐げられていた。そして、澹台燼は叶夕霧の婿という立場でもあった---。

タイムスリップ・転生に加えて、劇中で一種のパラレルワールドが展開されるという、かなり複雑な設定のドラマです。
基本的には、澹台燼の運命をヒロインが変えていくという冒険的なストーリーで、ヒロインの姉、弟などを軸としたサブストーリーが並行します。

羅雲熙(レオ・ロー)が演じる澹台燼。澹台燼のほかに、冥夜、沧九旻という人物も演じます。


白鹿(バイルー)は黎蘇蘇、叶夕霧、桑酒の3役を演じますが、主役コンビはいずれもカップルの関係。


中国ドラマは映画と同じように数年の期間をかけて制作されます。話数も多く、コスチュームドラマは莫大な制作費が投じられます。
衣装、メイク、舞台セット、小道具、あらゆる面で美しい映像を作るために惜しみなく費用を投入し、最新鋭のカメラと編集機器でスケールの大きな作品を作り出しています。
ビジュアル面でのクオリティは予算に比例するといってもよく、作品の予算規模からヒットする可能性もだいたい予測できます。
「長月燼明」は予想どおりの大ヒットで、同時期にめぼしい作品がないこともあり、独占状態で話題を集めています。

主演の羅雲熙(レオ・ロー)は若く見えますが現在34歳です。主役クラスの人気俳優としてポジションを固めたのは30歳を過ぎてからです。
羅雲熙(レオ・ロー/罗云熙)1988年7月28日生まれ、成都出身、身長177cm、上海戯劇学院舞蹈学院出身。
羅雲熙は2010年に3人組のアイドルユニット「JBOY3」のメンバーとしてデビューしました。「JBOY3」は2012年に解散。その後は、俳優としての道を歩み始めます。
羅雲熙の存在が知られるようになったのは、2015年に放送されたドラマ「何以笙箫默」です。
「何以笙箫默」(邦題:マイ・サンシャイン~何以笙簫黙)は鐘漢良(ウォレス・チョン)と唐嫣(ティファニー・タン)主演の現代ドラマで2015年当時大ヒットしました。


「何以笙箫默」はいま見るとものすごく韓ドラっぽい中国ドラマです。カメラアングル、採光、音楽、ファッションなど韓国ドラマの影響が顕著に感じられます。制作会社の公式Youtubeチャンネルで英語字幕版が見れます。
羅雲熙は主人公の学生時代役を演じています。
優れた能力と容姿を持ちながら、貧しい家庭の出身であることに強いコンプレックスを抱いている弁護士志望の法学生。感情を素直に表すことが苦手だが、屈託なく猛アタックしてくるヒロインと恋に落ちる。


羅雲熙が出てくるのは第3話、第4話、第5話のみです。「何以笙箫默」の第5話では羅雲熙が大学の構内でヒロインに衝動的にキスをするシーンがあります。中国ドラマには珍しい生々しさがあり、強いインパクトを与えました。
しかし、「何以笙箫默」でせっかくチャンスに恵まれたのに、しばらく目立った活動・作品がない時期が続きます。
羅雲熙が再び注目を浴びたのは、古装ファンタジードラマ「香蜜沈沈燼如霜」(霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~)です。

2018年に放送されたドラマ「香蜜沈沈燼如霜」の潤玉役で人気を博し、これ以降古装ファンタジードラマで次々とヒットを飛ばします。
なお、「香蜜沈沈燼如霜」は、主役を演じたダンルン(鄧倫)が脱税で摘発され、ダンルンの名前はクレジットから消されています。但し、配信停止にはなっておらず、いまでも視聴することが可能です。

「香蜜沈沈燼如霜」(霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~)漫画から抜け出してきたようなビジュアルで主役を凌ぐ人気を集める。


羅雲熙「白髪王妃」(2019年)(白華の姫~失われた記憶と3つの愛~)、「月上重火~And The Winner Is Love~」など古装ドラマで実績を作り、2020年には白鹿(バイルー)との共演で現代ドラマもヒットさせます。
「半是蜜糖半是傷」(オオカミ君王とひつじ女王)。ゴージャスな設定のキラキラオフィス恋愛ドラマ。白鹿(バイルー)は女性視聴者からの支持率が非常に高い女優です。


羅雲熙は途切れることなくドラマに出演していますが、未放送の作品もあります。その一つがブロマンスドラマ「皓衣行」です。
「皓衣行」は人気耽美小説を原作とするドラマで、主役コンビは羅雲熙と陳飛宇が演じています。
2020年9月に公開された公式ポスター画像。


「皓衣行」の撮影は2020年に完了しており、長らく放送待ちの状態にあります。中国には放送ストップがかかってしまった耽美小説改編ドラマがいくつかありますが、その中でも期待度の高い作品です。
「皓衣行」が放送されれば「陳情令」に次ぐ大ヒットブロマンスドラマになるのではと言われています。
羅雲熙はもちろん、相手役の陳飛宇も人気上昇中なので「皓衣行」がお蔵入りになるのはもったいないです。
陳飛宇は映画監督チェン・カイコーの次男。母親は女優の陳紅(チェンホン)。2000年4月9日アメリカ生まれ、身長188cmのイケメン俳優。
「皓衣行」の配信権を持っているのはテンセントのはずです。他の作品との兼ね合い、社会情勢などに配慮して慎重に放送のタイミングを探っているのではと思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする