永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(145)その1

2016年09月23日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (145)その1 2016.9.23

「三日になりぬる夜降りける雪、三四寸ばかりたまりて、いまも降る。簾を巻きあげてながむれば、『あな寒』といふ声ここかしこにきこゆ。風さへはやし。世の中いとあはれなり。」

◆◆三日になった夜に降った雪が、三、四寸ばかりに積もって、今も降っています。簾をまきあげて見るともなしに眺めていると「ああ、寒いこと」という侍女たちの声が、ここかしこに聞こえます。風までもひどく吹いています。世の中全体がしみじみとした感じのするところです。◆◆



「さて日晴れなどして、八日のほどに県ありきのところに渡りたり。類おほく、若き人がちにて、筝の琴、琵琶など、折りにあひたる声にしらべなどして、うち笑ふことがちにて暮れぬ。つとめて客人帰りぬるのち、心のどかなり。」

◆◆さてその後、天気が回復して、八日ごろに父倫寧の邸に行きました。一族の縁者が多く集まり、しかも若い女達の方がたくさんで、筝(そうのこと)や琵琶などを今の季節に合った調子に奏したりなどして、笑い声の絶えない一日を過ごしたのでした。翌朝、客の親類の人々が帰ったあとは、のんびりとした気分でした。◆◆



「ただいまある文を見れば、『ながき物忌みにうちつづき、着座といふわざして慎みければ。今日なんいととくと思ふ』など、こまやかにあり。返りごとものして、いとよげにあめれど、よにもあらじ、あさましううちとけたることおほくてあるところに、午時ばかりに『おはします おはします』とののしる。いとわただしき心ちするに、はひ入りたれば、あやしく我か人かにもあらぬにて向かひゐれば、心ちも空なり。」

◆◆自宅に帰って、すぐに届いたあの人からの手紙を見ますと、「長い物忌みがつぎつぎ続いて、着座ということをして謹んでいたので。今日、早速行こうと思う」などと、心細やかな文面です。返事を出して、いかにもすぐ行くよなどと言っているけれど、そんなことも無いであろうと、全くこの頃はあの人に相手にされなくなっているので、わたしはもうあの人のことは気に掛けずだらしなく過ごしているところに、午(午前11時~午後1時ごろの間)のころに「いらっしゃいます。いらっしゃいます」と侍女たちが大騒ぎしています。わたしがひどくあわてふためいているところに、あの人が入ってきたので、変な格好でぼおっとして対座していると、まったく気持ちもうわの空というものでした。◆◆


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