
江藤淳の随筆集「渚ホテルの朝食」の中から、本のタイトルになったエッセイの一部を引用します。
渚ホテルからは海水着のままで海に行けるようになっていた。それも気分を浮き立たせる一因だったが、それ以上に昂奮させられたのは、浜辺の磯の香りとホテルのなかの匂いとの対照だった。
ホテルの匂い、これこそきっと西洋の匂いというものに違いない。それは一歩渚ホテルに足を踏み入れた瞬間から、あたりに充満していた。部屋のベッドにも、バス・ルームの西洋式のバス・タブにも、日常自分の周囲に漂っているのとは異質な匂いがあり、それが譬えようもなく快かった。
ひょっとすると、それは、洗濯が行き届いてアイロンの利いた、リネンの匂いに還元されるものだったかも知れない。翌日の朝、ダイニング・ルームに行くと、眼の前に置かれた純白のナプキンから、まさにその匂いが漂い出しているように思われたからである。

嗅覚が刺激される文章です。上の絵を描いた永橋さんと共に逗子文化の会で重要な役割を担っている田中さんは、なぎさホテルで結婚式を挙げたのだそうです。
文芸評論家・江藤淳(1932~1999年)は、湘南中学で石原慎太郎の一級下でした。昭和55年から亡くなるまで、鎌倉西御門に居住しました。
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