永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1076)

2012年02月27日 | Weblog
2012. 2/27     1076

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(47)

「少将のあつかひを、守はまたなきものに思ひ急ぎて、もろ心に、様あしく、営まず、と怨ずるなりけり。いと心憂くこの人により、かかるまぎれどももあるぞかし、と、またなく思ふ方のことのかかれば、つらく心憂くて、をさをさ見入れず」
――(婿の)少将のお世話を、常陸の守はこれ以上のことはないものと、奔走していますのに、北の方の方は、見っともなくも自分と一緒になってお世話しないと恨んでいます。北の方としては、本当に厭な迷惑なこの少将が原因で、このようなごたごたが起ったのではないかと、自分の大切な浮舟のことの事情が事情なので、憂さも辛さもひとしおで、少将をろくろくもてなす気にもなりません――

 さらに、

「かの宮の御前にていと人げなく見えしに、多く思ひおとしてければ、わたくしものに思ひかしづかましを、など思ひしことは止みにたり。ここにてはいかが見ゆらむ、まだうちとけたるさま見ぬに、と思ひて、のどかに居給へる昼つ方、こなたに渡りて物よりのぞく」
――あの匂宮様の御前では、たいそうみすぼらしく見えましたので、すっかり蔑んで、前にこの少将を自分の秘蔵の婿にして、大切にお世話しようなどと思ったことは、とうに失せてしまっていました。一体この邸では、少将はどんなふうに見えるのだろうか。まだくつろいでいる姿を見ていないが、と思って、少将がのんびりとして居られる昼間、北の方はそちらへ出向いて物陰から覗いてみます――

「白き綾のなつかしげなるに、今様色のうち目などのきよらなるを着て、端の方に前栽見るとて居たるは、何処かはおとる、いときよげなめるは、と見ゆ」
――白い綾の、ほどよく着馴染んで柔らかくなった下着に、薄紅梅色の砧(きぬた)の打ち目も鮮やかなのを重ねて着て、庭の前栽を見ようとして縁先に座っている姿は、どこが劣るといえるか、こざっぱりとしてなかなか綺麗に見えます――

「女まだかたなりに、何心もなきさまにて添ひ臥したり。宮の上のならびておはせし御さまどもの思ひ出づれば、くちをしのさまどもや、と見ゆ。前なる御達に物など言ひたはぶれて、うちとけたるは、いと見しやうに、にほひなく人わろげにも見えぬを、かの宮なりしは、こと少将なりけり、と思ふ」
――娘の方はまだ成熟しておらぬ様に、無邪気に寄り添っています。やはり二条院で、匂宮と御方(中の君)が並んでおいでになったご様子を思い出しますと、まったく見栄えのしない一対にみえることよ。前にいる女房たちに、冗談などを言いかけてくつろいでいる様子は、先日の時ほど風情がなくぶざまにも見えないので、あの時の宮の前に居たのは別人だったのかと思っていますと…――

◆今様色(いまよういろ)=薄紅梅色

◆かたなり=片生り=身体の発育が充分でないこと。未熟なこと。

では2/29に。


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