永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1075)

2012年02月25日 | Weblog
2012. 2/25     1075

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(46)

 北の方はつづけて、

「この御ゆかりは、心憂しと思ひきこえしあたりを、睦びきこゆるに、びんなきことも出で来なば、いと人わらへなるべし。あぢきなし。ことやうなりとも、ここを人にも知られず、忍びておはせよ。おのづからともかくも仕うまつりてむ」
――この御親戚(中の君方)は、かつては情ない恨めしいと思った所でしたが、あなたの事を思えばこそ、お近づき申しましたのに、今度のような事から思いがけない不都合なことにでもなりましたら、それこそ物笑いの種になりましょう。味気ないことです。ここは粗末な家ですが、誰にも知らせず、人目を避けていらっしゃい。そのうち何とかしますから――

 と言い置いて、自分は帰ろうとします。

「君はうち泣きて、世のあらむこと所せげなる身、と思ひ屈し給へるさま、いとあはれなり。親はたまして、あたらしく惜しければ、つつがなくて思ふごと見なさむ、と思ひ、さるかたはらいたきことにつけて、人にもあはあはしく思はれむが、安からぬなりけり」
――(浮舟は)涙を流して、生きているのも肩身の狭いわが身よ、と、萎れていらっしゃるご様子は、なんともあわれでいらっしゃる。母親の方はまして、無事にどこかに縁づけたいと思いますが、あのような事が起こるにつけても、軽々しい女のように噂されはすまいかと、しきりに心配なのでした――

「心地なくなどはあらぬ人の、なま腹立ちやすく、思ひのままにぞすこしありける。かの家にも隠らへてはすゑたりぬべけれど、しか隠ろへたらむをいとほしと思ひて、かくあつかふに、年ごろかたはら去らず、明け暮れ見ならひて、かたみに心細くわりなし、と思へり」
――(この母、北の方は)分別がない人ではないのですが、少々腹立ちやすく、我儘なところがありまして、浮舟を、あの常陸の守の邸の隠れたところに置いておけましたのに、それでは可哀そうだと、こんな風に取り計らったのでした。二人の親子は今まで片時も離れず朝夕暮らしていましただけに、こう別れて住んでみますと、お互いに心細く辛いのでした――

 北の方は、

「ここは、またかくあばれて、あやふげなる所なめり。さる心し給へ。曹司曹司にある者ども、召し出でて使ひ給へ。宿直人のことなど言ひおきて侍るも、いとうしろめたけれど、かしこに腹立ち恨みらるるが、いと苦しければ」
――この家はこのように手入れが不十分で不用心ですから、どうか気をつけてください。御用がありましたら、あちこちの局にいる侍女たちを呼んで使ってください。夜の番人のことも申しつけて置きましたが、とても気懸りでなりません。こうすることには私は気懸りでなりませんが、あちらの家を空けていては、何かと腹を立てられ、恨まれたりしますのが困りますので――

 と、泣き泣き帰って行ったのでした。

◆親はたまして=親・はた・まして

では2/27に。

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