永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(解説)

2017年08月01日 | Weblog
蜻蛉日記 下巻  上村悦子著より   2017.8.1

【解説】

 賀茂の臨時の祭の直前、急に道綱が舞人に指名された。舞人が差支えのため(急病とか穢れなどのためか)辞退したのでその代役である。作者は喜びと同時にあわてもし、途方にもくれたであろうが、兼家が支度万端を整えて届くてくれ、供回りなどのこともいっさい指図して取り決めてくれたので作者もほっとしたであろう。父親として当然であるが、また兼家に感謝の心も湧いたであろう。
 
 試楽の日、穢れのため宮中へ付き添ってやれないから、代わりに作者邸に来てリハーサルをしてあげようとの兼家の申し出を素直に受けず、道綱を手早く送り出したが、そのあと一人で泣きくずれてします。気強く会うことを避けた作者の我の強さとともに、反面弱い女心がのぞかれ、権門家の妻として物質面では事欠かなくても、夫との心の交流のない寂しさがにじみ出ている。
 (中略)
 
 久しぶりに見る兼家の姿は権門家の象徴そのものであって、夫が相当高位の官人たちに慇懃にかしずかれ、とりまかれている豪勢な姿や、きらびやかな供人を従えた凛々しいわが息子道綱が上達部から好感を持たれ、ちやほやされている晴姿を目の当たり見て作者も面目をほどこしたような心持になる。老いた父倫寧(ともやす)が兼家に目をかけられている姿もうれしかった。作者が久しぶりに明るい満足感を味わった一ときであったことをしみじみ書いている。
 
 しかし、このころ兼家が実兄の関白太政大臣兼通に不当に圧迫され不遇であったことも前に延べたとおりである。現実では兼通をはばかりこの項のような情景はなかったかも知れないが、ここには、やはり夫、兼家のあるべき姿、あらまほしき姿や試楽の日における父親としてのあるべき言動が描かれ、また道綱の晴れの姿や父倫寧の優遇された姿をも描いている。



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