永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1077)

2012年02月29日 | Weblog
2012. 2/29     1077

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(48)

 その折も折、少将が、

「『兵部卿の宮の萩の、なほことにおもしろくもあるかな。いかでさる種ありけむ。おなじ枝さしなどのいとえんなるこそ。一日参りて、出で給ふ程なりしかば、え折らずなりにき。ことだに惜しき、と、宮のうち誦し給へりしを、若き人たちに見せたらまほしかば』とてわれも歌よみ居たり」
――「兵部卿の宮の御殿の萩は、やはり格別の風情があった。どこにあのような種があったのだろう。同じ枝ぶりでも、まことに趣きぶかく美しいのだ。先日参上して、丁度宮がお出かけになる折だったので、折りとることが出来なかった。宮が『うつろはむことだに惜しき秋萩に…』と口ずさんでいらっしゃったお姿を、若い人たちに見せたかった」と言って、自分でも歌を作ろうとしている様子です――

 北の方は、心の中で

「いでや、心ばせの程を思へば、人とも覚えず、出で消えはいとこよなかりけるに、何ごと言ひ居たるぞ、とつぶやかるれど、いと心地なげなるさまは、さすがにしたらねば、いかが言ふとて、こころみに」
――いやもう、浮舟に対する心変わりをするような計算ずくの卑しい人は、人とも思えない。宮の御前では全く影もないありさまだったのに、さて何を詠んだのやら、と呟きたくもなりますが、それでも多少の心得がありそうなので、どんな返歌をするかしらと試しに――

北の方の歌「しめゆひし小萩がうへもまよはぬにいかなる露にうつる下葉ぞ」
――大切に囲いをした小萩の上葉(浮舟)は乱れませんのに、どうしてまた下葉(少将)の色が変わったのでしょう――

 と、詠みかけてみますと、少将は気の毒に思って、

少将の歌「宮城野の小萩がもとと知らませばつゆもこころをわかずぞあらまし」
――浮舟が八の宮の姫君と知っていたなら、私はまったく他の女に心を移さなかったでしょう――

「いかでみづからきこえさせあきらめむ」
――何とかして、直々にお目にかかって申し開きをしたいものです――

 と、言って寄こしたのでした。

「故宮の御事聞きたるなめり、と思ふに、いとど、いかで人とひとしく、とのみ思ひあつかはる。あいなう大将殿の御さま容貌ぞ、恋しう面影に見ゆる」
――やはり、少将は八の宮の御事を耳にしたのであろうとおもうにつけ、前より一層、何とかして浮舟を姉君と同列にしてやりたいと、そればかり思案せずにはいられません。わけもなく薫大将のお姿や、お顔が恋しく目の前に浮かんでくるのでした――

◆3/1~6日までお休みします。では3/7に。

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