湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

小坪トンネル怪談の本当の舞台

2014-08-16 00:38:25 | 文学
7月10日の投稿「トンネルは異界への入り口」には続きがあるのだ~。不思議な事にもうひとつの小坪トンネルが~…って、そんなに怖くはありませんから安心してお読みください。

国道134号線の飯島トンネルと並行して東側旧道に通っている小坪トンネル。バス停でいうと飯島と姥子台の間です。
7月にご紹介した浅田次郎「夕暮れ隧道」。そのラストで主人公たちは、上の写真に写っている小坪トンネルに辿り着きます。小説の中では実際より怪しげに脚色されている部分もあります。
昏れかかる谷間で僕は車を止めた。バイパスの高架橋の下を、山に向って駆け上がる細い道があった。分岐には古い神社があり、「この先抜けられません」という看板が立ててあった。道の涯てには、暗欝な雑木の山に呑みこまれていた。
「こっち、行ってみようよ」
 真知子に励まされて、僕はハンドルを切った。進むほどに潮の匂いは遠のき、じっとりと湿った土と木の呼吸が窓から流れこんできた。その道が小坪トンネルに続いていることを、僕らは確信した。
「怖くねえか」
「ちっとも」と、真知子は微笑み返した。
「会えるかなあ」
「いたらどうすんだよ。あせるよね、きっと。何て言おうか」
 真知子は僕の横顔を窺いながら、「私は言うこと決めてるよ」と、呟いた。
 僕らの前に古い煉瓦を積み上げたトンネルの入口が現われた。
 あたりにはみっしりと羊歯の葉が生い茂り、錆びた自転車や壊れた家具やらがあちこちに捨てられていた。落石止めのネットが張られた崖の下に、僕は車を止めた。
 おそらくその昔は、小坪の港と鎌倉の町をつなぐ唯一のトンネルだったのだろう。暗渠の先からは、ほのかに潮風が吹き寄せていた。
 蔓の被いかぶさった入口を見上げる。赤錆びた鉄板には、「小坪隧道」と記されていた。
「入ってみようよ」
 地下水の滴り落ちる煉瓦の壁に花束を立てかけて、真知子は合掌するかわりに僕の腕を引いた。
 僕らは肩と腰を抱き合って、真暗なトンネルに歩みこんだ。歩きながら、奥歯でコークの栓を抜き、ひとくち飲んでから真知子に手渡した。
「ねえ、タバコ喫ってあげてよ」
 立ち止まって煙草をくわえ、吹き過ぎる潮風に火をかばったとたん、僕はありありと、恋人岬でマッチを差し向けたときの鴇田君の冷たい手の感触を思い出した。
 僕らは四方の闇に向かって死者たちの名を呼んだ。
 足元も覚束ぬ濡れた闇の中をしばらく歩くと、地の底からせり上がる感じで、円い出口が現れた。そこからは稲村ケ崎に沈みかかる夕日と、秋の色に染まった由比ケ浜を見下ろすことができた。

こちらは県道311号線の、心霊スポットマニアが訪れる小坪トンネルです。
逗子市内になぜか2つの小坪トンネルが存在することを、浅田次郎は紛らわしいなぁと思わないで、小説に使えると感じたってことですね。

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