カルピス。
「「カルピス」といえば、子どものころに好きだった甘酸っぱい味を思い出す。そんな人も多いだろう。多くの日本人が慣れ親しんでいるカルピスは、2019年に誕生から100年を迎える。変わらない味のロングセラーブランドだ。
【「カルピス」出荷量の推移を示したグラフ。ここ10年は右肩上がりで伸びている】
そのカルピスがいま、再び成長している。1990年代初頭に「カルピスウォーター」が大ヒットした後は伸び悩んでいたのに、ここ10年ほどは右肩上がりの伸びを見せているのだ。2018年も前年比5%増の販売目標を達成する見通しだ。
誰もが知っていると言ってもいい、変わらない味を守りながら、再成長できたのはなぜなのか。そこにはロングセラーブランドならではの戦略があった。
ここ10年は右肩上がり、1.5倍に
カルピスブランド製品の出荷容量の推移を見ると、1990年代中盤以降は40万キロリットル前後で横ばいが続いていた。ところが、2008年ごろからはほぼ毎年出荷量を伸ばし、17年には61万キロリットルを超えた。10年ほどで約1.5倍に増えている。
その間、カルピス社の資本関係も変わっている。12年にアサヒグループホールディングスの傘下に入り、16年には同グループのアサヒ飲料と完全統合している。
アサヒ飲料によると、カルピスの近代史には2度の低迷期があったという。2000年前後の時期はその2回目に当たるようだ。まずは低迷期の要因を振り返りながら、再成長の理由を解説する。
「白くて甘い飲み物」? 認識されなくなった価値
99年前の1919年、内モンゴルで作られていた「酸乳」をヒントに、創業者の三島海雲が開発したカルピスは、日本初の乳酸菌飲料として世に出ることになった。「初恋の味」というキャッチフレーズととともに一般家庭に広まると、その後は高度成長期まで堅調な成長を続ける。
ところが、80年代になると徐々に環境が変わってくる。お茶やスポーツ飲料など、屋外に持ち出してそのまま飲める缶入り飲料が普及してきたのだ。カルピスはコップに注いで薄めて飲むため、家で作って飲むことが前提。手軽な競合商品に押され、販売は落ち込んでいった。
低迷していたカルピスを救ったのが、91年に発売した「カルピスウォーター」だ。薄めずにそのままカルピスの味を楽しめるという手軽さと新しさで大ヒットとなる。92年にはカルピスウォーター単体で2450万ケースを販売し、商品単体としては今でも過去最高の記録となっている。
しかし、それ以降はヒット商品に恵まれず、2000年ごろからはお茶やミネラルウオーターのブランドも市場に定着。お茶や水を「買って飲む」のが当たり前になり、飲料の選択肢は増えた。それに伴って、価格競争も激しくなっていった。
どうすれば再び低迷から抜け出せるのか。一つのきっかけになったのは、苦戦が続いていた07年に実施した調査結果だ。
それはブランドにとってショックな結果だったという。カルピスのブランドイメージを調査したところ、「白くて甘い飲み物」というイメージしかなかったのだ。アサヒ飲料 マーケティング二部 乳性グループの田中孝一郎氏は「カルピスといえば乳由来の白色、乳酸菌による甘みと酸味。それがいつの間にか認識されなくなってしまったことに気付きました」と振り返る。
「乳酸菌」「発酵」を印象付ける
創業者が打ち出したカルピスの4つの価値は「おいしいこと」「滋養になること」「安心感のあること」「経済的であること」。低迷から抜け出すためには、そこに立ち返り、根本的な価値をあらためて伝える必要がある。
そこでキーワードとなったのが「健康」だ。「乳酸菌」「発酵」という言葉は“食と健康”への関心の高まりとともに注目されているはずなのに、カルピスに対してそのイメージを持つ人は多くなかった。あらためて訴求すれば刺さるはず。そう考えた。
その取り組みの一環として継続的に実施したのが、商品パッケージの工夫だ。09年からパッケージに以下のようなキャッチコピーを入れて、15年と18年に文言を変更している。
・09年「乳酸菌の自然の恵みから生まれました」
・15年「乳酸菌と酵母の生みだすチカラ」
・18年「乳酸菌と酵母、発酵がもつチカラ」
3つのコピーを比べてみると、少しずつ要素が加わっていることが分かる。最初は「乳酸菌」、次に「酵母」、そして「発酵」という言葉が使われるようになっている。田中氏は「カルピスは乳酸菌発酵、酵母発酵と2回の発酵工程があり、非常にユニークな製造方法です。その要素を織り込んでいきました」と説明する。
また、カルピスの製造方法や健康に関する勉強会やセミナー、量販店の催事を開催するなど、地道な取り組みも重ねていった。
そして、健康に関する取り組みが大きく花開いたのが17年。機能性表示食品「カラダカルピス」の発売だ。なじみのあるカルピスの味を保ちながら、体脂肪を減らす機能を持たせている。販売量は、発売から3カ月で年間目標の6割を突破。初年度は約200万ケースを販売した。
この新商品が、40代以上の男性から高い支持を得た。この世代は、カルピスから離れてしまっていた層だ。健康を訴求することで、大人にも再び手に取ってもらうきっかけが生まれたのだ。
「健康」と「嗜好」、大人のニーズを取り込む
カラダカルピスは大人をターゲットにして支持された。「健康」を打ち出すことに加えて、「大人」への訴求がブランド再成長の大きな原動力となったのだ。
16年に発売した「濃いめのカルピス」も、大人をターゲットにして成功した商品。子どものころに憧れた「濃いカルピス」を大人になって味わい、ぜいたくな気持ちになる。主に男性のビジネスパーソンに向けて「癒やし」を提案している。販売量の増加に「大きく寄与している」(田中氏)ヒット商品に育っている。
カラダカルピスと濃いめのカルピスによって、大人をターゲットとした「健康」と「嗜好品」のニーズをまとめて取り込んだ。この2商品がブランドの成長をけん引しているという。「派生商品は昔から出していましたが、あまり定着しませんでした。カルピスウォーターなど、他の商品とユーザーを取り合う形になっていたからです。この2商品はこれまでとは違うニーズを掘り起こし、定着しました」(田中氏)
従来、20代以上は“卒業”してしまう「子どもの飲み物」というイメージが根強かったカルピス。それぞれの世代に合った商品展開で、「離脱させず、切れることなくつながりを保つことができている」(田中氏)
長い歴史を経て、商品が持っている本来の価値に立ち返った結果、大人にもカルピスを思い出させることができた。ロングセラーであっても、斬新なコンセプトを打ち出さなくても、再び成長できるという好例だろう。」
いろいろ、売れる時期、売れない時期。
結局、アサヒが、いいのかもしれない。
「「カルピス」といえば、子どものころに好きだった甘酸っぱい味を思い出す。そんな人も多いだろう。多くの日本人が慣れ親しんでいるカルピスは、2019年に誕生から100年を迎える。変わらない味のロングセラーブランドだ。
【「カルピス」出荷量の推移を示したグラフ。ここ10年は右肩上がりで伸びている】
そのカルピスがいま、再び成長している。1990年代初頭に「カルピスウォーター」が大ヒットした後は伸び悩んでいたのに、ここ10年ほどは右肩上がりの伸びを見せているのだ。2018年も前年比5%増の販売目標を達成する見通しだ。
誰もが知っていると言ってもいい、変わらない味を守りながら、再成長できたのはなぜなのか。そこにはロングセラーブランドならではの戦略があった。
ここ10年は右肩上がり、1.5倍に
カルピスブランド製品の出荷容量の推移を見ると、1990年代中盤以降は40万キロリットル前後で横ばいが続いていた。ところが、2008年ごろからはほぼ毎年出荷量を伸ばし、17年には61万キロリットルを超えた。10年ほどで約1.5倍に増えている。
その間、カルピス社の資本関係も変わっている。12年にアサヒグループホールディングスの傘下に入り、16年には同グループのアサヒ飲料と完全統合している。
アサヒ飲料によると、カルピスの近代史には2度の低迷期があったという。2000年前後の時期はその2回目に当たるようだ。まずは低迷期の要因を振り返りながら、再成長の理由を解説する。
「白くて甘い飲み物」? 認識されなくなった価値
99年前の1919年、内モンゴルで作られていた「酸乳」をヒントに、創業者の三島海雲が開発したカルピスは、日本初の乳酸菌飲料として世に出ることになった。「初恋の味」というキャッチフレーズととともに一般家庭に広まると、その後は高度成長期まで堅調な成長を続ける。
ところが、80年代になると徐々に環境が変わってくる。お茶やスポーツ飲料など、屋外に持ち出してそのまま飲める缶入り飲料が普及してきたのだ。カルピスはコップに注いで薄めて飲むため、家で作って飲むことが前提。手軽な競合商品に押され、販売は落ち込んでいった。
低迷していたカルピスを救ったのが、91年に発売した「カルピスウォーター」だ。薄めずにそのままカルピスの味を楽しめるという手軽さと新しさで大ヒットとなる。92年にはカルピスウォーター単体で2450万ケースを販売し、商品単体としては今でも過去最高の記録となっている。
しかし、それ以降はヒット商品に恵まれず、2000年ごろからはお茶やミネラルウオーターのブランドも市場に定着。お茶や水を「買って飲む」のが当たり前になり、飲料の選択肢は増えた。それに伴って、価格競争も激しくなっていった。
どうすれば再び低迷から抜け出せるのか。一つのきっかけになったのは、苦戦が続いていた07年に実施した調査結果だ。
それはブランドにとってショックな結果だったという。カルピスのブランドイメージを調査したところ、「白くて甘い飲み物」というイメージしかなかったのだ。アサヒ飲料 マーケティング二部 乳性グループの田中孝一郎氏は「カルピスといえば乳由来の白色、乳酸菌による甘みと酸味。それがいつの間にか認識されなくなってしまったことに気付きました」と振り返る。
「乳酸菌」「発酵」を印象付ける
創業者が打ち出したカルピスの4つの価値は「おいしいこと」「滋養になること」「安心感のあること」「経済的であること」。低迷から抜け出すためには、そこに立ち返り、根本的な価値をあらためて伝える必要がある。
そこでキーワードとなったのが「健康」だ。「乳酸菌」「発酵」という言葉は“食と健康”への関心の高まりとともに注目されているはずなのに、カルピスに対してそのイメージを持つ人は多くなかった。あらためて訴求すれば刺さるはず。そう考えた。
その取り組みの一環として継続的に実施したのが、商品パッケージの工夫だ。09年からパッケージに以下のようなキャッチコピーを入れて、15年と18年に文言を変更している。
・09年「乳酸菌の自然の恵みから生まれました」
・15年「乳酸菌と酵母の生みだすチカラ」
・18年「乳酸菌と酵母、発酵がもつチカラ」
3つのコピーを比べてみると、少しずつ要素が加わっていることが分かる。最初は「乳酸菌」、次に「酵母」、そして「発酵」という言葉が使われるようになっている。田中氏は「カルピスは乳酸菌発酵、酵母発酵と2回の発酵工程があり、非常にユニークな製造方法です。その要素を織り込んでいきました」と説明する。
また、カルピスの製造方法や健康に関する勉強会やセミナー、量販店の催事を開催するなど、地道な取り組みも重ねていった。
そして、健康に関する取り組みが大きく花開いたのが17年。機能性表示食品「カラダカルピス」の発売だ。なじみのあるカルピスの味を保ちながら、体脂肪を減らす機能を持たせている。販売量は、発売から3カ月で年間目標の6割を突破。初年度は約200万ケースを販売した。
この新商品が、40代以上の男性から高い支持を得た。この世代は、カルピスから離れてしまっていた層だ。健康を訴求することで、大人にも再び手に取ってもらうきっかけが生まれたのだ。
「健康」と「嗜好」、大人のニーズを取り込む
カラダカルピスは大人をターゲットにして支持された。「健康」を打ち出すことに加えて、「大人」への訴求がブランド再成長の大きな原動力となったのだ。
16年に発売した「濃いめのカルピス」も、大人をターゲットにして成功した商品。子どものころに憧れた「濃いカルピス」を大人になって味わい、ぜいたくな気持ちになる。主に男性のビジネスパーソンに向けて「癒やし」を提案している。販売量の増加に「大きく寄与している」(田中氏)ヒット商品に育っている。
カラダカルピスと濃いめのカルピスによって、大人をターゲットとした「健康」と「嗜好品」のニーズをまとめて取り込んだ。この2商品がブランドの成長をけん引しているという。「派生商品は昔から出していましたが、あまり定着しませんでした。カルピスウォーターなど、他の商品とユーザーを取り合う形になっていたからです。この2商品はこれまでとは違うニーズを掘り起こし、定着しました」(田中氏)
従来、20代以上は“卒業”してしまう「子どもの飲み物」というイメージが根強かったカルピス。それぞれの世代に合った商品展開で、「離脱させず、切れることなくつながりを保つことができている」(田中氏)
長い歴史を経て、商品が持っている本来の価値に立ち返った結果、大人にもカルピスを思い出させることができた。ロングセラーであっても、斬新なコンセプトを打ち出さなくても、再び成長できるという好例だろう。」
いろいろ、売れる時期、売れない時期。
結局、アサヒが、いいのかもしれない。